原発事故のリスク目標
原子力発電のリスクについては、世界的に極めて徹底的に研究・検討されてきたため、リスクの考え方としては現時点では恐らく最も進んでいる分野であろうと思う。僕自身も企業でプラント運転や研究開発活動等に関する安全管理にも関わってきた経験があるが、原発の世界ではこうなっている、というのがお手本となる部分が多かった。(普通の人は日本の原発は事故やトラブルばかり起こすと思っているかもしれないが、絶対的にはともかくも、(他のプラントと比べると)相対的には非常に高い安全レベルと言える筈。だからどうだ、ということでもないが。)
さて、asahi.com (1/30)にこんな記事が載った。
「年間100万分の1以下」原発大事故のリスク目標値案ところが何故か他の新聞社には全くこの記事が載らない。この内容であれば、各紙が報道してもおかしくはないと思うが。
国の原子力安全委員会は29日、原子炉の炉心崩壊などの大事故が起きた際、周辺住民の被ばくによる死亡リスクを「年間100万分の1程度以下にする」との安全目標値案をまとめた。99年の核燃料加工施設ジェー・シー・オー(茨城県)臨界事故を受け、同委が専門部会で基準作りを進めてきた。今後、安全規制への反映を求めていく。
現行の安全規制では、大事故が起きないようにすることが前提となっており、大事故の発生頻度を定量的に評価した安全目標値がなかった。目標値はがんによって国民が死亡する確率の約1000分の1。隕石(いんせき)が落ちて死亡する確率の数倍だという。 (01/30 00:32)
そこで、原子力安全委員会のホームページで資料を探してみた。原子力関係は、かなり情報公開に気を使っているので当然それらしい情報があるだろう、と思ったのだが。。確かに死亡リスクを年間100万分の1以下にする、という目標について記載された資料が見つかったが、何とこれは昨年の8月の資料「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」(pdf)だ。これに関連するリスク管理についての説明資料としては、やや古いけど2002/7のパネル討論会資料のページが充実している。
では、朝日新聞は何で今頃こんな記事を載せたのだろう?この記事を見る限り、昨年8月の中間とりまとめと何も変わっていないように見える。ただし、よく見ると朝日新聞では「周辺住民の被ばくによる死亡リスクが年間100万分の1程度以下」「目標値はがんによって国民が死亡する確率の約1000分の1」「隕石が落ちて死亡する確率の数倍」と記載されている部分は、中間とりまとめとは少し異なる。
中間とりまとめでは、「施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスク」と「施設からある程度の距離にある公衆の個人の放射線被ばくによって生じ得るがんによる平均死亡リスク」が、それぞれ「年あたり100万分の1程度以下」となっている。更に、年あたり100万分の1程度の死亡率は、がんによる死亡率の2000分の1程度であることになっている。一方で隕石が落ちる確率については、記載されていない。
この相違はどう見たら良いのだろうか? 死亡リスクについては、新聞記事を読んで最初に疑問に思ったことだった。放射線被ばくの影響は急性死亡とがんになるリスクの両方があるわけで、がんのリスクをどう評価したのかが知りたかった。中間とりまとめを読んでも今ひとつ理解できていないが、少なくとも即死とがん死亡を別々に計算していることはわかる。それにしても、朝日はどうしてがんの死亡率の1000分の1としたんだろう?両方を足したのかな? それとも最新のデータで見直したのだろうか?
朝日の独自取材があったのかもしれないが、それにしては内容が貧弱な感じもするし。でも記事には「29日・・・安全目標値案をまとめた。」とあるな? 去年の8月からまとまっていたように見えるけどなあ?? よくわからないものだ。
原発の事故による死亡リスクのレベルについては、もう少し勉強してからコメントしたい。(日常生活の死亡リスク確率と比べると確かに無視できるレベルと思えるが、年間の死亡者数は平均すると100人程度となるのか? 交通事故等に比べても十分に小さいが、みんなの納得が得られるレベルなのだろうか?)→2/14追記:別の資料を発見、この中で急性死亡確率の考え方の説明が記載されている。(分母が1億人ではなく、近隣住民数となる)
いずれにしても、本件ちょっと調べていたら興味が出てきたので、2/7(土)に東京で行われる第10回原子力安全シンポジウムに行ってこようかな。ここでは、本件の関連の話が聞けるかどうかわからないけど。
*2/7のシンポジウムの参加メモをブログに書きました。
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