排ガス脱硝装置を開発、首都高速で実用化?
日経新聞の記事だが、何だか突っ込みたくなる内容。
NIKKEI NET (1/25)によると、
国土交通省と日本、首都高速、阪神高速の三道路公団は、大都市部での自動車の排ガス対策として、二酸化窒素(NO2)と浮遊粒子状物質(SPM)を除去できる大型装置を初めて開発した。地下トンネルを走る首都高速中央環状新宿線(2007年春に開通予定)などの換気所に設置し、空気中に漏れる有害物質を抑制する。とのこと。直感的に無駄な設備投資という印象を抱くのだが、如何ですかね?
従来、排ガスを含んだ空気からNO2などを大規模に除去する装置はなく、道路トンネルと地上を結んで空気を入れ替える換気所周辺では、高い濃度のNO2が検出されることもあった。国交省と三公団は1992年から脱硝装置の開発に着手。このほどNO2を90%以上、SPMを80%以上除去できる大型装置を開発した。
脱硝装置は一基約20億円で、来年度から首都高速中央環状新宿線などの10カ所に設置する。トンネル内の空気からNO2やSPMを除去し、換気所の塔から上空高く噴き上げる。新技術により、地上のNO2濃度は環境基準の数百分の一以下に抑えられるという。
最後の「地上のNO2濃度は環境基準の数百分の一以下に抑えられる」というのが、まず気になる。環境基準は、環境省の関連ページを見ると0.04~0.06ppm以下となっているが、そもそも道路付近は適用対象外とあるから、環境基準を守る守らないという点からは恐らく無意味。大体、都心の道路脇はNO2濃度は基準を大幅にオーバーしている筈で、何で高速トンネル排ガスを浄化しただけで基準の数百分の一まできれいになるねん?という疑問から考えると、この数百分の一というのは、地上大気濃度というよりは、装置を通過した直後のガス中のNO2濃度と考えるのが自然かな。
だとすると、この脱硝装置のNO2除去率が90%で、除去後のNO2濃度が基準の数百分の一ということになる。これも何か変だよね。これだと脱硝前の汚れた大気中のNO2が環境基準の数十分の一でなくては辻褄が合わないもんな。だったら最初から除去不要じゃん。というか、こんなおかしな数字に普通は疑問を感じないものかね、日経新聞さん?
それとも、「換気所の塔から上空高く噴き上げる」ことでまわりの大気で希釈するのか?だとすると脱硝に意味がなくなるし、まわりの大気が既に汚いことが問題なのだから、これも解決になってないというか矛盾してるよな。
記事の数字の矛盾はともかくとして、以前脱硝触媒の開発に関わった経験も合わせて考えると、SPMの除去はコストは別にしてフィルターでも可能だとは思うが、脱硝ということになれば、除去前のNO2濃度が相当に高くないと厳しいし、温度もかなり高くなくては触媒を使うにしろ使わないにしろ反応が十分に進むとは思えない。一般論として、エンジン排ガスを直接個別に処理する場合と比べて、はるかに希薄で低温なガスをべらぼうに大量に処理する必要があるわけで、これは滅茶苦茶に効率が悪くなるのが普通でしょ。一言「筋が悪い!」と言いたくなるんだけど、何か画期的な技術が使われているのだろうか?
| 固定リンク
コメント
この技術、全然たいしたことないです。アルカリを担持した活性炭で酸性ガスであるNO2を吸収除去しているだけです。固体上での酸アルカリの反応ですので、常温でも進みますし、一定の除去性能は示すのでしょう。
でも技術云々よりも、本当にこんなことして効果があるの? 言い換えると、高いコストで大気中のNO2だけを除去して大気環境浄化に効果があるの?ということです。
SPMの除去は確かに効果があります。しかし、NO2だけを除去しても大気中で(除去しなかった)NOが酸化されて新たにNO2を生成させるので、NO2のみ除去には意味がないのです。
ディーゼルエンジン排ガスに含まれるNOxは大部分がNOですが、大気中に放出された時点で空気中の酸素やオゾンと反応して経時的に徐々にNO2に酸化されます。トンネル換気ガスの時点では10%がNO2に酸化されています。さらに沿道に到達した時点では半分が酸化されています。
で、トンネル換気ガス放出時点で1割にすぎないNO2を全部除去したところで、地上に到達する時点では残り9割のNOの一部がNO2に酸化されるので、換気されるタイミングでNO2のみ除去しても、地表到達時点では相当のNO2が生成してしまいます。さらに大気中にオゾンがあれば、すぐにNOと反応してNO2が生成します。大気中のオゾン濃度は0.1ppm未満ですが、バックグラウンドのNO2と合わせてNO2の環境基準値:0.06ppmまでのNOを生成させるレベルにあると思います。
脱硝といえばボイラー排ガスの処理がメインですが、その場合もNO2のみではなく、NOも含めて除去しています。なんで大気環境的に全く無意味なNO2のみ除去という方式が通ったのか、理解不能です。
煙突から放出されるのだからガスが拡散されて地表到達時には問題になるレベルにはならないかもしれないですし、もしかしたら拡散が起こらないような大気状態(ってそんなものがあるのか不明ですが)のために何十億も税金を使ったのでしょう。
企業が役人をダマしたのでしょうかね?騙す方も騙す方だけど、ダマされる方ももっと勉強してほしいですね。税金を使っているんだし。もしNO2だけ除去しても効果があるという論文なんかがあったら教えてほしいですね。
投稿: stone | 2008/03/05 23:06
また古いエントリにコメントが付いたと思ったら、中央環状新宿線ってこの前開通したばかりでしたね。
詳細なコメントありがとうございます。私の記事では、NOとNO2の区別がついていなかったですね。申し訳ありませんでした。排気ガスに含まれるNOxは大部分がNOなので、NO2のみを除去しても意味がないというご指摘は説得力ありますね。
この技術はアルカリ担時活性炭だったのですか。とすると、再生しないとすぐに飽和してしまいそうですね。
どこから見ても、スジの悪い技術ということのようですね。。
投稿: tf2 | 2008/03/06 18:56
いまごろコメントしてすいません。
私はいつもトンネルを通るたびに
「ああ,この汚い空気を浄化装置できれいにして排出したら
結構大気汚染防止に役立つだろうになあ」と思っていたので、
この記事を読んで「首都高やるじゃん」とか思ってしまいました。
よくわかんないけど効果ないのですね。残念。
投稿: カサゴ | 2008/04/27 17:53