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2004/01/27

「著作権の考え方」

著者は、つい最近まで著作権を取り扱うお役所、文化庁の著作権課長をされていたということで、なかなか生々しくておもしろい本である。最近はインターネット絡みで著作権等の知的財産権についての一般向けの書籍も多く出ているけど、この本はそういう解説本とは相当に視点が違っていて、正にタイトル通りに「著作権の考え方」を述べたものである。

岩波新書 869
 著作権の考え方
 岡本 薫 著 bk1amazon

前半は著作権の解説。著者は著作権を3つに分類し、著作権1、著作権2、著作権3として(本書中では丸囲み数字)説明を試みる。これはもちろん法律用語ではないので、本書内でしか通用しない用語なだけに、最後までなじめなかったが、要するに、
 著作権1=著作権2+著作隣接権(いわゆる広義の著作権全体)
 著作権2=人格権+著作権3   (著作者の権利)
 著作権3=財産権
ということのようだが、やっぱりわかりにくいな。ともかくも、世の中で一般に著作権と言われているものには、このように3つがあり、国によってはそれぞれの扱い方が異なってくるし、著作物の種類に応じてきちんと区別して議論しなくてはならないということらしい。

著作権が、時代の変遷と共に、新しい技術、物、手段等の出現に合わせてダイナミックに変わってきたものだけに、一見すると著作権の対象により色々と取り扱いに違いがあり、非常に複雑怪奇な印象がある。しかし、本書の著作権の解説においては、何故そういう決まりになっているのか? という観点で歴史的な経緯も踏まえ、できる限り全体像を把握した上で、個別のケースを理解できるような工夫がされていると思う。(そうは言っても、読んだだけではやっぱり理解までには至らなかったけど。。)

後半は著作権に限らず、社会のルールはどうやって決めるべきなのか?という大きなテーマへと発展していく。日本の社会が、対立する利害の調整という合意形成手段に対して非常に未熟であることを、具体的な事例をあげて説明してくれる。この著者、文化庁時代に相当に「宿命的な対立構造」関係の調整に苦労したことが伺えるが、この部分が本書の中では一番読み応えがあった。

更に、著作権が関わるビジネス(映画・放送・出版等の業界)が他の製造業やサービス業に比べて不当に保護されすぎていて自助努力が足りない、という著者の主張が痛烈に書かれていて、かなり小気味いい。

最後は、今後の著作権がどうあるべきか、国際協調はどうあるべきか、といった内容に進んでいくが、ここも著者の想いがストレートに書かれていて、とてもわかりやすい。著者が今まで関わってきた立場を考慮すると、必ずしも全て真に受ける訳にはいかないと思うが、説得力はかなりあるし。(日本の著作権はインターネット対応等で世界で一番進んでいるんだという自負も、事実だとしてもちょっと鼻に付くし。でもアメリカは自国の利益のことしか考えていない国(著作権後進国)というのは、なるほどって感じだ。)

非常に気に入ったので、本書の「おわりに」の部分の一部を引用する。

 本書の中で述べてきたように、「一億総クリエーター、一億総ユーザー」という時代が突然に訪れ、「一部業界の一部のプロ」だけでなく「すべての人びと」が、著作権と無縁でいられないという状況に直面している。「法律ルール」「契約・流通システム」「国際問題」「著作権教育」「司法制度」など、すべてにわたって大きな転機を迎えつつあるわけだが、著作権の保護は、それ自体が目的なのではなく、人びとが幸せになるための「手段」にすぎない。
 したがって、すべてのルールやシステムは、著作権と関わるようになった「すべての人びと」のために作られるべきだが、繰り返し述べてきたように、著作権の世界には「宿命的な対立構造」が存在している。そうした対立構造の中で建設的なルールづくりやシステムづくりを進めていくためには、すべての人びとが民主主義の基本である「異なる立場の相対化」を行い、憲法のルールにしたがって自ら行動することが必要なのである。
ということで、本書の雰囲気が伝われば幸い。でもこういう引用は著作権法上許されるんだろうな??

*より具体的なケースについては、むしろ
 丸善ライブラリー 350
  インターネット時代の著作権
  半田 正夫 著 bk1amazon
の方がQ&Aが沢山あって、ハンドブック代りに手軽に使えるのでベターかも。

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コメント

はじめまして、 涼 と言います。書籍・雑誌の新着案内から来ました。

昨年この本を紹介していましたので、トラックバックさせていただきました。

引用については、許容範囲内ではないかと存じます。

投稿: | 2005/06/21 22:41

涼さん、コメントおよびトラックバックありがとうございます。

たまたま本日、http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2005/06/post_264a">「著作権とは何か」という本を取り上げたところです。こちらは、著作権を専門とする弁護士さんが書いた本で、全く違う視点から書かれており、とても面白かったです。よろしければ、こちらもどうぞ。

投稿: tf2 | 2005/06/21 23:12

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» 岡本薫「著作権の考え方」 [徹也]
著者は2003年まで文化庁の著作権課長を務めた方。最近は特に関係者だけでなく、「すべての人」が著作権と無縁ではいられないという観点から、わかりやすい表現で専門的な話を進めておられる。 ... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 22:25

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