放射線診断による発ガンリスク
代表して YOMIURI ON-LINE(2/10)の記事を引用。
がん患者3・2%は診断被ばくが原因
国内でがんにかかる人の3・2%は、医療機関での放射線診断による被ばくが原因の発がんと推定されることが、英・オックスフォード大グループが行った初の国際的な研究で明らかになった。
調査が行われた英米など15か国の中でも最も高かった。CT(コンピューター断層撮影法)装置の普及などが背景とみられ、検査のあり方を巡り波紋を広げそうだ。この研究は英国の医学誌「ランセット」で報告された。
研究は、各国のエックス線、CTなど放射線検査の頻度や、検査による被ばく量、さらに年齢、性別、臓器ごとに示した放射線の被ばく量と発がん率の関係についてのデータなどを基に、検査に伴う75歳までの発がん者数を推定した。日本は年間7587件で、がん発症者の3・2%としている。日本以外では、英国、ポーランドがともに0・6%で最も低く、米国0・9%、最も高いクロアチアでも1・8%だった。
日本は、1000人あたりの年間検査回数が最多の1477回で、15か国の平均の1・8倍。発がん率は平均の2・7倍で、1回の検査での被ばく量が他国より高いことがうかがえる。
イギリスの医学誌に載った論文についての記事が、各紙に一斉に載るってのはどういう仕組みなのかよくわからんが、何故かMainich INTERACTIVEを除く各紙が報道している。記事自体は余り変わらないが、解説と識者のコメントで記事全体のニュアンスが若干異なるようだ。
3.2%という数値、何だか大きすぎる感じ。そもそも、この研究では、どうやって発がん率の数値を求めたのか? が疑問。 具体的には、被ばく量と発がん者数の関係をどうやって求めたか、また逆に診断によって病気が見つかり長生きするケースをどう取り扱うのか? といった疑問。この記事を素直に読むと、診断をすればする程がんになる、と脅しているようなもので、本末転倒だもんなあ。
さて、各紙コメントを並べてみる。
YOMIURI ON-LINE(2/10)。
佐々木武仁・東京医科歯科大名誉教授(口腔放射線医学)は「通常のエックス線検査より、放射線量が多いCT検査の普及が影響している」と指摘する。と、病院側の問題も指摘してるが、さてそれでは患者はどう判断しろというのか?
精密な検査が可能なCTは、がんの早期発見をはじめ脳卒中、骨折などの診断に革命的な進歩をもたらした。最近は人体をらせん状に切れ目なく撮影し、通常のエックス線では発見できない数ミリ単位の病変も映し出すヘリカルCT、血管の内部まで鮮明に撮影できるマルチスライスCTも登場している。
一方で、撮影するほど医療機関の収入になることから、数千万円から1億円にのぼる設備投資を回収しようと過剰な検査をする場合もある、との指摘もある。
佐々木名誉教授は「CTは有効な検査であり、今回のデータが出たからと言って必要な検査をせず、誤診や見落としにつながるのでは本末転倒。ただ、超音波検査など代わりの検査が可能かなどを検討し、発がんの危険性も十分考慮したうえで使うよう徹底する必要がある」と話している。
asahi.com(2/10)。
この研究に対し、ミュンヘン大の研究者らは「診断によるがんの早期発見のメリットを正しく評価していない」と指摘する。と、日本は過度に放射線を使った検査が行われているという論調。確かにそういう面もあるのかもしれないけど、そもそも日本では本当にメリットのない診断が行われているのか?具体的な数値で議論しないといけないだろうに。
〈日本放射線腫瘍(しゅよう)学会理事の晴山雅人・札幌医科大教授(放射線医学)の話〉 日本はCTなど人口あたりの放射線診断機器数が欧米に比べ多い。胃の検診でのバリウムX線検査も欧米では一般的でないが、日本では胃がんが多いため実施されている。これらの影響で日本人の医療被曝量は多いと、以前から言われていた。診断での被曝は患者にメリットがないといけない。その見極めが日本は甘いのではないか。不必要な診断はしないよう努めるべきだ。
さて、これだけではよくわからなかったので、外国のニュースもチェック。Google Newsで検索したら、日本の英字新聞ニュース以外はイギリスのscotsman.comだけ。日本の新聞では記載されていない内容として、
The report, published in last week’s Lancet, was carried out by researchers from Oxford University and Cancer Research UK, who used cancer rates among survivors of the Hiroshima and Nagasaki bombs to calculate the risks of exposure to the radiation delivered by X-rays.と、放射線被ばく量と発ガンの関係は、広島・長崎の原爆被ばく者のデータを使っているようだが、それで良いのだろうか?更に、
But that risk needs to be weighed against the benefits of detecting disease. Many of the patients undergoing these sorts of investigations will have potentially life-threatening illnesses, including cancers, and the benefits of making an early diagnosis far outweigh the risk of a radiation-induced cancer which, even in the worst-case scenario, is unlikely to exceed one in 1,000.と、発ガンリスクは検査による早期発見のメリットと比べるべき、という論調が日本よりも明確。更にこの後に、あまり心配する必要はないよ、という記載もある。
そもそも、放射線被ばく量の多い検査は、全く健康な人がそんなに頻繁に受けるものでもなさそうで、簡単な検査で疑いのあった人だとか、或る程度自覚症状が出た人が受けるのではないだろうか? とすると、単純に一人当たりの平均被ばく量を算出して、発ガンリスクを求めても余り意味が無いような気もする。特に被ばく量の多い人はむしろ検査によって寿命が延びているのかもしれないし。しかし、それを考慮してメリットとデメリットを定量的に算出するのは難しそうだな。
ところで、肝心の論文をLancetのサイトで見つけました。最新号ではないのね。Cancer risk from diagnostic X-rays(論文を見ようとすると無料だけどサイトへの登録が必要)。本件、リスク対ベネフィットをどう考えるかという点で、とてもいい見本のように思える。暇があったら、少し追跡調査してみるか。
*YOMIURI ON-LINEとSankei Webでは小数点の表記は「3・2%」というように中黒(・)を使っている。Mainichi INTERACTIVEも同様みたい。asahi.comでは「3.2%」のように全角の小数点を採用している。NIKKEI NETだけは数値は全部半角を使っているみたいで、「3.2%」のような半角表記となっている。なかなか面白いものだ。
*2/21追記
論文を少し読みこんでみてのコメント等を2/21の記事にしました。
| 固定リンク
コメント
気になってたぁ。被爆。
でも心配することないんだね。
つか、設備投資を回収するために、無駄に検査が行われてるってのが、何よりもぷりぷりだ。
投稿: reica | 2004/02/11 00:27
若いうちはむやみにCTとか受けない方が良さげだけどね。いざ、お医者さんに「こういうリスクもあるけど、検査やめますか?」って聞かれても、断りにくそうだよね。
投稿: tf2 | 2004/02/11 01:19
nariです。中々興味深い記事ですね(^^)。
参考までに、私の場合を書いてみます。
年4回、胸部と腹部のCTを受けています。この位受けると、年間被爆量的に気にしなければならないみたいで、主治医からは会社の健康診断の胸部単純レントゲンは受けるなと言われています。と言うか、3ヶ月毎に胸部ヘリカルCTを受けているので、年に一回しか受けなく、ヘリカルCTより発見精度がかなり低い単純レントゲン検査は無駄という意味が強いかもしれませんが(^^;)。
でも、普通の人はこんなに受けてる人は居ないのではないでしょうか。
そもそもあの記事では、1000人辺りの年間検査回数が1477ってなってましたけど、これってCTの回数なんですかね? CTより遥かに被爆量の少ない単純レントゲンや、胃透視(俗に言う、バリウム検査)も全部ひっくるめた回数なんですかね?
毎年1.5回CTを受けてなんか居ないと思いますけど(^^;)
ちなみに私が初めて受けたCTは、吐血して救急搬送されて胃カメラで胃癌が見つかってから、転移の有無の検査のために腹部CTを受けたのが、人生初めてのCTでした。残念ながら既に早期ではなくて進行期でした。
実は、胃透視検査をこの癌発見時の2年半前に受けましたが、その時は見つかりませんでした。計算上ではその時点で既に発病していて早期の段階だったと思われます。
それに、「設備投資を回収しようと過剰な検査をする場合もある、との指摘もある。」という部分は、どこの誰が何の根拠を持って書いたのかが不明ですねぇ。記事書いた記者の、根拠の無い想像の可能性もあるかも???
私の場合は、血液検査や単純レントゲンで問題が見つかったら、胃カメラやエコーやMRI。それで更に怪しかったらCTやシンチグラフィーと言った被爆量が大目の検査ってな感じで進みましたけど。
私の例をもう一個。
胃癌の再発・肺転移の時は、胸部単純レントゲンでは左に1個だけしか見つかりませんでしたが、その後のCT検査で右にも1個見つかりました。右の奴は体の中心部近くだった為、単純レントゲンでは他の構成物の陰に隠れて見えなかったらしいです。
ですので今の私は、画像診断に関しては出来るだけCT使ってもらうようにしています(癌に関しては、CTが見やすいらしいので。PETはもっと有効ですが、胃癌には保険適用されないので10万以上しますし)。
被爆量気にして検査を受けずに済ませ、気が付いた時には手遅れってのが、一番問題だと思うんですけどね(^^;)。個々人の考え方次第ですけど。
まぁ、こんな経験をした人間もこの世に実在するという事で・・・(^^;)。
あ、あと、原爆のデータを元にしてるってのは、大いに問題があるような気がしますが(^^;)。そんなのと、CT検査での被爆量を比較すること自身がナンセンスなような気が・・・
投稿: nari | 2004/02/19 21:04
nariさん、貴重な体験(!)に基づくコメントありがとうございます。幸いなことに、今のところ私は健康診断や人間ドックでしかX線を浴びていない人間ですから、CTも経験がなくて、正直あまり実感はないんです。(学生時代には分析のためのX線が飛び交う(?)部屋で実験してましたけど。)
しかも、医学の素養もない素人がこんな専門的な記事に対して、大胆にもコメントを付けちゃった訳ですが、直感的に数字が大きすぎる気がしたのと、こんなニュアンスで報道されるのは、逆効果だろうな、という思いからです。もっとも、ここに何かを書いたからといって、誰の元に届くのかよくわからないんですけどね。
ご指摘の疑問については、宿題にさせてください。本文にも、もう少し追跡しようかと書きながら、まだ原文をきちんと読んでないのです。そろそろこの記事に対する専門家からのレスポンスも出始めているようなので、それも含めてまとめてみます。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: tf2 | 2004/02/19 23:53
nariです。
私の場合、典型的な理系でして、なおかつ被爆する検査をガンガン受けてるという点から、例の問題の報道を見ても、直感的になんか変だと感じてました。
それと、マスコミ系のやたらと煽る傾向も鼻についてまして、気になってた件でした。
実際、鳥インフルエンザは過剰傾向な反応が広がり始めてる気がしますし、私の知り合いのがん患者の方のTV出演の裏側も直接聞いて、個人的に怒りを感じた事もありますので。
追跡調査は、気長にやって頂いても構いませんし、中断して結果が出ずに消滅してしまっても構いませんので、あまりご自身を追い込み過ぎない様にと思っております m(_ _)m。私は過去にこれで自分を追い込みすぎた事がありましたので(^^;)。
では、また(^^)
投稿: nari | 2004/02/20 23:46
nariさん、暖かいお言葉ありがとうございます。
とは言え、とりあえず2/21の記事にしましたので、ご笑覧ください。気になると、とことん進んでしまうところがあるもので、ついつい追い込んでしまいました(^^;)
ただ、少し突っ込みの矛先が最初の趣旨と異なってしまった感もあるのですが。。
報道の問題は確かに問題ですよね。今回の論文の記事でも、表の脚注にしか書いてないことが記事の中に書かれている一方で、今回の数字の不確かさについても論文中には書かれているのに、記事では触れられてなかったりします。科学論文の位置づけを知っていながら、わざとミスリーディングを誘っているとしか思えないことも多々ありますしね。
nariさんのブログも少しだけですが読ませていただきました。私には、健康について何かを語る資格がそもそもないのではないか、という思いもしてきます。気の付いた点などをご指摘いただけると幸いです。
ではでは。
投稿: tf2 | 2004/02/21 12:56
nariです。
新しい方の記事、見ました(^^)。力作なので、まだ斜め読みですが(^^;)。何かコメントを思いついたら、後であちらの記事に何か書くかもしれません(^^;;;)。
で、病人が健康に関して語るのは、ある意味当たり前なことでして・・・(^^;)。ですから、そうではない人が健康に関して語るのは大切な事だと思います(^^)。
まぁ、時々無神経なのとか、極端に無知過ぎるのとか、根拠無く感情論だけで攻めてくるのとかがあって、そんな時には反撃しますけど(^^;)。
でも、本当はしたくないんですけどね。平穏に普通に生きて行きたいだけなので(^^;)。
投稿: nari | 2004/02/22 15:39
新聞に出ていた量の被ばく線量だと発ガンの
優位さが出るような量ではないように思うのですが
どなたか本当の専門の方に答えていただきたいですね
投稿: MoreBeans | 2004/03/10 17:57
Morebeansさん、ようこそ。
ホームページを拝見しましたが、かなり専門の方ではないですか!?
医療放射線の被曝について、発がん性をどう考えるかについて、現時点での医療の世界の統一見解とかはないのでしょうか? 少なくとも、閾値なしの線形モデルがどの程度妥当なのかを議論すべきじゃないでしょうか?
でもでも、直感的には、ある程度以上の年齢の人は、検査を受けた方が得だと思うんですけど、誰か計算してくれませんかね?
投稿: tf2 | 2004/03/11 01:50
昨日の読売オンラインの医療の健康コーナーで被ばくについて取り扱っていました
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/life/li431001.htm">http://www.yomiuri.co.jp/iryou/life/li431001.htm
投稿: MoreBeans | 2004/03/11 09:28
ご紹介いただいたページ、なかなか良い記事ですね。ありがとうございます。
診断のメリットをもう少し強調した上で、個人個人が納得して判断できるような基準を示していただけると、もっと助かるのですけど。
投稿: tf2 | 2004/03/11 12:39