『「社会調査」のウソ』
興味を持って眺めている分野の一つとして、種々の「情報リテラシー」がある。特に、一見すると科学的或いは統計的根拠に基づいているように見えるニュース等の報道が、実は非常に恣意的或いは主観的な主張であったり、未だ認められていない仮説の発表を真に受けたものだったり、その道の権威の発言を鵜呑みにしたものだったり、という状況の中で、如何に冷静に正しい判断を下すか? といういわゆる「メディア・リテラシー」に関心がある。
本書は、主として新聞記事を題材に、日頃よく目にする様々な社会調査には、多くのウソが含まれており、その主張をそのまま素直に信じてはいけない! という、とても大切なことを教えてくれるものらしい。
文春新書 110
「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ
谷岡 一郎 著 bk1、amazon
うーむ、確かにとても面白く、色んな意味で勉強になる。文句なしにお薦めだな。むしろ、2000年6月の発売だというのに、今頃入手して読むとは、我ながら情けない。どうして今まで目に付かなかったのだろう?
でも、上のリンク先の書評を見ると、ほとんどの人が「目から鱗」状態の絶賛の感想や、マスコミや大学に対して批判的な、著者に賛同するコメントを残しているけど、大学教授の著書、それも新書のような大衆向けの一般書を読んで、素直に同意してて良いのかな? その姿勢もまた、ある意味でメディア・リテラシーが足りない状態ではないのか? この著者のように、とことん懐疑的で、用心深く、そしてひねくれた視点を持っていれば、本書も100%そのまま信用したら駄目だろうに。
さて、本書は新聞記事等のサンプルが非常に豊富に掲載されており、それを題材にして、著者がバッサバッサと問題点を指摘しまくる形式となっており、著者の毒舌ぶりと相まって、非常に爽快というか、次は何だろう?と、とても楽しく読ませてくれるし、何だかすごく勉強になったなあ、という気にさせてくれる本である。
個々の実例に対する著者のコメントは、確かにプロの視点で鋭いし、我々いわゆる素人には思いもつかない裏の事情まで披露してくれているので、成る程こういう見方ができるのか! という事ばかり、とても参考になる。しかし、一方では、そこまで言い切れるのか? という極論もあるし、或いは著者の見方とは少し違った捉え方も可能だな、という点もある。
その道の専門家の視点から見た、主として調査の方法に関しての、技術的な問題点は指摘の通りだろうと思う。一方で、その裏に潜む事情については、必ずしも著者が断定する推察(新聞社や記者の先入観に伴うものだろうとか、最初から世論を特定の結論に誘導するための調査だとか)が正しいかどうかはわからないと思うが、もちろん、そういう疑問を持って記事を読むのは、相当に高尚な楽しみだとは思う。
実は、統計処理のいい加減な適用の話が中心かと思ったけど、実は調査そのものの企画段階から考察までの各段階で陥りがちな過ちを系統立てて説明しており、むしろ統計処理の前段階(誰に調査するのかとか、どうやって調査するのか?という方法論だったり、もっと前段階の何のために、何を調査するのか?といった点)で既に間違っている調査が多いと教えてくれる。
それにしても、著者のような見方をすれば、新聞等に載る社会調査を基にした報道は、そのほとんど全てが眉に唾を付けて読まなくてはならない対象のようで、それはそれで頭が痛いことである。まあこれからは、何とか頑張って本書を参考にし、今まで以上に疑り深いまなざしで報道を見ることにしよう。新聞社の調査だけでなく、行政側が行う各種調査にも相当に胡散臭いものが多いんだ、という認識を持つことで、随分と違う物の見方ができるような気がする。
統計処理に潜む問題点については、既に古典の領域になった名著、ダレル・ハフ 著「統計でウソをつく法」(ブルーバックス B120)bk1、amazonがある。35年も前の本なのに未だに増刷されていることからも、この本の評価の高さがうかがい知れるが、何と言っても、未だに内容が全然古くなっていないこと、すなわち、昔から人間は似たような過ちを繰り返し続けているということ、特に統計だとか調査に如何に弱いのか、がわかって面白い、というか、この問題を解決するのは相当に難しいということなんだろうな、とため息。
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