「アミノ酸の科学」
最近アミノ酸ダイエットとか、アミノ酸飲料という言葉をよく耳にする。そう言えば知っているようで知らない気もするので、お手軽そうな、この本を読んでみた。
ブルーバックス B1435
アミノ酸の科学 その効果を検証する
櫻庭 雅文 著 bk1、amazon
第1章 アミノ酸とは何か
第2章 スポーツの最前線が変わった
第3章 美容効果とアミノ酸
第4章 医療を変える力
第5章 食べ物とアミノ酸
第6章 アミノ酸と味覚
付録 アミノ酸製造法
著者は経済学部卒だけど、出版の仕事を通じて得た経験と知識でもって、科学の解説にも定評がある方らしい。読み物として書かれているので、仕方ないのかもしれないけれど、少なくとも新たな知見等を紹介する際には、ソースとなる情報源とか、裏付けデータや参考文献を示して欲しいと思ってしまう。
スポーツに関しては、僕自身が「アミノバイタル」を飲んだ時と飲まない時で、長距離を走った後の疲労回復が違う感覚を味わった記憶があるし、理論的にも説明がつきそうだけど、ここに出てくるデータを見る限りは、その効果ってのは結構微妙。血筋の悪い馬にアミノ酸添加飼料を与えたら、GIレースを勝っちゃった、というのが事実だとしても、因果関係の証明は難しいしなあ。まあでも、効果があるかもしれない位の気持ちで使用する分には、逆に精神的な効果も加わって効果的かも。
美容効果については、科学的な解析が進んで、お肌の調子とアミノ酸との関係が明らかになってきたようだけど、だからと言って、皮膚にアミノ酸を塗ることで本当に、適切な場所に適切な形で補給されて、効果があるのかとなると疑問ではある。(まあ飲み薬よりは、マシかもしれないけど。。)
医療の世界では、適切なアミノ酸を選択的に必要な部分に供給する、というような技術は今後とも進展しそうであるが、それ以上に期待される分野だな、と思わされたのが食料供給関連。
畜産動物の飼料は、おもにトウモロコシや小麦などの穀物に、大豆かすなどの植物性タンパク質を配合したものが用いられています。しかし前述したように、穀物に含まれるたんぱく質は、リジンやメチオニン、スレオニン、トリプトファンなどの必須アミノ酸が不足しています。とくに、大豆かすを除くほとんどの植物性飼料原料において、動物の成長に欠かせないリジンが不足しているのです。(本書 P130)ということで、従来は植物性の飼料に魚かすを添加することでバランスをとっていたけれど、最近は漁獲資源量と畜肉生産量のバランスが崩れたこともあり、必要なアミノ酸を飼料に添加する技術が使われ始めているとのこと。
畜産飼料のアミノ酸バランスを、人工的に特定のアミノ酸を添加することで、最適にコントロールする。これにより、従来は余分のアミノ酸が排泄されていたのが、全てのアミノ酸を無駄なく使えるようになる。結果として、限られた資源を最大限に有効利用した食糧生産の道が拓ける、というストーリーだけど、理論的にはとても魅力的だと思う。人間が「自然の食物連鎖」に過剰介入することの危険性もあるかもしれないけど、遺伝子をいじるわけではないから、生態系全体のバランスに注意して進めれば、問題は小さそうだ。
なお、本書はアミノ酸ダイエットについては、現状では効果はないだろう、という立場だ。ただし近い将来、人間にも上に述べたアミノ酸バランス食を適用することで、不要なコレステロールやカロリーを摂取しないですむことになり、結果としてダイエット効果が期待できるかも、と述べている。要は、行き着く先は昔の宇宙食のようなもので、必要な栄養素のみを摂取すれば太らないってことだな。。
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