「ごみ問題とライフスタイル」
日本では一時期、ごみ問題が最大の環境問題と言われたが、その割には具体的なことはよく知らなかったりする。本書は、地球と人間の環境を考えるというシリーズの第8弾。このシリーズについては、このブログでも、No.5 エネルギー、No.7 水と健康を取り上げているが、わかりやすく、冷静で、科学的だという特徴がある。
日本評論社 シリーズ 地球と人間の環境を考える 8
ごみ問題とライフスタイル こんな暮らしは続かない
高月 紘 著 bk1、amazon
本書は、ごみ処理の現状やその問題点についての解説本ではない。その代わりに、家庭から出る一般ごみを徹底的に調査・分析するという、非常にユニークな手法で、現在の我々のライフスタイルを浮き彫りにしている。そして最後には、地球全体として持続可能な社会を目指すときに、今の生活をどう変えていくべきか? を考えさせてくれる。
著者は、京都大学の教授であると同時に、日本漫画家協会の会員なのだそうで、本書にも、ペンネームの「High Moon」で沢山のイラストが載せられている。本書はともかく図表が豊富。何しろ全185ページのうち、図表が全く載っていない文章だけのページは約40ページしかない。難しい理論や数式もなく、説明が極めてわかりやすいこともあり、あっと言う間に読めてしまう。一方で豊富に掲載されている図表は、データとしても貴重なものが多く、後々も参考になりそうだ。内容は
はじめにとなっており、通常の生産量や廃棄物量といった統計数値をベースにしながらも、要所要所では、著者が率先して行った、京都の一般家庭ごみ調査の結果を有効に使用して、説得力のある「一般家庭の生活イメージ」が構築される。
1章 現代のごみ事情
2章 日本のごみ処理
3章 ごみの内訳
4章 容器・包装材
5章 使い捨て商品
6章 食品ごみ
7章 自動車、家電、パソコン、携帯電話
8章 家庭から出る有害廃棄物
9章 産業廃棄物-豊島事件を中心に-
10章 3Rから2Rへ
おわりに
何しろ、一般家庭から普通に出されるごみ袋を沢山集めてきて、中身を分類、軽量するという、大変な作業を継続的に続けることで明らかとなった結果は重みがある。もっとも、日本全体のライフスタイルを、京都のごく少数の家庭から出るごみから推定してしまっても良いのか? という疑問はあるけれど、でもこの(3Kで)地道な調査研究には素直に頭が下がる。
本書の最終的な結論でもあり、サブタイトルとなっている「こんな暮らしは続かない」という指摘自体は、誰もが何となく気付いていることだろうと思う。本書では、その結論を導く上で、食品包装材の製造エネルギーは食品自体のエネルギーを上回ることや、日本人は世界の中でも突出してティッシュを使う国民であること、或いは日本の農業・水産業生産額と日本人が廃棄する残飯の価値がほぼ同等であることや、最近のリサイクル促進は逆に廃棄物や資源消費量を増やしているのでは、といったことが次々と指摘される。
そして、我々が今のライフスタイルを見直して、大量消費型の生活と決別しない限り、地球の未来はない、ということになるのだが、著者自らが、
さて、このように私がエコライフの必要性を強調すると必ず、と書かれているが、社会が納得できるような、具体的なソフトランディングの道筋は、まだまだ誰にも見えていない。既にヨーロッパでは、その変化の方向が見え始めているのかもしれないが、アメリカや日本が何処に向かうのか。。 この問題の答えが見つかればノーベル賞ものじゃないのか?
「みんなが先生の言われるようなライフスタイルをめざすと日本の経済はいったいどうなるのですか? 物は売れなくなり、経済は疲弊し、失業者が巷にあふれると思いますが・・・・」
との質問が来る。たしかに、今までの経済システムで、すなわち資源やエネルギーをたくさん使って製品をつくり、販売し、利潤をあげることによって経済を維持しようとすると、物の消費が減れば経済は破綻するだろう。
しかし、この経済システムこそが今日の深刻な環境問題、資源問題、エネルギー問題を引き起こしてきたのであるから、根本的に今までの経済システムを変える必要がある。私は経済学者ではないから、どのように変えるかの明確な解決策を提示できないが、少なくとも内橋克人氏が提案しているように、資源・エネルギーを浪費しなくても経済が維持できる方法をめざすべきであろう。(p.184)
でも、社会システム上の問題が解決できるとしても、果たして我々は、一度手に入れた「豊かさ」を手放すことができるのだろうか? やっぱり、わかっちゃいるけどやめられない、のかな??
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