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2004/03/04

鉄と海と光合成

先日送られてきた、化学と工業(日本化学会の雑誌)を眺めていて見つけた記事(57(3), 235 (2004))。元ネタはアメリカ化学会発行の雑誌C&ENに載った記事のようだが、

環境汚染が海洋光合成を促進
ジョージア工科大学とNASAの研究グループは、中国北部のゴビ砂漠で発生した砂嵐によって、北太平洋の遠く離れた海域まで鉄が運ばれ、植物プランクトンの光合成やCO2吸収が促進されることを知っていた。しかし、砂漠の塵に含まれる鉄は水に不溶なヘマタイトであるため、プランクトンはこのままではこれを利用することができない。そこで、上海の上空を通過する塵を分析した結果、塵は高い酸性を示し、異常な濃度の硫黄酸化物を含んでいることがわかった。彼らは、この硫黄酸化物の酸化によって塵のpHが2未満になり、このpHではヘマタイトが溶解するため、プランクトンの成長が活発になると考えた。
という内容である。元となった論文は、Geophys. Res. Lett., 30, 2085(2003)

地球温暖化は、非常に複雑な要素が絡み合った現象であり、それゆえにシミュレーションモデルの精度が必ずしも満足のいくものではないとして、今現在も色々な議論のあるところ。こういう研究をみると、なるほどややこしい話があるものだな、と納得したくなる。

さて、海洋光合成と鉄、硫酸の関係とは何だ?ということで、少し調べてみたら、わかりやすくまとまった資料がみつかった。電力中央研究所が2001年11月に発行した電中研レビュー45号。この特集の第2章には、

東部北太平洋亜寒帯域や南極海、東部太平洋赤道域などでは、植物プランクトンの増殖に必要な硝酸塩、リン酸塩、珪酸塩など主要な栄養塩が高い濃度で残存しているにもかかわらず、植物プランクトンの増殖は低く抑えられていることが知られている。これらの海域では、大陸から大気を通して供給される鉄分の量が少ないため、鉄不足となって植物プランクトンの増殖が生理的に制限される結果、栄養塩が残存すると考えられている。このような海域では、天然の鉄分の供給が植物プランクトンの増殖を大きく変化させ、生物ポンプの効率に大きな影響を与える。海洋への鉄の供給量の変動が、過去の海洋炭素循環および、地球全体の気候を大きく変動させていた可能性もある。近年、生物海洋学、化学海洋学、さらには海洋炭素循環モデルの研究者の間では、鉄とプランクトン生態系の関係を明らかにすることは、海洋の生物的な炭素循環を解明する上で無視できない重要な課題となっている。また、地球温暖化対策の一つとして、このような特徴を持つ海域に鉄を散布することで、植物プランクトンの光合成による有機炭素生成量を増やし、生物ポンプの効率を上げることが提案されている。この、鉄散布については、炭素固定の経済的効率などを含めた賛否両論が交わされ、現在においても大きな議論を呼んでいる。
ということで、何と海に鉄を散布するということも真剣に考えられているのだそうだ。一方で、SO2や硫酸による大気汚染の影響については、第3章で触れられており、
東アジアは、ヨーロッパ、北アメリカ東部と並んで二酸化硫黄(SO2)の人為的な排出量が多い地域であり、結果として、硫酸塩(SO4 2-)エアロゾルも多く存在している。21 世紀の東アジアにおける気候変化を予測するためには、硫酸塩エアロゾルの放射効果を、気候変化の予測モデルに取り入る必要がある。硫酸塩エアロゾルの放射効果には、直接放射効果(エアロゾル自体が太陽放射を散乱する効果)と間接放射効果(雲凝結核としてはたらいて、雲の放射特性を変える効果)の2種類がある。
とあり、それ自身に気温を下げる側の効果があるようだ。温暖化効果ガスに対して、冷却効果ガスという言い方もあるようだ。一方、今回の論文のポイントは、砂漠から運ばれる酸化鉄粒子が硫酸に溶解し、海に溶け込んでプランクトンが生育し、光合成が活発化するという新たな関係を見出したことらしい。

もちろん、これが中国の大気汚染の免罪符になるわけではないが、地球規模で起こる現象は確かに複雑だなあということ。そういえば、この時期に飛んでくる黄砂のおかげで酸性雨が中和されているという話もあるし。今後中国の大気汚染が改善されていくと、思わぬところに別の影響が及んだりすることもあるというわけだ。

それにしても、たとえ海に鉄を人為的に放り込んで、海洋光合成を活発化することが可能だとしても、大気中のCO2の吸収には効果があるのだろうけど、その他への影響はどこまで予想できるのだろうか? 当然植物を食べる動物も増えるだろうから、海の生態系が撹乱されるのは当然にしても、回りまわってどんな影響が地球全体に現れるのだろうか? 或いは、どこまでの影響が確認できれば、人がこういう対策に着手することが許されるのだろうか? 道は遠いなあ。。

ちょうど環境省のサイトに、第3回地球温暖化対策技術検討会の議事録が載ったので、リンクしておく。まだ軽く目を通しただけだが、現状認識(地球温暖化は緊急を要する課題)の切実さと対策(省エネ、再生可能エネルギー、資源の徹底利用、天然ガス利用)の悠長さとが、絶妙のアンバランスさを醸し出していて、えっ本当にこれでいいのか? って思わせる。まだ最終結論ではないし、途中の段階では色んな提案があっていいと思うけど、この検討会、今後に注目かもしれない。

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