「合意形成とルールの倫理学」
理科系の本を読むことが多いけど、たまには社会科学系の本も読んで勉強しなくちゃな、と思っている。最近は科学者の倫理についての議論も多いし、最新のバイオ技術や地球環境問題を考える時、「倫理」というキーワードは避けて通れないと思う。ということで、今回は応用倫理学の入門書に挑戦。
丸善ライブラリー 360
合意形成とルールの倫理学 応用倫理学のすすめIII
加藤 尚武 著 bk1、amazon
著者は京都大学を定年退職され、2001年4月から鳥取環境大学の学長をされている。もともとの専門は哲学だが、先端のバイオ技術や環境問題に精通しており、生命倫理や環境倫理においては国内の第一人者といってよいだろう。
本書は以下の6部からなる構成。
第1部 生体利用の安全性
第2部 生殖補助医療と幸福追求権
第3部 身体の金銭化とドーピング
第4部 国際公共財と世代間倫理
第5部 正義と合意形成
第6部 刑罰の根拠
各部が2~5の章からなっており、全部で21章。各部の終わりに、その部の要約と展望が簡潔にまとめられている点が特徴。基本的に各章が独立しているので、興味のある部分から読むもよし、先に各部の要約を読んでから詳細な内容に入るもよし。そういう意味では読みやすい本だ。
これらの問題、特に個人の人権を考える際の基本になる考え方として、著者が何度か述べているのが、
法的規制のもっとも厳しい限界は、「他者危害を防止する目的のみが法的規制を正当化する」という自由至上主義の原則である。この原則では「自己危害の防止のための法的な規制」が正当化できないので、自殺、麻薬の濫用、売春、賭博などを規制することができない。だから、この考え方はそのままでは採用できない。ということ。出発点はとりあえず合意できるのだが、もちろんこの基準のみでは、クローンを始めとする生命倫理についてはスッキリと答えがでるわけではない。そして、環境問題のような世代間や人間以外の生物の権利との調整問題となると、話は途端に難しくなる。
ゆるやかな自由主義の原則では「他者危害を防止する目的と、過度の自己危害を防止する目的によって法的規制は正当化される」と考えられる。
その意味で前半の生殖補助医療やドーピングの話については、著者なりの答えも用意されているので、読んでいて理解が進むのだが、後半の環境問題以降は、著者の答えも今ひとつ明確ではなく、読んでいてもすっきりとしないものを感じる。
ということで、全体を通してみると正直言って難解。特に哲学や倫理学の基礎的な素養のない読者にとっては、歯ごたえがありすぎるのかも。(だって、応用倫理学っていうシリーズなんだし。。)それに、丸善のこのシリーズは他の一般向けの新書と比べると、やや想定読者レベルが高いように感じるし。まあ、いずれの問題も、誰もが容易に合意に至るような簡単なものではないので、本書を手がかりに自分なりにじっくり考えてみるしかないのだろうな。
著者名で検索すると、かなり多くの本を書かれており、読者レビューを読むと、もっとわかりやすいものや、正に合意形成の方法について書かれたもの等、もう少し初心者向けの本もありそうだ。また出直してくるか。。(タイトルだけを見ると興味が湧く本が多いんだけど、いざ読み込むとなると手強いんだよな、この手の本は。 同じことが、理科系の本を文科系の読者が読む時にも言えるのかもしれないが。。)
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