「ロケットと深海艇の挑戦者」
シリーズ「メタルカラーの時代」は、週刊ポストに連載された記事をまとめて、ハードカバー版で出版されてきているが、その文庫版は第5巻が1998年に出版された後、何故か発行が止まっていた。どうやら今回シリーズ再開のようだ。今回の宇宙と深海探査に関する話を集めた第6巻に続き、今後第12巻までの発行予定も発表されている。
小学館文庫
文庫版 メタルカラーの時代 6
ロケットと深海艇の挑戦者
山根 一眞 著 bk1、amazon
この文庫版「メタルカラーの時代」シリーズは、ちょっとした時間で一話ずつ読めるし、色んな技術分野の最先端や内輪話がわかりやすく書かれているので、5巻まで欠かさずに読んでいた。ようやくシリーズ再開ということで早速読んでみたのだが、この間にTVで「プロジェクトX」が有名になり、ちょっと切り口は違うけど日垣隆さんの「サイエンス・サイトーク」なんていうシリーズも出てきたので、正直に言って、やや色褪せたというか古さを感じてしまった。
内容的にも文庫版の出版が遅れているうちに、時代遅れになってしまったというか、鮮度が落ちてしまったみたいだ。特にタイミングが悪いなあと思ったのは、H-II ロケット開発の話が続くのだけど、この前のH-IIA ロケットの打ち上げ失敗が非難された後に読むと、何だか素直に感動できなかったりするわけだ。
しかし、このシリーズが長続きしているのも頷けるものがある。山根さんのインタビューは一種不思議な雰囲気で、対談の途中で山根さんが口を挟むのは、大抵とても短い言葉だけだし、本当にわかっているのか? と思いきや、とても鋭いような的外れのような変な比喩を繰り出してみたりする。でも、その結果として、技術者の皆さんがその当時を思い出しながら、素人さんにわかってもらえるように気を使いながら、とても気持ちよく語っているなあという印象。
「プロジェクトX」も、このシリーズを相当に意識して作られているようだけど、一技術者として見ると、やや大げさなドラマが必ずあるし、時にお涙頂戴になってしまって、素直に見られなかったりする。その点「メタルカラーの時代」のある種の軽さの方が好感が持てる。
淡々とした軽さと共に、読んでいるこちら側もいつの間にか、ロケットエンジンの色々だとか、レーザージャイロ慣性航法装置だとかの様々な先端技術の中身に触れ、何となくわかったような気にさせてくれる。このシリーズは、「プロジェクトX」よりは、(人間よりも)技術側に重心を置いていると言えるのかもしれない。
本書のテーマである宇宙開発と深海探査については、その学問的位置付けと共に社会的な位置付けについても色々と議論がある。本書では敢えてそういう点には踏み込まずに、純粋に現場の苦労や喜びに焦点を当てているように見える。しかしながら、本書の対談が行われたのが10年~4年前であり、個々のインタビューには、その時代の背景が反映されているとも言えるわけで、そういう目で読むと、当時はまだ良かったというか、逆説的だけど、何だか今は先端科学技術にとっても閉塞的な時代なのかな、という気がしてくる。たまには週刊誌に連載されている生の対談も読むべきかな?
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