「持続不可能性」
なかなか挑戦的なタイトルの本である。原題は "Fragile Dominion"、直訳すると「壊れやすい支配」とでもなるのか。ということで、翻訳本のタイトルをつけた人のセンスが光ると言えるだろう。サブタイトルも含めて、タイトルに魅かれて読んでみることにした。
文一総合出版
持続不可能性 -環境保全のための複雑系理論入門
サイモン・レヴィン 著、重定 南奈子、高須 夫悟 訳 bk1、amazon
読み終わるのに一体何ケ月掛かったのだろう? この本はいわゆるハードカバーで大きく重い。普段出かける時に持ち歩くのは、どうしても新書や文庫ばかりになってしまうので、本書はもっぱら家で少しずつ読んでたのだけど、それにしても時間掛かったなあ。最初の方はもう忘れてしまってるし。。
とりあえず、Webで入手可能な、本書に対するコメントを紹介しておこう。関係者のものとしては、本書の訳者の高須さんのページや、文一総合出版のページがある。
そして、専門家の優れた書評もある。進化論の長谷川眞理子さんの書評や、環境学の松田裕之さんの書評は、それぞれの立場から、本書をかなり高く評価しているようだ。これだけ専門の方が薦めているのだから、きっと信頼できる本なのだろう。
敢えて僕の感想を少し述べると、確かにテーマはとても魅力的だし、読み進むにつれて新たな物の見方を手に入れたような喜びもある。でも、最初は興味深くそれなりに楽しく読んでたんだけど、途中から徐々に退屈になってきたのも事実。この厚い本の途中に、特に大きなドラマがあるわけでもなく、かと言って具体的にイメージできる実例がそれほど豊富にあるわけでもなく、最初から最後まで一貫したメッセージが淡々と続くんだもの。。
もっと複雑系のシミュレーション結果などがたくさん出てきて、地球の生態系を複雑系が解き明かすってな本なのか、と期待していたのだけど。(と、読み終えるのに時間が掛かった言い訳をしてみる。)
複雑系といえば、新潮文庫の「複雑系」bk1、amazonという本を以前読んで、サンタフェ研究所で次から次へと巻き起こる、知のドラマや、複雑系という考え方、そしてその可能性に、驚きを伴ったある種の感動を覚えたものだ。今回の著者、サイモン・レヴィンも、同じサンタフェ研究所の経験者であり、考え方などは当然共通するものがあるわけで、なじみやすかったし、少し懐かしい感じもした。
本書を読んで、一番新鮮に思えたことは、地球の環境や生態系が、マクロに見て今この通りであるということが、ミクロの面から見ると、それぞれの生物がただひたすらに生きてきたことが、複雑に絡み合った結果として存在しているのだ、というようなイメージかな。それと、自然界というのは一般に想像されているような安定した世界ではなく、局所的には常に環境が変動しているし、むしろその変動によって生物の多様性を維持しているのだ、という事実。人間が何かを保護しようとして環境に手をいれることが、果たして生物多様性の維持に対して良いことと言い切れるのかどうかは、そんなに簡単ではない。
この本で書かれていることを、多少とも認識しているのといないのとでは、極端に言えば世の中の見え方が変わってくるような気がする。巷で環境問題を論ずる人々には、まずは、こういう本を読んで、「環境」というものの中身について、大局的に、そして多面的に、一度じっくりと考えてみて欲しいと思えたりもする。この本を読んだからといって、環境問題に対して如何に取り組むべきか? という問いへの答えが明確に示されるわけでもないのだけどね。
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