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2004/04/25

「ウォーター・ビジネス」

水に関する本についての記事は、2/24の「水の環境戦略」2/27の「水と健康」に続いて3回目だが、以前の2冊が主として日本の飲料水に関する問題を主に人の健康という面から見たものであるのに対して、この本は世界で水(特に飲料水)を巡って起こっているビジネスの動きを中心に書かれたもののようだ。

岩波新書 878
 ウォーター・ビジネス
 中村 靖彦 著 bk1amazon

この本について、Webで読める記事としては、岩波書店の紹介記事や ViVa!ブックレビューの書評などがある。

山梨県のミネラルウォーター工場から始まり、アメリカ、フランス、中国の状況の取材を経て、最後は富山県の海洋深層水の話に終わるという具合に、取り扱う範囲は非常に幅広い。基本的に、元NHK解説委員という著者の経験を生かした、取材を中心としたドキュメンタリータッチの本という感じ。そのためか(岩波新書にしては)個々の話題に関しての突込み(特に科学的な視点からの)が足りないような印象が残る。

いわゆるミネラルウォーターを飲む習慣というのは、ヨーロッパからアメリカ、日本と広まってきたようだ。フランスでも50年前にはミネラルウォーターは薬局で売っているような貴重なものだったらしい。今では大手企業が世界の覇権を賭けて水源を奪い合うような状況になっているようで、ペリエ、ヴィッテル、コントレックスなどはネスレグループの、エビアン、ヴォルビックなどはダノングループのブランドなのだそうだ。

アメリカでは、地下水を大量に汲み上げることで、農業用の地下水が減っていく問題や、地上の湖の水位が下がることによる環境問題が顕在化し始めているようだ。中国では北京を始めとする北では水不足が深刻な状況となっており、比較的水の豊富な南から何本かの巨大運河で水を送り込むという大工事、「南水北調」が始まっているという。

世界を見渡せば、飲み水についても、農業・畜産用の水についても、今も不足している地方はたくさんあるし、今後益々厳しい状況となる地方も多い。しかし、ビジネスとして水を売っている大手の企業は、水を購入する能力のない貧困地帯には、どんなに多量の需要があっても水を供給することはないだろう。

一方で、日本は多くの食料を輸入しているが、その食料である穀物や肉などは、それぞれの原産国でたくさんの水を使って育てられたものであり、結果として日本は食料という形で多量の水を輸入しているとも言える。そういった食材を使って作った食事は、実に多量の水を使って作ったと見なすことができ、例えば牛丼一杯に水2トン、ハンバーガー1個に水1トンという計算になるのだそうだ。

結局、本書でも最後は「水は誰のものか?」という問いを発する。公共のものと考えるのか、ではその公共とはどのレベルで考えるのか? 元々天からの授かり物のようなものだが、世界的に見ると、とても不公平に配分され、お金でやり取りされている、様々な資源の一つとも言える。

ただ、本書では余り深く突っ込んでいないけど、水は地球規模で循環をし続けているわけで、川を流れている水は使わなければ、海に流れていってしまうものだし、日本で蒸発した水だって、回りまわって地球のどこかに雨として降り落ちるものであるという側面もある。(牛丼一杯が海外の水2トンを消費して作られたという側面はあるにしても、その2トンの水のほとんどは日本に運ばれたわけではなく、それぞれの国で蒸発したり、地下に浸透したり、廃水になったりしているはずだ。)

そういう意味では、単に降水量をベースに資源量と考えるのは、ちょっと違うと思う。一度使った水を、次にまた使うというような、多段階に有効に使うやり方や、世界的に見れば、使われずに海に流れている河川水を如何に有効に使うか、といったような様々な方法を考える必要がありそうだ。この本では触れられていないが、将来的には海水の淡水化ということになるのかな? そうなると水問題はエネルギー問題にもつながる訳だな。。

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コメント

「資源物理学入門」(槌田敦 NHKブックス)という本を読まれていますか? 大分前に呼んでウロ覚えなのですが、お勧めです。水は核心です。大切なのはポテンシャルエントロピー(エントロピーの増大余地)を稼ぐための「雑巾」であり、真の資源は水ナリ、という内容です。「原子力文明は存在し得ない」など、非常に面白かった記憶があります。ヒマを見て読みなおしてレビューでも書くかもです。

投稿: 石倉由 | 2004/04/29 00:42

おぉ、本の紹介ありがとうございます。

槌田敦さんの本は直接読んだことはないんです。この本、以前ちょっとしたブームになってましたよね。調べてみたら、1982年の本なのですね。「エントロピー」という言葉を一般社会に広めたのが、槌田さんだったと記憶してます。もっとも、最近はあまり聞かなくなりましたけど。。

*槌田さんの説は結構癖がありそうで、一歩間違うと違う世界に連れていかれる恐れがあるので、要注意だと思ってます。この本は有名だし、今度図書館でみつけたら読んでみることにしよう。

投稿: tf2 | 2004/04/29 18:08

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» ミネラルウォーターは苦い? [生活なんでも大百科]
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受信: 2007/09/18 17:56

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