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2004/05/06

超臨界CO2クリーニング

河北新報(5/4)の記事。CO2超臨界流体で洗濯 東北大と仙台・タカノ商用化へ

 二酸化炭素(CO2)の超臨界流体を活用したクリーニング法の研究を重ねてきた東北大超臨界溶媒工学研究センターと、クリーニング業の「オートランドリータカノ」(仙台市)は世界初の「超臨界流体炭酸ガスドライクリーニング法」を導入した商用機の開発に着手する。環境や人に優しく、世界的な需要が見込めるとして、確立した新技術については年内に米国やドイツでも特許を出願する方針。

 新方式のクリーニング法は、31度、74気圧で超臨界状態となる二酸化炭素(CO2)の超臨界流体を循環させ、その中で衣類の汚れを溶解させる仕組み。二酸化炭素は有機物の溶解力が高く、従来のように石油系の有機溶剤や水は使用せずに済む。

 東北大とタカノは2002年度から経済産業省の補助を受け研究開発を始めた。昨年3月、タカノの本社工場敷地に研究室を建設し、実験機を設置。洗浄能力のさまざまな実験を重ねてきた。

 従来の洗剤よりも洗浄能力は高い上に(1)衣類を傷めにくい(2)脱石油によって環境負荷低減に貢献できる(3)溶剤などを送る駆動ポンプが不用になり、機器の耐久性能が高まる―などの効果も確認した。(後略)

この技術開発は、オートランドリータカノと東北大学超臨界溶媒工学研究センターに加え、産総研東北センター超臨界流体センターアイテック、日本建鉄、東京洗染機械製作所、日華化学、昭和炭酸の8者で共同開発を進めている。参加している企業は、ドライクリーニング装置メーカー、洗剤メーカー、或いは二酸化炭素メーカーなど。

この技術の詳細については、東北経済産業局の地域新生コンソーシアム研究開発事業成果概要で読める。地方の企業が、産官学の連携で新たな技術開発を積極的に行っているモデルケースとしての注目度も高いようだ。七十七ビジネス大賞など。

二酸化炭素を使った超臨界流体による洗浄技術は、結構古くから注目されており、特許庁の技術資料特許出願状況を参考にすると、食品や半導体関係或いは機械部品等の洗浄への応用が主用途のようで、衣類クリーニング用というのは新しい発想なのかもしれない。「超臨界流体(SCF)のすべて」という本の目次を見ても、非常に広範囲な応用が考えられているようだが、衣類クリーニング用途は載っていない。

なお、クリーニングの基礎知識は、大阪府クリーニング生活衛生同業組合のクリーニングを知るためにが充実している。ドライクリーニングといえども、特に水溶性の汚れを落とすために洗剤を使うというのも初めて知った。なお、ドライクリーニングの溶剤については、新潟女子短期大学の本間研究室の生活環境科学の部屋から、ドライクリーニング溶剤

最近はドライクリーニングの溶剤は環境面で厳しい目にさらされている。(土壌汚染、臭気、オゾン層破壊、地球温暖化等) 従来からのドライクリーニング技術を更に磨いて、徹底的に溶剤の回収・再使用を進めるという方法と、有機溶剤を一切使わない新たな超臨界洗浄技術とどちらが総合的に見て良いのか? グリーンケミストリー的発想からすると、二酸化炭素の超臨界洗浄が良さそうに思えるが。。

課題はコストの削減(テスト機のコストが7,000万円、目標コストが3,000万円に対して、従来法の大型機が1,700万円)とのこと。環境にやさしいとか、溶剤が残留しないというメリットが、果たして既存の装置の約2倍の価格でも売れるだけの付加価値となるのだろうか? そもそも、どの程度きれいに洗浄できるのだろうか? 逆に染料によっては色落ちが激しいなんてことはないのだろうか?

衣類の洗浄と言っても、通常の水による洗浄も含めて、非洗浄物や汚れの種類に応じてそれぞれ異なる方法がありうるわけで、この方法も万能とはなりそうもない。それでも、地方発の新技術として、うまくいけば世界的な技術になるかもしれない、という期待を込めて応援してみたい気にさせてくれる。

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コメント

 tf2さん、さっそくこんにちは。津村です。
 超臨界流体抽出は農薬分析では既に汎用の技術ですが、その使用感を延長した第一印象としては、「本当に洗濯に使えるの?」と思います。CO2だけではヘキサン程度の低極性溶媒と似た性質で、極性農薬も抽出するためには、アセトンなどのモディファイアーを使います。「従来の洗剤よりも洗浄能力は高い」とは、「水+洗剤」との比較ですかね。現行のドライクリーニングと比べたら、どうなんでしょう。

投稿: 津村 | 2004/05/07 05:30

津村さん、ようこそ。早速、専門的なコメントありがとうございます。分析分野では既に超臨界技術を使ってるんですね、知らなかったです。

改めて探してみたら、川鉄テクノリサーチ社による調査資料を見つけました。http://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/14h/9/1/7.pdf">「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」周辺動向調査。この資料は、原理、研究動向から、応用例、プラント運転コスト試算までと、非常に充実しています。

この資料の13/57頁あたりを見ると、超臨界CO2は脂溶性であり、魚油中の不飽和脂肪酸の抽出や食品からの脂質の除去に使われると書かれており、いわゆる油汚れも結構いけそうに思えますが、如何でしょうか? 

他にも、衣類のクリーニングのメカニズムとしては、汚れ成分の溶解抽出だけでなく、物理的に汚れを剥離させたり、化学的にある程度分解したりといったことも考えられます。

実際に彼らも、圧力や温度、流体の噴出のさせかたや攪拌のしかた、或いは洗剤の種類や濃度等の条件を検討してきているんだと思いますし、それなりのメンバーが揃っているようなので、多分その辺にぬかりはないと思いますが。。

投稿: tf2 | 2004/05/07 17:51

 津村です。さらに詳しく調べていただき、恐縮です。
 tf2さんに答えていただきたいと思っているわけではないのですが、こういうニュースを詳しく読む場合、私の視点は以下のようになります。
(1)衣類の汚れ(の落ち方)をどんな方法で定量的に測定しているのか。
(2)その定量法によって競合する洗浄法と比較した場合どうなのか。
 とりあえず競合する洗浄法はドライクリーニングと考えられますから、家庭での洗濯を想像する「従来の洗剤」との比較しか述べられていないのは、ゴマカシのように感じてしまうわけです。もちろん、環境負荷の点でドライクリーニングよりメリットが大きそうなので、洗浄力が劣っていたとしても普及する条件はあると思います。でも、それにしても「汚れ落ちはXX%程度だが」というように表現されていなければ、ユーザーは選択できないと思うのです。

投稿: 津村 | 2004/05/08 04:19

津村さん、どうもです。

ご指摘の視点については、その通りだと思います。洗浄効果の評価方法については、JISがありそうですから、それに従って評価するのが基本かと思います。本当に洗浄効果が十分ならば、どこかにデータを載せておいてくれても良さそうなものですね。

しかし、普通の洗濯の評価とドライクリーニングの評価では別のJISになるようです。(詳しく調べてませんが。。)となると、種々の洗浄方法を一列に並べて評価するのがそもそも難しい、というかそれ自体が研究対象となるのかもしれません。

ただ、学会発表や論文であればともかくも、一般の新聞記事ではこの程度の記述で十分ではないかと思います。もっとも、インターネット等で調べても、評価方法やその結果についての情報が見つからない現状は、確かに不十分だと思いますが。

投稿: tf2 | 2004/05/08 18:32

 それほど突っ込みたいわけではなく、ニュースを読む方法論としてですが・・・
「一般の新聞記事ではこの程度の記述で十分」というのは、私のコメントを読んだ人の大多数が感じられるところだろうと思います。「ドライクリーニングよりも汚れ落ちが悪いというデータの場合は、数字だけが独り歩きして、せっかくの技術が門前払いされる可能性がある」という意見もあるでしょう。
 しかし、競合する従来法との比較データというのは、こういう新技術の場合、素人でも欲しいと思うもので、開発当事者が取得していないはずがありません。「独り歩き」というのは、有利なデータの場合も起こりますから、逆に独り歩きを狙って有利なデータは「一般の新聞記事であっても」載せるものです。
 インターネット等で調べても当該データが見つからないということは、すなわち、不利なデータしか出ていないんだろうな。だから、現時点ではこの技術にそれほど期待できないかな・・・という風に、私はこのニュースを読みました。(それでどうってわけでないですが。株売買とかしているわけでもないので。あくまで、一般市民としての感想です。)

投稿: 津村 | 2004/05/09 06:21

なるほど了解しました。なかなか厳しい見方ですが、そういう考え方もあると思います。

今回の場合、既に学会やその他の講演会等で何度か発表しているようですし、特許も出願されている(公開特許を検索したけど見つからなかった)ということで、対外的に成果の公表はされていると思います。その意味で、調べる気になれば何らかの評価結果を入手する事も可能とは思いますので、僕は、積極的に隠しているわけではないと受け取っています。

企業にとって、新技術の公表というのはなかなか難しいことの一つだと思います。タイミングや、どこまで公表するか等、影響は広範にわたりますから、細心の注意を払う必要があるでしょう。今回は自社のHPも持っていない企業ですし、第三者の我々としては、本当の実用化段階まで評価を待ってあげてもいいのでは、と思います。

投稿: tf2 | 2004/05/09 16:45

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