「青色発光ダイオード」
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の中村修二教授と日亜化学が争った、特許の価値を巡る裁判の一審判決は、その200億円という巨額故に多くのマスコミのトップニュースとなって大騒ぎになった。この判決以前から、両者の間にはいろいろな対立があり、幾つかの訴訟が起こっていた。その間、当事者である中村氏は、マスコミに露出したり、多くの本を出したりと、企業出身の技術者としては異例の知名度を獲得することになった。(ノーベル賞をもらった田中耕一さんとの対比という点も興味深い。)
その中村氏の本に関しては、「怒りのブレークスルー」(bk1、amazon)を丁度2年前に読んだのだが、良くも悪くもアクの強い個性的な人だな、という印象がある。僕自身が企業の研究部門にいた経験から見ても、なかなかここまで自己主張が強い(わがままとも言う)タイプは珍しいし、正直言って同じ会社で一緒に仕事はしたくないタイプだ。それでも、中村氏が結果として成功したのは間違いないし、技術者として必要な才能や運にも恵まれていたと言えるのだろうな。
冒頭の訴訟については、現在、東京高等裁判所において第2審が行われている最中である。そんなタイミングで、アンチ中村の立場で出されたのが本書。
青色発光ダイオード 日亜化学と若い技術者たちが創った
テーミス編集部 bk1、amazon
帯には「開発の真相を初めて日亜化学が語り尽くす」と書かれている。確かに、社長を始めとして多くの日亜化学関係者に取材をして書かれたようだ。今まで中村氏側の主張ばかりが本やマスコミで取り上げられていたことを考えると、バランスという意味からは確かに本書の存在意義は認められる。
でも正直に言って、この本の読後感はあまり爽やかではない。超簡単にまとめると、中村氏の従来の主張は相当に誇張されたもので、実は青色LED(発光ダイオード)や青色LD(レーザーダイオード)を真に開発したのは、彼以外の若い技術者たちだった、彼はきれい事を主張しているが実は守銭奴なのだ、というような相当に批判的な内容となっている。
本書を読んで気になったことの一つは、「著者は~」という記載が目立つのに、本書の著者は「テーミス編集部」であり、ある意味で匿名だってこと。中村氏は少なくとも一個人として実名を出して主張しているのに、こちらは編集部という形で中村氏を批判する内容を書いているわけだ。しかも、本当に日亜化学の関係者から取材していたとしても、「著者」が主張する「真実」については、その根拠(誰の主張か、どこに書いてあるのか、等)が書かれていないものが多く、本当に信用してよいかどうかは闇の中ってことも気になる。
途中何箇所も、「~と感じるのは著者だけだろうか?」というようなレトリックを使って、特定の印象を読者に与えようとするのも目立つ。でも、そう感じるのはあんただけだろう、と突っ込みたくなったから、逆効果だったかもしれない。認めるところは認め、指摘すべきところは指摘する、というスタンスで書かれているならともかく、全てを批判の対象としてしまったために、逆に信用できない印象を持たせてしまったのかな?
また、「著者」が技術開発や特許についての基本的知識に乏しいことも、随所から感じ取れる。問題の404特許は公知技術で特許性がない、なんて主張を今更したって、とっくの昔にさんざん議論して結論が出ている問題だし、たとえ日亜化学の現在の技術が404特許を使ってなかったとしても、404特許の価値がゼロになる訳ではないことは、今回の判決文にも書かれていることだ。
徳島県ローカルから急激に全国区になった日亜化学の発展に中村氏の貢献がなかったとは言えないだろうし、中村氏だけの力で大きくなったのでないこともまた明らかだ。本来ならば、会社の発展を関係者みんなが喜び合えればいいのに、何が悲しくてこんな訴訟で延々と争っているのだろう? その争いが起こった原点がこの本からは見えてこない。少なくとも中村氏側の本からは何となく見えてくるものがあるのだが。。
いずれにしても、日亜化学が中村氏をそれなりに厚く処遇していた(給料面、学会参加を始めとする多くの出張、自由な仕事環境など)のが事実であるならば、日亜化学は彼の貢献を高く評価していたと言えるだろう。なのに、何故か(本書では書かれていないが、何らかのもつれがあって)、今回の訴訟では中村氏に一銭も支払いたくないという法廷戦略で臨んだがために、中村氏の発明の貢献はむしろ赤字だった、なんて苦しい主張をせざるを得なくなり、自らの首を絞めてしまったと言えるのだろう。
むしろ本書にたくさん書かれているような、多くの技術者たちの貢献を法廷できちんと主張し、その上でこの事業に関する中村氏の貢献度について具体的に議論することが、今後の他の職務発明訴訟にも有意義な結果を残すことになるのだろうと思う。(本書で多くの技術者のストーリーが公になったことが何らかの影響を与えることになるのかもしれないが。)
#相当の対価を算出する上で、発明が生み出す利益の総額の算定法の問題と、発明者の貢献度の算定法の二つが共に不明確であることが大問題なのだが、特に、今回の一審判決の貢献度50%は、いくら何でもやっぱりおかしいだろうと思う。(判決文からすると、裁判官の心証を悪くしたのが相当に影響していると思える。)
まあ、この本の内容をどの程度信用するべきかは疑問なのだが、中村氏の主張だってどこまで信じられるのかわからない。真実は法廷で明らかになる?
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島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑(機械工学における摩擦の中心的モード)の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象(機械工学における中心的摩擦現象)にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化(ピストンピンなど)の開発指針となってゆくことも期待されている。
投稿: 地球環境直球勝負(GIC結晶) | 2017/08/04 15:55