尿素はお肌にも環境にもやさしい?
NIKKEI NET(5/13)の記事。
日産ディーゼル、排ガス浄化へ尿素供給インフラ整備尿素水による排ガス浄化という技術は初耳だったので調べてみた。日産ディーゼルのホームページでは、新長期排出ガス規制適合車を2004年秋に発売という関連ニュースしか見当たらず。それでもこの方式のトラックをこの秋に発売するところまで来ていることは確かだ。
日産ディーゼル工業は三井化学、三井物産、宇佐美グループなど石油小売り大手3社と組み、自社の超低公害ディーゼルトラック普及のためのインフラ整備に乗り出す。排ガス浄化に使う尿素水が供給できる拠点を今秋までに全国400カ所に設ける。尿素を使った排ガス浄化は欧州で標準となる見通しの有力技術だが、供給方法が課題だった。尿素は保湿成分として化粧品にも使われている物質。新技術では排ガス中に尿素水を噴霧し、触媒の反応を促進させて窒素酸化物(NOx)排出量をほぼ半減させる。
日産ディーゼルは同技術を採用した大型トラックを今秋にも発売。世界のディーゼル排ガス規制で最も厳しいとされる2005年からの「新長期規制」を前倒しで達成する計画で、実用化に不可欠な尿素水の供給体制作りを呼び掛けてきた。
EICネットニュースに、ディーゼル車の窒素酸化物対策新技術・尿素SCRシステム技術検討会を設置というニュースが載っている。SCR は Selective Catalytic Reduction(選択的触媒還元反応) の略。ここからリンクしている、国土交通省の 尿素SCRシステム技術検討会の設置について には、この尿素SCRシステムの構成図や課題が載っていてわかりやすい。それにしても、わずか半年前に検討会を設置して、技術面やインフラ整備についての様々な問題に対応できるのだろうか?
各国のディーゼル排ガス規制の状況については、日本自動車工業会のディーゼル重量車の排出ガス規制値の比較がわかりやすい。2005年からPM(粒子状物質)の規制値を大幅に強化し、同時にNOxも世界一厳しい水準に持っていくということのようだ。
さて、窒素酸化物(NOx)を除去する方法であるが、ガソリン自動車の場合には現在では三元触媒で HC、CO、NOx を全て除去する方法を取っている。しかし、ディーゼルの場合には種々の問題があり、なかなか決め手がないのが実情のようだ。この辺は 徳大寺自動車文化研究所にコンパクトにまとまっている。
一方、従来から固定発生源(火力発電所、大型ディーゼル発電設備等)の排ガスからの NOx 除去(脱硝)には尿素が使われるケースもあるようだ。通常は NOx と反応する還元剤としては NH3(アンモニア)を使うのだが、NH3 ガスの取り扱いの問題等があるので、尿素をオンサイトで加水分解する方法が採用されることがあるらしい。(新興プランテックなど。)
大型の脱硝設備でも、NOx 分解率を高くしようとすると、相当に精密な NH3/NOx 比の制御が必要だし、それでも多少は未反応の NH3 が大気中にリークする。それに比べて自動車の場合は、そもそもエンジン排ガスの組成、流量や温度といった条件がめまぐるしく変化することが前提となるので、尿素の吹き込み量の制御などは相当に難しそうだ。それでも、既に実用化段階まで来たということは、未反応 NH3 の洩れ(「アンモニアスリップ」と言う)は技術的にクリアできたのだろうか。(目標のNOx除去率を低く設定してるのかな? 新聞記事では半減と書いてあるし。。)
三井金属の尿素水センサー開発のニュースは、これに関連した技術のようだ。
尿素SCR となると、尿素水を定期的に補給する必要があり、もしも尿素が切れるとNOx垂れ流しになってしまうし、逆に制御がうまくいかないとアンモニアを大気に放出してしまう。運転者が尿素をきちんと補給してくれるのかどうかも含めて、システム全体としてこれらの問題に対応することが要求されるだろう。
それでは、近い将来のディーゼル車はこれで決まりか? というと、最近の自動車技術会の発表テーマを見ると、還元剤に炭化水素を使ったり、ガソリンエンジンで使われている NOx 吸蔵方式だったりと、尿素SCR 以外にも各社様々な方式を検討しているようだ。
少し先を見れば、軽油燃料のディーゼル車以外にも他の選択肢は色々あるので、この尿素SCRも繋ぎの技術という気がするのだが。。
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コメント
日経に『ディーゼルは悪もんじゃないぜ、欧州ではメジャーだぜ』という意見広告があったような気がしますが、
「使用される燃料が違い、ヨーロッパの軽油のほうが成分的に軽く、硫黄含有量も少ない」
http://www.isize.com/cgi-bin/rperl5.pl/carsensor/ED/editorial/special/020910/top.html?ROUTE_ID=">http://www.isize.com/cgi-bin/rperl5.pl/carsensor/ED/editorial/special/020910/top.html?ROUTE_ID=
なので比較できないかも。そういう切り口からだと排出される悪成分をいかに取り除くかというアプローチじゃなくていかに悪成分を出さないかというアプローチもあってよいのかも。もしかして原料成分を変えることは税制が絡むのかな?
投稿: A(c | 2004/05/15 12:15
A(cさん、コメント(3連発)ありがとうございます。
その話については、本文中でリンクした徳大寺自動車文化研究所にhttp://www.cosmo-shopping.com/car/eco/tokudaiji/back_no/09/index.html">ディーゼル・エンジン非難、擁護の稚拙さという記事があるので、ご参照ください。経済性やメーカーの思惑も絡んで、結構複雑なようです。硫黄分について言えば、日本でも、もうすぐ超低濃度の軽油が流通するはずですが。
投稿: tf2 | 2004/05/15 19:14
予定通り日産ディーゼルから、尿素脱硝ディーゼルが発売になるとhttp://www.nissandiesel.co.jp/newsrelease/2004/1007scr.html">正式発表がありました(2004/10/7)。システムの名前は FLENDS(Final Low Emission New Diesel System)だそうで。
三井化学からはこの用途向けの尿素水の発売のhttp://www.mitsui-chem.co.jp/whats/040804.pdf">ニュースが出てますね。日産ディーゼルのリリースを読むと、尿素の32.5%水溶液のようだ。こちらの名前は AdBlue(アドブルー)らしいが、この由来はわからん。。
投稿: tf2 | 2004/10/08 21:05
ヨーロッパのディーゼル車販売の開業を考えていますが、可能ですか?プジョー、BMWが良いエンジンを持っていると聞いています。和歌山で事業を展開したいと思っております。いい知恵、ならびにお力を貸していただきたい旨、よろしくお願いします。
投稿: 大西智己 | 2006/09/04 23:06
大西さま、コメントありがとうございます。
私は、このブログの他の記事を読んでいただければわかるように、特にディーゼルエンジンの専門家でも何でもなく、単に新聞記事を読んで、自分が興味を持ったことを調べて記事を書いているだけです。
従って、お役に立てるようなアドバイスをすることはできないかと思います。ただ、自動車や環境の問題には興味がありますので、少しだけ。
つい最近、メルセデスベンツがディーゼル乗用車を日本で発売したというニュースがありました。日本国内でヨーロッパのディーゼル乗用車を販売する場合の問題点などは、このベンツのケースをよく研究することが有効ではないかと思います。
特に、ヨーロッパのエンジンや排ガス処理装置がそのまま日本国内で使用できるのかどうかや、使用する軽油の品質に関する問題、東京都などのディーゼル規制に対する取り組みなどなど、ちょっと考えると思いつくような問題について、ベンツがどのように対応しているのかをできるかぎり調べてみるとよいと思います。
ある程度の基礎知識を得た後に、ベンツのディーラーに客として出掛けて、上記のような質問をしてみるのがいいのでは?
あとは、もしも正規ディーラとして輸入するのでなければ、メンテナンスの問題があるでしょうか。特に最新のディーゼルエンジンを、誰がきちんと整備できるのかという問題が重要でしょう。下手に整備不良のディーゼル車を世に送り出すと、せっかくの最新型のディーゼルも台無しで、却ってディーゼル車全体の評判を落とすだけになると思いますし。
投稿: tf2 | 2006/09/05 00:19