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2004/05/23

「時間の分子生物学」

講談社はブルーバックスと現代新書を理系と文系の書籍で分けているかと思いきや、時々現代新書の方で、佐倉統さんの「進化論という考えかた」のような、良質のサイエンス本に出会える。本書も、読んで楽しく、ためになる、お勧めのサイエンス本だ。

講談社現代新書 1689
 時間の分子生物学 時計と睡眠の遺伝子
 粂 和彦 著 bk1amazon

著者は、数年間臨床医を勤めた後、基礎研究に重心を移しながらも、サイドワークとしては一貫して診療を続けている、第一線の研究者兼お医者さん。睡眠に関する研究をライフワークとしており、睡眠障害相談室というホームページを運営して、多くの方とネットを通したコミュニケーションをしている。

本書は、生物時計と睡眠に関する最新の研究成果をわかりやすく説明してくれる。それだけでなく、過去の研究の流れや、著者本人が研究してきた道筋に沿って、発見のドラマやエピソードを交えながら、次々と新たな知見が出てきて飽きさせない。

生物時計の存在は知っていたけど、この時計が実は予想以上に正確なものであるとか、細菌にも同様な時計があるなんてことや、ハエと人間がほとんど同じ遺伝子を使い、同じメカニズムで時をカウントしているなんてことは知らなかった。そして、その生物時計が時を刻むメカニズムが、遺伝子とたんぱく質の働きを元にした化学反応のサイクルとして解明されたという、ごく最近のトピックがわかりやすく説明される。更に主として周囲の光を感じて、その時計の遅れ進み具合を調整するメカニズムまで明らかとなっており、その仕組みの精巧さに驚かされる。

また、著者が実際に行った、ハエの睡眠の研究を通して、生物時計と睡眠の関係が解き明かされていったり、睡眠の色々な側面を紹介していくところも読み応えがある。著者が見つけた(作りだした)不眠症のハエが、寿命は半分に縮まるけれど、彼の人生(?)の中での総活動量は約2倍になる、というエピソードなどは、なんか身につまされる。

動物は何故眠るのか? という究極の問いには残念ながらまだ答えられないようだけど、それを解き明かそうとする様々な最近の実験についても紹介されており、この本の内容を身に付ければ、睡眠についてはちょっと自慢できる程度の物知りになれそうだ。

現在進行形の分野の最新の内容を、これだけ一般人にわかりやすく、そして飽きさせずに説明してくれる本は、数少ないと思う。睡眠や生物時計の話としてだけでなく、分子生物学の研究の進め方を知るのにもお勧め。本書が昨年の第20回科学出版賞を受賞したというのもうなずける。

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