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2004/05/24

金メダル遺伝子?

YOMIURI ON-LINE(5/24)の記事。金メダリストの“卵”発掘へ、一流選手の遺伝子分析

 国立スポーツ科学センター(東京・北区)が、一流スポーツ選手に共通する遺伝子の探索に乗り出す。才能豊かな金メダリストの卵の発掘に生かすのがねらい。文部科学省や日本オリンピック委員会(JOC)にも協力を求める。

 トップ選手の運動能力や筋肉量には、努力のほかに、生まれつき備わった「素質」が関係していると考えられている。この素質の実体を遺伝子レベルで明らかにしようという試みだ。プライバシー侵害や差別につながる懸念もあるため、倫理面での対応も検討しながら進める。

 計画の柱は、〈1〉運動能力とかかわりの深い遺伝子配列(遺伝子多型という)の発見〈2〉日本人金メダリストの遺伝子データベースの構築――の2つ。

 スポーツ選手の能力と関係ありそうな遺伝子多型は、血圧の調節に関係する酵素(ACE)の遺伝子など、世界で100種類以上見つかっている。各国で研究が進められているが、「確実に能力の高低に直結する」との結果が出た遺伝子はまだない。

 センターは、各国の研究を精査するとともに、日本人のトップ・アスリートに特有の遺伝子多型を絞り込む。特に重視しているのが、マラソン選手らの持久力を左右する配列。突き止められた場合、高地環境を再現できる低酸素ルームなどを使って検証する。 (後略)

タイトルを見て、てっきり金メダリストの「卵子」を集めた生殖医療のようなものを想像してしまったが、全然違う話だった。それにしても、金メダルを増やすことがそんなに重要なのか? 新素材のような最新科学技術は、スポーツ分野で最初に実現するけど、遺伝子医療分野も同じなのだろうか? 

国立スポーツ科学研究センターのホームページを見ると、この組織は「我が国のスポーツの国際競争力の向上を目的とした、スポーツ医・科学・情報の中枢機関です。」とあるから、うなずけなくもないが。(でもこの組織の活動そのものは、もっと普通のスポーツ医科学が中心のようだけど。) ここのサイトの中に運動能力と遺伝という記事が載っているが、トーンとしては抑制的で、今度の記事とは印象がやや異なる。

協和発酵の Go!Go! バイオワンダーランド にある、Dr.中原のなぜなに百科にも書かれているように、ハンマー投げの室伏親子とか、相撲の若貴一家、体操の塚原親子、野球の長嶋親子や野村親子、等々確かにスポーツで一流と言われる領域に到達する親子や兄弟が多く見られるのは事実だし、競走馬でも単純な運動能力と血筋はかなり大きな相関があるのかもしれないが、一方で育った環境の影響も相当に大きそうだし、金メダルということになると、答えは科学的な側面に絞ってみても、それほど単純ではなさそうだ。

冒頭の記事には、遺伝子分析を行って、データベースを作り、その先どうするのか? については「金メダルの卵の発掘に活かす」としか書かれていないが、具体的にどうするつもりなのかが一番重要だろう。公開しちゃったら、日本の金メダルを増やすという最終目的(?)には寄与しないから非公開なのかもしれないが、強化候補選手の選別などに使うのだろうか? まさか遺伝子ドーピングの研究をするとも思えないが、いずれにしろ、あまりハッピーな使用方法が思い浮かばないなあ。 見つかった遺伝子が、日本人にはほとんど存在しなくて、アフリカ系の人達に多いことがわかったりすると悲しいかも。

関連した記事としては、HOT WIRED JAPANにもオリンピック選手になるのも遺伝子次第?という記事や筋力回復の遺伝子治療、ドーピングに悪用される懸念なんて記事が載っている。

蛇足だが、遺伝子ドーピングには、スポーツ内科医の日記によれば、遺伝子導入とトランスジェニックの2種類あって、遺伝子導入の場合には効果は一過性らしい。知らなかった。

さて、この話題はどうしても倫理問題に行き着くのは必死だが、参考ページとして、難解ではあるが参考文献も豊富なので、大阪大学の霜田さんが整理してくれている 遺伝子をめぐる言説の社会的文脈 を紹介しておく。

読売新聞がこの記事をどういう意図で載せたのか不明だが、同じ読売のサイトの中に「よみうり 入試必勝講座」というのがあり、よみトク小論文講座 の解答例2に、

 遺伝子はたしかに個人の身体の設計図ではあるが、そこにすべてが書き込まれている訳ではない。環境要因は遺伝要因と同じく人間の形成を大きく左右する。過度に単純化された形で遺伝情報を意味づけ、遺伝子決定論的な考え方に陥ることを避けるには、専門家以外の人々も遺伝についての正確な知識、いわばリテラシーをもつための教育が必要となる。
とあるように、読売さん、せっかくこの話を記事にするなら、遺伝子リテラシー教育もよろしくお願いしますね。

*ここに出てくる映画「ガタカ」については、こちら

*スラッシュドット ジャパンでも金メダル遺伝子を追えという記事が載っている。さすがに、多様な意見が見られて健全かも。

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