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2004/05/09

鰹だしの疲労回復効果

日本化学会の雑誌「化学と工業」の最新(5月)号に、面白い記事が載っていた。「鰹だしの疲労回復効果」村上仁志(味の素) 化学と工業, Vol.57,(5),p522-524 (2004)

鰹は海中を時速30~100km/hといったハイスピードで長時間遊泳し続けることから、遊泳すなわち運動により蓄積した疲労を消失させる何らかの能力があると考えられている。この疲労回復能力には鰹の身に多く含まれるアンセリン、カルノシンといったジペプチドが関係していると考えられている。我々はこれらジペプチドのほかにアミノ酸などを多く含んだ鰹の抽出物(鰹だし)がアンセリン、カルノシンより強い疲労回復効果を持つことを明らかにした。
とある。カツオが長時間高速で泳げるから鰹だしで疲労回復ってのも、随分短絡的な発想に思えるが、中身は結構しっかりした研究みたいだ。

調べてみると、カツオのスタミナパワーの話は既に「業界」では半ば事実として宣伝に使われているようで、築地の乾物屋さん「伏高」さんのかつお節の健康パワーによると、例の「あるある大事典」で2003/3/20に紹介されたとして色んな効果が書かれている。最後に 2003/8/2 の日経新聞の記事が引用されているが、これも同じ味の素の研究成果だ。この記事では、アンセリンとカルノシンに疲労回復効果があることが証明された、と書かれている。(同じあるある大事典へのコメントでも、発掘?あるあるトンデモ大実験 はいつものように極めて批判的。)(NHKの「ためしてガッテン」でもかつおだしの疲労回復パワーが2003/6/25の放送で紹介されたようだ。)

味の素のニュースを探してみると、2003/5/7のニュースリリースでかつおだしに新しい疲労回復効果という発表がみつかった。先の日経の記事と同じ2003年5月の日本栄養食糧学会での発表内容らしいが、こちらは、アンセリン、カルノシンを単体で与えたグループよりも、かつおだしそのものを与えたグループの疲労回復効果が大きいことがわかった、となっており、何故か先の新聞記事と結論が異なっている。

それにしても、かつおのスタミナ物質(?)をマウスに経口投与することで、マウスのスタミナに効果を発揮するってのもすごい事だが、じゃあ人間でも一緒か? というと、今回の研究では動物のエネルギーの源、ATPの合成に鰹だし成分が効いていることが示されているので、人間にも効くと考えてもおかしくない。(もっとも、与えた鰹だしの量がどの程度なのかがよくわからないので、非現実的な話なのかもしれないが。)

冒頭の報告の最後に、著者は

古来より日本人が食してきた和食はみそ汁に代表されるように鰹だしを基本としているものが多い。そのだしに疲労回復効果があることは大変興味深い。エネルギーを必要とする朝や1日の疲れがたまる夜の食事に一杯のみそ汁を飲むことは日々の生活の活力を得る上で非常に重要なことかもしれない。
と書かれているが、だからといって鰹だしをあまりとらない欧米人と比べて日本人がスタミナ豊富ということでもなさそうだから、あまり当てにしない方が良さそうだ。 (他の食品にも同様の効果を示す物質が、多少なりとも含まれている可能性が高いということかな。)

研究テーマとしては面白いと思うし、科学的にも有益な知見が得られたと思うんだけど、成果が「業界」の思惑で一人歩きしちゃうのが悲しい。

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コメント

仮に鰹だしがATP合成増に寄与していたとしても、あくまでエネルギー増に貢献するだけであって、疲労回復(=エネルギー産生によって生まれた老廃物代謝)に効く訳ではないと思ったのですが、その辺は記事に書かれているのでしょうか?
疲労回復なら903を飲んだ方がよっぽど効くかもしれませんね

投稿: ある大学院生 | 2004/05/11 00:52

ある大学院生さん、コメントありがとうございます。

記載が中途半端で申し訳ありませんでした。実は、今回の化学と工業に載った結果は、http://www.ajinomoto.co.jp/press/2003_05_08_1.html">味の素のニュースリリースに載っている結果とほとんど一緒です。

実験は二つあり、ひとつはマウスに強制運動をさせて疲れさせた後に、鰹だしを投与したグループでは他に比べて活発に運動したこと。(これだけなら、単に興奮しただけかもしれない。)

もう一つは、運動後には肝臓中のATP/AMP比が顕著に減少するが、鰹だしを投与したマウスの場合には、他と比べてATP/AMP比の回復が早かったということです。

まあ鰹だしに何らかの疲労回復効果があるとしても、他の栄養成分(それこそ903とか)と比べて特異的かどうか、投与量は常識的な量なのか、というあたりが気になりますが。

投稿: tf2 | 2004/05/11 01:15

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