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2004/06/17

大都市は発がんリスクが高い?

YOMIURI ON-LINE(6/17)の記事。大気中の化学物質で発がん、大都市ほど高リスク

 大気中の化学物質による発がんリスクは、大阪府など大都市とその周辺ほど高く、最も低い鳥取県に比べると5倍以上も違うことが、国立環境研究所の松本理(みち)主任研究員らの調査でわかった。

 大気への排出量が多く、発がん性が確認されているベンゼンやホルムアルデヒドなど5物質について、大気中の濃度をもとに試算したもので、各都道府県別の総合的な発がんリスクは初めて。都内で23日開かれる同研究所の公開シンポジウムで発表する。

 リスクが高かったのは、〈1〉大阪府〈2〉栃木県〈3〉香川県〈4〉埼玉県〈4〉神奈川県、逆に低かったのは〈1〉鳥取県〈2〉石川県〈3〉富山県〈4〉島根県〈5〉宮崎県(ホルムアルデヒドの測定値がない秋田と山梨、長野、福井の4県を除く)の順。

 リスク自体は、空気を一生吸い続けた場合に10万人当たり、大阪府で9・2人、鳥取県で1・6人のがん発症が増えるとの試算で、たばこを毎日吸う場合の約1000分の1程度にとどまる。

 松本主任研究員は「2001年度と比べると、34都道府県で発がんリスクは下がっており、排ガス規制などの効果も出ている」と話している。

少し探してみたら、環境研究所の資料から、化学物質の複合曝露による発がんリスクの評価が見つかった。著者やその内容からすると、今回の読売新聞の記事と同じもののようだ。

この研究は、全国約400カ所の有害大気汚染物質モニタリング調査結果を元に、ジクロロメタン、ベンゼン、ホルムアルデヒド、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの5物質についての発がんリスクを計算したもの。特にベンゼンとホルムアルデヒドの寄与が大きいとのことだ。しかし、PRTRで排出量の上位を占めるトルエンとキシレンについては、発がん性が確認されていないため今回のリスク計算には含まれていない。(「環境リスクを計算する」(bk1amazon(p.208)によると、トルエンのリスク(損失余命 0.31日)はベンゼン(0.16日)よりも大きいとされているし、それよりもディーゼル粒子(14日)の方がはるかに影響が大きいのだが。)

大都市でリスクが大きいといっても、他のリスクと比べると大きなものではなさそうだが、この数値(10万人当たり1.6~9.2人)は、産総研の中西さん等が別の方法で推定しているベンゼンによるリスクが平均で1.5×10-5程度(「環境リスクを計算する」p.34)だから、ホルムアルデヒド他の物質の影響を考えると、やや数値が大きいようだが、まあ妥当なレベルだろう。(日本全体でのがんによる死亡率は 240人/10万人とのことなので、その数%が大気汚染起因ということになる。。)

この手のリスク計算においては、結局、それぞれの場所における各有害成分の大気濃度をどのように見積もるか、が重要なポイントだ。今回の環境研は、そのものずばり分析結果を用いたのに対し、産総研の中西さんらは、PRTRデータを基にして推定する方法を提案し、そのための大気濃度推算ソフト開発まで行ったりしている点が異なる。(分析値が得られるのは、所詮限られた物質・場所の数値だけとなる。でもPRTRデータから環境中の濃度を推定するのは非常にチャレンジングと言えるだろう。詳細は詳細リスク評価書解説等を参照。)

ところで、それじゃあ、実際に大都市で大気汚染起因と思われる発がんが多いのか? というと、4/29の記事でも紹介した、都道府県別の死因分析結果と比べて見ると、少なくとも死亡原因で見たときには、大都市でがんによる死亡が目立って多いというような傾向は見られないようだ。

なお、市町村別の死亡率データ等については、健康ネットの全国市町村別健康マップで見ることができる。

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