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2004/06/06

「全地球凍結」

NHKスペシャル 地球大進化の第2回(5/15放送)で全球凍結が放送された。最近、書店でスノーボールアースとか全地球凍結という本を目にしていたけど、一体いつの間に、そんな仮説がメインストリームに出てきたんだ? と半信半疑で眺めた。この放送では、迷子石と呼ばれる氷河の痕跡が、当時赤道直下だった場所から見つかったことを証拠に、当時地球は完全に凍結していたんだ、という話を展開させてくれた。確かに、NHKの番組らしくCGはとてもきれいだったけど、肝心のストーリーが何だか怪しかった印象あり。そこで、改めて本を買ってきて読んでみた。

集英社新書 0209G
 全地球凍結
 川上 紳一 著 bk1amazon

実は、本書のタイトルは「全地球凍結」となっているけど、本書の中では一貫して「全球凍結仮説」と表現されている。要するに、まだ、あくまでも「仮説」だよ、と強調している本なのである。

著者の川上さん自身が、理科教育メーリングリストでこのNHKの番組に関して発言してる。本書を読むとわかるけど、全球凍結仮説はとても魅力的で、かなりの確率で正しそうだけど、まだまだ様々な議論が巻き起こっている最中であり、NHKの番組のニュアンスとは大きく異なるのが実態のようである。

本書では、本当に全球凍結が起こったのか? を明らかにするために、様々な証拠をひとつひとつ丁寧に検証していく、正にその過程を研究者と一緒にたどることができる。同じ証拠を相手にしても、複数の対立する仮説が共に成立しうることを説明し、さらに他の証拠とも突き合わせながら、本当は何が起こっていたのかを解き明かしていくプロセスを楽しめる。

ただし、個々の証拠を検証する際には、それなりに専門的な内容(縞状炭酸塩、キャップカーボネート、古地磁気データ、等々)がポンポンと細かな説明なしに出てくるし、そもそも実際の地層を読み解く訓練をしたことがない我々普通の人々にとっては、正直言って全てを理解することは難しいけれど、現場の雰囲気が伝わってきていると感じさせられる。

欲を言えば、地層から化石が出てくる話だと素人でも何となく理解できる部分も多いけど、今回の話は岩石の様子や同位体比率のような地味なデータばかりなので、写真や図表をもっと充実させてくれると、より楽しめると同時に理解も深いものになったかもしれない。

いずれにしても、対立する仮説同士の議論が活発に行われたり、いくつかの仮説のぶつかり合いの中から新たな仮説が生まれたり、というように、科学が決して既成の固定概念のようなものではなく、常にダイナミックな動きの中にあるんだ、ということを垣間見せてくれる点でも本書は楽しめる。(そもそも謎がなければ研究対象にはならないし。)

もっとも、短気な読者の一人としては、「で、結局どうなのよ?」とついつい答えを要求してしまいたくなるのも本音だろう。本書では、様々な観点から多くの仮説の長所・短所を紹介してくれるのだが、できることならそれらを総合的に見て、著者が考える、現時点で最も確からしい全体像について語って欲しかった、というのは贅沢だろうか?

そして、全球凍結とカンブリアの生物の大爆発との間には何らかの関係がありそうだし(NHKの番組では相当に断定的に扱っていたけれど)、この時代は地球と生命について考える時に、やっぱりとても注目に値する時代だと再認識させられる。

ちなみに、著者の川上さんは岐阜大学教育学部の助教授。ここはインターネットを教育に活用することに熱心で、地学教室からのリンクでたどれる「Web教材」は、非常に充実した理科(教育)資料集となっていて素晴らしい。

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