時計遺伝子とDNAチップ
asahi.com(7/20)の記事。DNAチップで体内時刻の乱れ測定 山之内製薬研究所
遺伝子の働きぶりを調べるDNAチップを用いて、体内時計の時刻(体内時刻)や体内時計の乱れであるリズム障害を調べる方法を山之内製薬が開発した。将来、リズム障害の不眠症や時差ぼけ、リズム障害を伴ううつ病などの治療や予防に役立てたいという。近く米科学アカデミー紀要電子版で発表する。というもの。どんな仕組みになっているんだか、読んでもよくわからない。DNA配列が時刻に応じて変わるわけはないので、ここで調べるのは、「遺伝子の働きぶり」らしい。そんなものがDNAチップで測定できるのか?研究にあたったのは同社創薬研究本部分子医学研究所の上田泰己研究員(現理化学研究所)ら。
マウスの肝臓組織から体内時刻に関連する時刻表示遺伝子168個を特定し、新たに作ったDNAチップでその働きぶりをみて、体内時刻を測定した。正常なマウスは、実生活上の時刻とのずれが1~2時間以内の誤差でほぼ正確に測れた。このため、体内時刻のずれは、どの時刻表示遺伝子が働いているかを見れば、測定できるという。
これまで、体内時刻を測定するには2日間にわたって4時間おきに血中の神経伝達物質メラトニンを測定する必要があったが、この方法なら1度の測定で済む。
研究グループは、ヒトへの応用も可能だとしており、わずかな血液や口の中の粘膜などを採取すればいいという。上田さんは「遺伝子は60個程度選べば、ほぼ正確に体内時刻を測れる」と話している。
DNAチップは、数センチ四方のガラスなどの基板上に、調べたい遺伝子の鋳型のDNAを張り合わせて作る。
山之内製薬のサイトにこのニュースのリリースが早速掲載されている。さすがに新聞記事よりはやや詳しく
同発表によると、数万個の遺伝子の発現状態を一度に解析することができるDNAチップを用いて体内時刻やリズム障害を一回の測定で正確に診断する方法を開発した。まず、DNAチップを利用して体内時計をつかさどる器官等において昼夜リズムを刻んで周期的に変動する遺伝子(「時刻表示遺伝子」)を包括的に抽出。これらの時刻表示遺伝子の遺伝子発現状態から体内時刻やリズム障害を正確に診断する方法を発明し、その原理を動物実験によって実証した。と書かれている。周期的に変動する遺伝子というのも変な表現だが、論文要旨には
我々はこのような夢を達成するため、100個を超える「時刻表示遺伝子」からなる「分子時刻表」を作成し、これらの「時刻表示遺伝子」の一時点における遺伝子発現プロファイルから正確に体内時刻を診断する新しい方法「分子時刻法」を発明した。とある。5/23のブログで紹介した「時間の分子生物学」は、正にこれに関連した内容が書かれていたはず。ちょっと掘り起こしてみると、生物時計のメカニズムとしては、特定の遺伝子からmRNAが転写され、それにより特定のタンパク質が生成するが、このタンパク質が一定以上生成すると今度はmRNAへの転写を止めるフィードバックが掛かり、タンパク質の生成が止まり、タンパク質濃度が低くなると再びmRNAの転写が行われる、というサイクルにより、特定のタンパク質の量が周期的に増減する機構で説明されるようで、関連する遺伝子・タンパク質がいくつかみつかっているとのこと。
ということで、確かに、ある瞬間の時刻表示遺伝子の発現状態を調べ、それらのパターンを比較することで時刻を特定できそうだけど、その遺伝子の発現状態をDNAチップでどうやって調べるのだろう? と思って調べてみると、DNAチップにはDNA配列を解析する目的のものと、遺伝子の発現状況を調べる目的に使われるものの2種類があって、後者は、ここにあるように、DNAとmRNAの反応で遺伝子の発現状態を見るものらしい。従って、今回の場合には、サンプルがDNAチップ上のどのDNAと反応するかを調べることで、サンプル中にどのmRNAがあるかが判明し、それにより遺伝子の発現状態が明らかとなる、ということかな。
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