「核兵器のしくみ」
以前からネットで本書を高く評価する内容の話を何か所かで見ていたので、書店で見つけた時は迷わず購入、早速読んでみた。タイトルはマニアックな話を連想させなくもないが、難しい話は全然出てこないし、もちろん核兵器の具体的な作り方が書かれているわけがない。
講談社現代新書 1700
核兵器のしくみ
山田 克哉 著 bk1、amazon
帯には「原爆から原発までゼロからわかる決定版!」とあるが、「わかる」ということはどういうことか? にもよるが、さすがに言いすぎだと思うな。
さて、本書は講談社の現代新書であり、著者が同じ講談社のブルーバックスで「原子爆弾-その理論と歴史」(bk1、amazon)なんて本を出していることを気づかったのか、この本については、読者対象を、思いっきり初心者向けとしており、高校の物理や化学の知識を全く持たない人を前提として書かれているようだ。そういう対象を相手に、核分裂や核融合の原理や応用を説明しようと努力しているわけで、原子とは何か? から説き起こす記述にはとても苦労のあとが見える。
そんな超基礎的なところから説明しつつ、二百数十ページに収めるのだから、話がアバウトになってしまうのも仕方ないとは思うのだが、さすがに僕が読んでいても、とてもまわりくどかったり、不正確だったり、大雑把だったり、という記述が目立つのである。それと、どこがどう、と具体的に指摘できないのだが、何となく全体を通してみると、著者の科学技術に対するスタンスに対して違和感を覚えさせられる点もある。
確かに核兵器、原子力発電、核融合といった技術についての基礎知識を軽く解説してくれており、読者それぞれのレベルに応じて、それなりに役立つ内容だと思う。だけどあまりにも初心者向けにしてしまったためか、特に、定量的な話がスッポリと抜けていて、結局わかったようなわからないような話で終わっている点が気になる。
核兵器であれば破壊力、発電であればそのエネルギー、放射能に関してはその影響の大きさ、それぞれ全て定量的に議論しなければいけないものばかり。さすがに、これらを避けて通ってはいけないのではなかろうか? 何しろ、E=mc2さえも出てこないのだ。
特に放射線の影響についての定量的な記載が一切なかったのは、著者が意図していないとしても問題だと思うのだが。(例えば、半減期は○○年なので、こんなに長期間影響が残ります、のような記述。) 劣化ウラン弾についても、238Uがα崩壊するから核兵器だ、と断定しているけど、その前には 238Uの半減期は45億年だと書かれているわけで、一体どの程度α線が出るのだろう? それってどの程度人体に影響するんだろう? という疑問が当然出てくると思うし、放射線の量と人体への影響の関係の話はやっぱり欠かせないだろうに。
ところで、著者は現在はアメリカの大学教授をされているようで、実は、日本語の専門用語の部分にも若干問題がありそうだ。例えば、「使用済み核燃料からのプルトニウムの摘出」というような使い方で「摘出」という用語が何度も出てくるが、これはやっぱり「抽出」でしょう? また、元素「Xe」のことを「キセノン」ではなく「クセノン」と書いているのも目についてしまう。編集者がきちんとチェックして欲しいところだ。。
さて、本書を読んで「もっときちんと知りたいな」と思って、同じ著者のブルーバックス「原子爆弾-その理論と歴史」でも買ってみようか? と考えちゃうのは、完全に講談社と著者の思惑にはまってしまっているのかもしれない。。
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