多重即発ガンマ線分析
化学工業日報(8/20)の記事。原研、コメのカドミウム濃度の迅速な分析法開発
日本原子力研究所は、米に含まれるカドミウム濃度を多重即発ガンマ線により分析する手法を開発した。即発ガンマ線分析法は高感度で迅速な非破壊分析法として期待されているが、米に含まれるカドミウムを測定する際には、共存する水素が妨害元素となる。ただ、水素が即発ガンマ線を1本しか放出しないのに対し、カドミウムは2本以上を同時放出することから、即発ガンマ線分析に多重ガンマ線検出法を適用することで水素の影響を抑えた。「多重即発ガンマ線分析法」と言われても、全然ピンと来ない。原子力の平和利用ということで、調べてみた。原子力百科事典 ATOMICA で調べてみると、即発ガンマ線分析は放射化分析法の一つで、中性子放射化分析による宇宙物質の分析という項目の中に、
即発ガンマ線とは、原子核が中性子を捕獲したときに極短時間(10-14秒以内)に放出されるガンマ線で、その測定は試料に中性子を照射しながら行う必要がある。日本では日本原子力研究所のJRR-3Mを用いて実施することができる。分析には冷中性子と熱中性子を選ぶことが可能である。即発ガンマ線分析では物理的に完全なる非破壊のままで元素組成を求めることができる。また、試料を照射する位置における中性子束は原子炉内で行う通常の中性子照射の場合に比べて6桁程度低いために中性子照射によって誘起される放射能レベルが低く、適当時間冷却すれば自然放射能のレベルまで下がるので、試料の再利用が可能である。と説明されている。他にも、犯罪捜査における放射線利用では、例の Spring-8 による蛍光X線分析などと並んで説明されている。
日本原子力研究所のサイトで探すと、微量元素放射化分析というページで詳しく説明されている。即発ガンマ線分析を改良したのが、今回の多重ガンマ線分析法ということで、
多くの放射性核種は同時に複数のガンマ線(多重ガンマ線)を放出することが知られている。これらを多重ガンマ線検出装置の2台以上の検出器で同時に検出し、得られた2個のガンマ線エネルギー値を縦軸と横軸とする2次元マトリクス上に事象毎に加算すると、その上では同時計数するガンマ線のペアに相当するガンマ線ピークが現れる。この2次元ガンマ線ピークを解析することにより、従来の千倍である百万分の1の高分解能が得られ、数千の核種が同時に存在しても全て完全に分離できる。また、1次元スペクトルのバックグラウンドは2次元平面状では線上に局在するために、それを除いた大部分の領域では数カウント以下に押さえられ、微弱なピークの検出が可能になり、 1次元法に比べて1000倍の分解能が達成できる。と説明されている。うーむ、むずかしいな。このページのリンク先の微量元素の新たな高感度・高精度定量法を開発というニュースリリース(1999/12/16)にも説明がある。こちらの方がわかりやすいかな。
今回の米のカドミウム分析については、分析化学会の分析討論会要旨が読める。なるほど、こういうバックグランドを持ってから読むと、大体内容は理解できるな。
ということで、この分析法は原子炉に直結した装置で行うものなので、気軽に行えるようなものではなさそうだが、最先端分野や犯罪捜査などでは今後ちょくちょく耳にする方法となるかもしれない。
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