環境化学物質と心の病
MSN-Mainichi INTERACTIVE(8/25)の記事。環境ホルモン:脳発達に影響 産総研などが動物実験で確認
内分泌かく乱物質(環境ホルモン)などの環境化学物質の一部が、脳神経の発達に影響を与えることを動物実験で突き止めたと、産業技術総合研究所と国立環境研究所の研究グループが25日発表した。「環境化学物質の脳への直接影響が確かめられたのは初めて」だとしている。ということだが、いくつか気になる点がある。まず、Yahoo!ニュースで見た、脳に影響する化学物質特定 ラット使った新手法開発とは、タイトルからしてニュアンスが随分異なる。研究グループは、自発運動に重要な役割を果たす脳内のドーパミン神経の発達に注目。生まれたばかりのマウスの脳にさまざまな環境化学物質を直接注入し、正常なマウスとの違いを比較した。
プラスチックに多用されるフタル酸エステル類や樹脂類のビスフェノールAなどをそれぞれ少量注入されたマウスは、成長とともに行動に落ち着きがなくなり、人間の学童期に当たる4~5週目では正常なマウスに比べて1.5~1.6倍の多動性を示した。脳を調べたところ、ドーパミン神経の発達が阻害されていることが分かった。
ドーパミン神経の発達障害は注意欠陥多動性障害(ADHD)などの原因とする見方もあり、産総研の増尾好則研究員は「あくまで動物実験の段階だが、環境化学物質が脳内の神経発達を阻害し、ADHDなどに関与する可能性があることが分かった」としている。
産総研のプレスリリースを見ると、タイトルは「心の病を引き起こす環境化学物質を特定する新しい技術の確立」となっており、毎日の記事とはやっぱり印象が異なる。
このリリース、専門的でなかなか難しいが、やったことは、対象となる化学物質を生まれたばかりのラットの脳に直接注入し、ラットの活動を観察したということらしい。しかし、これで人間の子どもの「注意欠陥性多動性障害」と関連する結果が得られるものなのか? このページの用語解説によると、
広汎性発達障害(PDD):脳の発達障害の一つで、自閉症やその近縁の障害を含む。その特徴は、その場にふさわしくない多動性、衝動性、不注意、コミュニケーションの困難さなどである。言語の獲得も悪いケースが多い。特に幼児期~学童期に多動性障害を示し、成人してからも社会適応は難しい場合が多いといわれている。とあり、ラットの行動が変化したとしても、これらの障害との関連を読み取るのは無理がありそうに思うけど、どういう論理なんだろう?注意欠陥多動性障害(ADHD):広汎性発達障害に近縁の障害で、学習障害(LD)などを含む。通常、言語の獲得には異常がない場合が多いが、PDDにみられる行動異常を伴う。
そもそも、脳の内部に化学物質を注入すれば何らかの影響があっても不思議はないが、その時の脳の局所領域における化学物質の濃度は、果たして人間が通常の生活環境から同じ物質を摂取した場合の、脳の同じ領域における濃度とはどんな関係にあるのだろう? この実験では 0.2μgの注入で影響が見られたらしいが、脳内のこの量は経口摂取だと、どれだけの量の摂取に相当するのだろう?
まあ、そんなことがあるからか、産総研のリリースでも
当スクリーニング技術を用いた研究で環境化学物質に神経毒性が認められたからといって、短絡的にその化学物質をヒトの疾患の原因であるとはいえない。今後、環境化学物質の脳への移行性を含めた詳細な検討を行う必要がある。しかしながら、当技術は実験動物の行動異常を指標にしていることから、神経毒性を有する環境化学物質を見いだすための有効なスクリーニング技術として期待される。と控えめに書かれている訳で、毎日の記事にはウソは書いてないけど、ミスリードを誘う書き方だと思うな。
それにしても、同じ産総研の中西さんは環境ホルモン問題に対して非常に醒めた見方をしている一方で、こういうリリースが出るのは、産総研という組織の面白いところだ。(今回の研究を行ったのはヒューマンストレスシグナル研究センターで、大阪とつくばにあるらしい。)
ところで「環境化学物質」という用語も、良く聞くような、余り見かけないような気がする言葉だ。このリリースでは「環境中に存在する化学物質で、その多くは工業製品及びその製造過程に由来する。」と定義しているようだが、意味不明だぞ。 環境中? 化学物質? すべてじゃん?!
*この用語を調べていて気付いたけど、いつのまにか google.com と google.co.jp で若干違う検索結果が返ってくるようになったみたい、要注意。
*全く無関係なおまけ
Googleのロゴがアテネオリンピック期間中は毎日のように変わるので楽しんでいるけど、今日(8/26)のロゴは空手に見える。空手はオリンピック競技になってないみたいだけど。。
Google Holiday Logos
Google Athens 2004
*8/31 一部に不適切な表現や間違いがあることをメールで指摘していただきましたので、修正しました。
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コメント
長男が自閉坊ですンで
この種の記事には敏感です
http://wapapa.cocolog-nifty.com/wapapa/2004/08/post_41.html">http://wapapa.cocolog-nifty.com/wapapa/2004/08/post_41.html
投稿: 和パパ | 2004/08/27 16:01
和パパさん、コメントありがとうございます。
私のように結局は他人事という立場とは、また違った感じかたをされること、理解できるつもりです。最近は心の病についての研究も進んでいるようですし、周り人達の認識も随分と変わってきたように思います。
一方、科学的な議論はどんな立場の人とでも、ある程度冷静に行うことが可能なのが魅力だろうと思ってますので、こういうデリケートな領域についても、あくまでも論理的に向き合っていこうと考えてます。
この記事について言えば、残念ながら、治療に直接結びつくものかどうかよくわかりませんが、真相の理解に到達するまででも、まだまだ先が長いと思いますよ。
お子様が良くなられますように。
投稿: tf2 | 2004/08/27 20:12