世界最小のタンパク質
Yahoo!ニュース(8/10)の記事。世界最小のたんぱく質合成=生命起源解明や薬品開発に期待-産総研
アミノ酸10個で構成される世界最小のたんぱく質の合成に成功したと、産業技術総合研究所の本田真也主任研究員らが10日付の米科学誌ストラクチャーに発表した。自然に存在するたんぱく質はアミノ酸50個以上で構成されており、たんぱく質の概念を変える成果。さて、世界最小のタンパク質とはどういうことだろう? アミノ酸が2分子縮合したジペプチドはタンパク質とは呼ばないみたいだし、タンパク質と呼ばれるためには、単にアミノ酸が多数縮合している以外に何か条件があるのかな?
地球に生命が誕生し、さまざまなたんぱく質ができた際に、基礎となったたんぱく質に近いと考えられ、生命の起源の解明のほか、医薬品開発に役立つと期待される。
産総研のリリースを読むと、
タンパク質とペプチドは化学的には同種の物質で、その鎖長(分子量)の長短のみで区別される。両者を区別する厳密な定義は存在しないが、自然界のタンパク質のアミノ酸数は概ね50~1500の範囲であることから、一般的にはアミノ酸数50以上のものをタンパク質と呼ぶことが多い。以下に説明する立体構造と協同性は、タンパク質の機能に欠くことのできない属性であることから、これらの性質の有無をペプチドとの区別に用いる場合もある。とあり、立体構造と協同性がポイントと説明されている。タンパク質全体の基礎知識については Wikipedia を参照。タンパク質の立体構造については、生物学のお部屋の絵がわかりやすい。一方、協同性については産総研のページにある以下の説明がわかりやすそうだ。
タンパク質が機能するには固有の立体構造が不可欠であるが、立体構造が可逆的に変性/再生する能力を持っていることもきわめて重要である。例えば、分泌タンパク質の膜透過や輸送、過剰発現タンパク質や中古タンパク質の分解管理は、タンパク質が変性/再生能力を有するからこそ効果的に進めることができている。大部分のタンパク質の変性/再生は、分子全体が同期して構造が変化する。この変化を協同的な構造転移と呼び、この性質を協同性という。その結果、1つのタンパク質分子は完全に変性した状態と完全に再生した状態のどちらか一方になる。このことから二状態性とも呼ばれる。結局、今回の研究では予めコンピュータシミュレーションで予想したアミノ酸配列を実際に合成することに成功し、これが立体構造と協同性を持つことが確かめられたということらしい。この「シニョリン(chignolin)」と命名されたタンパク質?は、アミノ酸の数が 10個、分子量は約 1000ということで、自然界のタンパク質がアミノ酸 50~1500個、分子量 5000~150000であるのと比べると圧倒的に小さいということになるようだ。
この研究が何の役に立つのか? というと、現在の種々のタンパク質がどのように自然界で生成してきたのか?という化学進化の問題と共に、狙ったタンパク質を人工合成する技術の医療等への応用が期待されるようだ。今回のニュースはあまり大きく扱われていないけど、思惑通りにタンパク質を合成できたという点で、もしかしたら結構すごい技術かもしれない。
なお、シニョリン(chignolin)という名前の由来だが、シニョン(chignon)から来ているのだろうか?(髪型用語集)
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