美浜原発事故の社説比較
8/9 の美浜原発事故については、関西電力の発表は現時点では8/10 8:00現在が最も詳しいようだが、それにしても、もう少し一般向けのわかりやすい発表はできないものかな?
当事者がきちんとした情報発信をしない限りは、我々はマスコミを始めとする各種メディアが流し続ける、推測も含めた様々な情報から真実を読み取るしかない。今までの原子力を巡る各種の不祥事や、三菱自動車を始めとする企業不祥事の顛末を見れば、積極的な情報公開が如何に重要となっているかわかりそうなものだが。
まあ、それはともかくとして、この事故についての全国紙の社説を読み比べてみて、各紙の科学技術や原子力についてのスタンスを知る機会としてみたいと思う。
朝日新聞(8/10)。 つまみ食い的になるけど、特徴的な記述を列挙すると
日本の原発では、史上最悪の事故となった。ということで、原発のみならず火力発電所にも共通する弱点かと捉えており、更に今後の原因究明が重要と言いながら、一方では老朽化によるトラブルが「いっそう」増えるのが心配というロジック。今回の事故の位置付けだが、確かに死者数は最悪だが、原発事故の重大性という視点で見たら、(朝日得意の)放射能漏れ事故の方が重大ではないのか?
日本の原子力関係者は「原発そのものでは大事故は起きない」といっていたが、その信頼も崩れた。これからの原子力の開発にも大きな影響を与えるだろう。
関電によれば、直径56センチの配管に穴があいているのが発見されたが、その原因は分かっていない。関電や原子力安全・保安院は原因究明を徹底して、再発防止に全力をあげなければならない。
高温高圧の蒸気がタービンを回して発電するタービン建屋の構造は、一般の火力発電所と同じである。原発事故といえば放射能に注目しがちだが、他の炉型や火力発電所にも共通する技術的な弱点があるとすれば、根は深い。
日本では、原発の新設はほとんどできない時代になっている。原発の老朽化はますます進み、配管の腐食や弁の不調、炉心内の機器のトラブルなどがいっそう増えることが心配だ。
死者を出した事故はきわめて重い。日本はエネルギー政策の中心に原子力を据えているが、すべては安全な運転があってのことである。
原発が稼働中である以上、高温蒸気の配管があるタービン建屋に危険があることは十分、認識されていたはずだ。作業員が入る際の安全対策は万全だったのか。と、二次系配管の事故でも炉心溶融につながる事故だ、と大きく捉え、原子力政策全体への影響まで言及。各紙の中で最も重大視しているようだ。火力発電にも共通の施設だ、という話と他のすべての原発施設の点検が必要という話のつながりはよくわからないが。それにしても、高圧配管のある建屋に作業員が入る際の安全対策が万全かという認識には、唖然としてしまう。 (この建屋は一般見学コースになっているらしいので、せいぜい軍手とヘルメット着用程度で誰もが入室してたんだろうし、どこの工場でもそうだろうに。。)
美浜原発2号機では91年に蒸気発生器の細管が破断し、放射能に汚染された1次冷却水が漏れる事故が起きている。01年には中部電力浜岡原発1号機で水素爆発による配管破断事故が起きている。
系統は異なるが、配管は原発施設の弱点のひとつであるとの認識は、関係者の間で共有されていたのではないのか。
2次系配管の損傷による水や蒸気の漏れが、1次系に影響を与える場合があることも否定できない。最悪の場合は炉心溶融につながりうる事故として、甘くみてはならない。
発電用のタービンは原発だけでなく火力などにも共通の施設だ。今回の事故が原発施設に特有のものかどうかの調査も、原因究明に欠かせない。原因次第では、他のすべての原発施設の点検が必要になってくる。
この事故は原因によっては、今後の日本の原子力政策の行方を左右しかねない。それを十分に認識し、関電はもちろん、国も一体となって徹底した検証で再発防止策を立てなくてはならない。
運転中の原発で複数の死者が出た事故は、わが国で初めてだ。と、老朽化には触れず、危険性をあおり立てたり、過剰反応してはいけない、と毎日とは逆に自制を求めているのが特徴か。
しかし、美浜原発では一九九一年に、2号機の一次系で伝熱細管の破断事故を起こしている。冷却系の保守管理が一次系、二次系ともに極めて重要、という教訓は生かされていたのか。
ただ、事故が起きた二次系の復水配管は火力発電所にも類似の装置があり、原発特有のものではない。加圧水型は関電のほか北海道、四国、九州の各電力と日本原電で稼働している。
今回の事故をもって、原発の危険性をあおり立てたり、過剰反応して他の原発の操業に支障が出るようなことがあってはならない。
熱源が違うということで今回の美浜原発の事故も、結果は最悪だが原発事故というよりも一般の労災事故と同じといえる。と、こちらも相当に抑制的で、原発事故というよりも普通の労災事故だとまで書いているのは、相当に勇気がある記載だ。「世論をサイクル反対に導こうとする学者」というのには笑ってしまったが誰のこと?
しかし、使用済み核燃料を再処理して使う核燃料サイクルの論議が盛んな微妙な時期の事故だけに、この事故を利用して世論をサイクル反対に導こうとする学者がいないとも限らない。関電は二次系とはいえ配管から蒸気が漏れた原因を徹底究明しなくてはならないのはいうまでもない。
これらはいずれも事故翌日の朝刊に載ったもので、情報も必ずしも十分でない状況で書かれたものだが、逆にそのために各社の視点が大きく異なっており面白い。(今なら各紙共に、安全管理体制の不備を指摘せざるを得ない点で似た論調になりかねない。)
ところで、4人もの方が亡くなったこの事故が非常に不幸な事故で二度とあってはならないのはもちろんだが、それでも、この事故を放射能漏れがなかった点である意味で幸運だったと考えるのか、それとも単なる蒸気漏れがたまたま多くの人を直撃した点で非常に不運だったと考えるのかで、捉え方が大きく異なってくると思う。
個人的には、完璧を求めても無理だ(リスクはゼロにならない)と考えているので、起こった時に大きな被害(ハザード)が予想されるイベントに対する対策を優先すべきであり、今回の二次冷却水配管に対する優先度が低かったとしても、ある意味で理解できる点もあると思っている。(では重要な部分には十分な配慮がなされているのか? というと必ずしもそうは信じられないのが大問題なのだが。。)
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コメント
もともと発電所の事故というのは、営業利益と保守費用との兼ね合いで、なかなか減らすことができないものです。
特に原発の事故は、設備投資が大きく運転コストが高いので、稼働率を上げて保守費用を抑えたいという経営的な意図が、運転に反映されやすいでしょう。
巨大なエネルギーを生み出す施設に労災事故はつきものですが、設備を知悉しているはずの電力会社の社員ではなく、教育義務の無い社外協力会社に保守作業を任せてしまう体質にも問題があります。運転事故に対する経営責任が曖昧になってしまうからです。
故障物理的な研究だけでなく、経営工学的な研究も進めないと、こういう巨大科学的な設備は運用していくことが難しいかもしれません。
投稿: エコエコどんべい | 2004/08/25 09:46
エコエコどんべいさん、コメントありがとうございます。
>故障物理的な研究だけでなく、経営工学的な研究も進めないと、こういう巨大科学的な設備は運用していくことが難しいかもしれません。
この事故も、後から出てくる色んな背景や事情を見ていると、防ぐことができた事故だったようですね。ご指摘の通り、安全工学の分野を極めても、マネジメントの部分がダメダメでは、どうしようもないですね。今回の事故は正に、技術的な面ではなく、管理面の問題点が原因ですね。(安全管理の分野についても、種々の理論的な研究がなされていそうなのですが。)
ただ、私は、以前化学工場で働いてましたから、こういう事故については、一般の人とはどうしても違う立場で見てしまうのかもしれませんが、
> もともと発電所の事故というのは、営業利益と保守費用との兼ね合いで、なかなか減らすことができないものです。
については、そう言ってしまったら身も蓋もないというか、どんな企業でも、事故をゼロにはできなくとも、実質的に許容されるレベルまで減らすことを目標に、種々の対策を打っている筈で、事故の発生率だけで見ると、原発などはかなりいい線行っていると思います。
今回の点検洩れにしても、お金の問題が根底にあるのか?というと、(体験的には)もっとヒューマンエラー系の問題に思えます。
>教育義務の無い社外協力会社に保守作業を任せてしまう体質にも問題があります。
については、どうでしょう? 私のいた化学会社でも、現場の保守作業は別の会社(協力会社等)に委託しますが、少なくとも形式的にはきちんと教育してから入場させていましたし、今回のような事故では当然責任を押し付けることもできません。
経済効率を考えると、年に1度の(?)保守作業のためだけの社員なんてのを多量に抱えることは難しいでしょう。別に正社員でなくても、やろうと思えば、安全に作業することは十分に可能だと思いますし、現場はそのようにやろうとしていると思います。(原発の現場を知らないので、実は想像を絶するようなものであれば話は別ですが。。)
投稿: tf2 | 2004/08/25 20:09