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2004/08/16

「化学兵器犯罪」

別に8/15にちなんで、過去の戦争について考えてみようというわけではないが、今でも中国や日本のあちこちで旧日本軍が廃棄した化学兵器による被害が起こっているように、戦後処理は完全には終わっていないと言えるわけで、化学兵器とは具体的にどんなものだったのかを知っておくのも悪くない、ということで読んでみた。

講談社新書 1698
 化学兵器犯罪
 常石 敬一 著 bk1amazon

本書は、もちろん化学兵器の作り方や使い方を説明したものではなく、過去にどんなものがどのように使われたのか、そしてその後処理をどう進めようとしているのか、ということについて、歴史的な流れをたどりながら説明したものである。

著者は、サリン事件やイラク戦争などで時々TV番組に出てくる、あの人だ。何となく「化学者」という雰囲気の人だけど、専門は科学史らしい。ということで、本書も化学兵器の歴史をひもとくことによって、当時の状況を理解するところから考えてみようという趣旨であり、なかなか勉強になる。

そもそもの化学兵器は、第1次世界大戦時にドイツが積極的に開発を進めたということで、その中心にいたのが、あのハーバー(アンモニア合成で有名な)を始め、後にノーベル化学賞を受賞した、そうそうたるメンバー達や著名な化学企業だったことに驚かされる。核兵器の開発に貢献した科学者もすごいメンバーだったが、この時代の科学が戦争と密接に結びついていたことを改めて考えさせられる。

本書を読み進めてみると、日本軍の化学兵器の実力は、実戦の場で決定的な威力を持つようなものではなかったようで、その兵器としての威力に対し、極めて使いにくかったり、廃棄後に後々まで被害や汚染を与え続けてしまうという点で、ジュネーブ協定違反の兵器であることをはずして考えても、所詮割に合わない物という評価ができそうに思う。

化学に関連する仕事をしてきた身としては、読んでいて何とも言えない重苦しい気分にさせられる話が続く。それは、化学の進歩がネガティブなものに使われた、ということと同時に、科学者がその開発を、必ずしも上から強制されて嫌々進めたのではなく、強力な化学兵器を作ることに特に疑問を持っていなかったらしい点にある。

化学兵器というのは、開発側の論理からすると、超強力な殺虫剤みたいなものだと言えなくも無いし、随分やっかいな兵器だと思っていたのだけど、実際の戦場で使おうとすると、もっと色々と考えるべきファクターが多くて、とても使えるものではない、というのが実情だったようだ。

それじゃあ、理想的な兵器というのはどんな条件を満たすものかを考えてみると、そもそも人道的な兵器なんかあるのか? という点で良くわからなくなるけれど。。

それはともかく、本書のもう一つの重要なポイントは、日本が製造した化学兵器の多くの行方が不明となっていることだ。終戦時に中国や日本で中途半端に埋設や遺棄したようだが、相当数がその場所も量も不明となっているようで、人知れずどこかに眠っている可能性が高い。当然、記録にも残っていないし、知っている人も徐々に少なくなっていく。化学物質が時と共に自然に無害化してしまうものであれば良いのだが、どうやらそうでもないようだし。。

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受信: 2006/10/31 15:59

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