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2004/08/24

PPARデルタとマラソンマウス

YOMIURI ON-LINE(8/24)の記事。疲れない、太らない…遺伝子操作で「マラソンマウス」

遺伝子操作によって、長時間走り続けることができ、食べても太らないという究極の「マラソンマウス」を作ることに、米ソーク研究所や韓国のソウル国立大などのチームが成功した。

 この遺伝子の仕組みを応用すれば、スポーツ訓練やダイエット用の効果的な薬が期待できる一方、将来は遺伝子工学で強力なスポーツ選手を作り出す「遺伝子ドーピング」に悪用される恐れもあるという。米科学公共図書館のオンライン専門誌に発表された。

 研究チームは、マウスの実験で「遅筋」という筋肉を増やし、新陳代謝を大幅に高めるPPARデルタ遺伝子を操作。通常よりこの遺伝子の働きが強いマウスを作り出した。遅筋は持久力にかかわる筋肉で、トレーニングを積んだマラソン選手の筋肉の9割は遅筋。

 このマウスを電気で刺激しながら走行器具上を走らせ、疲れ果てて走るのをやめるまでの時間を測定したところ、マラソンマウスの走行時間は、通常マウスの約1・7倍の約2時間半に伸びた。走行距離もほぼ2倍の約1・8キロに達した。しかも脂肪燃焼に効果的な遅筋が発達したおかげで、どんなに食べても太らない体になったという。

 ソーク研究所のロナルド・エバンズ博士は「糖尿病や肥満などの治療にも役立つ」としている。

これはなかなか画期的な研究成果のような気がするのだが。あちらのニュースを探してみると、オリンピックやドーピングとの関連でタイミングが良いのか、随分沢山の関連ニュースが見つかった。代表して、Reuters を読んでみた。読売の記事よりも詳細な内容が書かれているようだ。面白かった点としては、遺伝子操作したマウスの話とは別に、同じPPARデルタ遺伝子に働きかける人間用の薬を開発中ということ。
While Evans and colleagues used genetic manipulation, they said using a pill to create a similar effect is already possible.

They gave normal mice an experimental drug called GW501516 that also activates PPAR-delta. The drug is being developed by GlaxoSmithKline to treat people with fat metabolism disorders.

Normal mice given the drug could eat a high-fat diet without gaining weight, Evans said.

Evans said he is a consultant to Ligand Pharmaceuticals, which developed the drug and licensed it to Glaxo.

ということで、マウスに薬を与えると、脂肪の多い食事を与えても太らなかったとのこと。この薬は相当に需要がありそうだし、この研究も、しっかりと大手製薬会社と組んで行われたものらしい。

大元の論文を探したら、PLos(Public Library of Science) のサイトで Synopsis と、このページのリンクからフルペーパーも読める。このSynopsisは特に前半は素人向けで比較的わかりやすい感じだ(英語だけど)。遺伝子操作したマラソンマウスの成績については、読売新聞の記事にも書かれているが、

But what about performance? Remarkably, the marathon mice ran about an hour longer than controls, showing dramatic improvement in both running time and distance increases of 67% and 92%, respectively.
とあり、走る時間が67%、距離が92%増加したということは、速度も15%増加したということか? これは確かにすごい成果だ。これが遺伝子操作ではなく、薬で可能となるのであれば、試してみたくなる人が出てくるだろうなあ。

しかし、この効果って筋肉細胞の代謝を直接操作しているわけで、沢山食べても太らないのかもしれないけど、基礎代謝が増えるということだろうから、何にもしてなくても沢山食べないとどんどん痩せてしまうんじゃなかろうか??

調べてみると、この PPARデルタの効果については、類似の実験が東大でも行われているようで、昨年末のニュースになっている。(やくねっと) ということで、今後ともこの周辺の研究には要注目だろう。

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一流のスポーツ選手にとって、容易に検出される通常のステロイドやアンフェタミンは、 [続きを読む]

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