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2004/09/17

低硫黄軽油とPM

YOMIURI ON-LINE(9/17)の記事。「超低硫黄軽油」を全国発売、大気汚染改善に期待

 ディーゼル車規制を進めている東京都の要請を受け、大手石油精製、元売り会社が加盟する石油連盟は17日、来年1月から、「超低硫黄軽油」(硫黄分10ppm以下)の供給を全国で始めることを決めた。

 軽油に含まれる硫黄分を、現在流通している軽油(50ppm以下)の5分の1に抑えることになり、都は、全国レベルで、大気汚染の大幅な改善効果が見込めるとしている。

 ディーゼル車の燃料となる軽油がエンジン内で燃焼すると、硫黄分が粒子状物質(PM)になり、黒煙として排出される。PMは、大気汚染の主要な原因物質で、ぜんそくや花粉症にも悪影響を与えるとされる。

 現行の国の規制では、軽油の硫黄分は500ppm以下。同連盟は都の要請を受け、昨年4月から50ppm以下に引き下げた。連盟の試算では、この削減により、PM値は約10分の1に減り、光化学スモッグの原因となる窒素酸化物(N(Ox))も半分以下になった。

 今回の10ppmは、現時点の技術水準では限界値といい、都では「PM値がさらに5分の1に減ることも期待できる」としている。

 国は、2007年1月から規制値を10ppm以下にする方針を打ち出しており、今回の決定で、2年前倒しされることになる。

東京都のディーゼル車規制は非常に気合が入っていて、やや過激すぎるきらいもあるのだが、確かに着実な成果を手にしていることを認めざるを得ない。

しかし、この記事は何だかおかしくないか? NOxを何故かN(Ox)と書いているのはともかく、「硫黄分が粒子状物質(PM)になり」というのは、本当だろうか? しかも、硫黄の削減量に比例してPMが減るかのようだが、そんなに減るものだろうか?同じニュースを扱った、NIKKEI NETの 超低硫黄のガソリン・軽油を都内で先行販売へでは、

 低公害型ガソリンは硫黄量を極限まで抑えることで、排ガス中の炭化水素を最大約15%、窒素酸化物を約25%削減できるほか、軽油を使うディーゼル車では粒子状物質を20%程度削減できるという。
となっており、PM削減量が全然違うのはどうしてだろう?

東京都の発表資料には、硫黄分の推移の国際比較グラフがあって、わかりやすいが、PMについては全く触れられていない。東京都のサイトで調べると、ディーゼル規制関係の資料が沢山置いてある。例えば、低硫黄軽油は全国の一般スタンドでご利用いただけます!!には、

大気汚染の原因となる粒子状物質(PM)の量が5~10%減るとされています。
とある。また、低硫黄軽油の早期供給への歩みには、
 低硫黄軽油の使用は、硫黄の含有量が減った分だけ排ガス中の硫黄酸化物が削減されることのほか、それだけでも若干のPM(粒子状物質)低減に効果があると言われており、大気環境対策として意義あるものです。

 しかし、低硫黄軽油を早期に普及させる最大の目的は、より厳しいディーゼル車の排出ガス規制をクリアすることが可能な排出ガス低減装置の使用が、燃料に用いる軽油の硫黄分を少なくすること(現在500ppmを50ppm以下)で可能となるためです。

とあるし、一方の当事者、石油連盟の説明でも、
これらのPM減少装置は軽油中の硫黄分が高いと目詰まりを起こし熔損してしまうなどの問題があり、このシステムを円滑に機能させるためには低硫黄軽油(50ppm)が必要となります。
などとある。やはり硫黄を 50ppmまで減らすことで、硫黄が障害となって使えなかったPM減少装置が使えるようになり、結果として放出されるPMが減るというストーリーのようだ。従って、低硫黄軽油の導入とPM減少装置の採用とを合わせることで、PMの大幅削減につながるということで、東京都のディーゼル車規制は的を射ているわけだ。

実際に低硫黄軽油を導入して、PMがどれだけ減ったのか? については、平成15年度大気汚染状況の測定結果についてによると、確かに大幅に改善されている。もちろん、これはディーゼル車規制と低硫黄軽油の効果の合わせ技だが、それでも PMが1/10、NOxが1/2以下、とはなっていないようだ。。

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asahi.com(9/30)に関連ニュース。http://www.asahi.com/national/update/0930/019.html">都内の沿道の浮遊粒子14%減 ディーゼル車規制効果か

 10月で1年になる東京都のディーゼル車規制で、都内の沿道の空気中に含まれる浮遊粒子状物質(SPM)の平均濃度が、規制開始前の1年間に比べ、開始後は約14%低減していたことが、都の測定結果からわかった。都は「規制の効果が表れた」としている。

 都は道路沿いに設けた自動車排ガス測定局35カ所前後で常時、SPM濃度を測定している。SPMは、都がディーゼル車規制で排出基準を定めた粒子状物質(PM)のうち、粒が小さく大気中に浮遊するもので、すすを含み呼吸器疾患などを引き起こすとされる。

 速報値を含めた全測定局の集計結果によると、規制開始前の02年10月から1年間のSPM平均濃度は、大気1立方メートルあたり0.042ミリグラム。開始後の03年10月~04年9月(9月は28日まで)は0.036ミリグラムで、14.3%減少した。

 月別で前年同月より濃度が高かったのは03年11月の0.048ミリグラム(前年同月0.041ミリグラム)だけで、年間を通じて減っていた。

 SPMは雨で流されたり、風で飛ばされたりするため測定値がぶれやすく、短期間での評価は難しい。しかし、都環境局は「年単位のデータ比較で低減傾向が出ており、ディーゼル車規制の効果が表れたと言える」としている。

 東京都と同時に03年10月から規制を始めた千葉県では、03年度下半期(03年10月~04年3月)は0.032ミリグラムで、02年度下半期に比べて11%減。同様に規制に取り組む埼玉県では同期比で9%減、神奈川県も低減傾向が出たという。

ということで、「PMが1/10に減る」ってのは大嘘で、実際には十数%というところのようだ。

投稿: tf2 | 2004/10/01 20:10

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