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2004/09/15

金超微粒子の磁性

asahi.com(9/15)の記事。金の超微粒子、磁石にくっつく 北陸先端大など確認

 金(きん)は100万分の数ミリ程度の超微粒子にすると、磁石にくっつく――。こんな新たな性質を、北陸先端科学技術大学院大学と高輝度光科学研究センターのチームが確認した。「将来的には、超小型で超大容量の磁気記録ディスクなどへの応用も期待できる」という。米物理誌フィジカル・レビュー・レターズ10日号で発表した。

 同大の山本良之助手らは、塩化金酸などを超純水に入れて反応させ、直径2~3ナノメートル(ナノは10億分の1)の金微粒子(金原子で約220個)を作った。大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県)で、これに放射光X線をあてて磁性を持つか調べた。温度を零下約270度まで下げると、微粒子が強い磁性を帯び、そろって磁場の方向を向いた。

 これまでも、金微粒子が磁性を持つ可能性は指摘されていたが、従来の研究設備では磁性を帯びた不純物に邪魔され、金微粒子そのものの性質ははっきりしなかった。

 金微粒子は常温では磁性を持たないが、鉄などの磁性金属を金微粒子で包めば、常温でも応用できると期待される。鉄などに金や白金など貴金属元素を組み合わせると、記録容量も飛躍的に高まるという。

直径2~3ナノメートルとは、正真正銘のナノテクノロジーだが、更に -270℃まで冷却し、その上 Spring-8 の強力X線を当てたという話だから、何というか、超の3乗みたいな特殊な条件の合わせ技の技術だ。金が磁性を持つかどうかぐらい、とっくの昔に解明されていそうなものだが、こんな特殊条件下ではいろんなことが起こるものだ。

スプリング8のリリースが金ナノ微粒子の強磁性を世界で初めて確認で読める。金微粒子の磁気的性質については、理論的に予測されていたわけではなさそうだ。まだまだナノの世界は奥が深そうだ。朝日新聞の記事では、塩化金酸と超純水で金の超微粒子を作成したように読めるが、どうやら有機高分子で金粒子表面を被覆して安定化させているようだ。

でも、これが将来の磁気記録への応用につながるか? と言われると、何だか実用化のためにはハードルが高すぎるんじゃないかと思うのだが。。むしろ、怪しげな健康グッズに使われて「ナノテクゴールド磁石採用!」なんてことになったりして。

おまけ: 微粉が磁石に付くという話で思い出したトリビア。意外と皆さん知らないけれど、本来磁石にくっつかないはずのステンレスも粉にすると磁石につくという話。

ステンレスのページに書かれてように、いわゆるステンレスとして最もポピュラーな 18-8ステンレス(18%Ni-8%Cr、工業的には SUS304と呼ばれる)はオーステナイト系の結晶構造を持ち磁石に付かない。しかし、このステンレスに粉砕等の機械加工をすると、その加工の力で結晶構造がマルテンサイト系に変わってしまい、磁石に付くようになるのだ。 (ナノ粒子の世界の話ではなく、ミリメートルサイズでも普通に起こる。)

以前、化学プラントで金属粉末が製品に混入し、これを磁石に近づけてみると良くくっ付いたのだが、鉄だとするとどこから混入したのかわからず、発生源をあちこち探したことがある。色々と調べてみたら、SUS304が摩耗してできる微粒子が磁石にくっつくことがわかり、原因が判明した。実際に、磁石につかない SUS304の板をやすりで削ってみると、できた粉末は磁石に良くつくことが確認できたのだった。 (逆に言うと、ステンレスの摩耗粉末を除去したい時には、磁石が使えるということでもある。)

磁石につくようになった粉末は、適当な条件で熱処理すると再度オーステナイトに戻るので、磁石につかなくなる。だから、ステンレス微粉末だからといって磁石に付くとは限らないので念のため。

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