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2004/10/29

「あぶない脳」

最近は脳科学関係の本が目立つような気がする。著者の澤口さんの名前も時々目にするので、手軽に読めそうな本書を読んでみることにした。

ちくま新書 497
 あぶない脳
 澤口 俊之 著 bk1amazon

帯には大きく 「取扱注意!」 と書かれているけど、注意が必要な本であることは確かのようだ。以前、やはり若手の脳科学研究者である池谷裕二さんの「記憶力を強くする」(ブルーバックス、bk1amazon)を読んで、脳科学分野(主として記憶についてだが)の面白さに感動し、興味も深まったのだが、本書はそれとは随分と趣きが異なる。

読みながらずっと感じていたのは、話の進め方が竹内久美子の遺伝子ものに似ているな、ということだった。本書のストーリーのベースとなっている脳の話とか人間や動物での実験については確かな事実だと思われるのだが、そこから結論を導く過程にかなり強引で大きな飛躍が含まれているのだ。本人自ら

あまりに自分流の研究や言動が多いので、世に誤解の種をまくことも少なくない。一見トンデモないもの言いや自説を出すのも得意だ。そのせいもあって、インターネットなどを見ると、私への悪口がたくさん流れている。(p.42)
と書いているところを見ると、自覚はあるようだけど。 一部の事実から全部がそうであるかのように結論付けたり、単なる相関関係が因果関係にすり代わったりという点もあるようだ。さらに、どこまでが事実でどこからが仮説・自説なのかの線引きがあいまいだったり、自説を述べる時も断定調の文体なのも問題だろう。

著者は、教育、凶悪犯罪、児童虐待、少子化などの様々な現代の社会問題に大きな危惧を抱いていて、それに対して自分の専門の脳科学の知見を活かして、何か有用な提言をしたいというのが本書のテーマらしい。 これらの問題に対する著者の主張そのものが既に「あぶない」気がするのだが、それはともかくとして、その主張を展開するための論理として、著者自身がこれは科学論文ではないからということで、意識して強引な進め方をしているように見えなくもない。たとえば、

最近、PQ(前頭連合野が担う知能)が未熟な人たちが増えている。電車内で平然と化粧するような恥知らずな若者に始まって、ストーカーや身勝手な不倫、さらには公務員や政治家による汚職や犯罪、大企業の不祥事とその隠蔽……。「幼稚」と断ずるしかない人々が目立ってきているのだ。いわば「PQ未熟症候群」である。

そして、児童虐待をする親のPQも、要は未熟なのだ。(中略)そして、PQはセロトニンを始めとした、性格や感情・意欲に関係した脳内ホルモンに支えられている。PQがうまくはたらけば、子どもに愛情をもって接し、未来志向的にきちんと育てるはずなのである。(中略)かくして、児童虐待は準遺伝し世代を超えて脳を壊すのである。壊れた脳は、児童虐待にとどまらず、様々な社会的問題行動を起こしやすい。(p.135~137)

なんて文章読んだら、おいおいって突っ込みたくなるのが普通だと思うんだけど。。

ということで、本書の内容を正面から受け止めてしまう人にはお勧めしないが、出てくる最新の知見とか実験結果なんかは結構面白いものも多いので、問題点があることも知った上で、それを含めて楽しめる人にはお勧めかもしれない。

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2004/10/28

温度調光ガラス

化学工業日報(10/28)の記事。

産総研、温度変化で自動調光する窓ガラス開発

 産業技術総合研究所のサステナブルマテリアル研究部門は27日、30度Cを境に自動的に調光量が切り替わる窓ガラスを開発したと発表した。高断熱、紫外線遮断、光触媒によるセルフクリーニング機能などの機能を付与することも可能で、画期的な機能を持った省エネルギー快適窓ガラスとして応用が期待される。今後、大型ガラスへ展開を進め、ガラスメーカーと共同して実用化を目指す。

 同グループが開発したのは、温度の変化に応じて太陽光熱を自動調整できるガラス。サーモクロミック材料である酸化バナジウムを用い、膜厚などを最適化、さらに機能性薄膜で挟むサンドイッチ構造としたことで、可視光透過率を従来の4割から6割までと大幅に向上させると同時に、調光率も従来の倍以上を実現させた。

 この新機能性ガラスは、季節の変化に応じ、夏は日射の約6-7割を遮断するが、冬は高断熱とともに暖かさを感じさせる赤外光を多く室内に取り入れる。その切り替えは30度Cを境界に自動で替わる。これまで夏の日射を遮断する熱線反射ガラスは製品化されているが、光学特性は一定だった。一方、温度で光学特性が変化する調光ガラスの研究はあるが可視光透過率が低く、断熱性が乏しいという課題があった。

産総研の10/27のプレスリリースに詳細説明があるが、文章ばかりでイメージがつかみにくい。研究グループのサイトを探していてみつけたのが、環境応答機能薄膜研究グループの説明。ここには正にこの自動調光ガラスの光透過率の温度依存性のグラフがある。

非常に見事に1μm以上の赤外線領域の透過率だけが温度によって変わっている。しかも、ただのガラスよりも TiO2コーティングにより可視光域の透過率が向上しているのも面白い。ただし、このグラフは20℃と80℃の比較なので、30℃付近ではこんなに極端には違わないのだろうけど。

ということで、このガラス、住宅やビルのガラスに使うと確かに効果が大きそうだ。可視光の透過率には影響がなく、周囲温度が高い時には赤外線を透過し、低いと透過しないというのは、非常に優れものだと思う。これだと確かに冬の暖房した室内の熱も赤外線放射という形では外に逃げにくいはずだ。しかもこの切り替えは特に応答スピードを要求されるわけでもないし。

ところで、このガラスを車の窓に使ったら効果が大きそうに思える。でも、もしも屋外に放置しておいて、一旦車内温度が車外温度より高くなる状況が起こってしまったら逆効果になりかねないような気もする。ガラス以外からの熱の侵入や強烈な可視光の影響を考慮するとどうなのだろう?

と思ったら、車のガラスには調光ミラーを考えていて、こちらは、可視光も遮断してミラー状にしてしまう。しかもその切り替えは電気的に行う(エレクトロクロミック)というものらしいが、これだと真夏の炎天下でも涼しい状態に保てるのかな?

なお、よくある光で色の変わるサングラスは、フォトクロミック材料と呼ばれ、ハロゲン化銀などを使っていて、こちらは紫外線が切り替えの引き金となっている。

冒頭のサーモクロミックガラスだが、ニュースでは酸化バナジウムと書かれているが、よく見るとこれはニ酸化バナジウム、VO2ではないか。一般的にはバナジウムの酸化物は V2O5なので、結構珍しい。日本原子力研究所のページによると、こいつはこの温度域での結晶の相転移によって、光透過率だけでなく電気抵抗も大きく変わることも知られており、なかなか有望な材料のようだ。恐らく相転移温度をうまく制御する方法も見つけたんだろうと思われる。

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2004/10/27

免許証更新と230回目の献血

今日は、運転免許証の更新に行ってきた。横浜市二俣川の神奈川県運転免許試験場にて。最寄の警察署での手続きの場合には、何故か写真が必要で、しかも講習は後日指定日に受ける必要があるが、試験場だと写真は不要だし、即日講習で即日交付、とのことで手間暇を考えて試験場で受けることに。

平日の午前中の混み具合が不明だったが、何とかなるだろうと思い、車で向かった。着いてみると意外と空いていて、しばらく待てば試験場の駐車場にも停められそうな感じだったが、待ち時間の見当がつかないので、すぐ近くの有料(1回700円)の駐車場に停めた。

運転免許の更新手続きは、更新の度に簡素化されているような気がする。自分で記入するのは氏名、性別、生年月日と電話番号だけだった。なんかあっけないくらいにサクサクと進み、講習が始まるまでの待ち時間以外はほとんど並んだり待ったりする必要がなかった。講習終了後は、これまた今まで以上に手際よく新免許証が交付された。

新しい免許証は、一見してとても安っぽい。従来はパウチされていたのに、今度のはパウチ無しで、しかもちょっと厚手の紙製。まるで近所のお店の会員カードみたいだ。ちょっと出し入れするだけでもう表面に傷がついてしまった。こちらによると、本年度から段階的にIC入りに切り替えると書かれているが、透かしてみた限りではこのサンプル写真と同様の透かしマークは入っているが、ICは入っていないようだ。(この透かしのマークは何のマークだろう?)

この運転免許試験場には二俣川献血ルームが併設されていたので、帰り際に寄ってみた。しかし、献血待ちの人が待合室を埋め尽くしており、予想では献血するまでに昼休みを含めて3時間程度かかるだろうとのこと。さすがにここでそれだけ時間をつぶすのも大変そうなので、いつもの相模大野献血ルームに移動して献血をすることに。

前回は、9/24だったので、33日ぶり。10月から献血者には本人確認をお願いしているとのことで、早速更新したばかりの免許証を見せる。一度確認すると次回からは本人確認は不要とのこと。なんだか中途半端な本人確認に思えるのだが。

今回は、久々の血小板成分献血。おみやげに、4/30と同じ白のTシャツをいただいて来た。

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2004/10/26

ナノコロイド白金入りガム

NIKKEI NET(10/26)の記事。シーテック、活性酸素除去狙ったガムを商品化

 東京大学発ベンチャーのシーテック(東京、中西信夫社長、03・5725・0805)は、老化などの原因となる体内の活性酸素の除去を狙ったチューインガムを商品化した。活性酸素を取り除く機能を持たせるため白金を粒状にし、ガム1粒に約0.8マイクロ(マイクロは100万分の1)グラム程度含ませた。調剤薬局や歯科医院、ドラッグストアなどで販売する。

 「イアソーガム」は百粒入りで2500円。ガムの中に直径1.8―2.2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの微細粒にした白金を含ませた。取締役に就いている東大大学院の宮本有正教授の研究成果を生かし、白金などの遷移金属に、活性酸素を除去する機能を期待する。甲府市の食品製造会社に製造を委託して商品化し、年間4億円の売り上げを見込む。シーテックはすでに化粧品やミネラルウオーターなどを商品化している。

白金入りのガムとはねえ。さすがに一粒25円だから、この手の食品としては高価だ。本当に活性酸素除去効果があるのだろうか。そもそもこれは医薬品なのか、それとも食品なのか?

シーテックという名前の会社は沢山あったけど、東京大学産学連携ベンチャーということで、株式会社シーテック SHETECH Co. LTD.がそれ。東大の宮本先生が、ごあいさつの中で、

世界には万病に効くと言われる「奇跡の水」が存在し、現実に数多な症例が報告されています。

その原因は未だ証明されていませんが、これらの「水」には、一般的に還元力があり、その還元力が体内の活性酸素を減少させ、結果、万病に効くという説が有力視されています。

私たちはこの「還元力」に着目し、工学的なナノテクノロジーを用いてアプローチすることで、従来の成分解析では見つけられなかった「特性」をナノレベルで解明することに成功しました。

と書かれているが、大丈夫かな?? 文面どおりに読むと、「奇跡の水の効果は還元力が原因であることを解明した」と読めなくもないけど、本当か? 商品ラインナップで見る限り、今回のガムは掲載されていないが、白金コロイド入りの化粧品を売っているようだ。化粧品ならばまだ許せるような気もするが、ガムに白金入れて本当に大丈夫か? 

ある程度の大きさの金属粒子なら白金は不活性なので、そのまま排出されて毒にも薬にもならないだろうけど(金箔入りの食品やらお酒のようなもの)、ナノコロイドとなるとどうだろう?白金族ナノコロイドの活性酸素消去能にはナノコロイドが触媒として働いて活性酸素を還元するような記載があるが、経口摂取したコロイドが体内に留まるのだろうか? 体内を血液等に含まれて循環するのか? なんだか危なそうな気もする。。

食品添加物協会のリストで調べてみると、確かに白金は食品添加物のリストにあるけど、これは単なる白金だ。ナノコロイドだから特異的に効果があると言っておいて、食品添加物としての認可はただの白金として受けている説明するのは、何かずるいと思うぞ。

白金ナノコロイド化粧品で探してみると、IASOショップが見つかる。ここで扱っている商品には、日田の天然水に白金ナノコロイドを添加したIASOウォーターなる商品まで存在するぞ。これはもはや水商売の範疇だ。(24Lで5103円だから、許せる範囲の値段だけど。) ちなみに、IASOとはシーテックの金属ナノコロイドに付けられた商標で、ギリシャ神話の癒しの女神イアソーからとり、日本語の癒しとの語呂合わせでイアソーと呼ぶらしい。

ちなみに、宮本先生のサイトはこちらで、東京大学大学院新領域創生科学研究科の先端生命科学専攻の構造生命科学講座に属しておられる。ところが、この先生、どういう根拠があるのか、あちこちで日田天領水を推薦していたりするから、なんだか信用できない気もする。

研究の成果を商品化したいのはわかるが、シーテックの扱っている化粧品やらガムなどが、通常踏むべきステップをきちんと踏んで商品化してるようには見えないし。

ついでに白金コロイドを調べてみたら、医薬品 内服用パプラールというのが出てきて、簡単にネットで買えちゃうみたいだけど、本当の薬なのか? それにこれはなんと野口英世の発明らしいぞ。それにしてもこのページの記載はひどいな。活性酸素は分子記号で「O5」と書くなんて初めて知った、というか分子記号って何よ??

どこまでがまともでどこからが「と」なのかわからないが、白金コロイドの世界は魑魅魍魎のような気がするなあ。。 日経新聞も時々こういう怪しいものを掲載するし。。

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2004/10/25

新幹線の脱線は安全神話の崩壊なのか?

新潟県中越地震の被害が予想よりも大きかったのか小さかったのかを議論することは、被害に遭われた方々に対して非常に失礼に当たると思うが、今後への教訓を得るためにも、冷静な解析が必要だろうと思う。

新幹線がその歴史上初めて脱線したことが大きく取り上げられている。Google News。中には、河北新報のように、安全神話の回復を願う、なんて記事もある。普通、安全神話ってのは崩壊するもので、本来安全ではないものを根拠もなく安全だと信じることを指すのではないのだろうか? 安全神話を回復するよりも、真の安全を目指した方が良いと思うけど。。

一方、FujiSankei Business iによると、台湾や中国では今回の地震で脱線はしたけど、人的被害がなかったことを高く評価しているようで、同じ事態に対する評価は立場によって随分変わるものだ。

asahi.com(10/25)の新幹線脱線、安全性に死角によると、

 新幹線の地震対策の中心は、速度の速い初期微動(P波=縦波)を検知して、本格的な主要動(S波=横波)が来る前に列車を停止させる早期検知システムだ。JR東日本は沿線20キロごとに地震計を設置している。P波の実測値をもとに120ガル以上のS波を予測したり、40ガル以上のS波を実際に観測したりした場合は送電を止め、強制的に列車を停止させる。P波検知から停電までの時間は3秒かからないという。

 震源が離れた場所にあるプレート境界型地震は、P波とS波との時間差が大きくなるため、システムは機能する。一方、直下型地震では両波の時間差がほとんどないから、効果は薄い。今回もP波とS波はほぼ同時に到達したとみられる。

 脱線現場近くの地震計は846ガルを観測。阪神大震災で山陽新幹線の地震計が観測した561ガルを大きく上回った。「とき325号」は、停電でスピードを緩める余裕がほとんどないまま脱線した可能性がある。

とあり、直下型であったこと、揺れが非常に大きかったことが指摘されている。

それにしても、どんな構造物にも設計基準というのがあるわけで、今回の新幹線の脱線を議論する際に、設計基準からみて、この脱線は想定される事象だったのかどうかを出発点とすべきだろう。しかし、ニュースを見る限りは、今回のような地震で脱線してもらっては困る、という前提で皆さん議論しているようだが、本当だろうか? 本来は設計に関わった人のコメント(脱線だけで済んだのは運が良かったのか、運も実力のうちなのか、それとも想定外の被害だったのか)が欲しい所だが、さすがに今の時点では下手なことを言えないだろうけど。。

*某大臣は、これは奇跡的だ、というようなコメントを早々に出したようだが、果たしてどこまで考えて言っているやら。。 建前でも、犠牲者ゼロで済んだのは日頃の対策が機能したからだ、というようなことは言えないのだろうか?

新幹線の地震対策については、ウィキペディアのユレダスの記事からのリンクが参考になる。他には新潟地震から30年「未来への記憶」の記載などを見ると、どうやら新幹線はマグニチュード8程度或いは関東大震災クラスの大地震に対して致命的な被害が出ないことを目標としているようだ。

いろいろ探していたら、自民党の山本議員のサイトで施設の耐震性確保というページを見つけた。ここでは、新幹線や高速道路等の施設の設計は、

①供用期間中に1~2度発生する確率をもつ一般的な地震動(レベル1地震動)に対する設計基準
  ⇒機能に重大な支障が生じないように設計

② ①を超えるより巨大な地震動(レベル2地震動)に対する設計基準
  ⇒機能に支障が生じたとしても、被災により人命、周囲に大きな影響を与えないように設計

とあり、極めて妥当な考え方が提示されているのだが、残念ながら、レベル1とか2の地震動の大きさがよくわからない。ところがこのページの末尾には、原発の耐震設計基準となる「およそ現実的ではないが理論的には想定される大きな地震動」であるS2地震動を、浜岡原発は600ガルとして設計している、とある。これで本当に大丈夫か??

ともかく、今回の地震動では新幹線は脱線しない設計となっていたのに脱線したのか、それとも想定地震動を超えていたのかをはっきりさせよう。専門的な原因究明はもちろん必要だし、より大きな地震に対しても有効な対策が現実的に可能であるのならばもちろん展開したいところだ。でも、どこまでコストを掛けても、リスクをゼロにはできないわけで、一方で新幹線以外でも対策を必要とする箇所は沢山あるはずだ。対策は大局的観点から、冷静にバランスよく行いたいものだ。

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2004/10/22

WWFの地球環境報告書

MSN-Mainichi INTERACTIVE(10/21)の記事。環境報告書:エネルギー過剰消費に警告 WWF発表

 【ジュネーブ大木俊治】世界自然保護基金(WWF)は21日、人類の食糧や燃料の消費量と地球の生産能力を比較した環境報告書「生きている惑星の報告」04年版を発表した。前回報告(02年版)より化石燃料などエネルギーの消費量がさらに増え、全体で生産能力を20%上回る「過剰消費」状態が続いていると警告している。

 報告書は01年のデータを基に、資源を生み出す陸地や海の総面積を地球の4分の1に当たる113億ヘクタール、人口1人当たり1.8ヘクタールと計算。これに対し、01年に人類が消費した食糧や燃料(主要149カ国)は、生産に必要な面積に換算すると計134・7億ヘクタール分、人口1人当たりでは2.2ヘクタール分だった。

 特に化石燃料などエネルギーの消費量は、99年のデータに基づいた前回報告に比べ、約4億ヘクタール分増えて72.8億ヘクタール分。過去40年間で7倍以上になり、環境破壊の大きな要因と指摘している。

 1人当たりの消費量面積を国別にみると、“ワーストワン”がアラブ首長国連邦(9.9ヘクタール)で、2位米国(9.5ヘクタール)、3位クウェート(9.5ヘクタール)。日本は28位(4.3ヘクタール)だった。

 報告書はまた、過去30年間に淡水生物の総数が約50%、陸上および海洋生物の総数がそれぞれ約30%減少したとも指摘。資源の浪費を見直し、環境破壊を阻止するための早急な取り組みを各国に求めている。

いわゆる持続可能性に関する報告書のようだ。WWFのサイトで、このニュースと、報告書LIVING PLANET REPORT 2004が読める。

報告書はPDFで44ページ。最初に、生物多様性を示す "Living Planet Index"の推移、および陸地・海・淡水のそれぞれでの生物種数の地域別の推移が載っている。

続いて、"Ecological Footprint" について国ごとに計算された値が示されている。ここで、footprint とは、我々が使用可能な(再生可能な)自然の量がどれだけあって、それを実際にどれだけ使用し、どれだけダメージを与えているかといった概念を、土地の面積に換算して示したもののようだ。

具体的にどうやって個々の負荷をカウントして、土地面積に換算するかについては、報告書の末尾にデータの出典と共に書かれているようだが、まだ読みこなせていない。ざっと見たところでは、"Eclogycal Footprint" は "Energy Footprint" と "Food, Fibre, and Timber Footprint" を合計したもののようで、個々の計算方法については、いろいろと異論もあるのかもしれないが、様々な人間活動が地球に与える負荷の大きさを統一した物差しで示そうという試みとしては、直感的にわかりやすいという点で評価できるように思う。

Energy Footprintは、化石燃料、燃料木材、核燃料を使ってエネルギーを発生させた際の負荷をCO2換算し、これを吸収するために必要な土地面積などで定義されているが、妥当な計算方法かどうか、この数値の意味はどう捉えるべきか、という疑問もある。また、Food, Fibre, and Timber Footprint は、農業、畜産業、漁業、林業等で人間が使用する面積をカウントしていて、こっちはかなり実質的なのでわかりやすい。

それにしても、世界全体の約1/4が資源を生み出すと仮定すると、人口一人当たり1.8ヘクタールにもなるんだ。いやに広いという印象もあるが、日本人は平均して4.3ヘクタールも使っていると言われると、いかに今の生活が非持続的かを象徴しているとも言える。

この報告書の後半には、将来見通しやWWFとしての提言も載っており、最後には国ごとの細かなデータが表で示されている。 読みこなすのはかなり大変そうだが、なかなか役立ちそうな資料となっている。

*地表の面積は、陸地:149、海洋:361、合計:510(×106km2
 1ヘクタールは、10000m2 = 0.01km2

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2004/10/21

「シックハウス」

本書は、地球と人間の環境を考えるというシリーズの第9弾。このシリーズについては、このブログでも、No.5 エネルギーNo.7 水と健康No.8 ごみ問題とライフスタイルを取り上げている。

日本評論社 シリーズ 地球と人間の環境を考える 9
 シックハウス 健康で安全な家をもとめて
 中井 里史 著 bk1amazon

著者のホームページはこちら

このシリーズは、地球温暖化、ダイオキシン、環境ホルモン等の環境問題をテーマに、世の中にありがちな恐怖・警告本に対して必要に応じて反対する科学的な立場を取り、冷静に問題の本質を探るシリーズとなっている。しかし、本書は突っ込みが不足というか、確かに扱う対象が漠然としているのだろうけど、それにしても歯切れが悪く、新たな発見や驚きに乏しい。それと、全体的に内容が平易というか、いわゆる一般の人々や中高生あたりを対象者と設定した内容のようだ。

そもそも、本書ではシックハウスと化学物質過敏症を意図的に一緒にして扱っている。最初の方では、両者は全く別物であると断り書きもしてあるのだが、何故か途中からは、この両者をまとめて論じているのだ。化学物質過敏症とシックハウスに関しては、当ブログでも2/152/28に取り上げているが、現時点で明確な定義付けのできる病気なのかどうか極めて微妙だし、ましてや化学物質との因果関係となると、少なくとも化学物質過敏症に関しては否定されていると考えても良いのではないか。

本書の主題はこれらの症状の原因やその作用機構を探るようなものではないので、「そういう病状が存在する」という事実を出発点として、どんな生活環境をどのように作り上げていくべきかを考えたものとなっている。

従って、シックハウス症候群については、実際に悩める人々の具体例がいくつか載っているだけで、その数については

では、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者は、いったいどのくらいいるのだろうか。

人口の10%くらい(!)が患者だろう、との指摘もある。おそらく公表されているデータとしてはもっとも小さい値の一つだと思うが、4000人を対象として聞き取り調査したところでは、0.74%の人が患者となる可能性があるという。

10%よりはだいぶ小さいが、それでも0.74%という数字を使って全国の化学物質過敏症の患者(予備軍かもしれないが)を推定すると、成人で約70万人になる。調査で得られた数字がどの程度正しいのかについては十分に検討しなくてはならないが、かなりの数であることはたしかだ。(p.34)

と書かれているだけだ。そもそもの病気の定義があいまいなのだから、患者数の推定がアバウトなのは仕方ないのかもしれないが、これでは、この問題が他の様々な問題の中でどの程度重要な問題なのかの位置付けができないと思うのだが。ましてやここで、シックハウス症候群と化学物質過敏症を一緒にしちゃいけないと思うのだけど。

本書では、いわゆる家の建材などから出る有害化学物質の他にも、家具、防虫剤、ダニやカビなどの生物、あるいは外気環境などがこれらの症状に影響することや、部屋の気密性や生活スタイルが影響している点などについて、具体例を示して述べられている。同じ部屋でも測定の時期などによって大きくばらつくことなども示されていて、問題が複雑であることは理解できる。

更に極端な化学物質過敏症の場合は、合成化学物質を嫌って作った天然木のムク材などを使った家でも、天然木から発散する成分が問題になるケースがあることなども紹介されているが、こういうケースが全体の中でどのくらいの割合で存在するかが重要のように思う。レアケースはレアケースとして対応し、それがために全体の方向を間違ってはいけないだろう。

著者は横浜国立大学で中西準子さんの流れを汲む研究グループのメンバーなだけに、もっと鋭い突っ込みを期待したのだが、著者みずから、本書では明確な方向性や結論を打ち出すことができていない、と書いている。このシリーズは、基本的な科学的素養のある人を対象として、誤解を恐れずに科学的な視点を真正面から提示するところに価値があると思っていたので、残念だ。。

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2004/10/20

森林浴の生理的効果

asahi.com(10/20)の記事。森林浴にストレス物質濃度下げる効果 産官学で実証

 森林浴が人体に及ぼす効果についてホルモンの分泌や脳の活動状況などを調べた結果、森林浴で人体は生理的にリラックスした状態になる――。産官学でつくる「森林セラピー研究会」が行った実験結果を研究会の事務局を務めた国土緑化推進機構(林野庁の関係団体)が19日に発表した。同機構は「森林の癒やし効果が医学的に測定されたのは世界でも初めて」としている。

 実験は7月下旬、千葉県の森林とJR千葉駅前で実施した。精度を高めるため、6人ずつ2つのグループに分かれて、2日にわたって森林と駅前の雑踏を体験した後に測定、個人差が実験結果に表れないようにした。

 森林にいた人は駅前の雑踏の中を歩いた場合に比べて、唾液(だえき)中のストレス物質の濃度が低下。さらに、脳の中で思考や記憶をつかさどる部分の活動が落ち着くことも確認された、という。

森林セラピーについては、3/12のブログで取り上げたけど、前回は岐阜県での実験だったが、今回は千葉県での実験のようだ。今回の研究では、どこが進歩したのかよくわからない。調べてみても、この研究結果の詳細は見つからなかったが、同じようなニュースがMSN-Mainichi INTERACTIVE(10/18)に載っている。こちらでは、
 森林浴には、ストレス物質の分泌を抑えたり、血圧を下げたりするなど、体全体をリラックスさせる効果があることが森林総合研究所や九州大などの研究で分かった。森林浴の効果が全身の生理機能の計測によって確かめられたのは世界で初めてだという。東京で開かれる日本生理人類学会で22日、発表する。

 森林の香りや風景にリラックス効果があることは昔から知られているが、科学的なデータはほとんどなかった。研究グループは7月、男子学生12人に千葉県内の森林とJR千葉駅前で一定時間過ごしてもらい、その前後で思考をつかさどる脳の前頭前野の活動、リラックスすると低下する血圧、ストレスを受けると増加するだ液中のホルモン「コルチゾール」の濃度などを計測した。

 その結果、森林にいるときは都市部にいるときに比べ、コルチゾール濃度が低下し、脳の前頭前野の活動も沈静化した。また、興奮や緊張状態を高める交感神経の活動が弱くなり、最低血圧が下がった。

 森林総合研究所生理活性チーム長の宮崎良文さんは「面白いことに、ストレスホルモンや脳活動の抑制は、実際に森林に到着する前から見られた。これから森林に行くという期待感だけでリラックス効果があると考えられる」と話している。

とある。なんだか関係する団体の名前が異なるけど、内容からみて同じ話のようだ。それにしても、3月の記事でも、血液中のコルチゾール濃度の低下が見られたとあるから、世界初ではないんじゃないか?

それはともかく、森林と駅前での状態を比較したら、森林の中の方がリラックスしてた、と言われても、全くサプライズはない。 それよりも、森林に行くという期待感だけでも変化が出たということの方が、世界初の知見ではないのか?フィトンチッドなんかよりも、心理的な要素が支配的ということになるわけで、プラセボ効果も含めて、いよいよ研究方法に工夫が必要なことが明らかになったということではないだろうか?

日本生理人類学会の第52回大会案内によると、この研究の関係者の数が多いことに驚かされる。

独立行政法人森林総合研究所、林野庁研究普及課、千葉県森林研究センター、ソニーPCL(株)、ヤマハ発動機(株)研究創発センター、富山大学工学部、九州大学大学院芸術工学研究院、九州芸術工科大学大学院、九州芸術工科大学芸術工学部
そんなにみんなで研究するほど魅力的なテーマとは思えないのだが。。。

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2004/10/19

「環境リスク学-不安の海の羅針盤」

リスクアナリシスについては非常に興味がある。何年か前に、産総研の中西さんのホームページにたどりついて、その考え方に触れたのが始まりだろうと思う。今回、その中西さんが、リスクについてのまとまった読み物を書かれたということで、読んでみた。

環境リスク学-不安の海の羅針盤
 中西 準子 著 bk1amazon

本書の内容については、著者自身による紹介が読める。アマゾンのカスタマーレビューもこの手の本としては、非常に高い評価が並んでいる。

ともかく読んでいて非常に充実感があるというか、予想以上に面白い。いわゆるリスク学の考え方を、様々な実際のケースについて具体的に論じている部分の他に、著者自身の半生記のような部分もあるのだが、これがとても波乱万丈で物語性がある。研究者としての生き方そのものがドラマチックに描かれているだけでなく、それがそのまま、著者の考え方や生き方にどう影響しているのか、という説明にもなっている。

環境問題あるいはリスク問題への対処は、理論的な論理展開だけでは皆が納得できる解に到達できないことは明白で、だからこそ、研究者自身が通常の論文発表とは別に、こういう形で、そこに至る考え方を説明することは重要だと思う。例えば、著者の得意なリスク・ベネフィット解析に関して、人の死をお金に換算する考え方に対する批判があるようだが、本書では、正にそういう問題点に著者自身が長年悩み、考えた末に、今の考え方にたどりついたことが、何故そうするのか、どんな問題点がありどんな注意が必要なのか、などの視点と共に熱く丁寧に語られている。

リスク研究については

 今、リスク評価とそれに基づく対策立案と説明が非常に重要になってきているのは、以前に比べリスクが大きくなっているからではない。むしろ、小さなリスクに皆の関心が集まり始めているからである。かつては、危険とは誰の目にも被害がわかることであったが、今、われわれがリスクとして扱っているものは、かつては見のがされてきたが、新しい分析技術や予測技術で推定される、確率的な事象である。
 かつては、目に見える被害が問題になったので、被害の大小は割合わかりやすかった。優先順位は自明ということも多かった。しかし、今は予測の世界なので、リスクの大きさがわかりにくい。だからこそ、リスク評価の科学が必要になってくるのである。(p.183)
と、位置付けを明確にしている。

著者が下水道問題で「闘う研究者」となり、「業界」の中で苦しい立場に立たされ、それでも真っ直ぐに研究を続ける中で、サポートしてくれる人達が出てきて、、、というストーリーは、環境分野以外の学生や若手の研究者にも読んで欲しい気がする。ちょっと格好良すぎるし、今の普通の研究者は「これじゃあ逆立ちしてもかなわない」と思ってしまうかもしれないのだが、それだけの重みがあると思う。

ただし、著者の文章がうますぎるためだろうけど、むずかしい話もすっと入ってきて、何となく理解した気にさせられるので、油断大敵ではある。

新聞の書評としては、FujiSankei Business iMSN-Mainichi INTERACTIVEが読める。他にも10/16の日経の書評でも概ね好意的に取り上げられていた。新聞社もわかったような書評を載せる割には、リスク評価なんてわかってないんじゃないかと思わないでもないが。

特に、この毎日新聞の書評はとても好意的だ。その評者、藤森さんの名前もどこかで見たと思ったら、中西さんの雑感213で紹介されている、「ダイオキシン 神話の終焉」について好意的な書評を書いた人だった。(その書評はこちらで読める。)

今や、政府の政策決定から我々一人一人の日常の買い物まで、様々な意志決定の場面で、実はリスク評価の正しい考え方が必要なのだろうと思う。世の中には色んな時空間的スケールの問題が混在していて、それを一貫して評価できる万能の物差しを持つことは困難だ。しかし、リスクアナリシスという考え方は、正にその物差し候補の一つなんだろうと思う。

著者には、引き続き、地球規模の問題から身の回りの問題に至るまで、鋭い視点を我々に提示し続けていただきたいと思う。

*「予防原則」について、本書でも少し触れられているのだが、もう少し具体的な例をあげて考え方を示してもらえるとありがたい。

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2004/10/18

レーンライティングシステム

日経新聞の今日(10/18)の朝刊には、「ITS世界会議 愛知・名古屋2004」が本日開幕という全面広告が載っていた。ITSとは Intelligent Transport Systems のことで、ETCやカーナビを始め、より安全で効率的な車や道路交通システムなどが対象となっているようだ。

それに関連する日刊工業新聞 ビジネスラインのニュース(10/14)。

鹿島、LED使用の路面表示システム開発
 鹿島は13日、白線の代わりに発光ダイオード(LED)を使って車線などの路面表示を変えられる「レーンライティングシステム」を開発したと発表した。透明樹脂で覆ったLEDを道路に埋め込み、日中でも高い視認性が得られる。

 混雑によって道路の車線を増やしたり、駅前を時間帯でタクシー乗り場からバス停に変えるなどが自在にできる。積水樹脂と共同開発、今後改良や低コスト化を進め3年後の実用化を目指す。19日から名古屋市港区のポートメッセなごやで開く「ITS世界会議」に展示する。

 発光体は直径約10センチメートルでアルミダイカストのカップにLEDを入れ、大型車の走行にも耐えられるよう高強度の透明樹脂をかぶせた構造。内部のLEDの数は用途によって決める。試験道路でのシステム制御実験はすでに完了。コストは1個当たり数万円で施工費も同数千円だが、さらにコスト削減を図る。

というもの。どんなものなのか鹿島建設の プレスリリースで詳細が公開されている。日中でも視認できるということで相当明るいのだろう。用途としては、

 ・高速道路料金所付近での動的なレーン表示変更
 ・駅前広場の時間帯別レーン表示
 ・一般道でのバスレーンと駐車スペース表示の変更

等を考えているようだ。実用化されると中々面白そうに思うけど、こういう用途だと、このマーカーを相当数道路に埋め込む必要がありそうだ。コストもすごそうだけど、電気はどこから持ってくるのだろう? 地中に配線するのだろうか? 

積水樹脂のサイトで探してみると、このものズバリではないけど、太陽電池式自発光交差点鋲というのがあった。これは、交差点の中央等に埋め込む、発光式のマーカーで、太陽電池で発電し、キャパシタに蓄電しておき、夜間に光らせるようだ。しかも、センサーでヘッドライトの光を検知した時だけ光る優れものらしい。

また、積水樹脂のITSのページには、公共交通支援システムとして、太陽電池が使えない場所やトンネル用として商用電源を使うものも載っている。地中に配線するとなると、メンテナンスなどが大変そうだ。

ところで、ITS世界会議のホームページは、何故かとんでもなく重くて、ほとんど見る気にならないが、少し見た範囲では、少なくとも一般のお客さんに交通社会の未来を見せることを意識した展示会ではなさそうだ。でも、日経新聞には参加対象は一般市民まで広げ、5万人の来場者を想定しているらしい。

キャッチフレーズは "飛躍する移動 ITS for Livable Society" だそうだが、"livable society"って「住みやすい社会」という意味かな? 漠然としてるけど、具体的に何をイメージしたものかの説明はみつからなかった。(このフレーズで google検索しても、ITS世界会議関連しかヒットしないし。。)

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2004/10/15

HIV感染予防薬

中日新聞の10/15の記事。エイズ予防薬、サルで実験成功 米・スイスの研究チーム 人の感染予防に光

 性行為を介したエイズ感染を予防する可能性のある薬剤を米国とスイスの研究チームが開発し、サルでの実験に成功した。異性間の性交渉はエイズウイルス(HIV)の主要な感染経路となっており、同チームはこの薬が人の感染予防にも有効とみている。論文は十五日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

 この実験薬は、天然のヒトたんぱく質をもとに合成したもので、HIVが細胞表面にある「CCR5」という受容体に結合するのを妨げる働きを持つ。CCR5はHIV感染の主要な受容体の一つで、これを先天的に欠く人はHIVに感染しないとの研究がある。

 研究チームは、ウイルスに感染しやすくした雌のアカゲザル三十匹を五匹ずつ六グループに分け、それぞれ濃度を変えた実験薬を膣(ちつ)の表面に塗布。十五分後に大量のHIVを膣内に投与したところ、最高濃度のグループは五匹すべて、二番目のグループでも四匹で感染を防いだ。

 研究チームは、人の場合、今回の実験で用いたよりもっと少ない量で効果があるのではないかとみている。

 <国立感染症研究所・エイズ研究センターの仲宗根正主任研究官の話> CCR5をブロックし経膣感染を完全に防いだ研究は初めてで科学的にはインパクトが大きい。用量や用法、効果の持続時間など、人での実用にはかなりハードルが高いが、予防に少し可能性が出てきたとは言える。

ということで、エイズの予防に向けて大きく前進する成果かもしれない。何しろ、世界的に見れば HIV が人類の大きな脅威であることは間違いない(参考:3/25のブログ)。

この論文のアブストラクトは、Scienceで読める。このニュースは、向こうでは結構詳しい記事が多く出ている

冒頭の中日新聞の記事で研究の概要はつかめるが、要はこの研究、雌のサルの膣にHIVウィルスブロック薬を塗布した結果、感染を防ぐことができたというもの。現時点では局所に塗布するわけだから、実用性という意味では色々と問題がありそうだ。(完全にブロックするためにはどうやって塗るんだ?とか、持続時間が15分となると実効性あるのか?とか、実際の性行為では新たな傷ができてしまうんじゃないか?とか)

しかし、news VOA comの記事には、

Many women around the world do not have the power to refuse sex or require their partners to use condoms, so public health officials have been seeking an odorless, tasteless compound a woman could apply privately to block HIV infection.

A new product shown to work in female rhesus monkeys may be what they have been looking for.

とあり、世界的に見ると、HIVへの感染を他に防ぐ手段を持たない女性も多く、この手の薬が待ち望まれていると書かれている。

また、BBC NEWSによると、

The virus uses certain cell surface molecules to get into cells and infect them.

One of these is called CCR5 and it had already been shown that people who lack this surface molecule on their cells are almost completely protected from acquiring HIV.

But HIV can use other target molecules to get into cells.

Dr Lederman's team set out to investigate whether blocking CCR5 would be enough to prevent simian HIV (SHIV) transmission.

ということで、色々なルートでの感染が考えられる中で、今回の研究により、CCR5をブロックするだけでHIVの感染を有効に防ぐことができそうだ、というのが大きな成果のようだ。

エイズのついての一般知識は、エイズ予防情報ネット、用語集は中四国エイズセンターなどが充実している。

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2004/10/14

日本LCA学会設立

環境gooで見つけたニュース。

2004年10月14日(木)
ライフサイクルアセスメントの普及へ――日本LCA学会が26日に発足

 「日本LCA学会」(仮称)が10月26日に設立されます。製品やサービスなどの環境影響について、資源採取から製造、販売、使用、廃棄までライフサイクル全体を通じて定量評価するライフサイクルアセスメント(LCA)に関する研究・普及を進めるのが目的。関連の学会の設立は国内で初めてのことです。同学会では、政府や企業、市民など幅広い参加を呼びかけ、関連の知見の蓄積や、応用ツールの開発、その普及などを図る方針。また、企業における活用方法などを研究するLCA日本フォーラムとも連携。情報交流や共同研究などを実施するとともに、産業界への普及促進を後押しします。

ということで探してみたら、未踏科学技術協会のサイトで「日本LCA学会(仮称)」の設立についてというのを見つけた。LCAの考え方は、環境問題を考え、何らかの判断を下すのに欠かせないものだと思う。LCA学という学問領域が確立されているのかどうか不明だが、LCAという手法そのものを研究してより有用なものにすることと、様々な事例が蓄積されていくことを期待したい。

ふと、国際的にはどうなんだろうと思って検索したら、こんなページを見つけたけど、このLCA Society of Japanというのは何だろう? 検索してみると、こんなページがヒットするので、以前はきちんと活動していたようだが、公式サイトのようなものは見つからない。

「日本LCA協会」で検索すると、第4回 エコバランス国際会議の主管団体として名前が出てくるが、他にはそれらしいサイトにはヒットしない。また、この分野では信頼できそうな、LCAお役立ち情報 CRESTのページにも出ていない。先の英文雑誌の執筆者に今回の学会設立関係者の名前が出てくるところを見ると、発展的に解消したのかもしれない。 何か不思議だな。。

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2004/10/13

効果のないダイエット食品

NIKKEI NET(10/13)の記事。「脂肪包み排出」は誇大広告――厚労省、行政指導の指針案

 「脂肪分を体内で包み込み便と一緒に排せつする」などの広告で売られるダイエット食品には、宣伝通りの効果がなく、虚偽・誇大広告を禁じた健康増進法に違反するとして、厚生労働省は13日までに、業者に削除を求める違反広告を具体的に例示した行政対応の指針案を作成した。

 インターネット上で1カ月間公表し、意見を募った上で最終決定。地方自治体などはこれに基づき、違反広告などを監視指導することになる。

 ダイエットブームで科学的な根拠がよく分からない商品が出回る中、厚労省は国立健康・栄養研究所に初めてダイエット食品の実証実験を依頼。研究所が9月までに9種類の商品を動物実験で調べた結果、いずれも脂肪分を包み込むような効果は確認されなかった。

 指針案の対象は、難消化性炭水化物が主な原材料で、食事で摂取した脂質や炭水化物をゼリー状にして包み込むとされる食品。ビーカー内の水に浮かべた油分が固まる様子を写真で示して宣伝している商品もある。

 指針案は、違反広告の例として「食べた脂肪分を乳化、同時にミセル化して腸吸収を80%ブロック」「摂取しすぎた脂質と糖質を包み込み、便と共に体外に排せつ」「マヨネーズを水に溶かして実験! 脂質の90%、カロリーの70%を包み込む」などを挙げている。

 ただ、行政対応の際、今回の実験がダイエット効果すべてを検証したわけではなく、動物実験結果だけである点にも留意するよう求めている。

ということで、調べてみるとこのニュース、丁度1か月前に「脂肪包む」明確効果なし ダイエット食品を動物実験として取り上げられていて、先月が速報レベルだったのが、今回は違反広告の具体例を示し、パブリックコメントを募集しているということのようだ。

今回公表されたのは、「健康食品」の安全性・有効性情報のサイトに掲載された、誤解されている健康情報の事例2だが、残念ながら、具体的な商品名については何も明らかにされていないようだ。また、パブリックコメント募集に掲載されたガイドラインによると、

 難消化性炭水化物を主な原材料として痩身効果を標榜する食品に関して、以下に示す広告その他の表示は、法第32条の2の規定に違反するものとして、当該表示の削除等を求めることとする。

(1) 食事により摂取した脂質、炭水化物等をゲル化させ包み込むことにより、これらの体内吸収を阻害し、体外に排出できる旨の表示
(例)
・ 「食べた脂肪分を乳化、同時にミセル化して腸吸収を80%ブロック」
・ 「摂取しすぎた脂質と糖質を包み込み、便と共に体外に排泄します」

(2) ビーカー実験等による原材料の物理化学的効果を示すことにより、間接的に経口摂取による効果を暗示する表示
 (例)
・ 「マヨネーズを水に溶かして実験!脂質の90%、カロリーの70%を包み込みます」
・ 「ダイエットで気になる乳製品に添加した結果、乳化した油分を固めて包みます」

ということだ。何と、こういう効果をうたうことそのものを禁止するようだ。今回テストした製品については確かに脂肪の排泄効果はなかったようだけど、将来、本当にこういう効果を達成する製品ができたらどうなるんだろう? 

結局、このような広告が違反するだけで、製造も販売も特に問題はないってことだから、宣伝広告の方法を変えて出直すだけだろうな。 単なるイタチゴッコのような気もしないでもない。 (もっとも、この手の商品はネット上の数多くのサイトで宣伝されているので、一斉に広告を入れ替えることができるのかどうか疑問だけど。)

ちなみに、今回の対象商品に該当するかどうかは不明だが、この手の宣伝をしている商品としては、BOWSが有名どころのようだ。このページでも、ゲル化の実験や特許の話や体験談などなど、定番の宣伝文句が並んでいる。

ちなみに、健康食品の安全性・有効性情報のサイトのQ&Aに、だまされない方法というのがあるが、

以下のようなうたい文句にはだまされないようにしたいものです。
(1) 「即効性」「万能」「最高のダイエット食品」
(2) 「ガンが治った」などの治療、治癒に関する言及
(3) 「天然」「食品だから安全」「全く副作用がない」
(4) 「新しい科学的進歩」「奇跡的な治療法」「他にない」「秘密の成分」「伝統医療」
(5) 驚くべき体験談、医師などの専門家によるお墨付き
(6) 「厚生労働省許可」「厚生労働省承認済み」
(7) 「○○に効くと言われています」
(8) 「ダイエットに効く○○茶(特許番号××番)」
(9) 「○○を食べると、3日目位に湿疹が見られる場合がありますが、これは体内の古い毒素などが分解され、一時的に現れるものです。これは体質改善の効果の現れです。そのままお召し上がりください。」
とある。この前のにがりといい、最近何だか厚生労働省がこの手のものに厳しく対応し始めたみたいだ。結構なことだと思うけど、この手の情報をどうやって浸透させていくかが難しいところだろう。TV番組でも作ってゴールデンタイムに放送してみてもいいかもしれない。うまく番組を構成すれば、意外な実験結果に対して、結構「へ~っ」となるかもしれない。

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2004/10/12

リアル人体模型「イチロー」

日経新聞夕刊の連載「医の近未来」に、「リアルタイム人体模型」という記事が載っていた(10/8)。

東京女子医科大学の臨床技能研修センターで、医学部5年の女子学生たちが真剣な面持ちで聴診器を手にしている。この施設は臨床現場に出る前の医師や看護師の技能を高めようと、9月末に新設された。

 患者に接した経験の少ない医師の卵が相手にするのは、精巧な人体模型。腕の模型を使って血管への注射の仕方を学ぶ姿はおなじみだが、近年は情報技術(IT)を駆使して心臓の音や脈拍まで忠実に再現する胴体模型が登場、実習用に普及し始めた。
(中略)
 女子医大が導入したのは科学模型大手の京都科学(京都市、片山英伸社長)が製造を手がけ、その名も「イチロー」。1995年に第一号が誕生した際、社長と協力医が一緒に命名した。ちなみに新型の静脈注射訓練用模型は「シン(新)ジョー(静)」という。

 改良を重ねた現在のイチローはポンプの働きで腹部が膨張・収縮を繰り返し、本当に呼吸しているかのように見える。心臓の冠動脈などが発する音はスピーカーで、手首などの脈拍は空気圧で再現。パソコンにつなげると、不整脈など88の症例で典型的な心電図の波形が画面に表れる。

という内容。こう書かれると、イチロー君やシンジョー君を見てみたくなる。京都科学のサイトを見ると、医学・臨床実習シミュレータの中にイチローが、注射のシミュレータの中にシンジョーがみつかった。

イチローは400万円前後とすごい高価だ。顔は全然イチローとは違うし、何で心臓病シミュレータの名前がイチローなんだろう? シンジョーは腕だけで、値段もイチローより大幅に安くて20万円程度だ。こういうのをリアルな模型と呼ぶのかどうかは疑問もあるが、何だか不思議な名付けセンスだなあ。。

それにしても、この京都科学、確かに面白い模型を沢山ラインナップしていて、カタログを見ていると結構おもしろい。プロ向けだから需要も限られるのだろうけど、確かにいろんな模型の使い道があるもんだ。

そういえば、以前、職場で救急処置(人工呼吸と心臓マッサージ)の実地訓練用に、それ用の人形というか模型を借りてきて練習したことがある。実施した人工呼吸と心臓マッサージのデータが腰のところからチャートになって出てくるので、それを見てテンポや強さを身体で覚えるというものだった。やってる時は人形相手にマウストゥマウスなんて情けないと思ったけど、確かに話で聞くだけでなく、実際に体験しておくのは、いざという時に少しは役に立つと思う。

リアル人体模型というと、何と言っても「人体の不思議展」を思い出してしまうが(2/1のブログ)、今はまた東京で展示しているようだ。(参考:AERA記事オフィシャルサイト

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2004/10/11

「なんでも測定団が行く」

サブタイトルが「はかれるものはなんでもはかろう」ということで、様々な計測に関する話が書かれている。ちょっとした空き時間に気軽に読める本だけど、正直言ってあまり驚きや新たな感動のようなものが味わえるような内容ではない。

ブルーバックス B1451
 なんでも測定団が行く
 武蔵工業大学 編 bk1amazon

武蔵工業大学の創立75周年記念出版物ということで、大学の教職員が世の中に対して意味のある情報発信をしようと考えて企画されたらしい。その狙いや目の付け所はなかなか良かったと思うのけど、内容にもう一工夫ほしい所だ。何と言うか、タイトルで遊んでいる割には、中身に遊びがないという感じ。

第1章「はかる歴史」、第2章「人間をはかる」、第3章「ものをはかる」、第4章「地球をはかる」、第5章「情報をはかる」、第6章「環境をはかる」、第7章「社会をはかる」ということで多方面に渡り、全部で50の項目からなる。それぞれが3~5ページ程度にコンパクトにまとまっていて、わかりやすいのだが、ブルーバックスなんだし、もっと突っ込んだ話があってもよかったと思う。

確かに、飛行中の飛行機の高度、地球の重さ、遠くの星の年齢、地球の平均気温、樹木の年齢、初詣の人出、などの具体的な測定法は、どこかで見たり聞いたりしているようで、いざ自力で説明しようとすると意外と難しい。その点では、まあ何がしかの雑学が身に付くんだから、軽く読み飛ばす本としては悪くないのかもしれない。

個人的には、青函トンネルが貫通した時の北海道側と本州側からのトンネルの貫通誤差は、縦横高さのそれぞれの方向で20~50cm程度だったとか、現在でも地球の平均気温は世界各地の百葉箱で測定された温度を集計して算出しているとか、面白いネタもあった。

こういう「へぇー」と思われるようなトリビアネタをもっと多く集めたり、原理や方法について、より詳いく知りたい人向けに、参考ウエブサイトを紹介する等の工夫があったら良かっただろうと思う。特に本書は大学からの情報発信を意識したのだから、信頼できる情報の入手先を責任を持って示すことも割と重要だと思うのだが。

ということで、内容に深みがないのと、考える楽しみとか新たな知識を得る感動などのワクワク感が不足している点が残念だ。結局のところ、誰を対象とした本だったのだろう?

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2004/10/08

化学物質の大気中濃度マップ公開

化学工業日報の10/6の記事。NITE、200物質の大気中濃度マップ作成

 製品評価技術基盤機構(NITE)は、PRTRデータの活用を支援するため「大気中の濃度マップ」を作成、ホームページ上で公開した。PRTR対象化学物質354のうち大気に放出される約200物質について、2002年度の排出量データを基に作成したもの。日本全国を対象に、気象データと事業者が届け出たPRTRデータなどから推計した有害化学物質の大気中濃度を電子地図の上に表示した。濃度の度合いに応じて色分けされており、容易に全体の傾向を把握することができる。
何故か一般紙では全く報道されなかったようだ。PRTR制度により、対象化学物質がどこからどれだけ排出されたかという一次情報が、信頼性や完全性はともかくも、一般に公開されるようになった。→ 環境省 PRTR公式サイト しかし、このデータはさすがに一般の人には敷居が高く、わざわざ生データを見て何かに使おうとは考える気にならない。

今回公開された、PRTR 大気中の濃度マップは、PRTRで集計された1次データを用い、これを産総研の化学物質リスク管理研究センター(CRM)で開発した AIST-ADMERというソフトを用いて、全国を5kmメッシュに区切り、メッシュごとの化学物質濃度を推計したもの。視覚化されているから、その気になれば、誰でも自分の身近な場所での大気中の化学物質濃度がわかる。

計算の元となる排出量はPRTRデータのメッシュ別集計方法によると、いわゆるPRTRで公開されている工場等からの排出量はもちろん、一般事業所からの排出量、農業などからの排出量、一般家庭からの排出量、車などからの排出量等も、それぞれ考慮して推計されているようだ。

実際に少し使ってみると、自分になじみのある特定の場所での特定物質の大気中濃度が一目瞭然にわかるというのは結構面白い。必ずしも直感的な操作ではうまく動かないこともあるが、まあまあ容易に欲しい情報にたどり着ける。

例えばベンゼンの全国大気濃度マップはこんな感じだ。地図をクリックすると拡大図が見られ、更に倍率を変えて詳細地図までたどり着ける。これを見ると、日本全国で随分濃度に差があることがよくわかる。これと、例えば男性胃がん死亡比マップのような、健康に関わる統計データとリンクさせてみると面白いかもしれない。直感的には、大気濃度が地方と都市部で極端に異なる割には、がん等の死亡率の差は大きくないような気がするけど。。

実は、いくつかの石化コンビナート地区で、いくつかの物質の発生源マップや濃度マップを見てみると、その物質を排出していそうな工場の位置で必ずしも濃度が高くなっていない所も見られるようだ。 その工場できちんと処理されているのか、あるいはPRTRの届出が不完全なのか、それとも大気マップ化に問題があるのかわからないが、もう少し調べてみる必要があるかもしれない。

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2004/10/07

ポリカーボネートのケミカルリサイクル

NIKKEI NETの10/5の記事。帝人化成、ポリカーボネート樹脂の新リサイクル技術

 帝人子会社で樹脂製造・販売を手掛ける帝人化成(東京・千代田)は5日、DVD(デジタル多用途ディスク)などに使われるポリカーボネート樹脂の新しいリサイクル技術を開発したと発表した。分子レベルの原料にまで化学分解してから再生することで、石油から作るのと同等の品質にできる。何度でも再資源化できる技術として、環境負荷の低減を推進する電機メーカーや自動車メーカーに採用を働きかける考え。

 2億円をかけて来年2月に松山工場(松山市)に実証プラントを建設し、事業化に向けた技術を確立する。これまでポリカーボネートを化学分解しようとすると大量の異物が発生していたが、低温で時間をかけて分解することでこの問題を解決した。石油から新しいポリカーボネートを製造するのと比べて、エネルギー消費量は約4割、二酸化炭素排出量は約3割削減できるという。

 ポリカーボネート樹脂は世界で年間220万トン消費されている。耐衝撃性の高い樹脂として光学ディスクや情報機器、自動車部品などに用途が拡大しているがリサイクルは進んでいない。

帝人と言えば、4/18のブログでも紹介したPETボトルのケミカルリサイクルが話題のメーカーだ。今度はポリカーボネート(PC)のケミカルリサイクルをするということで、リサイクルを一つの柱にしているようだ。帝人のサイトを探すとエコWEBなんて独立したサイトを持っているし、確かに気合が入っている。

帝人のニュースリリースによると、技術的なポイントは、低温での解重合と溶液状態での精製にあるようだ。品質とコストはバージン原料と同等と書かれている。もう少し探してみると、日刊工業新聞(10/6)に、帝人化成、PC廃材からビスフェノールAを効率回収という記事が載っていた。(Web上はすぐに上書きされて消えてしまうようだけど)

 帝人化成(東京都千代田区、藤井高信社長、03・3506・4707)は5日、ポリカーボネート(PC)樹脂の廃材からPC主原料のビスフェノールAを、石油から作るのと同等の高純度でリサイクルするケミカルリサイクル技術を開発したと発表した。愛媛県の松山工場(松山市)に05年2月完成予定で年間数百トン処理の実証プラントを建設する。PC樹脂をモノマーに97%の転換率で分解できる。実用化は06年に決定する。

 PC樹脂は光学部品や自動車、電気・電子部品などに世界で年220万トンが使われており、同社は松山工場とシンガポール工場で合計31万トンを生産している。ケミカルリサイクルは副反応が非常に多くてモノマー転換率が低く、世界でもまだ実用化の例はない。

 同社は50度C程度の低温アルカリ分解で解重合、分解のし過ぎを抑制し、副生成物の発生を抑えてモノマー転換率を97%に高めることに成功した。

さすがに業界紙だけあって、メーカーのリリースに載っていない、解重合温度や転換率なんて情報が載っている。

ポリカーボネート樹脂技術研究会のサイトで、ポリカーボネート樹脂はどのようにつくるのですか?を見てもわかるように、ポリカーボネートの合成方法は結構ややこしく、ビスフェノールAを単純に重合するという訳にはいかず、ホスゲン(塩化カルボニルと書いてあるけど、普通はホスゲンと呼ぶ)使ったり、エステル交換反応を使ったりとやっかいだ。

しかしながら、ポリカーボネート樹脂が分解してビスフェノールAは発生することはありますか?にあるように、条件によっては加水分解(解重合)してビスフェノールAが生成するようだから、重合するよりバラバラにする方が簡単とも言えそうだ。もちろん、一部が分解して溶出するのと、完全にモノマーに分解するのは大違いだし、ビスフェノールAが更に加水分解しないようにする必要もある。

ポリカーボネートは光学用途にも使われていて、かなりスペックが厳しいと記憶しているけど、それをクリアできるのだろうか? PETは重合触媒が樹脂中に含まれたままとなるのに対して、PCの場合には触媒は樹脂中にはほとんど残らない点では有利かもしれないが、実際の樹脂には様々な添加剤も含まれているしなあ。

逆にPCは用途が色々あるので、リサイクル樹脂の使い道もあるということかもしれない。(一種のカスケードリサイクルという形式となるかも。) いずれにしても、ケミカルリサイクルの本当の環境負荷は、LCAを含めてきちんと評価する必要があるだろう。モノマーのビスフェノールAが、テレフタル酸やエチレングリコールよりも製造が大変そうな分だけ、PETの場合よりも相対的には有利かもしれないが。

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ココログ9か月

ココログを始めて9か月が経過です。恒例のアクセス状況のチェックです。カウンターの伸びは、この1か月は15500程度となり、前月のオリンピック特需が終わり、やや落ち着いたようです。

 1か月目:900
 2か月目:4500
 3か月目:11700
 4か月目:19000
 5か月目:32300
 6か月目:43500
 7か月目:54500
 8か月目:72000
 9か月目:87700

この1か月の、Ninjaツールの集計によるアクセス解析結果は、あまり当てにならないけど

(1)リンク元
 1位 http://search.yahoo.co.jp (ご存知ヤフーサーチ) 全体の19%(前回1位)
 2位 bookmark (お気に入りに入れてくれた方) 全体の14%(前回2位)
 3位 http://a.hatena.ne.jp 全体の1%(前回3位)
 4位 http://www.search.msn.co.jp(MSNサーチ 全体の1%(前回4位)
 5位 http://www.google.co.jp(ご存知グーグル日本版) 全体の1%(前回5位)

本当は Googleがコンスタントに2位だと思われるけど、Yahooとの差は開いているかもしれない。

(2)検索キーワード
 1位 脳力トレーナー(前回52位)
 2位 アメリカ(前回12位)
 3位 大豆ペプチド飲料(前回61位)
 4位 ポリ乳酸(前回13位)
 5位 肥満(前回18位)
 6位 大豆ペプチド(前回23位)
 7位 合計特殊出生率(前回8位)
 8位 平成17年度(前回21位)
 9位 海面上昇(前回25位)
10位 金メダル(前回1位)

ということで、この1か月はその前とは随分傾向の異なる切り口で来られた方が多かったみたいです。というか、この1か月に書いた新たなエントリに反応して来られた方が少なかったと言えそうですね。内容レベルが落ちているのかな? まあ、マイペースで続けることにしよう。

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2004/10/06

赤色LEDを使った野菜工場

asahi.com(10/5)に、とても印象的な真っ赤な野菜工場の写真付きで載った記事。赤色発光ダイオードの野菜工場で4倍早く収穫

 赤色発光ダイオード(LED)を利用した野菜作りが進んでいる。

 千葉県光町の菓子メーカー「ユース」では自然光を遮断した工場で赤色LEDを24時間点灯し、リーフレタスを水耕栽培している。システムを開発した「コスモプラント」(静岡県袋井市)によれば、赤い光は光合成を促進するため、リーフレタスは露地物に比べ4倍以上早い約半月で収穫できる。苗作りから収穫まで無農薬だ。販売するスーパー側では「苦みが少なく柔らかい」という。

 農林水産省生産局野菜課は「電気代はかかるが、天候に左右されず均質な野菜を安定的に供給できる」と評価している。現在静岡、和歌山など全国4カ所で栽培されており、今後も増える見込みだ。

調べてみると、このシステムと同じものが、北海道・岩見沢で今年の初めから稼動しているようで、こちらは露地物の3分の1で収穫できるらしい。さらに探してみると、LEDの普及に関する調査報告書の p38/72 にLEDの農漁業分野への応用の話が載っている。
一般に、地上の植物には太陽から、紫外から赤外まで幅広い波長の光エネルギーが照射されている。しかしながら植物はその全ての波長のエネルギーを利用している訳ではないため、LED を用いることで植物の生育に有効な特定の波長を選択して照射することが可能となっている。

またLED の特徴である省電力を生かして、他の照明ランプを用いた植物栽培に比べて、省電力・低コストでの植物栽培が可能となっている。
(中略)
栄養面でも一般のレタスに比べて、ビタミンA、C、Eの含有量が高く、ビタミンAについては露地物に比べ14 倍強もの効力を有している。

またハウス栽培のイチゴやトマトにLED を照射すると糖度が増すという傾向があることが分かっている。

とあり、成長が早いだけでなく、栄養面や味の面でも優れているらしい。コスモプラントの情報は、コスモファーム事業部にあり、通常のレタスとの栄養面の比較も載っている。

これで納得してたのだが、ついでに緑色の補色を調べてみると、色と色彩のページにあるように、緑(G)はマゼンタ(M)の補色であり、赤(R)と青(B)を吸収した時の色ではないか。 ということで、改めて光合成に必要な波長を調べてみると、クロロフィルの光吸収スペクトルにあるように、確かに青色(450nm付近)と赤色(650nm付近)の光を吸収するようだ。どうやら光合成には赤色を使うのだが、青色の光も形態形成には重要らしい。

実はこのサイト、植物工場研究所というサイトで、植物栽培用光源に、その辺りのことが詳しく載っていて、ここでは青色LEDと赤色LEDをうまく組み合わせることを提案しているようだ。実現されているのが赤色LED単独なのは、栽培する植物の種類も影響するだろうが、青色LEDのコストの問題が大きいと思われる。

*そう言えば、8/25のブログで紹介した、光合成する冷蔵庫で使われている光は赤色LEDではなく 590nm(アンバー)だった。PC WEBによると、

搭載するLEDの波長は590nmで、色はアンバー(琥珀色)となる。これは、420~470nm(青色)の発芽を促進する波長、そして640~690nm(赤色)の発芽・開花を促進する波長を避け、かつ光合成に有効な波長として選択されたもの。
ということで、きちんと考えているらしい。

*おまけ:上で紹介した調査報告書の p39/72には、LEDの漁業への応用の話が載っていて、

漁業分野での事例としては、水産庁研究指導課が平成14 年度より「青色発光ダイオード集魚灯によるイカつり漁業革命事業」として、青色LED の最大発光波長(450~500nm)が海中での光力減衰が著しく少ないことやイカ類の視感度の最大値(470~490nm)とほぼ一致していることから、集魚灯高原として極めて優れた特性を備えているとされている。
とある。これが実用化されたら見てみたいものだ。壮観だろうなあ。。

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2004/10/05

「やわらかな遺伝子」

原題は "Nature via Nurture" で、直訳すると、「生まれは育ちを通じて」という意味だ。これは、Nature vs Nurture (生まれか育ちか)というフレーズで欧米で長い議論が続いてきた経緯に対して、著者が最新の研究成果までをまとめて出した答えを語呂合わせで表現したものだ。 それにしても、「やわらかな遺伝子」という日本語タイトルは本書の内容を反映していない気がする。

やわらかな遺伝子
 マット・リドレー 著、中村 桂子、斉藤隆央 訳 bk1amazon

本書の冒頭にはドーキンスなどが寄せた本書を絶賛するコメントが掲載されているが、例えば読売新聞の佐倉統さんの書評でも、非常に好意的に紹介されている。確かに非常に中身の濃いサイエンス書だと思う。

本書には、過去から現在までの非常に多くの研究成果が紹介されており、とても興味深く、そして考えさせられる実験結果(エピソード)が沢山載っている。例えば、ここにその一部が紹介されているので参考まで。

通常の日本人が「遺伝子」という言葉に対して持つイメージは、実際の遺伝子の役割や仕事のほんの一部だけに片寄っていると思われる。これは、遺伝子と遺伝という言葉上の問題が大きく影響しているように思え、英語では遺伝(heredity)と遺伝子(gene)は全く別の用語だから、もしかしたら状況が全然異なっているのかもしれない。(その代わり、宗教が生物観に与える影響もまた、日本と欧米では大きく違っていそうだけど。)

本書でも、遺伝子の意味として、

 遺伝の単位、進化の情報を集めた書庫という意味
 ゲノム解析で明らかとなった、互換性のある部品という定義
 壊れたときに病気になるという意味で、病気を防ぎ健康をもたらすものという定義
 セントラルドグマと称される、自己複製とタンパク質の生成を通じての機能発現
 スイッチとして働く、個体発生の単位という定義
 利己的な遺伝子で有名になった、選択される単位としての意味
 環境から情報を引き出す装置としての定義

の7つをあげ、それぞれ例を出して説明されている。素人にとっては理解するのが大変な内容も多く、やや消化不良気味なのだが、本書を読み通すと、遺伝子のこういった様々な側面を垣間見ることで、生まれか育ちか、という論争がナンセンスに思える程、両者は遺伝子で相互に結びついているのだということが見えてくる気がする。

思えば、我々が生きている限り、身体中の細胞で遺伝子がめまぐるしく働き続けているということになるわけで、自分が置かれた環境によって遺伝子の発現にも何らかの影響が現れるのは当然に思える。そして、その積み重ねが今の自分を作り出したのだと考えると、生物の仕組みの不思議さに思いを巡らしてしまいたくなる。

遺伝子やDNAという言葉が日常的な用語として使われるようになった今、果たしてどれだけの人がこれらの持つ役割を正しく理解しているのだろう? 本書を読んだ後には、「○○の遺伝子」のような単純な表現は、相当に警戒して読む必要があることがよくわかる。

本書はとても良質のサイエンス本だと思うけど、内容が濃密過ぎて、素人には読みこなすのにハードルがやや高いかもしれない。それでも頑張って読み通すと、遺伝子や生命というものについて、少し新たで豊かな見方ができるようになれると思う。

ただ、本書には冗長な部分がやや多く、オリジナルでは恐らく理解を助けてくれるのだろうが、日本語ではむしろ理解を妨げる障害となっているような気がするのだが。。 

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2004/10/04

京都議定書関連社説比較

10/1には読売新聞の社説を取り上げたが、他紙の社説も出揃ったので、一通り目を通してみた。

読売新聞(10/1):CO2削減 ロシアの批准で現実化する難題
朝日新聞(10/3):ロシアの批准――京都議定書が生き返る
毎日新聞(10/2):京都議定書 米中にも呼びかけ本腰を
日経新聞(10/3):議定書発効、論より行動を
産経新聞(10/2):京都議定書 原発へのシフトしかない

タイトルを読めば、言いたいことが見えてくるが、何と言っても産経新聞がぶっ飛んでいる。他紙がロシアが批准する背景、アメリカが離脱したままであること、日本の産業界が消極的なことを中心に、当たり障りのない抽象論に留まっていて、日本の進む道についての具体的なイメージを何ら提示できていないのに対して、原発へのシフトしかない、とはその思い切りに恐れ入る。産経の主張(社説)の一部を引用すると、

(前略)

 ロシアが批准することで、これまでは努力目標だった京都議定書が拘束力をもつ国際約束となるが、それだけ日本の責任も重くなる。例えば、日本は一九九〇年を基準年としてCO2の排出量を二〇〇八年から二〇一二年までに6%削減しなくてはならないが、現段階では逆に7%も増加した。このため差し引き13%の削減が必要だ。

 政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・小泉純一郎首相)は、「地球温暖化対策推進大綱」の見直し作業中だが、省エネの徹底、環境税の導入、バイオ発電などの開発に偏り、CO2の国内排出量の四分の一を占める化石燃料発電からの直接的なCO2削減・排除策には消極的だ。

 わが国の場合、省エネ技術は世界最高の水準であり、これ以上効果ある省エネ技術の開発は困難だ。また環境税の導入にも「環境税が化石燃料の利用削減につながるとは思えない」との識者の意見も多い。

 結局、効果が期待できるのは化石燃料発電の大幅削減だ。にもかかわらずその代替としての原子力発電には国民も政府も消極的だ。京都議定書発効を機に“脱炭素”を目指したエネルギー政策の抜本改革に取り組まなければ、日本発の“条約”を自ら破った国との国際非難を浴びることになる。

ということで、タイトルが「原発へのシフトしかない」と挑発的な割には、内容は論理性が欠けていて説得力がないような。。 せっかく、この機会に原発へのシフトを論じるのなら、こんな行きがけの駄賃みたいなセコイ論理では駄目だと思うけど。(そもそも原発へのエネルギー転換を推進するのは確かに一つの見識だけど、今から議論していて間に合うとは思えないし。)

本当にこんな結論でいいのだろうか? もしかして、これは2ちゃんねるで言う所の「釣り」って奴かな? これを契機に地球温暖化問題や原発問題についての議論を巻き起こすのが狙い??

まあ、どの新聞も自分たち(一般の市民)は何もしなくても良いかのようで、真剣に問題意識を持っているようには見えない。最近はアメリカでもハイブリッドカーを持つことがステータスシンボルになり始めているらしいけど、正にこのようなエコプレミアム(資源やエネルギーを使わずにリッチな生活をするというコンセプト)が一つの方向だろうと思うのだが。。

例えば、自動車メーカーが販売する全車の燃費の総合計値(販売台数×燃費:カテゴリー毎に平均走行距離補正をする)が90年に対して削減できれば、その分をメーカーへの何らかの形で利益還元するとか、企業のCO2排出量から差っ引くというような形で、トータルの温室効果ガスの排出削減にインセンティブが働くような仕組みを作れないものだろうか? 細かな所までの整合性を取ろうとすると複雑になりすぎて困難なのは予想がつくが、思い切って大雑把にしてみたら良いのに。(どうせ完璧な仕組みはできないんだから)

それにしても、人々の価値観の転換を図るためには、マスコミの役割がとても大きいのだけど、大手マスコミにその認識が足りないのが一番の問題なのではないか、と考えさせられる各紙社説の論調に脱力。。

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2004/10/01

京都議定書発効の見込み

YOMIURI ON-LINE(10/1)の社説、[CO2削減]「ロシアの批准で現実化する難題」

 「京都議定書」の採択から七年。紆余(うよ)曲折を経ての大きな前進である。

 先進各国に、二酸化炭素など温室効果ガスの削減を義務付けた議定書が、米国抜きで発効する見通しになった。ロシア政府が批准同意案を閣議決定し、近い将来の批准が確実になったことによる。

 議定書は、日本など百二十四か国と欧州連合(EU)が批准している。発効するには、批准した先進各国の二酸化炭素の排出量(一九九〇年)の合計が、先進国全体の排出量の55%以上になることが必要だ。ロシア議会が批准すれば、この条件を満たす。

 議定書が発効すれば、日本が世界に公約した二酸化炭素などの削減が現実の課題となる。政府は早急に、実効ある削減対策を打ち出し、国内対策の道筋をつけなければならない。

 議定書の発効により日本は、二〇〇八―二〇一二年の温室効果ガスの平均排出量を、一九九〇年の基準年比で、6%削減する義務を負う。

 ところが、九〇年以降も温室効果ガスの排出は増え続け、二〇〇二年度には基準年比で7・6%上回った。6%と合わせ13・6%もの削減を迫られている。

 省エネ先進国である日本は、これ以上の省エネには限界がある。6%の削減でも厳しい。13・6%の削減となると、省エネ策や革新的な環境技術の導入などが中心の現在の対策では、目標達成は極めて困難だ。

(中略)

 温室効果ガスの排出の八割は企業が関連している。各企業の正確な排出量の把握が削減対策の前提になる。企業が排出量を公表する制度作りも欠かせない。

 化石燃料に課税し、使途を温暖化対策にあてる「温暖化対策税」の本格的な検討も課題となる。

他紙がまだ本件を社説で扱っていない時点で、読売新聞がいち早くこの問題に対応したことは評価できる。

ところで、2002年の排出量が1990年の +7.6%だとして、目標の -6%に対して 13.6%削減する必要があるというのはおかしくないか? 小学校の算数の問題みたいだが、1990年を 100とした時、目標値が 94、2002年が 107.6ということで、普通に考えたら必要削減量は 13.6/107.6となり現時点に対して 12.6%となるのだが、1990年の排出量に対しては 13.6%となると言いたいのかな?

それと「温室効果ガスの排出の八割は企業が関連している。」というのも、何だか違和感がある。調べてみると、環境省の2002年度の温室効果ガス排出量についてにデータが載っている。排出量を誰に割り当てるか?は難しい問題ではあるが、発電等の一次エネルギーに伴う排出をその使用者に割り当てる方法によると、2002年度の二酸化炭素の排出量と1990年度に対する増減は、

  エネルギー転換部門  6.6%  -0.3%
  産業部門        37.5%  -1.7%
  運輸部門        21.0% +20.4%
  業務その他部門    15.8% +36.7%
  家庭部門        13.3% +28.8%
  工業プロセス       3.9% -14.0%
  廃棄物          1.9% -43.2%

となっている。確かに、家庭部門以外の86.7%を企業に関連した排出と言えるんだ。 しかし、各部門の1990年の排出量に対する比を見ると、運輸・業務・家庭部門での伸びが著しく、コンビニを始めとした最近のライフスタイルが影響していると思われる。何故増えたのかを論じずに、企業に対して一方的に削減努力を要請するのも筋が悪いと思うのだけど。

今日のところは、関連記事としては
 朝日:京都議定書、05年にも発効へ ロシアが批准へ閣議決定
 読売:京都議定書、来春にも発効…露政府が批准法案を承認
 読売:露の京都議定書批准にも米報道官「議定書正しくない」
 毎日:京都議定書:ロシアが批准法案を閣議決定
 毎日:京都議定書批准:ロシア決定 WTO加盟にEUの支持狙い
 毎日:京都議定書:露批准案決定 排出量削減、重い課題に--産業界、一層の対策迫られ
 毎日:豪総選挙:京都議定書の批准問題 争点として急浮上
なんてところ。毎日が多面的な記事を書いているように見える。

排出量取引き等の取り組みに加え、環境税の導入検討や企業への更なる努力要請は当然としても、それに加えて「ライフスタイルを変える必要があるぞ!」という主張を誰がしてくれるのか楽しみにしていよう。

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