「シックハウス」
本書は、地球と人間の環境を考えるというシリーズの第9弾。このシリーズについては、このブログでも、No.5 エネルギー、No.7 水と健康、No.8 ごみ問題とライフスタイルを取り上げている。
日本評論社 シリーズ 地球と人間の環境を考える 9
シックハウス 健康で安全な家をもとめて
中井 里史 著 bk1、amazon
著者のホームページはこちら。
このシリーズは、地球温暖化、ダイオキシン、環境ホルモン等の環境問題をテーマに、世の中にありがちな恐怖・警告本に対して必要に応じて反対する科学的な立場を取り、冷静に問題の本質を探るシリーズとなっている。しかし、本書は突っ込みが不足というか、確かに扱う対象が漠然としているのだろうけど、それにしても歯切れが悪く、新たな発見や驚きに乏しい。それと、全体的に内容が平易というか、いわゆる一般の人々や中高生あたりを対象者と設定した内容のようだ。
そもそも、本書ではシックハウスと化学物質過敏症を意図的に一緒にして扱っている。最初の方では、両者は全く別物であると断り書きもしてあるのだが、何故か途中からは、この両者をまとめて論じているのだ。化学物質過敏症とシックハウスに関しては、当ブログでも2/15や2/28に取り上げているが、現時点で明確な定義付けのできる病気なのかどうか極めて微妙だし、ましてや化学物質との因果関係となると、少なくとも化学物質過敏症に関しては否定されていると考えても良いのではないか。
本書の主題はこれらの症状の原因やその作用機構を探るようなものではないので、「そういう病状が存在する」という事実を出発点として、どんな生活環境をどのように作り上げていくべきかを考えたものとなっている。
従って、シックハウス症候群については、実際に悩める人々の具体例がいくつか載っているだけで、その数については
では、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者は、いったいどのくらいいるのだろうか。と書かれているだけだ。そもそもの病気の定義があいまいなのだから、患者数の推定がアバウトなのは仕方ないのかもしれないが、これでは、この問題が他の様々な問題の中でどの程度重要な問題なのかの位置付けができないと思うのだが。ましてやここで、シックハウス症候群と化学物質過敏症を一緒にしちゃいけないと思うのだけど。人口の10%くらい(!)が患者だろう、との指摘もある。おそらく公表されているデータとしてはもっとも小さい値の一つだと思うが、4000人を対象として聞き取り調査したところでは、0.74%の人が患者となる可能性があるという。
10%よりはだいぶ小さいが、それでも0.74%という数字を使って全国の化学物質過敏症の患者(予備軍かもしれないが)を推定すると、成人で約70万人になる。調査で得られた数字がどの程度正しいのかについては十分に検討しなくてはならないが、かなりの数であることはたしかだ。(p.34)
本書では、いわゆる家の建材などから出る有害化学物質の他にも、家具、防虫剤、ダニやカビなどの生物、あるいは外気環境などがこれらの症状に影響することや、部屋の気密性や生活スタイルが影響している点などについて、具体例を示して述べられている。同じ部屋でも測定の時期などによって大きくばらつくことなども示されていて、問題が複雑であることは理解できる。
更に極端な化学物質過敏症の場合は、合成化学物質を嫌って作った天然木のムク材などを使った家でも、天然木から発散する成分が問題になるケースがあることなども紹介されているが、こういうケースが全体の中でどのくらいの割合で存在するかが重要のように思う。レアケースはレアケースとして対応し、それがために全体の方向を間違ってはいけないだろう。
著者は横浜国立大学で中西準子さんの流れを汲む研究グループのメンバーなだけに、もっと鋭い突っ込みを期待したのだが、著者みずから、本書では明確な方向性や結論を打ち出すことができていない、と書いている。このシリーズは、基本的な科学的素養のある人を対象として、誤解を恐れずに科学的な視点を真正面から提示するところに価値があると思っていたので、残念だ。。
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