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2004/10/29

「あぶない脳」

最近は脳科学関係の本が目立つような気がする。著者の澤口さんの名前も時々目にするので、手軽に読めそうな本書を読んでみることにした。

ちくま新書 497
 あぶない脳
 澤口 俊之 著 bk1amazon

帯には大きく 「取扱注意!」 と書かれているけど、注意が必要な本であることは確かのようだ。以前、やはり若手の脳科学研究者である池谷裕二さんの「記憶力を強くする」(ブルーバックス、bk1amazon)を読んで、脳科学分野(主として記憶についてだが)の面白さに感動し、興味も深まったのだが、本書はそれとは随分と趣きが異なる。

読みながらずっと感じていたのは、話の進め方が竹内久美子の遺伝子ものに似ているな、ということだった。本書のストーリーのベースとなっている脳の話とか人間や動物での実験については確かな事実だと思われるのだが、そこから結論を導く過程にかなり強引で大きな飛躍が含まれているのだ。本人自ら

あまりに自分流の研究や言動が多いので、世に誤解の種をまくことも少なくない。一見トンデモないもの言いや自説を出すのも得意だ。そのせいもあって、インターネットなどを見ると、私への悪口がたくさん流れている。(p.42)
と書いているところを見ると、自覚はあるようだけど。 一部の事実から全部がそうであるかのように結論付けたり、単なる相関関係が因果関係にすり代わったりという点もあるようだ。さらに、どこまでが事実でどこからが仮説・自説なのかの線引きがあいまいだったり、自説を述べる時も断定調の文体なのも問題だろう。

著者は、教育、凶悪犯罪、児童虐待、少子化などの様々な現代の社会問題に大きな危惧を抱いていて、それに対して自分の専門の脳科学の知見を活かして、何か有用な提言をしたいというのが本書のテーマらしい。 これらの問題に対する著者の主張そのものが既に「あぶない」気がするのだが、それはともかくとして、その主張を展開するための論理として、著者自身がこれは科学論文ではないからということで、意識して強引な進め方をしているように見えなくもない。たとえば、

最近、PQ(前頭連合野が担う知能)が未熟な人たちが増えている。電車内で平然と化粧するような恥知らずな若者に始まって、ストーカーや身勝手な不倫、さらには公務員や政治家による汚職や犯罪、大企業の不祥事とその隠蔽……。「幼稚」と断ずるしかない人々が目立ってきているのだ。いわば「PQ未熟症候群」である。

そして、児童虐待をする親のPQも、要は未熟なのだ。(中略)そして、PQはセロトニンを始めとした、性格や感情・意欲に関係した脳内ホルモンに支えられている。PQがうまくはたらけば、子どもに愛情をもって接し、未来志向的にきちんと育てるはずなのである。(中略)かくして、児童虐待は準遺伝し世代を超えて脳を壊すのである。壊れた脳は、児童虐待にとどまらず、様々な社会的問題行動を起こしやすい。(p.135~137)

なんて文章読んだら、おいおいって突っ込みたくなるのが普通だと思うんだけど。。

ということで、本書の内容を正面から受け止めてしまう人にはお勧めしないが、出てくる最新の知見とか実験結果なんかは結構面白いものも多いので、問題点があることも知った上で、それを含めて楽しめる人にはお勧めかもしれない。

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