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2004/10/05

「やわらかな遺伝子」

原題は "Nature via Nurture" で、直訳すると、「生まれは育ちを通じて」という意味だ。これは、Nature vs Nurture (生まれか育ちか)というフレーズで欧米で長い議論が続いてきた経緯に対して、著者が最新の研究成果までをまとめて出した答えを語呂合わせで表現したものだ。 それにしても、「やわらかな遺伝子」という日本語タイトルは本書の内容を反映していない気がする。

やわらかな遺伝子
 マット・リドレー 著、中村 桂子、斉藤隆央 訳 bk1amazon

本書の冒頭にはドーキンスなどが寄せた本書を絶賛するコメントが掲載されているが、例えば読売新聞の佐倉統さんの書評でも、非常に好意的に紹介されている。確かに非常に中身の濃いサイエンス書だと思う。

本書には、過去から現在までの非常に多くの研究成果が紹介されており、とても興味深く、そして考えさせられる実験結果(エピソード)が沢山載っている。例えば、ここにその一部が紹介されているので参考まで。

通常の日本人が「遺伝子」という言葉に対して持つイメージは、実際の遺伝子の役割や仕事のほんの一部だけに片寄っていると思われる。これは、遺伝子と遺伝という言葉上の問題が大きく影響しているように思え、英語では遺伝(heredity)と遺伝子(gene)は全く別の用語だから、もしかしたら状況が全然異なっているのかもしれない。(その代わり、宗教が生物観に与える影響もまた、日本と欧米では大きく違っていそうだけど。)

本書でも、遺伝子の意味として、

 遺伝の単位、進化の情報を集めた書庫という意味
 ゲノム解析で明らかとなった、互換性のある部品という定義
 壊れたときに病気になるという意味で、病気を防ぎ健康をもたらすものという定義
 セントラルドグマと称される、自己複製とタンパク質の生成を通じての機能発現
 スイッチとして働く、個体発生の単位という定義
 利己的な遺伝子で有名になった、選択される単位としての意味
 環境から情報を引き出す装置としての定義

の7つをあげ、それぞれ例を出して説明されている。素人にとっては理解するのが大変な内容も多く、やや消化不良気味なのだが、本書を読み通すと、遺伝子のこういった様々な側面を垣間見ることで、生まれか育ちか、という論争がナンセンスに思える程、両者は遺伝子で相互に結びついているのだということが見えてくる気がする。

思えば、我々が生きている限り、身体中の細胞で遺伝子がめまぐるしく働き続けているということになるわけで、自分が置かれた環境によって遺伝子の発現にも何らかの影響が現れるのは当然に思える。そして、その積み重ねが今の自分を作り出したのだと考えると、生物の仕組みの不思議さに思いを巡らしてしまいたくなる。

遺伝子やDNAという言葉が日常的な用語として使われるようになった今、果たしてどれだけの人がこれらの持つ役割を正しく理解しているのだろう? 本書を読んだ後には、「○○の遺伝子」のような単純な表現は、相当に警戒して読む必要があることがよくわかる。

本書はとても良質のサイエンス本だと思うけど、内容が濃密過ぎて、素人には読みこなすのにハードルがやや高いかもしれない。それでも頑張って読み通すと、遺伝子や生命というものについて、少し新たで豊かな見方ができるようになれると思う。

ただ、本書には冗長な部分がやや多く、オリジナルでは恐らく理解を助けてくれるのだろうが、日本語ではむしろ理解を妨げる障害となっているような気がするのだが。。 

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コメント

「致死遺伝子」という言葉を聞いて現代的な意味を理解できる人がどれだけいることやら(笑)

高校生物さえ選択しない人が多く、特に成績の優秀な人ほど「つぶしが利く」物理と化学を選択するという傾向を考えると恐ろしくなります。生物は必修にして頂きたいものです。

投稿: ESD | 2004/10/06 05:57

ESDさん、どうも。

致死遺伝子の現代的意味って何でしょう? 調べていたら、啓林館という出版社が高校の理科教科書の解説などを Web で公開していて、理科総合Bの中でhttp://www.keirinkan.com/kori/kori_synthesis/kori_synthesis_b/contents/sy-b/3-bu/3-1-3.htm">いろいろな遺伝の一部として載っていました。結構詳しく書かれているんですが、残念ながら理科総合Bというのは全員に必修の教科ではないようです。

この周辺を見る限り、遺伝子やDNAの取り扱いについては、思ったよりもあっさりしてるみたいです。こんなんで、遺伝子組み換えとかクローン技術などについて理解できるレベルに到達するんでしょうか? 

投稿: tf2 | 2004/10/06 20:16

あ、これは単に「正しい意味」って程度でした(^_^;。変に格好付けた物言いになっていたようで。
つまり、「致死遺伝子」と言われると何だか「普通のゲノムには存在しない、有害な毒か何かを作るような有害な遺伝子」であって、「正常なゲノムの遺伝子座の複対立遺伝子の一種で、生存に重要な遺伝子が変質したもの」とは思わないだろうということです。ネズミの体毛の話を知っていてもそんなものかも、と思ってしまいます。

「理科総合」は、文系でも学んでおいて欲しい科学という位置づけの科目なので、理系はやりません。でも、よく考えたら高校生物でも真核生物の「セントラルドグマ」って勉強しないんじゃないかな。おいおい。

投稿: ESD | 2004/10/07 01:13

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