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2004/11/30

「科学技術はなぜ失敗するのか」

この著者の本は、7/9の記事で「ココがわかると科学ニュースは面白い」という本を紹介している。その際には、正直に言ってあまり良い印象はなかったのだが、本書はタイトルが気になったので、読んでみることにした。(よく考えると科学技術は失敗したり成功したりするものではないような気もしないではないのだが。。)

中公新書ラクレ 154
 科学技術はなぜ失敗するのか
 中野 不二男 著 bk1amazon

読み始めてみると内容に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。本書は、「中央公論」に「ニュースの科学方程式」として連載していたコラム18編をまとめたもの。「ココがわかると科学ニュースは面白い」の時の中途半端な印象が消え、読み応えのある本に仕上がっている。

それにしても、本書はタイトルと内容が一致していないと思う。タイトルに釣られて読むと多少なりとも肩透かしを食ってしまう。いかにも、個々の失敗例を解析して、如何にあるべきか、を問うような「失敗学」なのかと思いきや、この本ではもっと大局的な視点で現状を解析している。つまり、日本の宇宙開発などで今まで起こったそれぞれの失敗の背景には、日本という国には科学技術についてのビジョンが無いことや、科学的センスのない官僚や政治家が国家プロジェクトを牛耳っている実態があるのだ、というようなことを語りかけている。

具体的な内容や著者の視点も面白い。特に著者お得意の宇宙開発関連では、NASAのスペースシャトル事故の原因究明と日本のロケット打ち上げ失敗後の対応について、その相違を背景の国家ビジョンまで視野に入れ、真の問題点はどこにあるのかが比較的丁寧に語られる。スペースシャトルの事故原因についても、とてもわかりやすくまとまっている。また、日本の宇宙開発体制が最近大きく変わったことについては、単なる民営化や合理化の流れで片付けるのではなく、その背景の様々な問題点が提示されている。

面白かったのは、第二次世界大戦の際の日本の零戦とアメリカのグラマンの性能を総合的に比較して、その設計思想や戦略を読み取る話。零戦は徹底的な軽量化によって圧倒的な旋回性能や最高速度を誇っていたが、逆に防御力を最初から考慮していない設計となっており、グラマンが旋回性能や速度を犠牲にしても厚い鋼板等で攻撃に備えたのと対照的となっている。これがそのまま、日本は失敗率0%思想にとらわれていることの実例で、今の原発等の安全神話につながる、というストーリー展開はどうかと思わないでもないが、確かに失敗率0%の考えはゼロリスクとも共通する、諸悪の根源の一つだろう。

一方、宇宙開発や南極観測にどの程度のお金を投入すべきなのか、という問題はなかなか難しい。今までどおりに、国家間の争いが続くという前提に立てば、独力で一通りの設備や能力を持つことが必須なのだろう。しかし、地球全体を見る視点からすれば、極力無駄な開発はやめ、効率的な役割分担を行って、むしろ現実に地球上で起こっている色々な問題の解決のために有効な投資をするべきかなとも思う。

著者はもともと、日本の宇宙開発へのスタンスが余りに近視眼的で、長期的な展望に欠けることを憂いて、この本を執筆したのかなと思われる。しかし、本書を読んでいるうちに、想いはそこからさらに広がり、日本を今後どんな国家にしたいのか、世界は今後どうなっていくのか、といった長期的で大局的なビジョンを出発点として物事を考えている人が、この国のトップにどれだけいるのだろう? と思わず考えさせられてしまった。

アメリカを始めとするよその国のやり方が正しくて、日本のやり方も駄目なものばかりではないと思うし、著者の主張に全て同意するわけではないのだが、本書が提起していることは確かにとても重要な問題だと思う。

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2004/11/29

世界最大のリゾットと飢餓を考える

CNN.co.jp(11/27)の記事。豪州、「7.5トン」の巨大リゾット、世界の飢餓を訴え

シドニー(ロイター) オーストラリア・シドニーのハーバーブリッジで26日、国内のシェフ、ボランティアらが重さ7.5トンの巨大リゾットを完成させた。ギネスブックに認定されれば、これまでの記録(6.3トン)を抜き、世界最大の「米料理」となる。

ハーバーブリッジのたもとに設置した長さ10メートル、幅3.6メートルの楕円形状の巨大鍋に、米1.6トン、スープ4400リットル、冷凍エンドウ豆800キロ、サフラン1.5キロ、チーズとバター600キロ、ニンニク20キロ、タマネギ、セロリを600キロ入れて煮込んだ。ボランティアらはボートのオール大もあるしゃもじで、鍋をかき回した。

出来上がりには3時間を要したという。

この催しは、国連が定める「国際コメ年」にちなむと同時に、世界中で起きている飢餓問題の存在を訴えるもの。国連によると、世界で8億4000万人が栄養不良の状態にあり、そのうち2億人が子供。また、飢えのため、毎日2万5000人が死亡している、という。

リゾットは募金した市民らに振る舞われた。売り上げは世界の食糧問題に取り組んでいる団体「CAREオーストラリア」に寄付する。

飢餓問題を訴えるのを目的として、世界最大のリゾットを飢えていない人々に食べてもらうというのが、何となく自己矛盾をはらんでいるようで不思議な催しだ。それよりは、直接その食料を飢えている人々に送った方が良いのではないか?

もう少し詳しい情報は、SBS Newsなどで読めるが、

The cookup, in aid of the United Nation's International Year of Rice, aimed to raise $100,000 for CARE Australia to help fight world hunger.

The vegetarian recipe involved one and a half tonnes of rice, almost a tonne of peas, 4,400 litres of stock, 320kg of parmesan, 1.5kg of saffron, 80 litres of olive oil and 20kg of crushed garlic, and serves 5,000 people.

It was served to the public for a gold coin donation.

とあり、どうやら、ゴールド・コイン・ドネーションにより、5,000人に振舞われ、全部で100,000ドルを集めるのが目標だったようだ。オーストラリアでは、ゴールド・コイン・ドネーションというのが比較的日常的に行われているらしい。ゴールド・コインというのは、1$もしくは2$のコインのこと。(1オーストラリアドルは約80円)

ん? 一人当たり 2$ の寄付としても全部で $10,000 にしかならないぞ? しかも、これだと一人 1.5kg になるけど、いくら何でも多すぎるような。。 ということは 50,000人の間違いか??

この団体、CARE Australia のページでMedia Releaseを読んでみると、今回のイベントは、イラク戦争の陰で目立たないけど、長年続いているスーダンの内戦の影響で現在も進行している大規模な飢餓等への支援を最優先としている。スーダンの飢餓問題については、国境なき医師団に詳しい。

なお、今年が国際コメ年だったというのは、どこかで聞いたことがあるような気もするが、全然意識していなかった。(けど、あと1か月で終わっちゃう)公式のホームページは、国際コメ年。コメが世界の過半数の人の主食であって、食物供給エネルギーとしても世界の20%で小麦を上回っているとは知らなかった。

*冒頭の疑問について考えると、集まったお金(約800万円?)を有効に使用すれば、7.5トンのリゾットよりは、桁違いに多量の食料が購入できるはずだし、この人達はこのリゾットを食べなければ別の何かを食べたのだろうから、人々への認知効果も考えると (こうやって日本で関連記事を書いたり、読んだりする人まで出てくるわけだし)、結構有意義な使い方だったと言えるのかな。

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2004/11/26

鳥インフルエンザ流行で死者数百万人

CNN.co.jp(11/26)の記事。WHO、鳥インフルエンザ流行に警鐘、死者数百万の恐れ

バンコク――世界保健機関(WHO)は25日、鳥インフルエンザが近い将来大流行し、死者が数百万人に上る恐れがあるとの警告を発した。インフルエンザ対策を担当するクラウス・シュトール氏が、バンコクでの記者会見で語った。

バンコクでは同日から、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国の保健担当閣僚らが参加して、鳥インフルエンザへの対策を話し合う会議が始まった。クラウス氏はこれに合わせた会見で、「流行は来週から数年後までのどの時点で起きてもおかしくない」と強調。アジアで発生した鳥インフルエンザが全世界に広がり、感染者は全人口の25-30%に上るとの見通しを示した。その場合の死者は「楽観的にみても200万人から300万人に達する」という。

インフルエンザの大流行はこれまで20-30年ごとに起きてきた。人間が免疫を持たない新型のウィルスが猛威を振るい、1918-19年の「スペインかぜ」では5000万人、57年の「アジアかぜ」では70万人が死亡したとされる。シュトール氏によれば、こうした大流行は過去36年間起きていないため、次のサイクルは鳥インフルエンザが引き起こすとの見方が強まっているという。

鳥インフルエンザではこれまでに、タイとベトナムで32人が死亡。人から人への感染が疑われる例も報告されている。米企業などがワクチンの開発を進めているが、完成は早くても来年3月以降になる見通しだ。

ということで、バンコクで行われた鳥インフルエンザ対策の国際会議の席でWHOから出たコメントのようだ。この会議の意義を強調する意図もありそうだが、まあ、可能性だけなら何とでも言えそうだ。それにしても、現時点では鳥インフルエンザに関しては有効なワクチンもないわけで、一般の人々にどうしろと言いたいのだろう? 

確かに人への感染能力を持ったウィルスが一旦広がり始めたら、蔓延を食い止めるのは結構大変そうだけど、SARSのように徹底的な隔離ができれば、そこそこの効果はあるはずだし、少なくとも昨年までよりは各地で警戒しているのだから、「死者は楽観的にみても200万人から300万人」というのは、いくら何でも誇張しすぎに思えるけど。。

ところが、英語の記事を探してみたら canada.com では

He said the virus would cause a "a public health emergency," and estimated it would cause two million to seven million deaths and make billions of people ill.
と書かれており、同じクラウスさんの言葉として、死亡者数が最大700万人となっているから、日本の記事は少しは遠慮したのかもしれない。(WHOのサイトには特に関連するリリースは掲載されていないようだ。)

そもそも、インフルエンザが20~30年周期で大流行するメカニズムは何かあるのだろうか? 大地震が数十年周期で起こるというのとは話が違うと思うのだが。それに、インフルエンザの場合には、明らかに人間社会の変化が流行の程度に影響するはずで、何十年も前の流行から周期を推定することにどれだけの意味があるのやら? Wired NewsにはSARSは宇宙からやってきた?という記事が載っていて、スペイン風邪も SARS も宇宙から来たウィルスが起源という説もあるようだし。。

ところで、たまたま FujiSankei Business i(11/26)に米でインフルエンザ予防接種ツアーが活況、カナダなど観光とセットという記事が載っている。アメリカの大手ワクチン製造会社が作った今年のワクチンが出荷停止となったため、ワクチン不足となって、カナダやメキシコにワクチンの接種を受けに行くツアーが大人気なのだそうだ。

この記事によると、アメリカでは毎年約33000人がインフルエンザで死亡しているとのこと。インフルエンザで死亡するのは、老人や幼児等、或いは病気の人など、いわゆる弱者が多いと思われる。だとすると海外までワクチン接種ツアーに行けるのは、その正反対のリッチで元気な人々が大部分だろうから、今年は死亡者が相当に増える恐れがありそうだ。

ところで、アメリカのインフルエンザ死亡数から単純に人口の比率で全世界の死亡者数を計算すると、約74万人となる。インフルエンザの流行しそうもない地域の分を割り引き、逆にワクチン接種率やその他衛生状態の低い地域の分を割り増して考えると、年間数百万人の死亡というのは、それほど驚くべき数字ではないのかもしれない。なお、日本ではインフルエンザによる死亡者は年間数百人から千数百人とされているが、いわゆる超過死亡は1万人のオーダーで存在するようだ。(参考

厚生労働省のインフルエンザに関するページは、今冬のインフルエンザ総合対策について(平成16年度)らしい。Googleで検索するとトップに出てくる厚生労働省インフルエンザ対策キャンペーン ホームページは更新もされずに忘れ去られてしまったらしい。。

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2004/11/25

低公害車ガイドブック2004

少し前に、環境省が低公害車ガイドブック2004を発行したというニュース(EICネットニュース(11/8)など)が載っていた。

全低公害車157車種の情報を掲載 『低公害車ガイドブック2004』刊行

 日本国内で入手可能な全ての低公害車の情報を網羅した『低公害車ガイドブック2004』が2004年11月中旬に刊行されることになった。

 このガイドブックは環境省、経済産業省、国土交通省の3省が、国内の自動車メーカーの協力により、1996年度から毎年作成しているもの。

 電気自動車、燃料電気自動車、天然ガス自動車、ハイブリッド自動車などさまざまなタイプの低公害車について、排出ガス性能、価格、メンテナンス体制などの最新情報を整理して掲載しているほか、低公害車導入のための各種支援措置に関する情報も掲載されている。

 04年版は、電気自動車24車種、燃料電気自動車9車種、天然ガス自動車63車種、ハイブリッド自動車13車種、低PM認定車などその他48車種--計157車種の情報を掲載している。

 なおこのガイドブックは、各省庁や地方公共団体等に頒布するほか、一般にも有償(予定価格:2,100円)で頒布する予定。頒布問合せ先は(財)環境情報普及センター

ということで、定価2100円の書籍なのだが、このほど環境省のサイトに掲載された。低公害車ガイドブック2004がそれ。ブロードバンドの普及が進んだ現在、この本を2100円出して購入する意味があるかどうか。

さて、このガイドブックでは現時点の低公害車が乗用車から商用車まで網羅されているし(燃料電池車等まだ試験段階のものも載っている)、関連するインフラや支援措置についての情報も掲載されており、かなり便利な情報源として使えそうだ。例えば新たな低公害車が登場した時に、ここに掲載されている車のスペック表と比較したりできる。

ところで、ここに掲載されている車を眺めていると「低公害車」って何? という疑問が生じてくる。いわゆるHC、CO、NOx、PMといった大気汚染物質の排出が少ない車と、燃費の良い車が混在しているように見えるのだが。(燃費が良いということは、単位輸送量当たりの大気汚染物質の排出量は当然少なくなるんだろうけど。)

ということで、その定義に触れている箇所を見ると、「低公害車(電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車、ハイブリッド自動車及び低燃費かつ低排出ガス認定車)」とか、「低公害車は、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)等の大気汚染物質の排出が少ない、または全く排出しない、燃費性能が優れているなどの環境にやさしい自動車です。」と書かれており、具体的には以下の6区分を対象としているらしい。
 ・燃料電池車
 ・電気自動車
 ・天然ガス自動車
 ・メタノール自動車
 ・ハイブリッド自動車
 ・低燃費かつ低排出ガス認定車
これは、グリーン購入法で定める「低公害車」の定義とほぼ同じみたいだ。

「低公害」という言葉の定着度からみて、今さら変えられないのかもしれないが、今後はますます低公害よりも省資源や低排出等、低環境インパクトであることが望まれる筈だ。単なる低排出や低燃費ではなく、全ライフサイクルでの環境へのインパクトのような新たな指標の導入と定着を、環境省が率先して目指して欲しいものだ。

個別に眺めてみると、意外と知らなかったのが、ハイブリッドバスとか、ハイブリッドトラックといったディーゼルハイブリッド。ちょっと探してみると、FujiSankei Business(11/15)に、商用車も環境配慮、ハイブリッド車需要拡大という記事もあり、ハイブリッドが商用車にも流行の兆しを見せている。

なお、この日産ディーゼルのハイブリッドトラックは、電池ではなくキャパシタを蓄電に使っている点も特徴のようだ。

ところで、注目はどうしても燃料電池車に集中する傾向があるし、以前は将来の花形として語られていた感のある電気自動車も、今や大手メーカーからは既に見放されてしまったみたいだ。でも、それ故なのか、光岡自動車チョロキューモーターズゼロスポーツなど、個性的な車やバイクなんかが並んでいて、ちょっと楽しい。意外と特定の用途には(燃料電池車までのつなぎかもしれないが)生き残りそうな気がする。

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2004/11/24

カムカムとビタミンC

NIKKEI NETの新製品ニュース(11/24)の記事から、日本ハム、「カムカム」の粉末ドリンク

 日本ハムは植物の中で最も多くビタミンCを含むといわれる果実、カムカムを使った粉末栄養剤「カムカム美潤(びじゅん)ドリンク」=写真=の通信販売を始めた。1袋を150ミリリットルの水に溶かして飲む。1日の所要量の2倍にあたるビタミンCや、肌の保水効果があるとされるヒアルロン酸などを豊富に取れる。甘い香りとさわやかな酸味に仕上げた。140グラム(10袋)入りで、価格は5880円。年内に限り初回は4200円で販売する。
「カムカム」って初めて聞いた。調べてみると、確かに沢山みつかる。Amazon Herb によると、カムカム(Camu Camu)は南米の潅木で、フトモモ科の植物、グアバの仲間とある。確かに、カムカムの果実のビタミンCの含有量は世界一らしく、最近はそれが注目されアマゾンで本格的な栽培を始めているらしいから、今後地球環境問題とも関係が出てくるかもしれない。

カムカムを取り扱うアマゾンカムカム株式会社のサイトがあり、浜名湖花博に出展されていたようだ。また、カムカムの成分表は、ここに載っている。こちらには、

『カムカム』は、アマゾンの恵みを最大限に取り入れた100%天然フルーツです。
最大の魅力であるビタミンCはビタミン群の中では唯一の水溶性で、過剰摂取しても体内に残留されません。
また合成ではなく天然ビタミンCですので、体内への吸収が良く、副作用の心配もまったくありません。
という宣伝文句が出てくるが、天然だろうが合成だろうが、ビタミンCはビタミンCで物質名としてはアスコルビン酸で、何の違いも無いはずなのだが。。(それに過剰摂取は、吐き気や下痢の可能性があるようだし。)

国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報に、ビタミンCの解説が載っている。所要量は1日100mgで、実際に普段の生活でそんなにビタミンCが欠乏しているわけではなさそうだが、武田の C1000タケダのQ&A などでは、1日1000mgの摂取を勧めているようで、そうなると通常の食品からの摂取だけでは難しそうだけど本当にそんなに大量に必要なのかな。(1日にレモン1kgとか、いちご2kgとかの量になってしまう。さすがにアセロラは80g、カムカムなら30gでOKだが。)

ビタミンCを補給するだけだったら、それこそ C1000タケダ どころか、アスコルビン酸錠剤を直接飲んじゃうという手もないではないのだろうし、わざわざ高価なカムカムを飲むとしたら、むしろビタミンCの量だけでなく、別の付加価値で勝負するべきだと思うけどね。。 というか、カムカムそのものを食べてみたい気はしないでもないが、残念ながら原則として果実や苗は輸出していないのだそうだ。

*日本ハムのネットショップサイトに行ってみると、「日本ハム楽天ファインショップ}というのと「日本ハムライブドアファインショップ」というのがあって、微笑ましい。今後どうするんだろう? ちなみに、何故かカムカムは見つからなかった。

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2004/11/23

「テレビの嘘を見破る」

普段紹介している科学系の本ではないけど、メディアリテラシーは色々な問題を考える上で重要なポイントの一つでもあり興味がある。本書は、テレビドキュメンタリーについて、そのあり方、特にやらせや捏造問題について、いわゆるテレビ側の人間が過去の例を検証する形で考えていく本。タイトルはテレビの嘘となっているが、対象はあくまでもドキュメンタリー番組に限られている。

新潮新書 088
 テレビの嘘を見破る
 今野 勉 著 bk1amazon

普段、テレビドキュメンタリーの裏側のことなんか何も考えたことがないのだが、本書はそういう人でも十分に興味深く読み進むことができる、というか、そんな人が興味を持って理解できるような工夫がなされている。何しろ、冒頭から非常に面白い実例が沢山出てきて考えさせられる。テレビ番組を作るに際して、製作側は様々なテクニックを使っているようだが、果たしてどこまでの操作は許されるもので、どこからが捏造、やらせになってしまうのか?

ドキュメンタリーとは、あるがままの現象を収録したもの、という程度に漠然と考えていたが、どうしてどうして、真実とは何かとか、テレビ番組の存在意義は何か、といった深~い問題まで考えさせられてしまう仕掛けとなっている。

ドキュメンタリーを作る側が仕掛ける様々なテクニックを、まるで手品の種明かしを見るような感覚で楽しめる側面もあるが、それと同時に、普段我々が目にすることのない、プロの作り手のドキュメンタリーについての色々な考え方を見せてもらい、非常に面白かった。

映画の始まりまでさかのぼり、歴史的な経緯も含めて語られる様々な実例は、門外漢にとっては、そのひとつひとつが新鮮で、驚きに満ちている。まあ、住む世界が違うと常識も違うということだ。著者は、従来あまり一般視聴者向けに語られることのなかった、ドキュメンタリー作成の裏側の事情を、率直にさらけだすことで、できるだけ視聴者側の立場に立って一緒に考えるという姿勢を貫いている。

結局、製作側がどこまで手を加えることが許されるのか? その基準は業界側の人達でもひとりひとり異なるようだし、本書でも明確な答えは出ていない。でも、確かに微妙な問題なんだなということは十分に伝わってくる。

今まで、バラエティ番組などは最初から眉唾で見ていた一方で、ドキュメンタリー番組は比較的素直に見ていたように思う。でもこれからはドキュメンタリーに関しても、少しは醒めた見方をすることになりそうだ。でも、それはより深みのあるものの見方なわけで、悪くないと思える。むしろTVを情報源の一つとしている以上、メディアリテラシーの一環として本書の内容程度は知っておいて損はないと思う。

総じて、著者が真剣に語りかけてくれているので好感が持てるのだが、あえて注文するとすれば、今回取り上げたような微妙なケース以外にも、明らかにアウトになるような捏造の例も取り上げることで、アウトとセーフの境界線をもう少し明確にしてもらいたかった。

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2004/11/22

医療と美容の間

京都新聞電子版(11/22)の記事。無資格でまゆにアートメイク 京都府警、容疑で2人逮捕

 医師の資格がないのに、女性客のまゆやまぶたに入れ墨する「アートメイク」を施したとして、京都府警生活経済課と太秦署は22日、医師法違反の疑いで、京都市右京区西院三蔵町のエステティックサロン「YGREK(イグレック)」経営高木芳江容疑者(27)=下京区黒門通四条下ル=と従業員(27)の2人を逮捕した。

 調べでは、高木容疑者ら2人は、昨年5月から今年10月にかけて、医師免許がないのに、南区の女性(24)ら市内の4人の女性客に、まゆ毛や目の周囲に電動器具を使って色素を注入する医療行為を計11回施した疑い。高木容疑者は「法に触れるとは知らなかった」と供述しているという。

 府警によると、同店でメイクを受けた客の1人が、「目がはれて痛い」と医師の診療を受けて、同署に相談したことから発覚。高木容疑者らは、1回あたり約2万-3万円でメイクを施していた、という。

 アートメイクは化粧の必要がないとして、数年前から女性に人気のある美容の手法。医療行為に当たり、厚生労働省は医師の資格外でのアートメイクを禁じている。

全く守備範囲外の事件なので、へー! というだけなのだが、考えてみると中々興味深い。江東区のページに、レーザー脱毛・アートメイク・ピーリング等についてという記事があり、アートメイクだけでなく、レーザー脱毛なども医行為であり、医師免許が必要と書かれている。

アートメイクというのが違法なら、刺青はどうなんだということで、調べてみると、inked skin under dark suitsで、刺青側の視点から非常に詳細に考察されていて勉強になる。もともと法の外側で生活している人達が行っている分にはその世界だけの話だったのだろうけど、tattoとして国際的に流行り始めるとなると、法律側もそれなりの運用を考えるということなのだろう。

しかし、美容と医療の明確な線引きは結構むずかしそうだし、世の中大体において、その中間のグレーな領域がビジネスとして美味しかったりするのかもしれない。今回のように、医師の資格を持たないで明らかな医療行為に手を付けちゃうとお縄を頂戴してしまうけど、中には医師免許を持っている人が怪しい美容と医療の中間的な行為をして大儲けしているケースもありそうな気もしないではない。 逆に、今後また医療行為に該当しない新たな美容技術が開発される可能性もあるだろうし、イタチゴッコの側面もありそうだ。

そういう点では、医療と美容の関係は、薬と健康食品の関係に似た構図なのかもしれない。法に従ってコストを掛けたきちんとしたものと微妙にオーバーラップする領域で、怪しくて安いものが(場合によっては合法的なものよりも極端に高価なこともありそうだが)、手を替え品を替え生き残っていくそれなりの市場があるようだ。

それにしても、こうやってインターネットをちょっと調べればすぐにわかるような違法な行為を業務として始めてしまうというのも困ったものだ。医師免許が必要かどうかは知らなくても、人の身体に手を加えるんだから、仕事を始めるに当たって何らかの届出とか認可が必要じゃないか、等の調査ぐらいするだろうに、普通は。。(普通じゃないから捕まったんだと思いたいが、実は同様の違法行為を行っているところは沢山ありそうな気もする。。)

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2004/11/19

新規たんぱく質「ドロンパ」

日経新聞の11/19朝刊の記事。「明滅繰り返す蛍光たんぱく質 理研、新薬開発に応用」

 理化学研究所は光ったり消えたりをレーザー光の照射で制御できる特殊なたんぱく質を開発した。繰り返し明滅させることができる蛍光たんぱく質は初めて。細胞内の様々な分子の動きを観察する目印として有用で、がんなどの病気の解明や新薬開発の新たな実験道具になるという。

 宮脇敦史チームリーダーらが沖縄のサンゴの遺伝子をもとに開発、明滅する様子から「ドロンパ」と名付けた。紫色レーザーを当てるとすぐに緑色の蛍光を放ち、青色レーザーを当てると消える。いったん光らせると消すことができない従来の蛍光たんぱく質に比べて、実験で複雑な分子の動きを追跡しやすいという。

 また、このたんぱく質をガラスに塗り、書換え可能な光メモリーとして動作させる基礎実験にも成功した。

というもので、新たに開発したたんぱく質にドロンパという名前をつけたのだそうだ。成果は今週の Science に 掲載(Abstract)されているが、ここにはドロンパという名前は出てこない。

理化学研究所のプレスリリースは非常に詳しく書かれているが、字が込み合っているせいか、すごく読みにくいぞ。

普段は、青色領域に吸収をもっており、青色のかなり弱い光を当てると明るい緑色の蛍光を発します。ところが、青色の光を非常に強く当てると、その吸収帯がなくなって、変わりに紫色領域に吸収が現れてきます。次に、紫色の光をそっと当てると、瞬時に、最初の状態にもどります。異なる2つの波長の光で、緑色蛍光のオン(青色領域に吸収がある場合)と緑色蛍光のオフ(紫色領域に吸収がある場合)とを繰り返すことができます。
という説明もわかりにくいのだが、この可逆的なフォトクロミック現象のメカニズムは一体どうなっているのか、興味があるがその辺には今回は余り突っ込んでいないのかもしれない。

ドロンパは英語名?が Dronpa となっていて、名前の由来は

緑色蛍光の消失、出現を、それぞれ、“Dron(忍者用語で姿を晦ますこと)”、“pa(光活性化、photo-activationに由来)”になぞらえ、このタンパク質を「Dronpa(ドロンパ)」と命名しました。
とある。ほー、「ドロン」は忍者用語だったんだ。ドロンパと言えば、何と言っても「オバQ」に出てくるこいつが有名だと思うのだけど。。

dronpaで検索してみると、同じ理化学研究所の、微妙に違う分野の報告書の中で、新たに見つけた遺伝子を dronpa と名付けたとある。理研の中には同じような言語センスの人がいるということなのだろうか? 

ところで、今回の研究はもちろん可逆的に蛍光を明滅させることができるたんぱく質を開発したことがニュースになったのだが、使い方としては、細胞内の分子にドロンパを融合させてラベル化することで、細胞内の特定分子の動き(特に細胞質と細胞核間の移動)をモニターするというものらしい。細胞内分子のサイズとドロンパのサイズの関係が見えないけど(ドロンパは単量体ということで結構小さいタンパクらしいが)、生体分子にくっつけちゃうと本来の動きを変えてしまわないものなのだろうか?

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2004/11/18

ブレインヘルスと健脳食

日経新聞の11/17夕刊の「からだのお話」というコラムの記事。ネットには載っていないので、備忘録としてメモ。

成績アップには「脳の健康」不可欠 そう快な香りで活性化

 心臓、肺など人間が生きるため必要なからだの各部の働きは「脳」によって制御されている。それにとどまらず、行動や意欲、感情とあらゆる精神機能を生み出す。激しいトレーニングだけに頼らず、「ブレインヘルス(脳の健康)」を意識することが、スポーツの成績を伸ばす重要な手段と認識され始めている。
 ブレインヘルスを維持するには「特に『におい』に気を配ることが肝心」と杏林大医学部の古賀良彦教授。きゅう覚は人間の五感の中で唯一、感情や本能と深く結び付いている大脳辺縁系と呼ぶ部分に直接、伝わるためだ。
 実際、好きな香りをかいで識別テストをすると、情報処理を行う際に出る「P300」という脳波が増加。日常生活に大きく作用するにおいとスポーツの関係について、古賀教授が代表例を教えてくれた。「運動前、試しにユニフォームにレモン系の香りを振りかけてみて下さい。持久力のアップにつながりますよ。」
 汗のにおいが選手を奮い立たせるとの考えもあるが、実はまったく逆。深いなにおいは成績に悪影響を与えるだけ。そう快な香りが脳の働きを活性化し、パフォーマンス向上に結び付くというわけだ。スポーツにとどまらない。服飾デザインやイラストなどの色彩を扱う職場にコーヒーのほのかな香りを漂わせると、「感性が鋭敏になり、良い作品が生み出される可能性がある」と古賀教授は説明する。
 ブレインヘルスを維持するための情報を広めようと、古賀教授らは十月に特定非営利活動法人(NPO法人)の「日本ブレインヘルス協会」を設立。近年、うつ病患者の増加などを背景に健康食品、アロマテラピーなど脳をターゲットにした商品が市場にあふれるが、これらを客観的に評価し、正確な知識を身に付けてもらうのも目的という。
 ビッグネームになればなるほど、メンタル面が重要視されるが、その基本はすべて脳にかかっている。ブレインヘルスが今後のスポーツ界のキーワードになるかもしれない。

というもの。昔からお香とかもあることだし、アロマテラピーには何がしかの効果があるだろうと思うのだが、スポーツにも効果があるのかなあ、それも持久力のようなものに表れるだろうか、と思わないでもない。

この古賀先生は、結構マスコミに露出されている方のようで、あるある大事典にも出てくるし、ファブリーズの宣伝にも出ている。少しまともな記事としては、こんな対談記事も見つかった。

さて、香りに効果があるとしても、これが脳の健康と関係あると言われると、いやに飛躍しているような気がしないでもない。脳の健康をどう定義するのかにもよるのだろうが、いい香りを嗅ぐことで脳が健康になるのだろうか? 日本ブレインヘルス協会のサイトを見てみると、まだコンテンツは少ないが、脳の健康というのは、どうやらハードウエアとしての脳ではなく、ソフトウエア部分の健康を扱っているみたいだ。その中で薬品や食品と並んでアロマテラピーが一つの柱になっているみたいだ。

ちなみに、この協会を紹介したnikkeibpの記事では、「健脳食」というキーワードが出てくる。健脳食という言葉は既に定着しているみたいで、岐阜県の公式サイトの中に健脳食情報なんてページがある。(岐阜県は「健脳産業」を育成しているらしい。)

今は健康食品といえば、ダイエット系が中心かもしれないが、今後確かに、脳はターゲットとして有望かもしれない。既に頭がよくなるホームページなんてのもある。こうやって今後どんどん専門化していくと、ますます一般人には訳がわからなくなってしまいそうだ。この協会が、怪しげな健康情報や製品がはびこらないように活動してくれることを期待したいものだが。

Brain Health で海の向こうを検索してみると、意外にもあまり使われていない用語みたいだ。その中に子供向けにBrain Fitness - Your Guide to Good Brain Healthなんてページがあった。ここではケガや薬品によるダメージを防ぐことが中心だが、食べ物について、一言だけ "Eat right!" で済ましているところが潔くて好きだ。

*アロマセラピーかアロマテラピーか迷ったのだが、上記学会のページの表記によると、アロマテラピーを行う人がアロマセラピストらしい。

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2004/11/17

マッハ10のジェット機

各紙報道しているが、写真と図が大きくてきれいなので、Sankei Webの記事(11/17)にリンクしておく。ジェット機がマッハ10で飛行 NASA、世界最速更新

 米航空宇宙局(NASA)は16日、無人の極超音速実験機「X43A」の最終飛行試験をカリフォルニア州沖上空で行い、ジェット機としては世界最速となる約マッハ10(時速約1万1260キロ)での飛行に成功したと発表した。

 自力飛行は10秒程度とみられるが、この速度なら東京-ニューヨーク間をわずか1時間で結び、3時間半で地球を1周できる計算。今年3月に同機が達成した当時の最速記録マッハ7(時速約8000キロ)を大幅に更新した。

 機体は全長約3・7メートル、幅約1・5メートル。超高速で飛びながら吸い込む大気中の酸素をじょうご形の通路を通して圧縮し、液体水素燃料と混ぜて燃やす「スクラムジェット」というエンジンを搭載している。ロケットと違い、このエンジンは液体酸素を積む必要がないため費用が安く、低軌道を飛ぶ宇宙往還機への応用が期待されている。

 B52爆撃機の翼につり下げられたX43Aは、上空で切り離され、補助ロケットエンジンで約3万4000メートルまで上昇。さらにスクラムジェットで加速した。速度はマッハ10近くに達したとみられ、NASAは飛行データを基に正確な最高速度を確認するとしている。

他の新聞も見てみたが、これ以外の情報としては、NIKKEI NET
 通常のジェットエンジンはコンプレッサーで圧縮した空気に燃料を噴射し、点火する。だが音速の3倍以上では、前方からの気流を受け止めるだけで十分に空気を圧縮できるので、実験機のエンジンにもこの原理を利用した。
という部分が参考になる。しかし、記録が世界一だからすごいことなのかもしれないが、もう少し開発の背景や目的、或いは技術について説明してくれないと何だかよくわからない。もう少し詳しく解説記事を載せてくれても良さそうなものだ。そもそも超音速ジェットの意義は? まさか本気で旅客機を考えているのだろうか? 燃費は悪そうだし、騒音や熱の対策だけでも相当に大変そうだが。

海外ニュースを例によってGoogle Newsで探してみると、中国の新聞なども結構記事にしているようだが、あの Aljazeera にも、日本の新聞よりは詳しく書かれている。

この技術の背景が詳しく書かれている記事としては、HoustonChronicle.comがある。この中で "supersonic combustion ramjet, or scramjet"と書かれており、スクラムジェットが超音速燃焼ラムジェットの略称だったということを初めて知った。(ラムジェット等についてはWikipediaにまとまっている。) それはともかく、この技術の今後の展開については、予算の面や他の宇宙開発との優先度などの理由から、全く決まっていないようで、この機種での実験もこれで終了らしい。

本家 NASA の記事はこちら。さすがに写真がきれいだし、動画も見られる。ここでは、

"This flight is a key milestone and a major step toward the future possibilities for producing boosters for sending large and critical payloads into space in a reliable, safe, inexpensive manner," said NASA Administrator Sean O'Keefe. "These developments will also help us advance the Vision for Space Exploration, while helping to advance commercial aviation technology," Administrator O'Keefe said.
ということで、今回の飛行が、宇宙へペイロードを送るブースター開発のマイルストーンであると書かれている。スクラムジェットはロケットエンジンに対して比推力が非常に大きいのが魅力の一つようだ。

実は、Wired News に詳しい記事が載っており、マッハ10に挑むNASAの超音速飛行機(2004/11/11)と、NASA、マッハ10の超音速航空機を開発中(2001/04/19)を読むと、技術的な問題点と今後の行方についての問題点がきちんと書かれている。しかし、一方でオーストラリアとアメリカ国防総省が共同で開発をするという話もあるようだ。

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2004/11/16

車の平均寿命

NIKKEI NET(11/16)の記事。自動車の平均寿命10.97年・調査開始以来最高に

 国土交通省の外郭団体である自動車検査登録協力会は15日、2004年3月末時点の自動車保有動向をまとめた。自動車が新規登録されてから登録抹消されるまでの平均年数(車の平均寿命)は10.97年となり、1974年の調査開始以来最高となった。最高更新は7年連続で、10年前と比べると1.71年延びた。自動車の性能向上が影響したとみられる。

 国内で走っている車が新規登録されてからの平均年数(車の平均年齢)は6.58年となり、11年続けて過去最高となった。景気低迷で新車販売の伸び悩みが続いたことで「自動車の高齢化」が進んでいる。1世帯あたりの乗用車保有台数は約1.1台と前年とほぼ同水準。都市別では愛知県西尾市(1.9台)、石川県小松市(1.8台)などが多かった。

ということで、自動車の平均使用年数は約11年なのだそうだ。平均年数も延びており、ここ何年か連続して延び続けているようだ。詳細データは、自動車検査登録協力会のサイトで、平均車齢推移&平均使用年数推移に車種別の昨年までの数値が掲載されている。どの車種でも使用年数が毎年延び続けているところを見ると、特に業務用の車の買い替えはひとえに経済的に合理的な判断がなされるはずだから、総合的にみて経済的なのはこの程度の使用年数ということだと思われる。(消費者・使用者は十分に賢いと仮定しての話)

もっとも、当然といえば当然の帰結だが、同時に自動車の保有台数も順調に伸びているので、単純に買い控えている状況とは言えない。他の国はどうかというと、やや古いデータだが1997年の比較で、アメリカ 14.5年、ドイツ 12.0年、日本 9.28年とあり、日本はまだまだ短いという数字が見つかった。一方、こちらの資料では、アメリカは2000年で乗用車が8.3年、商用車は6.9年とあり、日本の小型乗用車の10.61年よりも短いことになっている。。真偽は不明だが、ざっと眺めると一般的には日本の使用年数は短い方だという主張がされているようだ。

まあ、長く乗り続けるのが良いのかどうかも、環境汚染と二酸化炭素のトレードオフもあって簡単ではないが、現時点ではグリーン税制の一環として、13年目以降のガソリン車等には自動車税を1割程度重課税する制度となっているようだ。

ちなみに、家電製品の平均使用年数も、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ等については、ほぼ10~13年程度となっているようで、自動車の年数と同等となっているのが面白い。購入価格は一桁程度違うのに。(参考

ところで、実はこのニュースで気になったのは「平均寿命」というところだったりする。今回の車の平均使用年数は、恐らく、昨年度に廃車になった車の使用年数を単純に平均したものと思われる。これは人に当てはめれば、昨年死亡した人の死亡年齢の平均値ということになる。

人の平均寿命の定義はこれとは異なり、厚生労働省 平成15年簡易生命表の参考資料にも載っているように、ゼロ歳の平均余命のことである。平均余命は、各年齢での死亡率をベースに定常的な人口モデルを仮定して計算する。何故、人の寿命統計を毎年の死亡者の年齢構成から計算しないのかわからないが、計算方式でどれくらい数字が異なるのか試してみた。

ここにある平成15年の簡易生命表の各年齢の死亡数から、平均死亡年齢を求めてみると、男性が77.9歳、女性が85.0歳となった。(100歳以上ランクの平均死亡年齢を105歳と仮定して求めた。計算合ってるかな?) 実際の平均寿命は、男性が78.4歳、女性が85.3歳なので、平均寿命は平均死亡年齢よりもやや大きい数字となるようだ。それでも、かなり近い数字になるんだなあ、と妙に納得。

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2004/11/15

食の安全・安心モニター募集

EICネットニュース(11/15)で見つけた記事。「食の安全・安心」インターネットアンケートのモニター募集

 農林水産省は、食品についての情報提供やリスクコミュニケーションなど、食品の安全に関する取組みがどう理解されているかなどを把握するため、インターネットアンケート調査を開始するにあたり、この調査に回答する「安全・安心モニター」を平成16年11月26日まで募集することにした。

 募集人数は2,005名だが、男女別、居住区域別に定員を設定している。アンケート調査の回数は原則年6回で5回以上協力したモニターに対しては、500円の図書カードを謝礼として簡易書留で送付する。

 応募条件は(1)満20歳以上、(2)日本国内に居住、(3)国家公務員ではない、(4)無料メールアドレス、無料メールアカウント、フリーメールアドレス、小型携帯端末--以外のメールをこのモニターアンケートに活用できる--の4点を満たすことが必要。。

 希望者はモニター募集サイトに掲載されている様式にしたがって必要事項を記載の上、指定アドレス(anzen_monitor@nm.maff.go.jp)にメールで送信する必要がある。

というもの。「食の安全・安心」は BSEを筆頭に最近注目度の高いテーマであり、農林水産省も、食品のリスクコミュニケーションを始めとして、何とかしたいと頑張っているところだろうと思う。モニターになってアンケートに答えると、図書カードがもらえるというのも悪くないので、詳細情報を見に行ってみた。

農水省のパンフレットが掲載されており、リンク先に詳細な調査要領がある。

お役所らしく、細かく書いてあるが、この調査の目的を達成するために、何故こういう形式の調査を行うのかについての説明は何もない。2005人という中途半端な数字には来年が2005年ということと何か関係あるのだろうか?

試しに、応募方法のところにある添付ファイルを見てみると、なんと Microsoft Excel のファイルだった。姓名を漢字とかなで入力する他は、年齢範囲、性別、住まいの地域、住所都道府県名、職業種別をそれぞれコード化した数字で入力する。住まいのブロックは都道府県とダブっている情報で不要なのではないかと思われるが、ともかく、たったこれだけの情報をメールで送ってもらうのに、何故にエクセルのファイルに入れさせるのだろう?

実は、このシートに所定事項を入力すると、「入力厳禁」という名前のシートに、横一行の形式で転記される仕組みとなっており、このファイルを送ってもらった側としては、この行をマスターファイルにコピー&ペーストすることで、集計作業がかなり省力化されるということらしい。(けど、入力厳禁というシートを隠していないし、そもそも、この程度のことにエクセル使うなと言いたいし。。)

しかも、各コード番号は対応するセルのコメントとして記入されているのだが、そのままではコメントは読めないみたいだ。少なくとも僕の環境では、各セルで右クリックして「コメントの表示」を選ぶ必要があった。(そんなことはどこにも書かれてないし)

ということで、この調査のモニターとして想定されているのは、そもそもこの問題にそれなりの興味がある、および/または500円の図書カードが欲しい、という人であり、なおかつ
 ・インターネットを通して、この応募の存在に気付く人
 ・応募用のエクセルのファイルを読み込むことができる人
 ・ワークシートに必要な項目を正しく書き込むことができる人
 ・ワークシートを一旦自分のPCに保存し、メールの添付ファイルとして送信できる人
となっているのかもしれない。(上記条件をクリアする人の知り合い、というのも該当するかもしれないが。。)

なお、モニターの人数については、どうやら各地方ブロック毎に男女別の人数を設定しているみたいで、これは恐らく地域人口を考慮したものと思われる。こんな所は妙に律儀な割には、そもそものサンプリングの各種バイアスについての配慮は全くなされていないのか、それともそれを意識した集計をするつもりなのか?(例えば、同等の調査を他の媒体でも募集し、インターネットを使い、エクセルを使いこなせる人々の意識と、他の一般人とはどう異なるのか、というような視点で解析するとか。。)

サンプリングの問題点は、ここ が参考になるが、今一整理されていない感じがする。 ここ には、Webアンケートのメリットが中心に書かれているが、デメリットにも一応触れられている。

2/11のブログで紹介した「『社会調査』のウソ」は、丸々一冊がこの手の調査の難しさと騙されないための注目点となっており、とても面白かった記憶がある。今回のアンケートを見て、奇異に感じたのも、この本で勉強した成果だ。

どんな質問が送られてくるのか興味あるので、応募してみようかと思う。モニターの応募でこれだから、アンケートの形式が一体どんなものになるのか、ちょっと怖いけど楽しみでもある。

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2004/11/12

水系暴露解析モデル(SHANEL)

産総研のプレス・リリースに11/11に掲載された記事。河川流域における化学物質の濃度を詳細に推定できるシステムを開発

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 化学物質リスク管理研究センター【センター長 中西 準子】は、水系における化学物質のリスク評価とリスク削減対策を評価できる「産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL*)Ver.0.8」を開発した。

* National Institute of Advanced Industrial Science and Technology - Standardized Hydrology-based AssessmeNt tool for chemical Exposure Loadの略
   (中略)
 産総研 化学物質リスク管理研究センターでは、PRTRの排出量データと、流域に関する気象や地理、下水道や工業統計に関する情報を入力することにより、水系暴露濃度を1日ごとに1kmメッシュ単位で推定できる一連のモデルを開発した。このモデルを用いることにより、流域内のどのあたりで排出量が高いのか、暴露濃度は排出量の高い地域と対応しているのか、あるいは河川の流量が多くなるとどの程度濃度が低下するのかなどの情報を簡単に把握することができる。

 さらに、水生生物に影響が出る濃度を超える確率を求めることによって、生態系に与える影響を評価すること、すなわち生態リスク評価を行うことができる。生態リスクの削減が必要な場合、誰でも簡単なモデル入力を行うことにより、工場からの化学物質排出量削減や下水処理場での除去率向上が、化学物質濃度の低減にどのような効果を持つかの推定が可能となる。

 この成果は、化学物質の排出事業者や河川流域を管理する地方自治体のみならず、一般ユーザーが河川流域の化学物質のリスクについて検討するときに、実際にどのような対策を取るべきかという課題に対して、解決への道を拓いたものといえる。

 今後は、日本の主要な広域水系や二級河川のような局所的な排出源の影響を受けやすい流域でも適用できるように機能を拡張して、AIST-SHANEL Ver.1.0として公開する予定である。

ということで、詳しい説明がされているのだが、残念ながら現時点ではまだバージョン0.8βということで、Web上では公開されていない。化学物質リスク管理研究センターでは、大気拡散モデル(AIST-ADMER)等が既に開発されており、環境濃度予測モデルで公開されている。今回の水系の拡散解析モデル、AIST-SHANELについても、専用のサイトができている。他には、探してみるとCRMニュースレターで紹介されているが、既に9月に公開されていたようだ。しかし、これらのサイトを見て回ったが、このモデルの中身について、相当に複雑なモデルとなっていそうだが、具体的に、どういう前提で何についての計算を行っているのかが、今ひとつ判然としない。

一番詳しいのが冒頭に紹介したプレス・リリースの解説のようだが、これを読む限りは、化学物質の水系での分解や吸着、沈降、巻き上げなども考慮されているようだ。考えてみると、河川水の上流域ではきれいだった水が、下流にいくに従って、様々な汚染源によって汚染され、一方では合流によって水量が増えて希釈されていくわけだ。ここに載っている例では、ノニルフェノールエトキシレート濃度が下流域で高い様子が示されているが、通常、測定点はそれこそ点々としか存在しないので、このように面で示してくれるといろいろと見えてくるものがありそうだ。

普通の人がこのツールを使うことはほとんどなさそうだけど、10/8のブログで紹介した、PRTR 大気中濃度マップのように、水中の濃度マップが示されると面白そうだ。

*ところで、SHANELという名前はともかく、そのホームページに「著作権登録管理番号 H16PRO272」というのが載っている。こんな表記はあまり目にしないけど、この場合の著作権とはたぶん SHANEL というプログラムの著作物についてなのだろう。(名前を保護するとしたら商標登録だろうし。) もともと、著作権は申請したり登録したりするものではないのだが、ややこしいことに著作権登録制度というのがあるようだ。

文化庁のサイトに 著作権登録制度 という説明があるが、本件に関連するのは、「プログラムの著作物の著作者が,当該プログラムの著作物が創作された年月日の登録を受ける。」という部分。 実務については、SOFTICという財団法人がプログラム著作物登録を行っている。なるほどと思って、ここで検索してみたら、登録番号の書式が全然異なっている。ということは、まさか、一時話題になって、今も日本弁理士会が警告を発している、民間業者の「知的所有権(著作権)登録」ではないだろうな?(参考:知的所有権協会

同じ化学物質管理センターが開発したソフトウェアである、Risk Learning も、東京湾簡易リスク評価モデル も同様の著作権登録管理番号を表示しているな。気になる。。

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2004/11/11

ヒースロー空港のX線スキャナー

CNN.co.jp(11/10)のニュース。空港で服の上からX線探知、「プライバシー侵害」論争に

ロンドン――英国ロンドンのヒースロー空港にこのほど導入された、服の上から検査出来る新型の「X線金属探知機」をめぐり、国内の人権団体から「のぞき行為であり、プライバシー侵害だ」と反発の声が上がっている。

同探知機は、低レベルの放射線をあてると、画面に裸に近い全身像が白く映し出され、拳銃などの金属物が黒く浮き出るようになっている。先月から、4カ月の試用期間を設け、導入された。

これに対し、人権団体「リバティー」が「明らかに個人のプライバシーの侵害だ」「のぞき趣味者の特権だ」と反発。「セキュリティー装置を導入することに反対するわけではないが、(裸に近い映像を)映すことが必要だとは思わない」と主張している。

また、同探知機導入の必要性を証明するために、従来の装置が「不適当だ」という証拠を提示する必要がある、とも指摘している。

米交通安全局も「このような探知機を導入する際には、プライバシー関連事項などをあらかじめ提示しておく必要がある」などと懸念を示している。

一方、ヒースロー空港側は、検査を受けた搭乗者のうち、98%が同装置の使用について賛成の意見を示していると主張。「(撮影した)画像はデータとして残すことはしない。検査も、同性の検査官が行い、対象者の顔を見ることもない」と強調している。

預託荷物などの検査でこれまで使われてきた一般的なX線金属探知機は、プラスチック爆弾「セムテックス」と同等の濃度を持つチョコレート、ピーナツバターなどを、誤って爆弾と判断してしまうなどの問題が指摘されていた。

ということで、どんな見え方をするのか興味がある。調べてみると、本家CNN.comで写真入りの記事がみつかった。他にもGoogle Newsでいくつか記事がみつかるが、これらの記載によると、この装置はヒースロー空港のターミナル4に設置され、乗客は全員が検査を受けるわけではなく、ランダムにサンプリングされて、カーテンで仕切られたブースの中で検査を受けるようだ。事前に説明を受けた際に、この検査を拒否して従来の金属探知ゲートを通過する選択肢も可能らしい。

従来の金属探知機(電磁波方式)では、セラミックナイフとかプラスチック爆弾は引っ掛からなかったのが、この装置だと見つけられるようだ。さらに、木製の武器とか、ガラスやプラスチックの容器に危険な薬品を入れている場合なども、この装置では見つけられる可能性が高いようだ。

この写真だとよくわからないが、確かにヌードといえなくもないけど、さほど抵抗ないレベルだと思うけどなあ。でも人によっては隠しておきたい秘密があったりするかもしれない。X線検査といいながらも、別に骨まで透けて見えてるわけではないし、健康診断をしてくれるわけでもないから、かなりX線のエネルギーは弱いと思われるが、その安全性については何も書かれていない。

ということでさらに調べてみたら、この装置は RAPISCAN Secure 1000というものでアメリカの会社の製品らしい。X線の反射と散乱を利用しているということで、非常に弱いX線源を使用しているようだ。安全性FAQの記載によると、1回で10マイクロレム以下、自然放射線を5分間浴びた程度の量らしい。また、体内には 0.1インチ(約2.5mm)程度しか侵入しないとのこと。どうやら放射線被曝という点では、妊婦さん等のケースを除けば特に問題なさそうだ。

ところで、あの安全にうるさいアメリカが、個人のプライバシーを理由にこの装置の導入に踏み切れていないのも興味深い。(自国民の人権意識には勝てないのだろうか?)Times Onlineによると

The US Transportation Security Administration (TSA) has decided not to deploy the device at American airports until manufacturers can develop an electronic means of masking sensitive body parts.
ということで、個人のプライバシーを守る改良がなされたら導入を考えるということらしいが、隠したい所が見えちゃ駄目だけど、武器をパンツの中に隠していてもみつけるような方法を考えろ、ということだろうか? 安全を守るために払える犠牲はどの程度までなのか、なかなか難しいものだ。

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2004/11/10

「人体常在菌のはなし」

サブタイトルが「美人は菌でつくられる」、帯の宣伝文句は「ぎょっ、皮膚にも善玉菌がいたのか?! ビフィズス菌びっしり=腸バリア、いい菌びっしり=肌バリア、美肌&快便は菌に任せろ!」 安井先生のサイトでも紹介されて、本論の枕に使われて突っ込まれていたけど、確かにあまり知らない世界なので、騙されないように注意しながら読んでみた。

集英社新書 0257
 人体常在菌のはなし-美人は菌でつくられる
 青木 皐 著 bk1amazon

安井先生は、化学物質がアレルギー等に悪影響を与えているというような記述の部分に突っ込んでいたが、本書の突っ込みどころは他にもありそうだ。人体常在菌原理主義とでも言うのか、かなり変わった視点から書かれているみたいで、いくら何でもそれは言いすぎじゃないの? というような点もある。でも、その怪しいところも含めて、この本は結構面白いし、楽しく読める。

最近の超清潔志向は問題だ、という課題の設定や、菌を全て排除せず上手に共生していこう、という主張は確かにもっともだ。それに、本書で紹介されている人体常在菌の基礎知識や実験結果などは、とてもわかりやすく勉強になる。オナラをすると腸内細菌が一緒に放出されるとか、キシリトールには殺菌効果はなく唾液の分泌を促すだけだとか、体臭と皮膚常在菌の微妙な関係、特に加齢臭の正体なんて話などもなかなか面白かった。

本書では主として、体内常在菌の話と皮膚常在菌の話が書かれている。体内のビフィズス菌だとか大腸菌の話は少しは知っていても、皮膚に住んでいる菌の話は何も知らなかったので、なかなか有意義だった。皮膚には善玉菌として表皮ブドウ球菌が、悪玉菌として黄色ブドウ球菌が住みついていることや、これらが皮膚上でせめぎ合いをしているなんてこととか、知っていると世の中の物の見方に多少は違いが出てきそうな気もする。

著者は、身体や肌の健康を維持するための対策として、人体常在菌を健康な状態に維持することが重要とおっしゃる。体内常在菌にはビフィズス菌食品を中心にした菌を意識した食生活、皮膚常在菌には善玉菌をうまく活かす皮膚ケアが重要とのこと。美容についても、これからは育菌美容がキーになると主張している。

まあ、確かに菌の存在を無視することはできないだろうけど、これがちょっと極端な(単純すぎる)気がしないでもない。これを素直に信じちゃうと、アマゾンのレビューの人みたいに、傷の消毒はやめてみようなんて人が出てきてしまうのはやはり問題だろうと思うのだが。。(注:少なくとも本書には傷の消毒はやめようなんてことは書かれていない)

本書では、肉体の健康も肌の健康も全て菌のバランスの立場から説明されるのだが、人間よりもそこに住んでいる菌の方が大事なのではないか? というような感じさえする部分も出てくる。

常在菌だって、黙々と働いているのに、人間がちっとも構ってくれず、紫外線浴び放題、冷房で乾燥する、冷やされるとくれば、相当イライラしているのだ。常在菌がストレスを感じれば、人間も元気をなくし、人間がストレスを感じれば常在菌も元気をなくしてしまう。こちらが「守ってあげる」という意識をもてば、彼らのバランスも整い、私たちを守ってくれる。(p.142)
なんてのも、著者が意識的に菌を擬人化して書いているかと思いきや、どうやら半ば本気らしいのだ。著者は思い込みが強い方のようで、食生活について、現代社会では、鶏や牛、野菜や魚などが、彼らの思いが無視されて人間の都合だけで育てられており、これらの生物もストレスだらけに違いないと述べ、
安い食べ物は、大量につくられ大量に運ばれるものであり、そのために、非常に無理がかかっているはずだ。いくら安くても、ストレスだらけの食べ物を食べ続けていたら、食べる側にもストレスが募り、やがて病気になる。それでは元も子もないのである。(p.188)
なんて書いてある。どうも本書は、問題設定とその結論部分は非常にいい感じなので、途中の論理展開がどこかで一歩ずれているところを楽しむのが正しい読み方なのかもしれない。

例えば、バランスの良い食生活を進める知恵として、食品を十色に色分けして、色のバランスを意識して食事をしよう、という提案なんかはなかなか優れていると思うし、人間の身体や自然の仕組みを理解して、何でもかんでも人為的に抑え込もうとしない方が結局は(常在菌が健康になるので人間も)健康的なんだという考え方なども参考になる。

もっとも一般人としては、菌は目には見えないし顕微鏡で見たこともほとんどないので、日常生活で菌の存在を意識するのは難しいし、まして現在の菌の生育状態を正しく理解するというのは極めて難しいと思う。

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2004/11/09

「e-買い替えドットコム」を見てみた

EICネットニュース(11/9)の記事。家電製品のC02排出量情報提供WEB「e-買い替えドットコム」を開設

環境省は家電製品のC02排出量に関する情報を提供するホームページ「e-買い替えドットコム」を開設した。
 家電製品購入時に省エネ型製品を選択することは、家庭でできる地球温暖化防止策として効果が高い。
 「e-買い替えドットコム」は家庭の中で電力消費量の割合が大きい冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機、食器洗い乾燥機--の5品目について、製品の種類(容量、冷暖房機能、画面の大きさ)ごとにCO2排出量が少ない上位10製品程度のランキングを掲載するとともに、参考値として使用時のCO2排出量、電気代、水道代、ガス代、価格比較サイトの最安価格情報も掲載し毎日更新している。
 なお、ホームページの管理・運営は全国地球温暖化防止活動推進センターが担当している。
来年には京都議定書が発効することも決まり、環境税もいよいよ導入されそうな雲行きだが、できるだけ省エネ製品を使用することもかなり実効的な対策と思われる。特に、省エネ製品を使うということは、CO2の排出量が少なくなると同時に、ランニングコストが下がるわけで、環境への貢献がどうのこうのと言わなくても、初期コスト次第では実質的なメリットが出るはずだ。

環境省の報道発表資料を読むと、このページの運用は、環境省ではなく、財団法人日本環境協会の全国地球温暖化防止活動推進センターが行っているようだ。

早速、e-買い替えドットコムに行って、中を見てみた。それぞれの製品の価格は何と 価格.com の最新の最安値を表示している。これだと、価格と消費電力の関係は全くランダムとなっていて、高いからといって消費電力が少ないわけではない。エアコンや冷蔵庫のランキングを眺めると結構おもしろくて、それぞれ、飛びぬけて消費電力の少ない製品があったり、意外と製品間の差が大きいのに驚かされる。

それにしても、標準的な家庭のCO2排出量内訳で見ると、エアコンと冷蔵庫で3/4程度を占めていて、これを最新の省エネ機器にすると半分程度まで減らせるようだから、結構影響は大きい。(ここでの比較は、現在販売されている製品のうち、消費電力が最大のものと最小のものの比較だが。)

このサイトは新規に購入を考えている人が、候補製品の比較をするのには便利なのだが、今使っている製品が古くなったので、そろそろ買い換えようか? と思っている人の背中を押すにはインパクトが小さい。

例えば、現在使用している製品のスペックを入力して比較計算したり、環境税が導入されたらどのくらい差が出るのかを計算したり、或いは、ランニングコスト差が初期コスト差を上回る期間の算出をする等、今少しの工夫が欲しいところだ。

似たような試みとして、環のくらしの中で、「ふたりで始める『環のくらし』」というパンフレットを新婚さん向けに発行しており、電化製品や車等の選び方や使い方が紹介されているが、極めて一般的な内容だ。むしろ、All About Japan [節約・やりくり]の方が実用的かな。

やっぱり、今回のサイトの特徴は、環境省の傘下で活動しているけど、具体的な商品名を出して比較しており、しかも商用サイトとも連携しているというところだろうか。今後、新製品が出たときに、どういうタイミングでここに出てくるのだろう? 各社のカタログの数値をベースにしているようだが、電気メーカーとしては、自社製品が正しく評価されているか要チェックかもしれない。

*家電製品に限らず、何でも比較をするなら、比較三原則に一度目を通しても損はないと思われる。

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2004/11/08

フラーレン強化ラケット

日刊工業新聞の11/8の「ヨネックス/軽さと強度を両立したカーボンラケット」という記事。

 スピーディーに動ける薄くて軽いラケットが欲しい。でももろいのはイヤ!-

 ヨネックス(03・3836・1221)は11月下旬、カーボンラケット「NANO SPEED(ナノスピード)7000」を発売する。シャフト全体にナノカーボン「フラーレン」を複合し、強度とともに反発性能・スウィングスピードを向上させた。カラーはブライトレッド、2サイズ。価格は2万2050円。

 グリップ側に重量を配分し操作性を向上させた「トップライト(先軽)」設計。シャフトの肉厚を20%薄く、全体の重量を15%軽量化した。さらにフレーム角部にもフラーレンを複合、ラケット同士の接触による破損を防ぐ。

 「フラーレン」は、60個の炭素原子が0.7ナノメートル大のサッカーボール状に結合したもの。カーボン繊維を束ねる樹脂に複合することでカーボン同士の結合力を向上させ、軽量で高強度の構造を実現した。

ヨネックスのサイトには、製品情報が載っているが、あまり詳しいことは書かれていない。日経のプレスリリースを探すと、詳細資料が掲載されている。この説明によると、
直径約0.7nm(ナノメートル)の大きさで、60 個の炭素原子がサッカーボール状に結合し、形成された「フラーレン」。樹脂の中に複合すると、カーボン繊維同士の引きあう力を増大させます。
カーボン繊維を束ねる樹脂(接着剤)にフラーレン分子を複合し、繊維同士の引き合う力を増大させ、軽量かつ強い構造を実現させました。
とある。そのために、軽量化が可能となり、また、耐衝撃強度も向上し、反発性能も向上したことが確かめられたそうだ。C60を樹脂中に均一に分散させるのは結構大変そうだし、この説明を聞いても、強度アップのメカニズムは本当かな? という印象がないでもない。

カーボンだのチタンだの、スポーツの世界は新素材をいち早く実用化してきた実験場のような位置付けもあるので、フラーレンが使われるのもわからないではないのだが。少し調べてみると、テニスでは既に2001年にカーボンナノチューブ(CNT)を使用したラケットがダンロップによって実用化されていた。CNTはその強度が注目される素材であり、軌道エレベータなんて話もあるし、結構まじめに検討されていそうだ。この手の複合材料は、PNC(Polymer Nano-Composites)と呼ばれているようだ。

一方、C60となると球形分子であり、何となく強度アップとは直接イメージが結びつかないのだが、スポーツ業界は何でも貪欲にテストするようで、既にマルマンのゴルフクラブで実用化されていた。もっともこの説明は「ノーベル化学賞ナノテクフラーレン採用」と書かれているだけだが。。

阿修羅の掲示板によると、マルマンのゴルフクラブの場合は、金属チタンとC60を複合化して機械特性が向上し、結果として軽量化され、飛距離が15ヤード伸びるのだそうだ。また、ここにも書かれているが、C60のスポーツ応用というと、ボウリング球なんてのもある。こちらは強度ではなく、ボール表面性状を変えることでレーンとの摩擦に変化が生じるようだ。

ということで、こうやって見てみると、CNTやC60が高性能スポーツ素材として使用され始めているようだけど、その使われ方はそれぞれ異なっていて、まだ定番という感じにはなってないことが見て取れる。CNTやC60は医薬や電子材料への応用が本命だと思われるのだが、スポーツ業界がこのように積極的に(実験的に)先進材料を使うことで市場を立ち上げていく牽引力も侮れないのかもしれない。

*でも、これらの製品の場合、確かに性能が向上したのだろうけど、それが本当に直接この新素材の効果なのかどうかはわからないような気もする。

C60周辺については、有機化学美術館が美しく、内容も充実している。

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2004/11/07

ココログ10か月

ココログを始めて10か月が経過した。カウンターの伸びは、この1か月で17500程度。10/29に100000の大台に載った。

 1か月目:900
 2か月目:4500
 3か月目:11700
 4か月目:19000
 5か月目:32300
 6か月目:43500
 7か月目:54500
 8か月目:72000
 9か月目:87700
 10か月目:105400

この1か月の、Ninjaツールの集計によるアクセス解析結果は、(あまり当てにならないけど)

(1)リンク元
 1位 bookmark (お気に入りに入れてくれた方) 全体の15%(前回2位)
 2位 http://search.yahoo.co.jp (ご存知ヤフーサーチ) 全体の13%(前回1位)
 3位 http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi 全体の4%(初登場)
 4位 http://a.hatena.ne.jp 全体の1%(前回3位)
 5位 http://www.google.co.jp(ご存知グーグル日本版) 全体の1%(前回5位)

11/4に中西さんのサイトでこのブログ(「環境リスク学」の書評)が紹介されたことで、そこから訪問してくれた人が物凄い。メジャーなサイトの影響は恐るべし。

(2)検索キーワード
 1位 脳力トレーナー(前回1位)
 2位 アメリカ(前回2位)
 3位 コスモプラント(初登場)
 4位 ボスプレッソ(前回28位)
 5位 肥満(前回5位)
 6位 ポリ乳酸(前回4位)
 7位 平石クリニック(前回11位)
 8位 海面上昇(前回9位)
 9位 電動自転車(前回36位)
10位 京都議定書(前回58位)

脳力トレーナー、アメリカの肥満、ポリ乳酸あたりが、このブログの人気キーワードとして定着してきたのだろうか。ボスプレッソは久々の登場だが、ボスチーノが新たにラインナップされた関係なのかな?

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2004/11/05

最新の地球温暖化シミュレーション

京都議定書の発効が正式に本決まりとなったようだが、そんな記念すべき日に、同じ環境省のサイトに、数値気候モデルによる20世紀の気候再現実験についてという記事が掲載された。

 国立大学法人東京大学気候システム研究センター(CCSR)、独立行政法人国立環境研究所(NIES)、独立行政法人海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター(FRCGC)の合同研究チームは、地球全体の大気・海洋を計算する数値モデルを用いて、20世紀において観測された地球の平均地上気温の変化を再現することに成功した。この計算では、従来の計算では考慮されてこなかった様々な気候変動要因を最大限考慮している。様々な要因を切り分けて計算を行った結果、近年(20世紀最後の30年程度)の昇温傾向は人間活動に伴うものであることが強く示唆された。一方、20世紀前半(1910~45年ころ)の昇温傾向は自然起源の気候変動要因に因ることが示唆された。今後の解析により、気温以外の量についてもさらなる知見が得られることが期待される。
なお、本研究は環境省の地球環境研究総合推進費及び文部科学省の人・自然・地球共生プロジェクト等の研究費により実施された。
ということで、従来の地球温暖化シミュレーションよりも精度の高いモデルを使って計算したら、20世紀の気温変化をかなりうまく表現できた、ということらしい。この手の予測はいろんな研究機関で行われてきたと思われるが、やっぱりIPCCによるものがスタンダードだろう。せっかくだから比較してみたい。今回のシミュレーション結果は、先のサイトにPDFで掲載されているが、比較のためにここに転載する。
env_go_jp_globalwarming_sim.jpg
赤が実測値、黒が計算値を示している。要するに、人為影響と自然影響を重ね合わせるとうまく一致するというわけだ。特に1950年付近の温度上昇は人為影響のみでは説明が困難のようだ。自然影響のみで 1950年頃までの温度上昇はほとんど説明できるというのも面白い。この期間でも大気中のCO2は増加している(約295ppmから310ppm程度まで)のに、このモデルでは温度上昇にはほとんど寄与しないみたいだ。右側の図では、自然影響をさらに太陽変動とエアロゾルの影響に分けて解析したもののようだが、意外と太陽エネルギーよりもエアロゾルの影響が大きそうだ。一方、IPCCの計算結果等のデータは、こちらで入手できるが、その中に同様のモデル計算の結果を示す図があるので、下に示す。

ipccsim_01s.jpg

こちらは、左上が自然影響のみ、右上が人為影響のみ、下が両方の影響を考慮した計算結果だ。こうやって比べてみると、何だ、ほとんど一緒じゃないの? という気がしないでもない。 IPCCのモデルとの相違については、

IPCC第3次評価報告書(2001年)においても、数値気候モデルを用いて、20世紀後半の昇温傾向は人間活動に因ること、20世紀前半の昇温傾向は自然起源の気候変動に起因する可能性のあること、が指摘されていたが、当時の計算では、いくつかの重要なプロセスや気候変動要因を考慮していなかった。今回の計算では、それらの問題点を改善し、現状で考えられるほぼすべての気候変動要因を考慮しているため、従来の知見の信頼性をより高めることができた、と言える。
とある。今回のモデルに組み込んだ要因は、

 (1)太陽エネルギーの変動
 (2)大規模火山噴火に伴い成層圏にまで到達したエアロゾルの変化
 (3)温室効果気体(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハロカーボン)濃度の増加
 (4)1970年代半ば以降の成層圏オゾン濃度の減少
 (5)人間活動に伴う対流圏オゾン濃度の増加
 (6)工業活動に伴う二酸化硫黄(硫酸エアロゾルの元物質)排出量の増加
 (7)人間活動に伴う煤などの炭素性エアロゾル排出量の増加
 (8)土地利用変化

の8項目とのことだが、新たに組み込んだのはどれなんだろう? まあ、CO2を始めとする温室効果ガスが近年の地球温暖化の重要な要因の一つであろうという結論は特に変わらないようだが、逆にその確度が特に高まったわけでもなさそうだ。(むしろ、この20~30年の人為影響のみの温度上昇速度は、IPCCの計算よりも今回の方が緩やかになっているように見える。)

*実はモデルに導入する要素が増えるということは、それだけ任意に調整できるパラメータが増えるということであり、実測値と計算値の一致の程度が向上するのは、当然といえば当然で、それがモデルの精度や信頼性の高さを保証しているわけではないはずなのだが。。

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2004/11/04

ナンキョクオキアミが大幅減少

Yahoo!ニュース経由の共同ニュース(11/4)の記事。南極のオキアミ8割減少 温暖化に関連、鯨に影響も

 南極の食物連鎖を支えるナンキョクオキアミの量が1970年代から80%近くも減少したという解析結果を英国南極調査所やカナダ、南アフリカなどの共同研究チームが4日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
 鯨など捕食者からオキアミを守るとされる海氷が、温暖化に伴う海水温上昇で縮小したことと関連しているという。研究チームは「オキアミを食べる鯨やペンギンなどに悪影響の出る可能性がある」としている。
 研究チームは日本など9カ国の調査結果をまとめたデータベースを構築。1926―2003年にかけ、オキアミの生息密度の変化を調べたところ、76年以降、約80%も減ったことが分かった。逆に暖かい水を好むクラゲの一種は同期間に80%以上増えていた。
という記事。アミというと佃煮を思い浮かべてしまうが、佃煮で食べるアミはイサザアミという種類で霞ヶ浦あたりで取れるらしい(参考)。 ちなみに、アミは英語で krill、漢字では 醤蝦 と書くらしい。海老を醤油で漬けた料理を連想してしまうけど。。

さて、日本ではあっさりとしか報道されないが、欧米では結構きちんと報じられている。中でも、地図や写真入りでわかりやすいのが、BBC NEWSだ。

"Krill feed on the algae found under the surface of the sea ice, which acts as a kind of 'nursery'," Dr Atkinson said.

"The Antarctic Peninsula, a key breeding ground for the krill, has warmed by 2.5C in the last 50 years, with a striking decrease in sea ice. We don't fully understand how the loss of sea-ice here is connected to the warming, but we believe that it could be behind the decline in krill."

南極半島付近は世界でも最も温暖化が顕著な地域で、海洋を漂う海氷の寿命が30日以上短くなったらしい。それにしても、この50年で2.5℃というのは半端じゃない。何しろ今話題の地球温暖化現象は、20世紀の100年間で約 0.6℃温暖化したと考えられている程度なのだから。何故この地域の気温上昇がこんなに激しいのかはよくわかっていないらしい。

オキアミは海氷の下に豊富に存在する植物性プランクトンを食べて育つので、温暖化がオキアミの生存環境に影響しているのだろうという推定らしい。もちろん、因果関係はそんなに単純とは限らないのだが。

それにしてもこのBBCの記事に載っている写真を見ると、ナンキョクオキアミという奴はいやに大きいみたいだ。調べてみたら、水産庁のサイトでよくまとまった資料が見つかった。なんと体長6cmにも達するんだ。しかし、この資料を読む限り、2000年頃の調査でも特にオキアミ資源量の激減なんて兆候は見られない。今回の研究で見積もられた具体的な数字が見当たらないので比較できないのが残念だ。

Natureの記事のAbstractは、こちらで読める(要登録)。

オキアミが減少している反面、共同の記事では「暖かい水を好むクラゲの一種」と書かれているが、salpa という種が増えている。日本語でもサルパというらしく、こちらに写真入りで載っているが、透明なゼラチン質の大型プランクトンらしい。こんなに大きくてもプランクトンなのか? 何か気味悪い奴だが、当然オキアミを食べる種とサルパを食べる種は異なっているので、オキアミ減少分をサルパが増えて補うというわけにはいかないようだ。何となくオキアミは鯨の食べ物と思っていたけど、実はペンギン、アホウドリ、あるいはアザラシなどなど多くの動物の貴重なエサとなっているようなので、影響は大きい。

何せ南極近くの海の話だから、何十年も前のデータの信頼性もよくわからないけど、もしも本当にこんなに大幅に生物の分布が、それも食物連鎖のかなり始めの方にいる奴が変わってしまうと、相当に大規模な影響が出てきそうな心配もある。クジラつながりで日本には影響の大きなニュースと思うんだけど、ほとんど報じられていないのが不思議だ。

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2004/11/03

「デジタル維新の一番走者」

シリーズ「メタルカラーの時代」は文庫版は文庫専用の編集で発行されている。今回は、そのシリーズ第7弾。第6巻「ロケットと深海艇の挑戦者」については、4/17のブログで紹介している。第7巻は 7月に発売されていたのだが、気付かずに読むのが遅れてしまった。既に第8巻も発売されている。

小学館文庫
 文庫版 メタルカラーの時代 7
 デジタル維新の一番走者
 山根 一眞 著 bk1amazon

タイトルから想像が付くように、各種デジタル機器の初期の開発苦労話が中心となっている。取り上げられているテーマは、衛星通信、携帯電話、液晶、LD、CD、デジタルビデオなど。それぞれの対談が行われたのは1993~1995年頃。約10年前の話が文庫本になったわけだ。

そのためか、読んでいると、既に一昔前の製品や規格となったものたちを懐かしく思い出しながら、古き良き時代を振り返る、というような趣きがある。パソコンの高精細ディスプレー向けのCRTのシャドウマスク製造技術だとか、富士の100MBのZipディスクなどが華々しく取り上げられているし。

山根さんは、この辺のデジタル技術や超微細加工技術について、本当はどの程度知っているのかわからないが、一般読者のために、わざと何も知らない人となって、いろんなことを聞きまくってくれる。でも、不思議なことに、それに対する技術者側の答えが必ずしもわかりやすくないのに、あっさりと理解してしまい、追求の手を緩めることも結構あるのだ。本当はもう少し突っ込んで欲しいのに、と思うのはこちらが理科系すぎるのだろうか?

それとすごく目に付くのが、○○μm とか△△nm という単位が出てくると、決まって、1mm の□□分の一ですね、という換算をするけど、一般の人にはこういう説明がわかりやすいのだろうか? 却ってわけわからなくなるような気もするのだが。。

考えてみると、ビデオテープの規格でVHSとβに分かれ、LDはVHDと争い、今も次世代DVDでは規格統一が難しそうな状況だが、CD(とDVD)はうまく世界共通規格が成立したわけだ。本書では、CDが世に出るまでの開発の歴史やエピソードが何話かに分かれて掲載されているが、フィリップスとソニーが主導して規格が決まった話の辺りはなかなか感動的で面白い。

実は、文庫本限定の解説として掲載されているパイオニアの市川さんの話もとても面白かった。

 どうにも不思議なのが、信号伝送における「音」の変化です。デジタル信号は一度確定したら、その後は伝送によって信号の「本質」は変わらないのですが、「音」は変化するのです。「1001010」が「1010011」にはならないのですが、実際に聞き比べると違った「音」に聞こえるのです。私たちはこれを「聴感上の変化」と呼んでいます。(中略)デジタルで、原波形は変化していないのに、出てくる「音」が違うことを認識し、それを単なる「不思議」に終わらせたくない、ということが今もっとも私の気になるところであり、それを考えることが、ハードメーカーに在籍しながら、ソフト作りをしているテーマにもつながっています。
という、一見トンデモなオーディオマニアのような話にも聞こえるけど、近い将来にこの辺を解明するような発見があるのだろうか? どっちにしろ、僕の耳には区別がつきそうもないけれど。。

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2004/11/02

自動車交通騒音マップ

EICネットのニュースで見つけた記事。WEBページ「全国自動車交通騒音マップ」を公開へ

  環境省は、全国の自動車交通騒音情報を地図と共に表示する「全国自動車交通騒音マップ」を、平成16年11月1日からインターネット上で公開することにした。
 この騒音マップは、都道府県と騒音規制法上の政令市で実施されている自動車騒音の常時監視(注1)結果を環境省がまとめている「自動車交通騒音実態調査報告」の内容を、(独)国立環境研究所環境情報センターが運営するインターネット・サイト「環境GIS(注2)」を通じて情報提供するもの。
 全国各地域の地図画像をクリックしていくことにより、めざす地域の情報を容易に探すことができるほか、各地域の道路に面した評価対象住居の「昼間」、「夜間」、「1日」の3つの時間帯の環境基準達成状況の評価結果を読むことができる。また全国2,832地点の騒音レベルの測定結果の表示・閲覧、「自動車交通騒音実態調査報告」本文の閲覧、ダウンロードも可能だ。
 なお今回は直近の「自動車交通騒音実態調査報告」の内容に基づき、14年度のデータを情報提供するが、環境省では今後も毎年の結果を随時提供していく予定。

(注1)騒音規制法に基づく常時監視は面的評価(道路に面する代表的な地域内で、住居の騒音レベルが基準値を超過している戸数や超過割合を算定し評価すること)の実施を基本としている。
(注2)大気汚染や公共用水域水質など、全国や地域の環境の状況について、地理情報システム(GIS)を使って提供しているサイト。

ということで、従来から測定していた道路騒音のデータを公開するようだ。11/1からということで既に始まっている。環境省からも報道発表が出ている。このように生のデータをできるだけわかりやすい形で公表していこうという姿勢は高く評価できる。

早速、全国自動車交通騒音マップに行って、ちょっと中を覗いてみた。地図の表示や操作は、多くの地図ソフトとそれほど変わらないので違和感はない。25000分の一まで拡大すると、騒音マップの下地となっている地図が見えてくる。これがいわゆる国土地理院の25000分の一の地図そのものみたいでちょっと面白い。

試しにあちこち覗いてみると、このマップに載っている測定点というのが、非常に少なく、地図の大部分は真っ白であることがわかる。東京都のような都会でも、色のついている部分はほんのわずかだ。全国で2832地点というと、そんなものかもしれない。

ところで、自分の家の近くや、興味のある地点の騒音を見てみようと思って、地図上の測定点をクリックしても何も表示が出てこない。いろいろ触ってみたけど、これはソフトがまだうまく働いていないのだろうか、と諦めかけた。ところが測定点をクリックする時に何か音が出るのでよく見てみたら、なんと、新たに開くはずの騒音情報のウインドウを、ブラウザがポップアップ広告だと思って排除していたのだった。(Windows XP SP2で導入されたIE6用のものと、Googleツールバーのものがダブルで機能していた。)

この機能を解除してようやく数値結果を見ることができたのだが、ソフトの作り手はそこまで考えていなかったのかな? 新しいウインドウを開くにしても、ポップアップ広告と判断されない方法があるだろうと思うのだが。

実は全然知らなかったが、この騒音情報マップに先立って、環境GISというサイトが既にあり、ここでは大気、水質の測定結果が公開されていた。こちらは、操作方法が若干異なり、なかなか直感的に欲しい情報にたどり着けなかった。操作方法は一緒にしておいて欲しいものだ。

なお、ここで何度も出てくる GIS とは、Geographic Information System のことで、国土地理院に地理情報システム(GIS)という専用のサイトがある。いろんな可能性がありそうで、これからも多くの応用が出てくると思われる。

しかし、縦割り行政の弊害なのか、大元の地図は一つだろうけど、それぞれのマップ(今回の騒音マップや以前紹介したPRTRマップなど)が全部独立しているのが残念だ。ある地域の環境に興味を持った人は、当然様々な関連情報にも興味あると思われるのだが。全部を統合したDBとするのは無理としても、うまくリンクすることはできないものだろうか? 今回の騒音マップについては、せめて同じ環境省所管の大気汚染や水質汚染のマップとは、お互いに行き来できるようにするとか、統合するとかできないものだろうか?

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2004/11/01

無鉛圧電セラミックス

日本経済新聞(11/1)の記事。「セラミックス、鉛含まず 電子部品用、環境に配慮 豊田中研など」

 トヨタグループの豊田中央研究所(愛知県長久手町、石川宣勝所長)とデンソーは、有害な鉛を含まない電子部品用セラミックスを開発した。スピーカーやセンサー、ラジオチューナーなどに幅広く利用されている「圧電素子」として応用できる。研究成果は英科学誌「ネイチャー」の電子版に掲載される。
 このセラミックスは電圧を加えると変形する一方、力を加えて変形させると電気が流れる「圧電効果」を持つ。開発した材料はカリウムとナトリウム、ニオブの酸化物で作ったセラミックス。
 セラミックスを産業応用した圧電素子は、国内で難関42億個生産されているが、ほとんどが鉛を含む材料を使用しており、環境対策上の課題となっている。
 今回開発したセラミックスは独自製法で結晶粒子を規則正しく並べ、圧電素子として動作するようにした。圧電効果の大きさや耐熱性などの性能も、鉛を含む従来の圧電素子とほぼ同じだった。今後は製造コストを低減し、実用化を目指す。
ここで鉛を含む材料とされているのは、いわゆるPZT、チタン・ジルコン酸鉛系のものと思われる。PbTiO3で Pbの含有量は68重量%、PbZrO3で 60重量%となるので、影響は確かに大きそうだ。今の所、豊田中央研究所のサイトにもデンソーのサイトにも、これに関するニュースは掲載されていない。

産総研のサイトで、低鉛含有ペロブスカイトの研究成果が載っているが、(Na,K)NbO3 と PbTiO3 の複合系で研究しているようだ。鉛系の添加量がゼロのデータも見られるが、鉛を含まないものは性能的に不十分ということらしい。

更に調べていたら、産総研の楠本さんが個人的に開設しているサイトで、無鉛圧電体に関する非常に充実したページを見つけた。無鉛圧電話題では、そもそも鉛使用セラミックスが環境に悪いのかどうか、ヨーロッパの鉛規制、鉛系セラミックスの特性、および代替候補の長所と短所などが網羅されている。さらに、無鉛・鉛系圧電材料に関する研究、開発動向では、最新の業界の動向をウォッチングしている。この分野の動向については、このサイトでほぼ完璧だろう。

どうやらニオブ酸アルカリ系の問題点は、製造工程でアルカリの蒸発に伴い、緻密な焼結体が得られにくいことなどがあるようで、冒頭の記事でも調製方法に工夫を加えたように読める。

ちなみに、圧電セラミックスの自動車への応用例として、ノックセンサー、バックセンサー(ソナー)や圧電雨滴除去ミラーなどが見つかるが、例えばデンソーのCAR PARTS WEBでは、自動車の様々な部品のオンラインカタログとなっており、その豊富なラインナップと簡単な解説がメカ好きの人は楽しめるかもしれない。

以前、PZT系の圧電アクチュエータの開発に携わったことがあり、ちょっと懐かしい分野だけど、しばらくぶりに見てみると、比較的枯れた分野というか、あまり驚くべき進歩もしていないみたいだ。無鉛圧電体というのは、無鉛ハンダ以上にその必要性に疑問がないではないが、貴重な資源を使わずに安価にできるのならば、もちろん大歓迎だ。

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