「テレビの嘘を見破る」
普段紹介している科学系の本ではないけど、メディアリテラシーは色々な問題を考える上で重要なポイントの一つでもあり興味がある。本書は、テレビドキュメンタリーについて、そのあり方、特にやらせや捏造問題について、いわゆるテレビ側の人間が過去の例を検証する形で考えていく本。タイトルはテレビの嘘となっているが、対象はあくまでもドキュメンタリー番組に限られている。
新潮新書 088
テレビの嘘を見破る
今野 勉 著 bk1、amazon
普段、テレビドキュメンタリーの裏側のことなんか何も考えたことがないのだが、本書はそういう人でも十分に興味深く読み進むことができる、というか、そんな人が興味を持って理解できるような工夫がなされている。何しろ、冒頭から非常に面白い実例が沢山出てきて考えさせられる。テレビ番組を作るに際して、製作側は様々なテクニックを使っているようだが、果たしてどこまでの操作は許されるもので、どこからが捏造、やらせになってしまうのか?
ドキュメンタリーとは、あるがままの現象を収録したもの、という程度に漠然と考えていたが、どうしてどうして、真実とは何かとか、テレビ番組の存在意義は何か、といった深~い問題まで考えさせられてしまう仕掛けとなっている。
ドキュメンタリーを作る側が仕掛ける様々なテクニックを、まるで手品の種明かしを見るような感覚で楽しめる側面もあるが、それと同時に、普段我々が目にすることのない、プロの作り手のドキュメンタリーについての色々な考え方を見せてもらい、非常に面白かった。
映画の始まりまでさかのぼり、歴史的な経緯も含めて語られる様々な実例は、門外漢にとっては、そのひとつひとつが新鮮で、驚きに満ちている。まあ、住む世界が違うと常識も違うということだ。著者は、従来あまり一般視聴者向けに語られることのなかった、ドキュメンタリー作成の裏側の事情を、率直にさらけだすことで、できるだけ視聴者側の立場に立って一緒に考えるという姿勢を貫いている。
結局、製作側がどこまで手を加えることが許されるのか? その基準は業界側の人達でもひとりひとり異なるようだし、本書でも明確な答えは出ていない。でも、確かに微妙な問題なんだなということは十分に伝わってくる。
今まで、バラエティ番組などは最初から眉唾で見ていた一方で、ドキュメンタリー番組は比較的素直に見ていたように思う。でもこれからはドキュメンタリーに関しても、少しは醒めた見方をすることになりそうだ。でも、それはより深みのあるものの見方なわけで、悪くないと思える。むしろTVを情報源の一つとしている以上、メディアリテラシーの一環として本書の内容程度は知っておいて損はないと思う。
総じて、著者が真剣に語りかけてくれているので好感が持てるのだが、あえて注文するとすれば、今回取り上げたような微妙なケース以外にも、明らかにアウトになるような捏造の例も取り上げることで、アウトとセーフの境界線をもう少し明確にしてもらいたかった。
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