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2004/11/26

鳥インフルエンザ流行で死者数百万人

CNN.co.jp(11/26)の記事。WHO、鳥インフルエンザ流行に警鐘、死者数百万の恐れ

バンコク――世界保健機関(WHO)は25日、鳥インフルエンザが近い将来大流行し、死者が数百万人に上る恐れがあるとの警告を発した。インフルエンザ対策を担当するクラウス・シュトール氏が、バンコクでの記者会見で語った。

バンコクでは同日から、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国の保健担当閣僚らが参加して、鳥インフルエンザへの対策を話し合う会議が始まった。クラウス氏はこれに合わせた会見で、「流行は来週から数年後までのどの時点で起きてもおかしくない」と強調。アジアで発生した鳥インフルエンザが全世界に広がり、感染者は全人口の25-30%に上るとの見通しを示した。その場合の死者は「楽観的にみても200万人から300万人に達する」という。

インフルエンザの大流行はこれまで20-30年ごとに起きてきた。人間が免疫を持たない新型のウィルスが猛威を振るい、1918-19年の「スペインかぜ」では5000万人、57年の「アジアかぜ」では70万人が死亡したとされる。シュトール氏によれば、こうした大流行は過去36年間起きていないため、次のサイクルは鳥インフルエンザが引き起こすとの見方が強まっているという。

鳥インフルエンザではこれまでに、タイとベトナムで32人が死亡。人から人への感染が疑われる例も報告されている。米企業などがワクチンの開発を進めているが、完成は早くても来年3月以降になる見通しだ。

ということで、バンコクで行われた鳥インフルエンザ対策の国際会議の席でWHOから出たコメントのようだ。この会議の意義を強調する意図もありそうだが、まあ、可能性だけなら何とでも言えそうだ。それにしても、現時点では鳥インフルエンザに関しては有効なワクチンもないわけで、一般の人々にどうしろと言いたいのだろう? 

確かに人への感染能力を持ったウィルスが一旦広がり始めたら、蔓延を食い止めるのは結構大変そうだけど、SARSのように徹底的な隔離ができれば、そこそこの効果はあるはずだし、少なくとも昨年までよりは各地で警戒しているのだから、「死者は楽観的にみても200万人から300万人」というのは、いくら何でも誇張しすぎに思えるけど。。

ところが、英語の記事を探してみたら canada.com では

He said the virus would cause a "a public health emergency," and estimated it would cause two million to seven million deaths and make billions of people ill.
と書かれており、同じクラウスさんの言葉として、死亡者数が最大700万人となっているから、日本の記事は少しは遠慮したのかもしれない。(WHOのサイトには特に関連するリリースは掲載されていないようだ。)

そもそも、インフルエンザが20~30年周期で大流行するメカニズムは何かあるのだろうか? 大地震が数十年周期で起こるというのとは話が違うと思うのだが。それに、インフルエンザの場合には、明らかに人間社会の変化が流行の程度に影響するはずで、何十年も前の流行から周期を推定することにどれだけの意味があるのやら? Wired NewsにはSARSは宇宙からやってきた?という記事が載っていて、スペイン風邪も SARS も宇宙から来たウィルスが起源という説もあるようだし。。

ところで、たまたま FujiSankei Business i(11/26)に米でインフルエンザ予防接種ツアーが活況、カナダなど観光とセットという記事が載っている。アメリカの大手ワクチン製造会社が作った今年のワクチンが出荷停止となったため、ワクチン不足となって、カナダやメキシコにワクチンの接種を受けに行くツアーが大人気なのだそうだ。

この記事によると、アメリカでは毎年約33000人がインフルエンザで死亡しているとのこと。インフルエンザで死亡するのは、老人や幼児等、或いは病気の人など、いわゆる弱者が多いと思われる。だとすると海外までワクチン接種ツアーに行けるのは、その正反対のリッチで元気な人々が大部分だろうから、今年は死亡者が相当に増える恐れがありそうだ。

ところで、アメリカのインフルエンザ死亡数から単純に人口の比率で全世界の死亡者数を計算すると、約74万人となる。インフルエンザの流行しそうもない地域の分を割り引き、逆にワクチン接種率やその他衛生状態の低い地域の分を割り増して考えると、年間数百万人の死亡というのは、それほど驚くべき数字ではないのかもしれない。なお、日本ではインフルエンザによる死亡者は年間数百人から千数百人とされているが、いわゆる超過死亡は1万人のオーダーで存在するようだ。(参考

厚生労働省のインフルエンザに関するページは、今冬のインフルエンザ総合対策について(平成16年度)らしい。Googleで検索するとトップに出てくる厚生労働省インフルエンザ対策キャンペーン ホームページは更新もされずに忘れ去られてしまったらしい。。

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コメント

>そもそも、インフルエンザが20~30年周期で大流行する
>メカニズムは何かあるのだろうか?

あります。普通、鳥インフルエンザウイルスはヒトには感染しませんが、ブタには鳥、ヒトの両方のインフルエンザウイルスが感染します。ブタが鳥、ヒト両方のインフルエンザウイルスを感染すると、ブタからヒトに感染する鳥型とヒト型の両方の遺伝子をもったインフルエンザウイルスが出現する可能性があり、これが大流行を引き起こすインフルエンザウイルスになると考えられています。
過去、大流行を起こした(=遺伝子組替わりにより新型ウイルスが発生した)周期を調べてみるとだいたい20~30年に一回出現しているのがわかっています(といっても確実なのはスペイン風邪からだから3-4回程度なのですが)

投稿: ある大学院生 | 2004/11/26 21:53

ありがとうございます。その辺の話を、http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g3/k01_44.html">国立感染症研究所 感染症情報センターの解説を読んだり、このブログでhttp://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2004/01/post_4.html">1/11に紹介した「感染症とたたかう」という本を読み直してみました。

過去のH1N1(スペインかぜ)、H2N2(アジアかぜ)、H3/N2(香港かぜ)といった大流行したウィルスは不連続抗原変異によって大きく遺伝子が変異したもので、なおかつヒトに感染する能力を持っているものなわけですね。

では、何故その変異は20~30年周期なのか? この本では、近年では野鳥、家禽、家畜、ヒトとの関わりあい方が数十年前とは大きく変わっていること、ヒトや食料としての家禽や家畜の移動距離や速度が大きく変わっていることから、従来よりも遥かに高い確率で大流行するウィルスが発生しうると書かれています。しかも、一旦強毒性の鳥インフルエンザにヒトが感染すると、最悪数億人が死亡する大流行となる可能性もあるとしています。

ということで、変異のメカニズムはほぼ理解できているとしても、その周期や、流行の程度、或いは被害規模などについては、「○○の可能性がある。」というレベルであって、ほとんど予測とは呼べないもののように見えるのですが。。

それでも被害規模があまりにも膨大なので、警告を発することに正当性があるということかもしれませんが。

例えば、過去の大流行したウィルスの遺伝子の解析に基づいて、遺伝子の突然変異の頻度やヒトへの感染の確率などのモデルを作り、シミュレーションによる予測ができたりしないものでしょうか?

投稿: tf2 | 2004/11/26 23:49

おそらくこの話を突き詰めていけば、インフルエンザウイルス(だけでなく他のウイルス一般に当てはまることですが)の病原性が何によって決まっているのかよくわからない点に落ちると思います。インフルエンザウイルスのなかでも細胞を殺す強さに強弱があり、その強弱が何によって決まっているのかがよくわかっていません。
全身感染のメカニズムとか先の香港型のウイルス側の原因遺伝子とかはわかっていますが、まだまだウイルス感染とそれに伴う病原性の関係について研究があまり進んでいないのが現状です。このため、新型ウイルスが出現すれば死者100万から1億というとんでもなくアバウトな数字しか出せません。

ちょっと話はずれますが、北大では来年からインフルエンザウイルスの遺伝子収集、解析、ワクチンの基礎作りなどを行うセンターを立ち上げるようです。

投稿: ある大学院生 | 2004/11/27 00:33

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