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2004/11/30

「科学技術はなぜ失敗するのか」

この著者の本は、7/9の記事で「ココがわかると科学ニュースは面白い」という本を紹介している。その際には、正直に言ってあまり良い印象はなかったのだが、本書はタイトルが気になったので、読んでみることにした。(よく考えると科学技術は失敗したり成功したりするものではないような気もしないではないのだが。。)

中公新書ラクレ 154
 科学技術はなぜ失敗するのか
 中野 不二男 著 bk1amazon

読み始めてみると内容に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。本書は、「中央公論」に「ニュースの科学方程式」として連載していたコラム18編をまとめたもの。「ココがわかると科学ニュースは面白い」の時の中途半端な印象が消え、読み応えのある本に仕上がっている。

それにしても、本書はタイトルと内容が一致していないと思う。タイトルに釣られて読むと多少なりとも肩透かしを食ってしまう。いかにも、個々の失敗例を解析して、如何にあるべきか、を問うような「失敗学」なのかと思いきや、この本ではもっと大局的な視点で現状を解析している。つまり、日本の宇宙開発などで今まで起こったそれぞれの失敗の背景には、日本という国には科学技術についてのビジョンが無いことや、科学的センスのない官僚や政治家が国家プロジェクトを牛耳っている実態があるのだ、というようなことを語りかけている。

具体的な内容や著者の視点も面白い。特に著者お得意の宇宙開発関連では、NASAのスペースシャトル事故の原因究明と日本のロケット打ち上げ失敗後の対応について、その相違を背景の国家ビジョンまで視野に入れ、真の問題点はどこにあるのかが比較的丁寧に語られる。スペースシャトルの事故原因についても、とてもわかりやすくまとまっている。また、日本の宇宙開発体制が最近大きく変わったことについては、単なる民営化や合理化の流れで片付けるのではなく、その背景の様々な問題点が提示されている。

面白かったのは、第二次世界大戦の際の日本の零戦とアメリカのグラマンの性能を総合的に比較して、その設計思想や戦略を読み取る話。零戦は徹底的な軽量化によって圧倒的な旋回性能や最高速度を誇っていたが、逆に防御力を最初から考慮していない設計となっており、グラマンが旋回性能や速度を犠牲にしても厚い鋼板等で攻撃に備えたのと対照的となっている。これがそのまま、日本は失敗率0%思想にとらわれていることの実例で、今の原発等の安全神話につながる、というストーリー展開はどうかと思わないでもないが、確かに失敗率0%の考えはゼロリスクとも共通する、諸悪の根源の一つだろう。

一方、宇宙開発や南極観測にどの程度のお金を投入すべきなのか、という問題はなかなか難しい。今までどおりに、国家間の争いが続くという前提に立てば、独力で一通りの設備や能力を持つことが必須なのだろう。しかし、地球全体を見る視点からすれば、極力無駄な開発はやめ、効率的な役割分担を行って、むしろ現実に地球上で起こっている色々な問題の解決のために有効な投資をするべきかなとも思う。

著者はもともと、日本の宇宙開発へのスタンスが余りに近視眼的で、長期的な展望に欠けることを憂いて、この本を執筆したのかなと思われる。しかし、本書を読んでいるうちに、想いはそこからさらに広がり、日本を今後どんな国家にしたいのか、世界は今後どうなっていくのか、といった長期的で大局的なビジョンを出発点として物事を考えている人が、この国のトップにどれだけいるのだろう? と思わず考えさせられてしまった。

アメリカを始めとするよその国のやり方が正しくて、日本のやり方も駄目なものばかりではないと思うし、著者の主張に全て同意するわけではないのだが、本書が提起していることは確かにとても重要な問題だと思う。

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