最新の地球温暖化シミュレーション
京都議定書の発効が正式に本決まりとなったようだが、そんな記念すべき日に、同じ環境省のサイトに、数値気候モデルによる20世紀の気候再現実験についてという記事が掲載された。
国立大学法人東京大学気候システム研究センター(CCSR)、独立行政法人国立環境研究所(NIES)、独立行政法人海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター(FRCGC)の合同研究チームは、地球全体の大気・海洋を計算する数値モデルを用いて、20世紀において観測された地球の平均地上気温の変化を再現することに成功した。この計算では、従来の計算では考慮されてこなかった様々な気候変動要因を最大限考慮している。様々な要因を切り分けて計算を行った結果、近年(20世紀最後の30年程度)の昇温傾向は人間活動に伴うものであることが強く示唆された。一方、20世紀前半(1910~45年ころ)の昇温傾向は自然起源の気候変動要因に因ることが示唆された。今後の解析により、気温以外の量についてもさらなる知見が得られることが期待される。ということで、従来の地球温暖化シミュレーションよりも精度の高いモデルを使って計算したら、20世紀の気温変化をかなりうまく表現できた、ということらしい。この手の予測はいろんな研究機関で行われてきたと思われるが、やっぱりIPCCによるものがスタンダードだろう。せっかくだから比較してみたい。今回のシミュレーション結果は、先のサイトにPDFで掲載されているが、比較のためにここに転載する。
なお、本研究は環境省の地球環境研究総合推進費及び文部科学省の人・自然・地球共生プロジェクト等の研究費により実施された。
赤が実測値、黒が計算値を示している。要するに、人為影響と自然影響を重ね合わせるとうまく一致するというわけだ。特に1950年付近の温度上昇は人為影響のみでは説明が困難のようだ。自然影響のみで 1950年頃までの温度上昇はほとんど説明できるというのも面白い。この期間でも大気中のCO2は増加している(約295ppmから310ppm程度まで)のに、このモデルでは温度上昇にはほとんど寄与しないみたいだ。右側の図では、自然影響をさらに太陽変動とエアロゾルの影響に分けて解析したもののようだが、意外と太陽エネルギーよりもエアロゾルの影響が大きそうだ。一方、IPCCの計算結果等のデータは、こちらで入手できるが、その中に同様のモデル計算の結果を示す図があるので、下に示す。
こちらは、左上が自然影響のみ、右上が人為影響のみ、下が両方の影響を考慮した計算結果だ。こうやって比べてみると、何だ、ほとんど一緒じゃないの? という気がしないでもない。 IPCCのモデルとの相違については、
IPCC第3次評価報告書(2001年)においても、数値気候モデルを用いて、20世紀後半の昇温傾向は人間活動に因ること、20世紀前半の昇温傾向は自然起源の気候変動に起因する可能性のあること、が指摘されていたが、当時の計算では、いくつかの重要なプロセスや気候変動要因を考慮していなかった。今回の計算では、それらの問題点を改善し、現状で考えられるほぼすべての気候変動要因を考慮しているため、従来の知見の信頼性をより高めることができた、と言える。とある。今回のモデルに組み込んだ要因は、
(1)太陽エネルギーの変動
(2)大規模火山噴火に伴い成層圏にまで到達したエアロゾルの変化
(3)温室効果気体(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハロカーボン)濃度の増加
(4)1970年代半ば以降の成層圏オゾン濃度の減少
(5)人間活動に伴う対流圏オゾン濃度の増加
(6)工業活動に伴う二酸化硫黄(硫酸エアロゾルの元物質)排出量の増加
(7)人間活動に伴う煤などの炭素性エアロゾル排出量の増加
(8)土地利用変化
の8項目とのことだが、新たに組み込んだのはどれなんだろう? まあ、CO2を始めとする温室効果ガスが近年の地球温暖化の重要な要因の一つであろうという結論は特に変わらないようだが、逆にその確度が特に高まったわけでもなさそうだ。(むしろ、この20~30年の人為影響のみの温度上昇速度は、IPCCの計算よりも今回の方が緩やかになっているように見える。)
*実はモデルに導入する要素が増えるということは、それだけ任意に調整できるパラメータが増えるということであり、実測値と計算値の一致の程度が向上するのは、当然といえば当然で、それがモデルの精度や信頼性の高さを保証しているわけではないはずなのだが。。
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