「人体常在菌のはなし」
サブタイトルが「美人は菌でつくられる」、帯の宣伝文句は「ぎょっ、皮膚にも善玉菌がいたのか?! ビフィズス菌びっしり=腸バリア、いい菌びっしり=肌バリア、美肌&快便は菌に任せろ!」 安井先生のサイトでも紹介されて、本論の枕に使われて突っ込まれていたけど、確かにあまり知らない世界なので、騙されないように注意しながら読んでみた。
集英社新書 0257
人体常在菌のはなし-美人は菌でつくられる
青木 皐 著 bk1、amazon
安井先生は、化学物質がアレルギー等に悪影響を与えているというような記述の部分に突っ込んでいたが、本書の突っ込みどころは他にもありそうだ。人体常在菌原理主義とでも言うのか、かなり変わった視点から書かれているみたいで、いくら何でもそれは言いすぎじゃないの? というような点もある。でも、その怪しいところも含めて、この本は結構面白いし、楽しく読める。
最近の超清潔志向は問題だ、という課題の設定や、菌を全て排除せず上手に共生していこう、という主張は確かにもっともだ。それに、本書で紹介されている人体常在菌の基礎知識や実験結果などは、とてもわかりやすく勉強になる。オナラをすると腸内細菌が一緒に放出されるとか、キシリトールには殺菌効果はなく唾液の分泌を促すだけだとか、体臭と皮膚常在菌の微妙な関係、特に加齢臭の正体なんて話などもなかなか面白かった。
本書では主として、体内常在菌の話と皮膚常在菌の話が書かれている。体内のビフィズス菌だとか大腸菌の話は少しは知っていても、皮膚に住んでいる菌の話は何も知らなかったので、なかなか有意義だった。皮膚には善玉菌として表皮ブドウ球菌が、悪玉菌として黄色ブドウ球菌が住みついていることや、これらが皮膚上でせめぎ合いをしているなんてこととか、知っていると世の中の物の見方に多少は違いが出てきそうな気もする。
著者は、身体や肌の健康を維持するための対策として、人体常在菌を健康な状態に維持することが重要とおっしゃる。体内常在菌にはビフィズス菌食品を中心にした菌を意識した食生活、皮膚常在菌には善玉菌をうまく活かす皮膚ケアが重要とのこと。美容についても、これからは育菌美容がキーになると主張している。
まあ、確かに菌の存在を無視することはできないだろうけど、これがちょっと極端な(単純すぎる)気がしないでもない。これを素直に信じちゃうと、アマゾンのレビューの人みたいに、傷の消毒はやめてみようなんて人が出てきてしまうのはやはり問題だろうと思うのだが。。(注:少なくとも本書には傷の消毒はやめようなんてことは書かれていない)
本書では、肉体の健康も肌の健康も全て菌のバランスの立場から説明されるのだが、人間よりもそこに住んでいる菌の方が大事なのではないか? というような感じさえする部分も出てくる。
常在菌だって、黙々と働いているのに、人間がちっとも構ってくれず、紫外線浴び放題、冷房で乾燥する、冷やされるとくれば、相当イライラしているのだ。常在菌がストレスを感じれば、人間も元気をなくし、人間がストレスを感じれば常在菌も元気をなくしてしまう。こちらが「守ってあげる」という意識をもてば、彼らのバランスも整い、私たちを守ってくれる。(p.142)なんてのも、著者が意識的に菌を擬人化して書いているかと思いきや、どうやら半ば本気らしいのだ。著者は思い込みが強い方のようで、食生活について、現代社会では、鶏や牛、野菜や魚などが、彼らの思いが無視されて人間の都合だけで育てられており、これらの生物もストレスだらけに違いないと述べ、
安い食べ物は、大量につくられ大量に運ばれるものであり、そのために、非常に無理がかかっているはずだ。いくら安くても、ストレスだらけの食べ物を食べ続けていたら、食べる側にもストレスが募り、やがて病気になる。それでは元も子もないのである。(p.188)なんて書いてある。どうも本書は、問題設定とその結論部分は非常にいい感じなので、途中の論理展開がどこかで一歩ずれているところを楽しむのが正しい読み方なのかもしれない。
例えば、バランスの良い食生活を進める知恵として、食品を十色に色分けして、色のバランスを意識して食事をしよう、という提案なんかはなかなか優れていると思うし、人間の身体や自然の仕組みを理解して、何でもかんでも人為的に抑え込もうとしない方が結局は(常在菌が健康になるので人間も)健康的なんだという考え方なども参考になる。
もっとも一般人としては、菌は目には見えないし顕微鏡で見たこともほとんどないので、日常生活で菌の存在を意識するのは難しいし、まして現在の菌の生育状態を正しく理解するというのは極めて難しいと思う。
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コメント
>傷の消毒はやめてみよう
実はそれほど荒唐無稽なことではないのです。このサイトのどこまで正しいかは判断つきませんが、かなりのところまでは正しいと思っています。
新しい創傷治療
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/
">http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/
善玉菌がどうとかという話とは違いますので、アマゾンのレビューはちょいと的外れ。よしんば皮膚が悪玉菌だらけとしても、傷の消毒は無駄かもしれません。要は、どうせ完全な消毒は無理なので、するだけ無駄(無駄どころか創傷治癒を妨げる)というのが、上記サイトの趣旨です。
投稿: NATROM | 2004/11/12 16:39
コメントありがとうございます。ご紹介いただいたサイト、一般人には、目から鱗の話です。NATROMさんからの紹介でなければ、かなりの眉唾物として読んでいたかもしれませんが。
ここの常在菌-蟻モデルを始めとする記載はとてもわかりやすいですね。なるほど、傷口を普通に消毒した程度では、所詮完璧な殺菌ができるわけでもないし、そもそもそんな殺菌に意味があるのか、ということですね。
でも、傷口は皮膚というバリアが失われているので、いかにも有害菌(破傷風菌とか)に対して無防備っぽいし、消毒に意味がありそうな気がしてしまうわけです。
考えてみるとケガの傷を消毒するなんて話は、普通の人にとっては所詮伝聞で得た知識だし、なかなか正しい知識に置き換える機会がないままに、次々と再拡散・流布してしまうわけですね。もっとも、お医者さんも誤解していたりするとなると、ますますややこしいですけど。
正しい知識を持つということは何事につけ難しいものです。
そうそう、このサイトで、http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound/next/dokusho.htm">本書が紹介されていますね。専門的見地から絶賛されてます。ふむふむ。
投稿: tf2 | 2004/11/12 19:42