室温の氷:アイスナノチューブ
産総研のプレスリリース(12/20)、世界で初めて「室温」のアイスナノチューブを発見。
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】の 片浦 弘道 主任研究員と、東京都立大学【総長 茂木 俊彦】(以下「都立大」という)大学院 理学研究科 真庭 豊 助教授(産総研 客員研究員、独立行政法人 科学技術振興機構(以下「JST」という)CREST)らは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube)内に吸着した水の構造を、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(以下「KEK」という)放射光科学研究施設(フォトンファクトリー(PF))におけるX線回折実験により明らかにした。カーボンナノチューブに金属原子を入れたりするのはよくやられているけど、水を入れると、水(氷)がチューブ状の分子構造を作るらしい。この研究では、直径の異なる6種類のカーボンナノチューブ内に水を入れ、温度を変えて、高エネ研のX線回折で構造を解析している。SWCNT内部の水は、低温で筒状の氷(アイスナノチューブ:以下Ice-NT)を形成し、その融点がSWCNTの直径すなわちIce-NTの直径に依存して大きく変化することを見出した。特に、直径1.17 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)のSWCNT内に成長するIce-NTは5個の水分子が環状に配列したものが積み重なって筒構造をとり、その融点は27℃であることを発見した。
これまで室温の氷は、1万気圧程度の高圧では得られていたが、大気圧以下での室温の氷の観測は世界初であり、ナノ空間に閉じこめられた水分子の挙動に、新たな知見が得られたことになる。また、SWCNTの直径が細いほど氷の融点が高いという、既知の法則(ガラス管等の細管中の氷の融点は細管の直径が細くなるに従って低くなる)とは反対の関係を見出した。この現象は、水分子が作る環状クラスターの安定性と深い関係があると推察されるが、今後のより詳細な実験により、これら水分子の挙動の解明が期待される。
さらに、減圧中で温度を45℃まで上げると、SWCNT内の水は一気に気化し、SWCNTから噴出することがわかった。これはナノジェット機構として、次世代インクジェット等への応用が考えられる。(改行編集 by tf2)
カーボンナノチューブの内径が細くなるにつれて、内部のアイスチューブの構造は8員環、7員環、6員環、5員環と変わっていくのだそうだ。イラストで見ると、なかなかきれいだけど、こんな構造がそんなに簡単に生成して、しかも安定に存在できるのか。。 しかも、一番小さい5員環構造は27℃まで存在できるということは、相当に安定ということだ。外側のカーボンナノチューブにより強い拘束を受けているということかもしれないが。
それにしても、放射光を使うとX線回折で氷の結晶構造まで見えるのか。しかも、CNTの中に入っていても何とかなるんだ。すごい技術のような気がする。。 実験結果を見ると、X線回折ピーク強度が温度低下と共に徐々に立ち上がっているが、通常の液相→固相の相転移とは様子が異なっているのかもしれない。
CNTの直径と氷の直径の関係を(ここに出ている情報だけから)整理してみると
CNT直径 Ice直径 比率 直径差 融点 構造
1.17nm 0.478nm 41% 0.692nm 27℃ 5員環
1.30nm 0.560nm 43% 0.740nm 7℃ 6員環
1.35nm 0.645nm 48% 0.705nm -53℃ 7員環
1.44nm 0.732nm 51% 0.708nm -83℃ 8員環
といった感じで、意外とCNTとの隙間が大きいことがわかる。直径比に何か意味があるのかどうか、よくわからない。
アイスナノチューブで検索してみると、本研究のメンバーでもある都立大の真庭助教授と高エネ研の以前の成果が、世界最小の氷チューブ 2002.10.10というリリースで読める。また、SWNTのインターカレーションには、水を含む様々な物質を内部に導入する研究についての解説が載っている。
純粋に現象としてとてもおもしろいのは間違いないが、ナノサイズのインクジェットとして応用可能というのは今一ピンと来ない。。 常温常圧で安定に存在する氷を作ることができる、というのはトリビアになりそうだ。
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