「トンデモ科学の大冒険」
タイトルや装丁には全然魅かれなかったけど、著者が「航空宇宙エンジニア」であることが目に止まり、目次を見てみると結構まじめな内容のようだったので、思わず購入。
トンデモ科学の大冒険 奇説・難問・謎に最先端宇宙科学が挑む
長谷川 洋一 著 bk1、amazon
第1章 2012年小惑星衝突で地球は滅びるのか!?
第2章 宇宙からやってきたウイルスが地球を襲う!?
第3章 国際救助隊「サンダーバード」が地球を救う
第4章 素晴らしくローテクなロシアの宇宙船
第5章 巨大構造物「軌道エレベータ」を造る
第6章 深海の世界へ挑む鯨衛星は値段が安い!?
第7章 テレポーテーションが実現する!
タイトルから想像される内容とは違って、かなり上質な科学読み物であった。第4章と第6章は取材に基づくドキュメントだし、第3章はまじめな国際救助隊構想だ。第1章もごく常識的な科学的考察に基づいているし、第5章と第7章はまともな科学の領域と夢の領域が混在しているが、内容はまっとうだ。多少ともトンデモ系の話は第2章ぐらいだが、これとても正統な科学の場でまだ議論されている話(SARSウィルス宇宙起源説)であり、いわゆるトンデモとは異なる。冒頭で著者は、
この本は、いわゆる科学書ではない。紀行文である。宇宙の謎のロマンティックな世界を、読者の皆様と一緒に旅したくて書いた。だから難しい理論は排除。数式は一切カット。筆者の細君にもわかるように書いた。と書いているが、確かに、ロシアのロケット工場やエネルギア博物館(ロケット関係の展示がある)を実際に見てきた話だとか、軌道エレベータの最初のアイデアを出したロシア人、チオルコフスキーの家を訪ねる話など、あまり他ではお目にかかれない話がわかりやすく読めるだけでも楽しい。
予備知識は不要だが、ひとつだけわがままを言わせてほしい。
まず、大き目のグラスに飲み物を用意しよう。といっても実験を始めるわけではない。飲むだけだ。
また、第6章は「観太くん」と名付けられた人工衛星の話だが、林先生と大学生たちのアイデアで、画期的なコストパフォーマンスを達成した衛星の秘密や苦労話が紹介されており、思わず応援したくなる。
宇宙開発は確かに未知の世界への挑戦で、やればやっただけ新たな知見と、そしてまた新たな謎が手に入るという、醍醐味のあるものだと思う。また同時に、GPS、衛星放送、衛星通信など、既にビジネスや日常生活で密接に関わっている分野もある。でも本書では、ビジネスの側面よりは夢の側面に焦点を当てて、宇宙に関する将来を語っている。
もっとも、もしも技術的に実現できたら、例えば軌道エレベータを造るようなプロジェクトが現実にあり得るのか? となると、コスト、エネルギー、資源等とのバランス次第だけど、どうも難しいのじゃなかろうか? でもまあ、そんなことは考えずに、たまにはこういう話を夢見るのも悪くないのかな、とも思う。違うタイトルで、どこかの新書で出したらきっとそこそこ売れそうに思うけどなぁ。
*著者は、有人宇宙システム株式会社というところの人なのだが、この会社、ホームページを見てみるとかなり面白いところのようだ。でも、何と言っても、サンダーバードの日本版として本書で紹介されている、レスキューナウ・ドット・ネットは、本社が東京の氷川神社の中にある、というのがすごく怪しくて楽しいかも。。。
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