「農から環境を考える」
2001年発行なので、少し古いのだが、帯には「地球人口ただいま 6,100,000,000人 環境を守りながら、農業はこの人口に、安全で十分な食料を供給できるのか!? いまこそ、意識革命をしなければ、人類は生き残れない。」とある。ちなみにそれから 3年たった、現時点での世界人口は既に64億人程度となっている。
環境問題を考える上で、増え続ける地球人口は大きな問題だし、それを支える食糧問題についての解決の道筋についてのコンセンサスがなくては、先進国の人間がとても身勝手なままということになる。その意味で、本書は目次を見るとグローバルな問題からドメスティックな問題まで、農業および林業のあり方に焦点を当てており、参考になるかな、ということで読んでみた。
集英社文庫 0092G
農から環境を考える -21世紀の地球のために
原 剛 著 bk1、amazon
著者は、元毎日新聞の論説委員。その後早稲田大学大学院の教授に転身された。
本書では、地球環境問題(温暖化、オゾン層、化学物質汚染)、日本の土地開発の問題、農林業の荒廃、世界人口問題といった点を論点として、客観的データや取材、インタビューを交えた展開となっている。
確かに、かなり広い分野をそつなくカバーしており、現在の基本的な問題点を総合的に認識するには悪くない本だろうと思う。ただ、読み進むにつれて、人類が今後生き残るためにはどうするべきなのか? という視点が薄れ、何故か最後は、有機農法だとか市民農園の話を中心に日本の農業の改革のあり方のような方向に向かって終わっているみたいだ。
地球全体の増え続ける人口が飢えずに済むためには、どうするのか?という問題について様々な切り口で考えておきながら、日本の農業を守るためには、手間暇を掛けた環境にやさしい農業をしようという提案には全くついていけない。。
日本人を始めとする先進国の人々は安い食料を輸入したり食べたりしないで、高価でもより安全な食料を食べ、安価な食料は(多少安全に問題があっても)貧しい国の人達に食べてもらおうということであるなら、それはそれで一つの見識だとは思うのだけど。(もちろん、じゃあ誰がそんな安い食料を大量に生産するんだ?という問題もある。)
もちろんこの問題にそんなに簡単な答えがあるわけもないのだが、識者と言われる人であるならば、やはり地球全体の食糧問題を俯瞰しながら、その流れの中で日本のあり方を論じて欲しかった。
それにしても、生産性を高めるために肥料や農薬を多量に投与すると、いずれそれが土地の荒廃や他の環境問題を引き起こすという問題や、人々がより高い収入を得ようとすれば、結局農業従事者や農地が減っていくという現実問題など、考え出すと憂鬱になる問題が山積だ。
なお本書の中で、中国やインドで増え続ける人口に対し、誰が食料を供給するのか?といった問題について、かのレスター・ブラウン教授が悲観的な見通しを述べているのに対して、インドの緑の革命の指導者である、モンコンブ・スワミナタン博士が、特に中国の農業生産拡大について比較的楽観的な見通しを示しているのが興味深い。
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コメント
Bjorn Lomborgという著者のThe Skeptical Environmentalist(日本語訳山形浩生)という本ではレスター・ブラウン氏の見解は誤った統計手法による誤った結論、もしくは補助金目的の意図的に誤ったものと論じられています。資料が多すぎて部分的にしか見ていないのですが、本書に示された参考文献を見る限りでは著者の意見にぶがあるようです。
かなり分厚い本ですが第Ⅰ部だけでも目を通すと面白いと思います。
投稿: neat | 2004/12/24 00:30
neatさん、ご紹介ありがとうございます。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163650806/ref=ase_doyouthinkfor-22/250-8779852-6721063">「環境危機をあおってはいけない」ですね。前から読もうと思いながら、何となくタイミングをはずした感もあり、ずるずると来てしまいました。賛否両面から色々な反響があったようで、確かに注目の本ですよね。
年末年始にでも読んでみることにしましょうか。
投稿: tf2 | 2004/12/24 21:40