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2004/12/27

クモの糸の人工合成

CNN.co.jp(12/27)の記事。イスラエルの科学者ら、人工の「クモの糸」開発

強くて弾力性のあるクモの糸を人工的に作り出す方法を、イスラエルの科学者らがこのほど開発した。遺伝子工学を駆使して、大量生産への道を開いた。医療や電子工学への活用が期待される。

クモの糸の主成分はタンパク質。カイコから採れる絹よりもさらに強靭(きょうじん)で、優れた特性を持つ。クモが移動する際に道標として使い、ぶら下がる時の命綱となる「しおり糸」は、特に切れにくいことで知られる。だがクモはカイコと違い大量飼育が困難なため、これまで糸の商品化は不可能とされてきた。

ヘブライ大の生物学者、ユリ・ガット博士らは、独ミュンヘン大、英オックスフォード大のチームと協力し、2年前から研究を進めてきた。その結果、クモの遺伝子を使って、天然のしおり糸とほぼ同じ組成の糸を実験室で作り出すことに成功したという。「クモの細胞を遺伝子組み換えウイルスに感染させることにより、糸のタンパク質を大量に生産する方法を編み出した」と、ガット博士は説明する。できあがった糸は直径1000分の1ミリと非常に細く、手術用の糸や防弾ベスト、電子部品の配線、光ファイバー、釣り糸など、幅広い用途が考えられるという。

なるほど、言われてみるとクモの糸は積極的に利用されているように見えないが、それはカイコみたいに飼育して効率よく生産させることができないからなのだな。それにしても、この記事では、肝心のどうやって作り出したのかの記述がよくわからない。特に「クモの細胞を遺伝子組み換えウイルスに感染させる」という表現は何だかおかしくないか?

調べてみると、このニュースは11月の末に欧米で報道されているもので、Science Dailyの記事が詳しくて、わかりやすそうだ。ポイント部分を引用すると

In their laboratory experiments, the researchers introduced the genes, which encode the two dragline silk proteins, into an insect-infecting virus, known as baculovirus. These genetically engineered viruses were then grown in cultures of cells derived from a type of caterpillar called the fall armyworm.

"Since spiders and insects are both arthropods and since their genomes are more closely related to each other than to those creatures with which prior experiments were conducted, we felt that we would be able to produce spider fibers using these insects," said Dr. Gat. "For this purpose, we developed a methodology for producing great quantities of the appropriate proteins, which is based on infecting the insect cells with the genetically engineered virus, in order to produce the fiber."

となっており、クモの糸を構成するタンパク質(ADF-3とADF-4の2種類)を生産する遺伝子をバキュロウイルスに導入し、これを fall armyworm(ヨトウガの一種)の幼虫から得た細胞中で培養するという手順のようだ。先のCNNの変な文章の元の英文は、"infecting the insect cells with the genetically engineered virus"のようだ。ここでは insect はクモではなくて、蛾のことを指すのだが、そこを間違えてしまっているようだ。

バキュロウイルスとは昆虫に感染するウイルスで、バキュロウイルスを使ったタンパク質生産については、カイコを宿主とした例もあるが、今回の実験は実験室で昆虫細胞を培養する方法を採用しているようだ。

なお、今回の研究内容については、Microbial Cell Factoriesのサイトで論文が全文公開されているが、素人にはちょっと内容が難しい。

ところで、クモの糸ってのは粘着性が強いイメージがあるが、ここの説明によると、粘着性があるのは横糸だけで、粘着球というのを糸にくっつけているのだそうだ。今回合成を試みた糸は「しおり糸」(dragline silk)というのは、このページの表記では「牽引糸」と書かれているもののようだ。こいつは、同じ太さのナイロンやスチールファイバーよりも強くて弾力性があるようだ。クモの糸は、Wired Newsでも、時速30kmで飛んでくるハチを捕まえられる強度があることなどから、防弾服を含めて様々な応用が期待されていることが書かれている。

ちなみに、クモの糸を実際に束ねて強いロープができるかどうかを所さんの目がテン!で実験したけど、うまくいかなかったらしい。

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コメント

そういえば、銃の照準器にはこれが使われているとかいたとかいう話を聞いたことがあります(熱による膨張収縮が小さいため)。

しかし、培養液からどうやって繊維を引き上げるのかが気になります。

投稿: ESD | 2004/12/28 02:51

クモは、はじっこを木の枝等に付着させて、そこから自重を掛けて引き伸ばしているようです。別に引き上げではなくて、押し出しでも構わないのでしょうけど、紡糸条件は確かに微妙なようで、元の論文にも、"Artificial spinning of spider silks" として一章を費やして書かれています。

これによると同じタンパク質でも紡糸条件で相当に物性が変わってしまうようですね。(まあ、合成樹脂のフィルムや繊維を引くときでも同様に延伸条件がクリティカルのような気はしますけど。)

銃の照準には、今はガラスに直接線(傷)をつけるような技術を使っているようです。まあ、マイクロファブリケーションの技術は進歩が著しい分野ですからね。

投稿: tf2 | 2004/12/29 00:42

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