« 2004年12月 | トップページ | 2005年2月 »

2005/01/31

牛糞からベンゼンと水素

先週末に各紙に載ったニュース。YOMIURI ON-LINE(1/29)は、牛ふんから燃料やプラ素材、高性能触媒を北大が開発

 メタンガスからベンゼンと水素を効率よく作り出せる高性能の触媒を北海道大学が開発した。この手法を使えば、牛ふんからもプラスチック原料や燃料電池用水素を生み出すことが可能で、資源節約と廃棄物削減の一石二鳥につながる画期的技術として期待される。

 新触媒は、微小な細孔を持つセラミックに、白金など複数の金属を組み合わせた。メタンからベンゼンを作る技術は従来もあったが、二酸化炭素など有害物質の発生が避けられなかった。北大方式は、この欠点を克服。牧場で集めた乳牛のふん尿からベンゼンと水素を生み出す実験施設を作り、連続運転にも成功した。

 メタンは、天然ガスに含まれているほか、牛ふんや生ゴミからも出る。ベンゼンはプラスチックや化学繊維の原料、水素は燃料電池の燃料になる。

 北大の試算では、生ゴミ、家畜の排せつ物、稲わらなどの廃棄物は、日本で年間2億5000万トンも出る。これをすべて新技術で処理すると、ベンゼン1100万トンと水素1200億立方メートルを生産できる。ベンゼンは国内の使用量を十分まかない、水素も燃料電池を動かせば国内電力供給量の4分の1に上る計算になるという。

ということだが、何故にわざわざ牛糞からベンゼンを作らねばならないのだろう? この記事だけではわからない点が多すぎる。MSN-Mainichi INTERACTIVEのニュースでは、
 家畜のふん尿を発酵させたメタンを使って、化学繊維やプラスチックの原料になるベンゼンや燃料電池に使われる水素を効率よく製造する触媒技術を市川勝・北海道大触媒化学研究センター教授らが開発したと、27日発表した。北海道開発土木研究所がこの技術を導入した装置の長時間稼働にも成功しており、実用化にめどを付けている。石油から作られるベンゼンは原油高騰で価格が上昇しており、二酸化炭素を排出しない利点もあり、産業界の注目を集めそうだ。

 市川教授は、水素を作る過程を研究する中で、メタンを分解すれば水素のほかにベンゼンが得られる可能性に気づいた。無数の小さな穴を持つセラミックス材の一種「ゼオライト」を加工し、ベンゼンと同じ大きさの1億分の5センチの穴を作り、750度、5気圧の環境でメタンを通すと、ベンゼンと水素が得られることを発見した。メタンが分解しやすいよう穴の内側に金属のモリブデンや白金を付着させ、ベンゼンの生産性を高めた。

 同研究所が根室管内別海町で、牛1000頭のふん尿を使い、100時間以上の実証実験を行った結果、1日当たり200立方メートルのメタンから120立方メートルの水素と50キログラムのベンゼンができた。1年間稼働すれば約15万着分のシャツを生産できる量のベンゼンを得られ、製造コストは石油を利用した場合の半分以下で済む。

 市川教授は「どこにでもあるふん尿や生ごみなどのバイオマスを利用しており、循環型社会の構築に役立つ」と話す。

となっており、よく見ると、得られるベンゼンと水素の割合が読売の報道と毎日の報道で異なるようだが、ここでもコストが半分以下ということで、有望な技術として紹介されている。それにしても、この反応を「メタンの分解」と表現するのはどうだろう? 分解して元よりも大きな分子ができるのは変だろうに。 脱水素環化縮合だろうか? ちなみにasahi.comのニュースでは
 メタンを約750度、約5気圧にして市川教授が開発したセラミックス触媒と混ぜると、約15%が化学反応を起こしてベンゼンと水素に変わる。反応しなかったメタンは回収して再利用する。

 実証試験では、糞尿から発生する1日約200立方メートルのバイオガスから取り出したメタンをもとに、ベンゼン50キロと水素120立方メートルができることが分かった。

 バイオガスはそのままでも燃料になるが、石油化学工業の基幹原料であるベンゼンに変えれば、付加価値が高まる。水素は燃料電池に使える。

と書かれているので、ベンゼンと水素の比率は読売が間違っているようだが、さて、そのままでも燃料になるが、ベンゼンに変えて付加価値を高める? それは、石油だって精製して各種成分を取り出すことで付加価値を高めているわけで、何と何を比較すべきなのかよく考えるべきじゃないのだろうか?

さて、調べてみるとこの技術は、昨年11月のSankei ECONETに結構詳しく掲載されている。もっとも、ここではあくまでも水素を製造することを前面に打ち出しているのだが、今回のニュースではベンゼンの方が前面に出ている点が異なるようだ。見た所、技術的にはほとんど変わりがないようだが、何故今回はベンゼンを前面に出してアピールしたんだろう?

やはり欠点は、転化率が低いので、リサイクルが必須ということと、恐らくコーキング(炭素質の触媒への付着)によると思われる触媒ライフの問題らしい。 今回の記事を見ても、特に技術的にブレークスルーしたようにも見えないのだが。

この技術についての北大触媒科学研究センターの解説を読むと、バイオガスというよりは、天然ガスとしてのメタンの有効利用というテーマの位置付けのようだし、あくまでも水素が主役のようだ。活性種が炭化モリブデンというのがなかなか面白い。コーキングについては水素やCO2を共存させることでかなり抑えられるようだ。

それにしても、牛糞等から発生するガスの有効利用であれば、荏原、家畜ふん尿処理システム「バイトレック」が本格稼働、売電開始のように、発酵したメタンガスを直接発電に用いる方が効率的のような気がするし、これで得られたエネルギー分だけ石油の燃料としての消費を削減する方がいいのじゃないだろうか?

今回、比較すべきなのは、メタンガスの直接利用のケースと、ベンゼン+水素へ転換しての利用のケースだ。もちろん、現時点で経済的にどちらが有利かという評価だけでなく、トータルのエネルギー効率や資源効率も評価すべきだろう。毎日の記事にある「コストが石油の半分以下」というのも、何と何のコストを比較しているのか不明なのでよくわからないが、本当だろうか? もしもベンゼンを全てバイオ由来にしてしまうと、現行の石油ルートで出来てしまうベンゼンはどうするのだろう? その処理コストや現行石化プロセスへの波及効果も考える必要があるぞ。。

もちろん将来の石油資源の枯渇を視野に入れれば、天然ガスやメタンハイドレートの有効利用というのは必要な技術だと思うし、確かに産総研の報告書などでも、同様の反応をターゲットに研究されている様子が見られる。 ただ今回の報道のされ方は、なんだか問題があるような気がする。。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005/01/28

シアル酸のど飴

NIKKEI NETのプレスリリース(1/27)で見かけた記事。クラレファミリー製品、14種のハーブやビタミンCを含む「シアル酸のど飴」を発売

おいしく食べて体も喜ぶ「シアル酸のど飴」新発売

 各種健康食品や化粧品などを販売しているクラレファミリー製品株式会社(本社:大阪市、社長: 高本義和、TEL:06-6348-9905)では、このほど牛乳由来の健康素材シアル酸をはじめ、プロポリス、緑茶エキス、シジュウムグァバ・ペパーミントなど14種のハーブ、ビタミンCを含む「シアル酸のど飴」を商品化し、2005年2月1日から新発売します。

 シアル酸は母乳(初乳)などの乳タンパクや、中華料理の高級素材である海燕(うみつばめ)の巣などに含まれる成分です。また、ヒトの細胞表面や唾液などにも存在しています。

 このシアル酸は、外敵とくっつきやすい性質を持っています。通常、外敵は細胞表面のシアル酸部分のアンテナにくっつき、そこから細胞内に侵入します。ところが、母乳などで外部から取り入れたシアル酸は、そのアンテナとそっくりのおとりアンテナを持っています。そのため、外敵はおとりアンテナとくっつき、そのまま体外に排出されるわけです。

 その作用を応用し製品化したものが、この「シアル酸のど飴」で、おいしく食べて体も喜ぶ健康のど飴です。風邪が気になる方、のどのイガイガが気になる方、のどをすっきりさせたい方などにお勧めいたします。

クラレのニュースリリースにも同じ記事が載っている。クラレファミリーという会社は、各種健康食品や化粧品を会員制で販売しているようだ。

ここのところ、健康食品関係で、次から次へと新たな「物質」が取り上げられている。恐らく多くの消費者はその物質がどんなものなのかなんて全く知らないけど、何度も見たり聞いたりするうちに、何となく良さそうに思うのだろう。今回は「シアル酸」だ。

シアル酸を調べてみると、脂質と血栓の医学に、シアル酸(sialic acid、主としてN-アセチルノイラミン酸)は酸性のアミノ糖であると書かれ、化学式も載っている。シアル酸という特定の化合物があるのではなく、グループの名称のようだ。

調べてみると、シアル酸研究会というものがあり、「まさに、シアル酸こそは21世紀を担う創薬科学の中心リード化合物となるでありましょう。」なんて書かれている。「シアル酸は生体内で、単体のほか、複合糖質の構成成分として、細胞膜表面のオリゴ糖の末端に存在して、重要な生物学的機能を担っている。」ということで、クラレのリリースの説明とも一致する。ただ、ここのサイトの情報はとても詳しいが、難解な文章が続きわかりにくい。とても真面目に取り扱っているとは言え、燕の巣(燕窩)の効能を楊貴妃が食べていた話と絡めている当たり、やや怪しい雰囲気もないではない。

ということで、健康食品業界が放っておくはずもない。燕の巣そのものや、海燕の巣入りコハク飴などのように、楊貴妃やシアル酸をキーワードにして宣伝しているようだ。結構高価なものだ。

ベビー用品のコンビも、コロカリアという燕窩素材を売っているが、ここには、ヒトの唾液、ローヤルゼリー、燕の唾液中のシアル酸の比較が載っていて、燕はヒトの1670倍、ミツバチの200倍ということらしい。これって燕の唾液中の濃度なのか、燕の巣の濃度なのかが不明確だな。それにしても、燕の唾液(だけ)にシアル酸がそんなに大量に含まれているのは何故なのだろう? コンビのプレスリリースには、

燕窩に非常に多く含まれている糖質の一種「シアル酸」は、インフルエンザウイルスを はじめとする様々なウイルスや菌と結合する事が多くの研究により知られています。 「コロカリア」もこのシアル酸の働きにより、ウイルスなどが生体に感染する前に、病原菌を吸着させ感染を防御する効果が期待できます。
と、クラレの説明と同様のメカニズムが書かれている。日本医師会のサイトでもインフルエンザQ&Aで、「インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合は、鼻腔や咽頭粘膜表面の上皮細胞にあるシアル酸に吸着し、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれ」とあるから、この辺のメカニズムはそれなりに正しそうだ。

でも、この飴をなめることで、そんなに簡単にインフルエンザが予防できるものかどうか?? それなら、ワクチンなんか必要なくて、みんなにのど飴を舐めてもらうだけでいいだろうに。

でも「シアル酸」は確かにこれから流行するかもしれない。覚えておこう。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2005/01/27

「これからの環境論」

シリーズ「地球と人間の環境を考える」の新刊が出た。No.10と11を飛ばして、先に出たのがNo.12。どうやらこれがまとめという位置付けのようで、表紙も今までのシリーズの表紙のコラージュとなっている。このブログで紹介したのは、
  No.5 エネルギー
  No.7 水と環境
  No.8 ごみ問題とライフスタイル
  No.9 シックハウス
であり、今後出版される予定なのは、「No.10 バイオマス」と「No.11 畜産と食の安全」である。

シリーズ 地球と人間の環境を考える 12
 これからの環境論 つくられた危機を超えて
 渡辺 正 bk1amazon

著者の渡辺さんは、話題となった「シリーズ No.2 ダイオキシン 神話の終焉」の著者の一人でもあり、非常にシニカルな視点から環境問題を斬るので有名。以前、ある所で聞いた渡辺さんの環境観は、「21世紀は食糧難で大量の餓死者が出る時代となるだろう。であれば、寒冷よりは温暖が良いし、CO2は食料生産にプラスだろうから、温暖化の方が総合的には受容可能である。」というようなもので、「そもそも地球が温暖化しているのか、炭酸ガスがその原因なのか、といった点が不確実であるけれど、それは別にしても、無理に温暖化を止めるのは却って有害かもしれないよ。」というご意見のようだ。

さて本書では、酸性雨、地球温暖化、ダイオキシン、環境ホルモンについての騒動を、天然物質や日常の有害物質の問題を比較しながら、大騒ぎする必要は全くないのだ、という立場で述べている。まあ、非常にわかりやすいというか、過激というか、相変わらず思い切った主張であり、こういう本を出すのはそれなりに勇気がいるだろうと思う。本書の中では、何度もロンボルグの「環境危機をあおってはいけない」が参考として取り上げられている。

本書は、全部が会話形式となっており、渡辺先生と文系出身の若い女性とがお酒を飲みながら軽いノリで環境問題を斬りまくるという構図だ。わかりやすいといえばわかりやすいのだが、乱暴といえば乱暴な議論でもあるかな。まあ、厳密な話はそれぞれの本を当たってねということだろう。

面白かったのは、「ダイオキシン」を出版した後の反響についての部分。市民団体との討論や議論などの後日談が読める。一部からは、随分強引な論理の反論があったようだが、全体としては好意的に受け入れられたらしく、予想していたよりは強い反発はなかったみたいだ。

個別の問題の解釈については、一部を除くと全体的には賛同できるのだが、地球温暖化についてはどうだろう? 確かに、地球全体の温度測定や、二酸化炭素との因果関係という点では不確実な要素があるし、しかも京都議定書は、たとえアメリカが参加して、その初期の目標が全て達成できたとしても、地球の持続可能性への直接的な効果は極めて限定的だろう。

しかし、このまま進めば地球の資源は確実に枯渇に向かうし、大気中のCO2は急激な増加を続けるだろう。であれば、少しでもその進行を遅らせるためにできる努力はしておきたいし、その中から資源効率やエネルギー効率の画期的に優れた製品や技術、あるいはライフスタイルを作りだしていかなくてはいけないと思うのだが。。

さらに、今のところは功を奏しているとは言えないけれど、「地球の危機」というキーワードで国際的な協調が進むのであれば、それはとても結構なことだろう。確かに、そのためならウソをついても良いのか? というと違うだろうと思うけど、地球温暖化はともかくとして、資源の枯渇やCO2の増加はウソじゃないわけだし、そちらの線で進めたらどうだろうかと思う。

本書のタイトルは「これからの環境論」となっているのだが、残念ながら環境問題の将来像の提示に成功しているとは思えない。 しかし、少なくとも現在の日本の環境問題を考える上で、本書に目を通しておくことはとても大事だろうと思う。「一体何が問題なの?」という立場から科学的に論じている本書の主張を真正面から受け止めて、その上で、(決して感情論ではなく)同じ科学的な土俵の上に立って、より建設的な将来像を描き、お互いに模索していくことが必要なのではないだろうか。

*環境問題を考える教科書としても使える、非常に広範囲にバランス良くまとまっているものとして、日本化学会が1999年に出版した『「環境」を化学の目で見る 「総合的な学習の時間」に向けて』という冊子がある。この中の、渡辺さんが地球温暖化問題を論じた記事(化学と教育 vol.46, No.2, p.76-79, 1998)が非常に印象に残っている。

地球の温室効果は水の寄与がそのほとんどを占め、CO2の寄与はわずか数%であり、今さら少々CO2の排出を削減しても、それがどれほどの効果があるのやら、どちらにしても化石燃料を使う限りはCO2は増え続けるし、しかも本当に温暖化するかどうかはわからない、という内容だった。

今回、それから7年が経過し、その間にこの分野では相当に情報が増えたはずなのだが、渡辺さんのスタンスは、多少歯切れが悪くなった印象もあるものの、余り変わりがないようにも見える。これは、結局この7年間に地球温暖化関連の情報は増えたけど、その詳細なメカニズムの理解や今後の予測については、思った程は進歩していないということかもしれないし、CO2の排出量を効果的に削減する持続可能で受入れ可能なシナリオがまだ見出されていないということなのかもしれない。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005/01/26

鉄・ビタミンを付加したコメとマイナスイオン米

MSN-Mainichi INTERACTIVE(1/24)の記事。雑記帳:あきたこまち主体の栄養機能食品から。

 ◇秋田県大潟村の米販売会社「大潟村あきたこまち生産者協会」(涌井徹社長)が、米にビタミンや鉄分などを加えた栄養機能食品を開発、2月20日から全国のスーパーなどで販売する。

 ◇あきたこまちや発芽玄米など計21種類。ビタミンB1、B6などを含ませた水分を米に吸収させるなどした。味などは通常米と変わらない。

 ◇同社は米を消費者に産直する仕組みにいち早く着手し、販路を確保した実績もある。健康ブームに乗り、米の消費拡大につながるか。

というもの。日刊工業新聞のニュース(1/26)では、
同社は商品の信頼性向上と市場開拓のため、03年に技術開発に着手し、鉄分やビタミンの栄養成分を水に溶かしてから、コメに吸水させる方法を確立した。栄養成分量が規格基準に満たない場合は、栄養成分をスプレー状にしてコメに吹き付け、コーティングする。
とあり、価格は発芽玄米が1キロ1000円前後、無洗米が2キロ1200円前後とのこと。

残念ながら、大潟村あきたこまち生産者協会には、まだこの商品に関する情報は載っていないようだ。ここは、名前は「協会」だが、実は株式会社で、大潟村で生産したコメを中心に、その品質管理を徹底させると共に、新たな付加価値を付けることを狙っているようだ。ホームページを見ると、精米装置や分析装置に相当にお金を掛けていることが見て取れる。

ところで、ここで見つけたのが、マイナスイオンの発芽玄米とか、工場まるごとマイナスイオンというページ。工場の天井にマイナスイオン発生器を設置し、コメのタンクや水のタンクにもマイナスイオン供給棒を設置、マイナスイオン精米やマイナスイオン玄米が出来上がるようだ。電解水を使っているわけでもないし、単に棒をタンクに入れただけでは、まあ何も起こっていないと考えても良さそうだ。何故にこんなことになったのか。。

こちらには「マイナスイオン米について菅原明子さんよりご指導いただきました。」とある。 この人は、疑似科学批評でも取り上げられている、その方面では有名なマイナスイオン推進派疑似科学者3名のうちの一人。その菅原さんのHPの、今月出会ったオモロイ人々で、この大潟村あきたこまち生産者協会の社長さんが出てくる。なんと、マイナスイオンの設備投資に1億円も使ってしまったようだ。。。

多分、このお米は随分手を掛けて作っているようだし、品質管理もしっかりしているようだから、おいしいだろうし、いいお米なのだろうと思うのだけど、マイナスイオンをうたい文句にしなくたって十分に価値があるはずだ。もしもマイナスイオンを使っていなかったら買ってもいいかな、と思うのはひねくれすぎだろうか? 

一方、今回のビタミンと鉄分を付与したコメはどうだろう? まあ、確かに別にサプリメントで摂るくらいなら、最初から一緒になっていても良いのかもしれないけれど、「栄養成分量が規格基準に満たない場合は、栄養成分をスプレー状にしてコメに吹き付け、コーティング」するというのは、やりすぎのような気がするなあ。(こうしないと、栄養機能食品として表示ができないのだろうけど。) 一般の消費者も、さすがにビタミンや鉄分を後から吹き付けたコメを、喜んで食べるだろうか? むしろ、その人工的な操作を嫌いそうな気がするけど。。 是非はともかく、みなさん「天然」が大好きみたいだからなあ。

そもそも玄米は白米と比べて鉄分やビタミン類が元々多いのだから、敢えて増やす必要があるのだろうか? そういう意味で、お米へ付加価値を付けることに熱心なのはいいけれど、マイナスイオンといい栄養機能成分の付加といい、狙い目が少しずつずれてしまっているようで残念な気がする。

なお、栄養機能食品については、厚生労働省の解説にあるように、ビタミンや鉄分といった成分を含んでいれば、各食品を個別に許可や届出することなく、栄養機能を表示することが許されているもの。

もっとも、楽天市場でみると、(普通の)マイナスイオン発芽玄米が 1kg 1,396円だから、ビタミンや鉄分で強化した今回のコメの方が安いみたいだ。(普通のおコメに比べれば高いけど)

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2005/01/25

CNTバックライト

日経新聞(1/25)の記事。日機装、カーボンナノチューブ利用の液晶用バックライト

 日機装は表示装置開発のベンチャー企業、ディスプレイテック21(津市)と、カーボンナノチューブを使った液晶ディスプレー用のバックライトを共同開発した。平面パネル全体が発光するため、蛍光灯や発光ダイオード(LED)を使う方式に比べ発光ムラが小さく、消費電力も半分程度に抑えられるという。液晶テレビ向けの潜在需要は大きいとみており、2006年度の商品化を目指す。

 試作した3インチ型ディスプレー用のバックライトは、画面サイズとほぼ同じ大きさの平面に直径20ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカーボンナノチューブを並べる。裏側から放出した電子がナノチューブを通じて蛍光体にぶつかり、表側全面が発光する仕組み。構造も簡単になるため、32インチ型液晶パネルの場合、消費電力は従来型の半分以下の60ワットに抑えられると試算している。

というもの。2006年度に商品化ということは、もう実用化間近のレベルまで来ているのだろう。カーボンナノチューブの応用は、もうここまで進んでいるのか。。 

日機装のR&Dレポートによると、日機装は流動気相法という方法によるCNT(カーボンナノチューブ)大量製造技術を持っており、CNTのチューブ径の制御も可能ということだ。このバックライトの構造が今一わからないが、

今回、開発したCNTバックライトは、非自発光ディスプレイである液晶ディスプレイの光源として、開発したものであり、当社が生産するCNTを電子放出源に用いています。 CNTは、直径20ナノメートルクラスの多層CNTを用いました。 このCNTを当社独自の方法で分散処理・インク化し、これをガラス基板に塗布しました。 バックライト基本構造は、カソード、アノードから構成される当社独自の2極管構造(特許出願済)を採用しています。 2極管構造を採用することにより、デバイス生産工程をより簡素化し、生産コストの大幅な削減が期待できます。
とある。ディスプレイ関係技術は正に現在様々な技術がしのぎを削っている先端分野であり、なかなか素人にはついていきにくい分野だが、せめて構造図を示してくれるとありがたいのだが。FED(フィールドエミッションディスプレイ)がゲート電極を含む3極構造であるのに対して2極構造であるとのことだが、原理は単純な蛍光管なのだろうか? 

CNTは配向していなくてよいのだろうか? 塗布で配向させるのは難しそうだけどなあ。。 いろいろと知りたいことは多いのだが、残念ながら調べた範囲では情報が集まらなかった。

なお、共同開発相手のディスプレイテック21は、DisplayTECHというアメリカの会社とは関係なさそうで、三重県創造法認定企業に出てくるベンチャー企業のようだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/24

無花粉スギ「爽春」と「はるよこい」

NIKKEI NET(1/24)のニュース。花粉出さないスギ、林野庁などが開発

 林野庁と独立行政法人「林木育種センター」(茨城県日立市)は24日までに、花粉症対策として花粉がないスギの新品種「爽春(そうしゅん)」を開発した。今春から苗木をつくる穂木(挿し木にする枝)を都道府県に配布、普及を目指す。

 同センターは、これまで花粉が少ないスギ112品種を開発しているが、無花粉スギは初めて。種苗法に基づき、農水省生産局に品種登録する。

 林野庁によると、花粉がないスギは1992年に富山県で偶然見つかった例などがあるが、開発した品種はそれとは別で、林木育種センターが昨年秋、風害に強い品種開発の過程で、雄花に花粉がないスギを見つけた。

 穂木は都道府県の要望に応じ提供。都道府県は苗木を育てた上で、地元森林組合などと相談、伐採などの機会に植え替えを進める。ただ、無花粉スギばかり植えると「種の多様性が損なわれる問題がある」(同庁研究普及課)ため、同庁は都市部近郊を中心に植えることなどを想定している。

ということだが、花粉のないスギとはどんなものなのだろう? 同じニュースを扱った、YOMIURI ON-LINE(1/24)の記事では、
 無花粉スギは、花粉を包む細胞壁がないため、花粉が正常に育たない。1992年に富山県で初めて発見されたが、林木育種センターが昨年後半に、こうした品種の開発に成功し、挿し木となる穂木の供給が可能になった。
とある。日経の記事では富山県でみつかったものとは別とあり、読売の記事では富山県で発見されたものをさらに改良したようにも読める。林野庁のスギ花粉に関する情報や材木育種センターの研究トピックスには、花粉の少ないスギの情報は載っているが、無花粉のスギについては何も書かれていないようだが、花粉症対策としては、花粉の量を減らす方法と花粉中のアレルゲンを減らす方法を研究しているようだが、花粉症の対策として結構いろいろなことがやられていて、それなりに研究レベルでは成果があがっているようだ。

富山県の花粉症を作らないスギについては、富山県林業試験場の無花粉スギ「はるよこい」に詳しいが、遺伝的な要因で花粉を作る能力が失われた「雄性不稔」と呼ばれる現象のようで、偶然見つかったこのスギを「はるよこい」と名付けたとある。花粉ができないので、挿し木などで増やしていくことになるようだ。結局、「爽春」と「はるよこい」はどういう関係にあるのだろう? 

雄性不稔は、F1育種にとって重要な雄性不稔!などで解説されているように、植物の品種改良ではよく使われる手段のようだ。しかし、花粉が非常に少ない品種にしろ、雄性不稔の品種にしろ、自然界では繁殖に不利なはずだけど、ヒトの都合により大量に育てられるとしたら、そういう自然環境というのも相当に不自然な気もする。。 (それを言ったらヒトが栽培している植物はほとんどが不自然なんだろうけど。)


ところで、スギ花粉を検索していてみつけたのが、スーパードリンク! スギ花粉エキス すっきりフォレストという怪しげなドリンク。経口減感作療法というものらしい。減感作療法自体は、まともな療法のようだが、経口で花粉エキスを摂取したからといって、消化器官から吸収された時にも、アレルゲンとして認識されるものなのだろうか? この手の商品には珍しく、特許番号が書かれているので調べてみると、特開平11-322625は公開段階で、特許として登録はされていない。タイトルは「杉花粉症の減感作療法用内服薬」、内容は

水洗した杉の葉、杉の花粉又は杉の葉と花粉とを水と共に容器に入れて煎じた後、当該杉の葉、杉の花粉又は杉の葉と花粉とを除去すると共に残った液体を濾過してなることを特徴とする杉花粉症の減感作療法用内服薬。
というものだ。特許出願上は「薬」と名付けているが、商品としては薬ではなく「清涼飲料水」として売っているわけだから、これだけで十分に怪しい。この明細書にはメカニズムや化学成分の分析結果等も何も書かれていないし、服用した結果についても具体的なデータは何も書かれていない。ちなみに食物アレルギーは、経口摂取したタンパク質が消化器官で十分に分解されずに一部吸収されて起こるのだそうだ。(参考:食物アレルギー) もっとも、こちらの説明では、減感作療法ではなく即効性がある、と書かれている。。。

| | コメント (3) | トラックバック (2)

2005/01/21

「もう牛を食べても安心か」

タイトルからは、BSEについての最新の情報が詰まった本のように見えるが、実際は少し趣きが異なるようだ。タイトルが「安全」ではなく「安心」となっているところもポイントかもしれない。著者の名前はどこかで見たことがあったのだが、科学書の翻訳などをしている分子生物学者だ。

文春新書 416
 もう牛を食べても安心か
 福岡 伸一 著 bk1amazon

bk1やamazonのレビューでは相当に評価が高いのだが、読むと随所で違和感を感じさせられる本である。専門的な見地からの書評としては、群馬大学の中澤さんの書評が詳細にわたってコメントしてあり、とても参考になる。

本書は、BSE(本書では頑固なまでに「狂牛病」という表記をしているが)騒動が、人為的に発生したものであり、それは結局は、人々の間違った生命観に起因するものだ、というような立場で書かれている。そして、シェーンハイマーという科学者が提唱した「動的平衡論」(生物の体を構成している物質は原子・分子レベルでは常に、予想以上の速度で入れ替わっている)を軸として、「循環する」という生命観、世界観に従って、BSE問題などを論じている。

BSEについては、過去の研究からプルシナーまでその研究内容を、かなり詳しく紹介した上で、現時点では確かに異常プリオンがBSEの原因と考えられているが、実際には疑問点もまだまだ多く、「真犯人は、やはり未知の、非常に見つかりにくいウイルスであり、宿主の細胞に感染する際に、プリオンタンパク質が足場(レセプター)として必要である(p.192)」と考えることもできるではないか、と主張する。確かに、研究の歴史の長さや現在の研究手法や分析技術の進歩を考えると、いかにもまだわかっていないことが多い病気のようだ。

その上で、原因もまだ完全に解明されていないし、特定危険部位以外が完全に安全だという保証は何もないのだ、といういくつかの具体的事例を紹介した上で、だからこそ全頭検査は必要だという結論を述べている。完全に解明されていない以上、リスクが残っているではないか、ということなのだが、それはその通りだろうが、だから全頭検査が必要かというと、それは違うのではないか?

たまたま、今日の新聞(YOMIURI ON-LINEなど)に、マウスでの実験によると特定危険部位以外の部分にも異常プリオンが蓄積するというニュースが出ている。しかし、これはマウスの脳などへ直接注射しての実験であり、通常の食事からの感染ルートとは随分状況が異なることに注意が必要であろう。

本書でおもしろかったのは、イギリスの牛にBSEの大感染を引き起こした原因が、生後まもない幼牛に、スターターと呼ばれる、肉骨粉を水に溶いた代替乳を飲ませたことにありそうだということ。本来、タンパク質は消化器官で酵素により分解され、そのまま体内に取り込まれることはないはずなのだが、この期間だけは、母親からの免疫抗体を受け入れるために、タンパク質を体内に取り込むようにできているのだそうで、そのために異常プリオンが消化器官をすり抜けて取り込まれたのだろう、という推定である。

だとすると、ヒトが牛肉を食べることで新型CJDに感染するのはどういう機構なのか? まだ不明の点が多いにしても、体内に異常プリオンを直接注射したような調子で簡単に感染するとは到底思えない。もしも、肉骨粉の使用禁止が守られているとすれば、現在では牛への感染は相当に抑えられているだろうし、牛肉を食べるリスクは今後さらに低くなるのではないだろうか? 牛への感染ルートを推定していながら、一方では、ヒトへの感染はどうやって起こるかわかってないから不安だ、と大声で言うのはダブルスタンダードではないのだろうか?

さて、本書ではリスク分析の手法がポリティカルであるとして、真っ向からそれを批判しているのだが、その論理は、リスク分析を考える上でとても(反面教師的な意味で)参考になる。

死者の数を比較し、フグ毒と狂牛病を比較する。死者の数だけを比較して物事を論ずるのであれば、年間一万人が死ぬ自動車事故に比べてすべてのリスクはたしたものではなくなるだろう。リスク分析はあらゆる死者をフラットな数値に浄化してしまう。しかし、フグ毒で死ぬ人と狂牛病で死ぬ人は同じではない。これは実質的に同等ではない死者である。フグはある意味で時間の試練をくぐり抜けて私たちに納得されたリスクである。対して、狂牛病は人災であり、人為的な操作と不作為によって蔓延した、全く納得のできないリスクなのだ。

リスク分析は現状を受け入れてその順位づけと線引きを行うことしかできず、リスクのもつ歴史的な意味を解読する力はない。リスク分析は現状を改革する熱意もその力も持ち合わせてはいない。(p.231)

著者の主張は一般には受け入れられやすいだろうと思う。同じように、突然訪れる理不尽な死であっても、受け入れられるものと受け入れがたいものがある、というのは感覚的には理解できなくもないのだが、それは何故なのだろう? フグで死ぬのは本当に納得できるのだろうか? だとしても、それは長年身近にあったからということでいいのだろうか? それでは、新しいリスクは全て許容できないということだろうか?

しかし、この主張は、批判の対象である「リスク分析」を進めている、中西さんらの主張を理解した上のものとは思えない。限られた地球上の資源の下で、限られた資金を使って活動する以上、客観的な「順位づけ」をすることで結果としてより多くの人々の利益につながる行動をしよう、というのがリスク分析の精神だろう。現実には、各論の部分で個別の利害が対立する事態は避けられないし、対立する利害を調整するのだからポリティカルに使用されるのは当然だろうと思うのだが。つまり、科学的な手法で得られた結果をどう判断して、どういう対策をとるのか、というのはすでに科学の領域の外の問題なのだ。

著者の、循環をキーワードとした生命観や環境観はそれほど違和感なく受け入れられるのだが、そこで想定されている時間・空間スケールが大きく異なっているのかもしれない。今の日本人だけ考えれば、もちろん無理してアメリカから牛肉を輸入して食べる必要なんかないんだから、輸入は時期尚早と言う結論は別にいいのだろうけど。。

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2005/01/20

マメールと運芽ican

MSN-Mainichi INTERACTIVE(1/20)のニュース。タカラ:育てるとメッセージが見える「植玩」を開発

 タカラは、マメを育てると芽が出た時に「I LOVE YOU」「ありがとう」など6種類のメッセージが見える「MA・MAIL(マメール)」を2月10日から発売する。1個714円。

 「MA・MAIL」はナタマメの種が入った缶で、水をやると約5日間で発芽する。発芽した芽についた種子の皮に送り主にメッセージが見える仕組み。独自開発の技術で種子の表面に、中を傷つけないようレーザーでメッセージを彫り込んだ。芽が出たあとは普通に育てられる。

 同社は、この商品を「遊びと癒やし」をテーマにした「植玩」として力を入れていく方針。誕生日のプレゼントや母の日、バレンタインデーなど年間を通しての需要を見込んでおり、年内に100万個の出荷を見込む。

タカラのサイトでは、マ・メールという1ページだけが見つかった。なるほど、おもしろいアイデアだ、と思ったら、つい最近運芽icanというのが、別の会社から売られているのを発見。良く似ている、というかマンマ一緒だ。特に目新しい部分もなさそうだし。。

この本家、運芽ican の製造元は韓国で、イーディーコントライブという会社が輸入しているものだ。どうやら昨年、韓国のドラマで紹介されて大ヒットとなったらしい。ここ最近の韓流ブームに乗って日本でも大ヒットさせようとしたところ、タカラさんも同様に目を付けたというところだろうか。

文字はレーザーで種子に焼き付けているようで、当然外側に書かれているから、発芽して開くまでの間はメッセージが見えるけど、開いてしまうと、裏側になってしまうから見えなくなるみたいだ。

このマメは、どちらも同じナタマメという種類のようだ。これは、刀豆と書くようだけど、これ自身が健康食品として人気あるらしいし、ナタマメ茶などもあるようだから、どうせなら、このメッセージ入りの豆も大きく育てて健康になろう! なんてのは無理だろうか?

*ナタマメはジャックと豆の木のモデルになった豆だという説もあるようだが、ジャックと豆の木会によると、ジャックと豆の木の豆はブラックビーンという種類のようで、写真で見ても外見が随分と違う。

検索していて見つけたのが、Speaking Rosesというサイト。About Usの解説によると、本物のバラの花びらにメッセージを印刷(embossとなっているけど)する技術のようで、オーダーメイドで好きなメッセージやロゴなども印刷できるようだ。立体的なバラの花に直接印刷するとは、なかなか優れた技術のように思えるのだが、調べてみると、どうやら中国のメーカーが開発した装置らしい。

Speaking Rose Machineという装置そのものが売られているようだが、日本ではまだこの関連の商売をしている人はいないようだ。。結構はやりそうな気がするが、先のサイトを見る限り、特許技術らしいからライセンスを受ける必要があるのだろうか。(ざっと見た範囲では具体的な特許はみつけられなかったけど。。)

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2005/01/19

喫煙本数と自殺の関係

MSN-Mainichi INTERACTIVE(1/18)の記事。喫煙:本数が多いほど自殺の危険性大 厚労省研究班

 中高年の男性喫煙者では、1日に吸うたばこの本数が多いほど自殺する危険性が高まるとの大規模疫学調査結果を厚生労働省研究班がまとめた。研究班は「たばこの本数の多い人の心の健康に注意を払う必要がある」と提言している。21日から大津市で開かれる日本疫学会で発表する。

 研究班は90年と93年に岩手、長野、高知、長崎、沖縄など8県に住む40~69歳の男性約4万5000人の生活習慣などを調べ、00年まで健康状態を追跡調査した。この間に自殺が確認された173人について、喫煙との関係を調べた。

 調査開始時は、173人中108人が喫煙者だった。1日20本未満の喫煙者の自殺割合は非喫煙者と同程度だったが、1日30~40本未満のグループは20本未満のグループに比べ1.4倍、40本以上のグループは同1.7倍高かった。吸い始めてからの年数による差は見られなかった。

 高知大が昨年まとめた司法解剖例の調査でも、たばこを吸う習慣がある人では、自殺した人の血液中のニコチン濃度が事故や病気で死亡した人よりも高いとの結果が出ている。

 分析を担当した国立がんセンター予防研究部の岩崎基研究員は「喫煙と自殺を結びつけるメカニズムはよく分かっていないが、ニコチン依存がうつ病の危険性を高めるという研究結果もある。禁煙によって危険性が下がるかどうかは今後の研究課題だ」と話している。

というものだが、何が発端になった調査なのかはわからないが、ご苦労さんなことだなあ、というのが第一印象ではある。調べてみると、この調査については、厚生労働省研究班による多目的コホート研究のリサーチ・ニュースが元ネタで、さらに詳しい内容が、たばこと自殺について ―概要―で読める。この研究は、喫煙や飲酒を始めとする生活習慣とがんや脳卒中その他の病気との関係を長期間追跡調査する一連の研究のうちのひとつのようだ。

自殺関連統計としては比較的よくまとまっている、厚生労働省の自殺防止対策には、何故かその原因や動機については全く書かれていないが、警察庁の平成15年中における自殺の概要資料によると、原因や動機は、中高年男性の場合には「経済・生活問題」が圧倒的に第一位で次が「健康問題」となっている。とすると、これと喫煙の関係にどんな関係がありうるのだろう? 

というか、この研究でも45000人を追跡調査し、自殺者173名についての生活習慣を調べているわけだから、当然自殺の動機についても何らかの情報を得ているはずである。このテーマで解析をしようとしたら、まず最初に直接の動機を調べて整理するのが普通だと思うのだが、それがこの研究には全く出てこないのが不思議といえば不思議である。

厚生労働省の研究内容の説明や新聞記事のコメントでは、自殺とうつ病の関係に焦点を当てているけれど、これってミスリードじゃないのだろうか? 確かに、色々と行き詰って自殺したとしても、同じように経済面や健康面で悩んでいても死を選ばない人の方が圧倒的に多いのだから、最終的に死を選んだということは、何か精神状態にも要因があるのかもしれないけれど。 それにしたって、喫煙者と非喫煙者で有意差がなかったということは、ニコチンが最後の引き金を引いたとは言えそうもないわけだろうに。。

まあ今回の、喫煙習慣の有無による有意な差はないが、喫煙者の中では本数が多いほど自殺率が高いという結果を説明しようとすると、例えば仕事や生活で追い詰められた時、喫煙習慣のある人は、その本数が徐々に増えていくということは、経験的にも十分にありうる話であり、結果として、喫煙本数がその人の精神や肉体の追い詰められ度を示す一つの尺度になっている、ということじゃないのだろうか?

Wikipediaでも、同様の指摘がなされているが、敢えてニコチンの薬理作用を追及する話でもなさそうな気がする。なお、自殺者中の血中ニコチン濃度が高いという高知大学の研究(参考)も、件数が少なすぎて話にならないように思えるが、それは置いておいても、自殺する前にこの世の最後のタバコを思いっきり吸ったというだけのような気もしないではない。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005/01/18

「占いの謎」

著者は東京医科歯科大学の文化人類学の教授。ということで、本書は文化人類学の面から占いやそれに類する様々なことがらを考察したもの。このうち、第二章が「占いと科学」となっており、血液型占いと夢占いを検討対象としている。

実は元日に、例年通り神社へ初詣に行き、習慣でおみくじを引いて、今年は珍しく「大吉」だったので何となく良い気分になったりしたのだが、別に今年の運勢が特に良いと信じているわけでもない。これって恐らく大多数の人の感覚とそれ程ずれてないと思うのだが、これが占星術や血液型占いとなると、人によって随分その捉え方に違いがありそうにも思う。

文春新書 412
 占いの謎 -いまも流行るそのわけ
 板橋 作美 著 bk1amazon

文化人類学については全くの門外漢なので、実は本書を読み通すのは、やや単調な所もあって苦労した部分もあるのだが、一方で、占いや迷信に対するアプローチの仕方として「ほー、そういう見方もあるんだね。」という新鮮さが結構あった。

本書では、血液型占いや西洋占星術も、陰陽、五行、九星、四柱推命、風水などと同列に扱っている。また、科学的に根拠のありそうな言い伝えと、どう考えても根拠のなさそうな迷信も一緒に扱っている。おいおい、それでいいのか? と突っ込みたくなりながら読み進むうちに、「なるほど、そういう考えもあるなあ。」と妙に納得できるのが面白い。

本書で論じられているのは、まさにタイトル通り、これらの占いや言い伝えが、何故古くから今まで流行り続けているのか? ということであり、その占いや言い伝えの信憑性は、まあどうでも良いのだ。

簡単にまとめると、人々は、この予測不可能な世の中を無理やりパターン化することによって、世界を体系的に秩序化したものとして理解し、それによって不安から逃れようとしているのだ、というような考え方である。そのために、物事は白か黒か、という具合に二項対立的に分類される傾向があり、本来は必ずしも対立していないはずの、複雑で連続的な事象が対立概念として捉えられるのだ、と考察している。 そういう目で様々な占いや言い伝えを見ていくと、確かにそうかもしれない。血液型占いで、何故かA型とB型の性格は対立するものとなっているなんてこともその一つの表れだろう。

本書には、各地に伝わる言い伝えが非常に沢山収録されており、それだけでも面白いのだが、これだけ集めると、当然のことながら同じ現象を見ても、違う結論を伝えるものもある。 ということは、数ある言い伝えのどれかは、たまには当たるということでもある。占いにしても、はずれたことは忘れられ、当たったことだけが印象に残り、会話の中にも出てきがち、という側面がありそうだ。

本書の「おわりに」で紹介されているのだが、国会図書館におさめられている占いに関する本の数は、1950年代から1990年代までの10年ごとに、11冊、42冊、167冊、323冊、564冊と増加の一途をたどり、さらに2000年が168冊、2001年が101冊、2002年が81冊、2003年が172冊となっているそうだ。この数字から科学離れとの相関を論じるのは無理だろうけど、これだけ科学技術の恩恵を受けている世の中で生活しながら、一方で占いのようなものが流行るというのは、確かに社会的な面から考察するに値するテーマなのかもしれない。

そういえば、自動車免許の更新に行った時に、そこで更新手続きをするために集まっている人達は、ほとんどが同じ星座の生まれだと気付いたことがある。もちろん、少し観察していると、同じ星座の生まれでもいろんな性格の人がいるのがわかるし、随分違う運命の人がいそうで、星座占いとの関係を考えるのも結構楽しかったりする。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/17

花粉観測システム「はなこさん」

YOMIURI ON-LINE(1/14)の記事。環境省HP、花粉観測システムの情報提供を開始

 環境省は14日、花粉観測システム「はなこさん」の情報提供をホームページで始めた。

 関東、関西に続いて、今年から中部地方も対象地区に加わった。23都府県の55地点で観測した花粉の飛散量が、各地の風向、風速とともに一目で分かる。データは1時間ごとに更新される。

 今春は、昨夏の猛暑の影響で、花粉の飛散量が昨春の10―20倍に達して、全国的に観測史上1、2位の多さになると予想されている。同省のホームページアドレスは、http://kafun.nies.go.jp/

ということで、環境省のプレスリリースによると、関東地方では一昨年、関西地方では昨年から始めた観測システムで、今年から中部地方も加わったということらしい。個人的には幸いにも花粉に悩まされることがない(らしい)のだが、逆に花粉の飛散については全く注意を払ってこなかったので、ちょっと調べてみることに。

はなこさんを見てみると、各地方の観測点での現在の測定値や過去の測定値を比較的簡単に見ることができる。どういう観測システムなのかは、システム概要に書かれているのだが、この測定値をどう評価して、どう利用したら良いのかについてなど、少なくとも素人さんが必要としそうな情報は何も書かれていないのが、如何にも不親切だ。。。

これを見ると、観測地点は各都道府県に1~5か所しかないようだけど、これで正しい観測が行えていると言えるのだろうか? 試しに見てみると、関東地方の日光測光所では 1/12に最高70000個/m3を記録していたりして、ほぼ万のオーダーで飛んでいるようだ。でも、群馬県材木育種場では、ピーク時で2600個/m3で、他の日はほとんど飛んでいない。東京の八王子の森林公園ではほとんどのデータが100個未満となっている。2桁以上も飛散量が異なるのか?? そもそも、真冬の今の時期に、しかも日光で、そんなに花粉が飛ぶものだろうか?

まず、問題となる花粉の数の目安や飛散の時期については、例えば東京都福祉保健局の花粉症 Q&Aあたりが情報が充実しているようだ。これによると、

・少ない    1cm2あたりの花粉数が10個未満
・やや多い   同10個~30個未満
・多い      同30個~50個未満
・非常に多い  同50個以上
となっているのだが、単位が全然異なっているので比較ができないではないか。。 測定方法については、東邦大学の花粉症 Learningによると、従来からのダーラム型という自然落下した花粉数を顕微鏡でカウントする方法(単位:個/cm2)に対して、環境省のシステムは大気を吸引して花粉をカウントする全自動花粉モニター(単位:個/m3)を採用しているために、単位が異なるということのようだ。

(なお、ここの花粉事典は、色々な植物の花粉の顕微鏡写真も載っていて面白い。欲を言えば、写真にスケールが入っていて欲しかった。)

色々見てみると、どうやら大和製作所のKH-3000という装置がこの世界では広く使われているらしい。この装置は神奈川新聞によると、先の東邦大学の佐橋先生との共同開発ということで、原理としてはレーザー散乱式のパーティクルカウンターなのだが、花粉にターゲットを絞るために、粒径範囲が28~35μmの球形粒子のみをカウントするように設計されているらしい。それでも中日新聞の記事によると、

 計測器は、採取した大気にレーザーを照射し、光の散乱光量から花粉量を調べるシステムを採用。顕微鏡で花粉数を調べる従来の手法に比べ、リアルタイムで花粉量を調べられるほか、労力も大幅に削減できる。一方で、レーザーは雪や黄砂など花粉以外の一部の物質にも反応するため、特に降雪日には実際の飛散状況と一致しない場合があるという。
ということのようだ。ということは、日光の花粉データが飛びぬけて高い数値を示しているのは雪の影響かもしれない。よく見ると、「はなこさん」のトップページにも、「現在、システムの試験運転中のため、現況と異なるデータが表示される場合もありますのでご留意下さい。(たとえば、雪等を計測して高い値を示すことがあります。) 」と書かれている。。

それにしても、ダーラム型の測定値と花粉モニターの測定値はどういう関係にあるのだろう? 理論的な換算は不可能だと思えるので、実測値をベースに換算するしかなさそうだが、慈恵医大のデータや、和歌山県のデータを見ると、それなりに良好な相関関係は得られるようだが、花粉モニターの測定値の単位があいまいで、結局、換算係数はよくわからない。。そもそも、環境省がこれだけ大々的に採用するなら、従来の測定値との換算の方法ぐらい書いておいてくれても良さそうなものだが。。

花粉症対策は各都道府県が結構力を入れているようで、それぞれ独自の観測網を敷いてモニターしているようだし、花粉症いんふぉのようにボランティアやNPOの測定値をネットワーク化しているところもあるようだ。環境省がそれとは別にモニターするのは構わないけど、せっかくだから、それらを統合するとかして、協力する形で進められないものかなあ? 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/14

232回目の献血

前回 12/17に続いて、28日ぶりの成分献血。今回も相模大野献血ルーム。今回は久々の血漿成分献血であった。今日は血漿成分を約600ml採るのに約45分程度だった。冬場は夏場に比べると戻ってくる血の温度が低いためか、返血の際の冷たい感じが結構心地良くて、これが意外とはまってしまう一つのポイントのような気がする。

前回の「スノーマン ホーロー製 フリージングボウル 3個組」とセットになっているのか、今回は「スノーマン ホーロー製 キャニスター 2個組み」というのをもらって来た。(今回もそのものズバリが、Yahoo! オークションに出ている。この手の商品は、お手軽なおまけとして活用されているのかもしれない。)簡易のパッキン付きの木製の蓋が付いていて、何かを入れておく容器なのだろうけど、本体がホーロー製ということは、熱を掛けることもできるので、別の用途も考えられなくもないが、どう使おうか?

それと1月のキャンペーンとしてお餅もくれた。(はたちの献血キャンペーンの一環なのかな? 日本赤十字のサイトで探したら、これは去年のままだ。今年のキャンペーンはニュースリリースだけ?) このお餅、新潟のきむら食品というところのうさぎもち 一切れパック 350gという奴。65×40×15mmの切り餅が7個入っている。 ふむ、餅の密度は、約 1.28g/cm3 となる。 賞味期限が11/20だし、一切れずつパックされているので、あわてて食べる必要がないし、今回はなかなかお徳なおまけだったようだ。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/13

トヨタがバイオプラスティックに本格参入?

1月1日の中日新聞のニュースで、トヨタ バイオ本格参入 07年にも豪に工場というのがあった。

 トヨタ自動車は、環境に優しいサトウキビからできるバイオプラスチック(BP)原料の大量生産工場を2007年にも豪州に建設する方針を固めた。BPはプラスチック製の家電製品だけでなく、鉄や樹脂、アルミなど自動車部品の代替材としても注目され、トヨタは市販車部品に既に一部採用している。今後はBPを車体などに採用し地球環境に配慮した「エコ・カー」づくりとともに、バイオ化学業界への本格参入を目指す。

 トヨタは1998年、インドネシアでサツマイモを原料にBPの生産技術開発に着手したが、安定収量が見込めるサトウキビの方が原料に適していると判断し、広瀬工場(愛知県豊田市)内にサトウキビからBP原料を抽出する施設(年間生産量1000トン)をこのほど建設。今春から量産化へ向けた実証試験に入る。

 豪州の工場はこれを商業ベースにのせるのが目的。計画によると、建設場所は北東部のクイーンズランド州で、年産は当初5万トンを想定している。

 BPの世界市場は現在、年産2万トン強だが、プラスチック消費量の5分の1がBPに置き換わるとされる2020年にトヨタは3000万トンに急拡大すると推測。そのうちトヨタは2000万トンを生産し、5兆円を売り上げる計画だ。

 <バイオプラスチック(BP)>  微生物によって分解するプラスチックで、生分解性プラスチックとも呼ばれる。サトウキビやサツマイモから抽出したでんぷんや糖質を基に精製したポリ乳酸に、他の天然素材などを混ぜるなどして製品化する。従来のプラスチックは燃やすと猛毒のダイオキシンを出すが、BPは燃やしてもダイオキシンは発生せず、捨てても水と二酸化炭素(CO2)に分解されるだけ。

植物原料由来のポリ乳酸を始めとするバイオプラスチック(生分解性プラスチック)については、このブログでも何度か取り上げて議論している。(難燃性バイオプラPCソニーの植物原料樹脂旭化成の生分解性ラップポリ乳酸は処理が簡単?

正月のニュースだから、景気良くアドバルーンを上げただけかと思いきや、トヨタ自動車のサイトの、バイオ・緑化事業というページや、Special Story という資料にも、トヨタだけで数量 2000万トン、売上 5兆円と書かれているから、必ずしも夢物語ではなく、結構本気のようだ。

それにしても、この数量は途方もない数字だ。何しろ、日本のトップクラスの総合化学企業グループは、それぞれとんでもなく多くの製品を作っているけど、それでも各グループの連結売上高は 2兆円にも届かない。Fortune のランキングを紹介している、ここ によると世界最大の化学会社、BASFでさえ売上は300億ドル(約3.2兆円)に過ぎないのだ。

あるいは日本の主要プラスチックで見てみると、ポリエチレンポリプロピレンポリ塩化ビニルの出荷量は、それぞれ200~300万トンに過ぎないのだ。(日本のエチレンおよびプロピレン生産量はそれぞれ約750万トンと約500万トンだから、そんなものだろう。先のトヨタの資料の中では、日本のプラスチックの総需要量を1400万トンとしている。)

2020年にプラスチックの5分の1がバイオプラスチックに置き換わり、その量が3000万トンということは、その時点でのプラスチックの全量は1億5000万トンということになる。現時点では世界のエチレン生産量が1億トン程度だが、今後どの程度伸びるのだろうか。。経済産業省の資料は、現在の世界のエチレン・プロピレン系の生産量を見るのには役立つが、2008年までの短期予想なので、その先については不明だ。

ちなみにこちらの予測では、バイオプラスチックの世界全体の潜在的需要として1000万トン程度と予測している。数千万トンという量は、プラスチックの世界では非常に大きな影響力を持つ数値だが、農業生産全体からみると微々たる量ということのようだ。

それにしても、1社が 1種類のプラスチックを 2000万トン、5兆円も売るというのは、やっぱりとんでもないことなのである。もし、そんな事態になれば、世界の既存の樹脂原料産業の構造はガラリと変わってしまうだろう。その原料であるエチレン・プロピレンは当然、大量に余ってしまうだろうし、いわゆる石化コンビナートは多くの品目のバランスの上で資源・エネルギー効率を最適化してきたので、そのバランスが大きく崩れてしまう恐れもある。。 もちろん、それが地球環境のためになるならば、そういう流れがあっても良いのだけれど。

今のところ、特にこのニュースに対して大きな反響が見当たらない所を見ると、関係者は本気とは捉えていないのかもしれないし、あるいは違うストーリーを思い描いているのかもしれない。

それにしても、そんなにバイオプラスチックばかりにしてどうする?? もしもトヨタ自動車が、産業構造に大転換を起こすようなそんな大掛かりな構想を本気で考えているのであれば、何故バイオプラスチックなのかをきちんと説明する必要があるだろう。トータルの環境への影響や、産業構造への影響などを定量的に説明するべきだと思う。少なくとも

バイオプラスチックは、従来のプラスチックと同じ機能を持ち、使用後は土壌中の微生物によって分解される材料です。分解が進みにくい従来のプラスチックからの置き換えが可能なことから、今後の飛躍的な成長が見込まれています。また、二酸化炭素を吸収して成長する植物を原料にしているため、ライフサイクル全体でみても製造に要するエネルギー消費を除けば二酸化炭素を発生することがありません。
という説明ではまるで説得力がないだろう。(製造に要するエネルギー消費はどれだけなの??) 

様々な樹脂の一つとしてバイオプラスチックが適した用途もあるだろうとは思うし、全面的に否定するつもりはないのだが、これだけ大々的に展開するというのであれば、せめてここのブログの旭化成の生分解性ラップでも議論した「バイオプラスチックは本当に環境へのインパクトが小さいのか?」という疑問には答えて欲しいものだ。

これに関連して、立花証券の月報にトヨタ自動車が"化学会社"になる?という記事が掲載されており、他社のバイオプラスチック関連の動きも簡単にまとめられている。

*それにしても、冒頭の中日新聞だが

従来のプラスチックは燃やすと猛毒のダイオキシンを出すが、BPは燃やしてもダイオキシンは発生せず、捨てても水と二酸化炭素(CO2)に分解されるだけ。
なんてことをいまだに書く記者がいるのには驚かされる。何だかなあ。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/12

がんと食生活の関係2題

食生活と健康の関係は、日本だけでなく欧米でも注目の的のようで、Google News を見ていると、日本では何故か全く話題にならないけど、向こうでは結構大きな反響のある記事が時々載るようだ。

今週は、オリーブオイルで乳がんリスクが減少というニュースと、赤肉は発がんリスクを上昇というニュースがにぎわっている。

前者のオリーブオイルのニュースは、Technology Newsによると、地中海で乳がんが少ない理由はオリーブオイル中のオレイン酸に効果があるということがわかったようで、

Researchers from the Northwestern University Feinberg School of Medicine in Chicago conducted a series of tests to find what effect oleic acid, which is found in olive oil, had on breast cancer cell lines.

They discovered that oleic acid dramatically cut levels of Her-2/ neu -- a cancer-triggering gene called an oncogene. High levels of Her-2/neu appear in more than a fifth of breast cancer patients and are linked with highly aggressive tumors.

オレイン酸が Her-2/neu という「がん遺伝子(oncogene)」を減少させるようだ。"the Mediterranean diet"という言葉が出てくるので、試しに「地中海ダイエット」を調べてみると、日本でもそれなりに知られているようだ。

オリーブオイルと生活習慣病には、乳がんも含めて、その他色々なオリーブオイルの効果が紹介されている。地中海ダイエットの極意は十か条にあるようで、確かに通常の意味でのダイエットというよりは、健康的な食生活の勧めみたいなもので、悪くはなさそうだ。

もっとも、平均寿命世界マップを見ても、特に地中海地方が長生きには見えないので、これだけで長生きできるというものでもなさそうだ。また、乳がんの罹患率についても、固形癌の地域・人種差を見ると、日本は比較的低い方のようだから、オリーブオイルが日本人にとっても同じように効果的かどうかはわからないだろう。


後者の赤肉のニュースは、Local10.comによると、ハンバーガー、ステーキ等のいかにもアメリカ人が好きそうな肉類を多量に摂取する生活をしている人々は、直腸結腸がん(colorectal cancer)に罹るリスクが大幅に高いという調査研究を紹介している。

Researchers at the American Cancer Society surveyed about 150,000 people about their eating habits and health status. Study participants filled out questionnaires in 1982 and 1992, and researchers followed up on their health status until 2001.

They found that people who ate a lot of red meat had a 30 to 40 percent higher risk of cancer of the rectum and lower colon than those who ate a little.

The researchers defined red meat as beef, pork and lamb, and processed meat included cold cuts and bacon. High consumption meant eating such food about nine times a week, with a serving size of about 3 ounces a day for men -- about the size of a large fast-food hamburger. The findings are published in Wednesday's issue of the Journal of the American Medical Association.

とあり、15万人について食生活と健康の調査を行った結果のようだ。赤肉を多く食べるグループ(ビーフ、ポーク、ラム、ベーコン等の肉を、男性の場合で 1日 3オンス(約 85g)、週に 9回以上食べる人達)は、それ以外の人達よりも直腸結腸がんになるリスクが30~40%高かったとのこと。(思ったよりも肉の摂取量が少ないような気がする。。)

リスクを減らすには、ビーフをチキンや魚に変え、赤肉は週に2回程度まで減らすのが効果的であり、しかもこれらは肥満を抑制する効果もあるので、心臓病等の抑制にもなり、お勧めだと書かれている。まあ、アメリカ人の食生活が、もう少し質素で良質なものになることは、色々な意味で世界にとって好ましいことだと思える。(これで単に健康になるだけでなく、対外的な攻撃性も弱まってくれるともっといいのだが。。)

The Washington Timesにはもう少し詳しい調査結果が載っている。なお、アメリカでは直腸結腸がんはがんの中で3番目に多いらしい。もっとも、相当に異なる食生活をしているであろう日本でも、国立がんセンターによると、特に結腸がんが意外に多いので、そんなに単純な話ではないという気もする。

結局、ベースとなる食生活を始めとする生活習慣が大きく異なる他国の話をそのまま持ってきても、どんな結果となるのか一概には言えないだろうということか。その意味ではこのニュースが二つとも日本では一般紙で報道されていないのは、悪いことではないのかもしれない。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2005/01/11

中村氏と日亜化学が和解したけど

中村修二氏と日亜化学との青色LEDを巡る一連の訴訟が、総額8億4000万円で和解という決着をみた。この争いの一連の流れは、パテントサロンが参考になる。(過去のニュースへのリンクはほぼ全滅だけど。。)今回のニュースについては、Google News。本ブログでは、これに関連した内容としては、2004/5/1に「青色発光ダイオード」という本についてのコメントを書いた。

今後、色々な解説記事も出てくるのだろうが、地裁判決では対象となる一つの特許の相当の対価を 600億円と認定し、日亜化学に 200億円の支払いを命じていたのが、高裁では関連する全ての特許を全部含めて、その対価を 6億円と認定したようだ。発明そのものの価値と、その発明に対しての中村氏の貢献度の両方について、地裁と高裁の判断が大幅に(桁違いに)異なったということらしい。どうして、これだけ異なっているのに和解に至るのだろう?

日亜化学のサイトで、和解についての高裁の考え が読めるのだが、ポイントは

特許法35条の「相当の対価」は,「発明により使用者等が受けるべき利益」と「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して算定されるものであるが,その金額は,「発明を奨励し」,「産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的に沿ったものであるべきである。すなわち,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は,従業者等の発明へのインセンティブとなるのに十分なものであるべきであると同時に,企業等が厳しい経済情勢及び国際的な競争の中で,これに打ち勝ち,発展していくことを可能とするものであるべきであり,さまざまなリスクを負担する企業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とは自ずから性質の異なるものと考えるのが相当である。
ということを根拠に、他の職務発明判決の金額等も参考にしたようだ。まあ、特許法の目的を考えても、企業の存続が危うくなるような程度までの金額はありえない、ということだろうか。しかし、実際の計算式を見ると、何だか約 6億円という数字が先に決まっていて、発明が生み出した利益額と発明者の貢献度を、それに合うように後から決めたように見えなくもない。この文章は判決文ではないから、別に世の中が納得する論理や結論である必要はないのだろうけど、それにしても、地裁が算出・算定した数字やその根拠には全く触れていないので、どうして数字がこんなに変わったのかは理解しようがない。

ちなみに、昨年1/30の地裁判決文はH16. 1.30 東京地裁 平成13(ワ)17772 特許権 民事訴訟事件で読めるが、ここで地裁が将来の売り上げ予測までを細かく行って算定した数字は何だったのだろう? あまりと言えばあんまりじゃないだろうか? 発明者の貢献度についても、地裁では

本件は,当該分野における先行研究に基づいて高度な技術情報を蓄積し,人的にも物的にも豊富な陣容の研究部門を備えた大企業において,他の技術者の高度な知見ないし実験能力に基づく指導や援助に支えられて発明をしたような事例とは全く異なり,小企業の貧弱な研究環境の下で,従業員発明者が個人的能力と独創的な発想により,競業会社をはじめとする世界中の研究機関に先んじて,産業界待望の世界的発明をなしとげたという,職務発明としては全く稀有な事例である。このような本件の特殊事情にかんがみれば,本件特許発明について,発明者である原告の貢献度は,少なくとも50%を下回らないというべきである。
とあるのに、その貢献度が今回は何故かあっさりと 5%と算定されてしまったのである。ここまで話題になるような事案なのだから、もう少しギャラリーのことも配慮してくれても良さそうなものだが。

中村弁護団の和解についての見解を読んでも、何故600億円から6億円まで減額されたのに和解に至ったのかについては、納得できる説明はなされていない。というか、これは中村裁判が世の中に様々な有形無形の変化を投げかけたことを自画自賛している文章だ。

中村氏のコメントは、asahi.com(1/11)に 中村教授「和解、納得していない」 青色LED訴訟として載っているが、その中に

 和解に応じた理由については「判決を選んだ場合、特許の件数がさらに絞られ、支払額が2億円程度になる可能性が濃厚で、上告しても一審判決のような画期的な判決を期待するのはほぼ不可能だった」と説明。「非常に低い確率であっても、最高裁に期待したい」と考え、代理人の弁護士と話し合ったが、代理人は否定的で決断した――としている。
とある。一方、日経新聞(1/11)の夕刊にも中村氏のコメントとして
 今回の和解金額は高裁が決め、高裁は判決でも同様の金額になると言っている。これに不満で最高裁に上告しても、最高裁は憲法論、法律論だけを議論して事実審理(金額の審理)せず、金額については、高裁の判決が優先される。このため上告しても結果は同じで意味がない。

 金額が少ないのは高裁の裁判官が金額に6億円という上限を設けたからで、この上限を超え、企業が発明者に相当対価を払えば企業がつぶれるという考えだ。しかし、その上限額が少ないことには全く根拠がない。(後略)

と書かれている。この和解金額が妥当であったかどうかの判断はできないが、今回の話のまとまり方はあまりすっきりしないと言えるだろう。

今後、ある発明の相当対価をどう算定してよいのか、貢献度一つをとってみても、基準がまるで見当たらない状態となったと言えるのでは? (普通の企業内発明では、貢献度を 5%以上と主張するのは相当難しそうだと言えそうだが。)  一連の職務発明裁判の後に、裁判所が発明の相当の対価を具体的に計算することの是非が議論されていたけれど、裁判所が計算した場合、所詮この程度(10~100倍程度)のばらつきが出るのは仕方ない、ということだろうか?

ちなみに、一方の当事者の日亜化学は、この和解に満足していないと言いながらも、404特許の相当対価の説明なんて文章を公開している。地裁判決で600億円と算定された相当の対価が、今回の判決の計算方法に従うと1000万円程度になる、ということを主張しているのだが、和解発表と同時に載せる話だろうか? 何だか、子どもが大人にけんかの仲裁をされた後で、負け惜しみの捨てぜりふを吐いているみたいで、品がないというか、印象が悪いと思うけどなあ。。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2005/01/10

津波の圧力と破壊力

YOMIURI ON-LINE(1/10)の記事。広島原爆の5分の1に匹敵…タイの津波圧力

 スマトラ島沖地震でタイ南部のカオラックを襲った津波の圧力は、広島に投下された原子爆弾の爆風の約5分の1に匹敵することが、現地調査を行った松冨英夫・秋田大助教授らの分析で明らかになった。

 松冨助教授らは先月30日から今月3日まで現地へ入り、建物の外壁に残る水流の痕跡などを詳しく測量した。その結果、押し寄せた津波の高さは10・6―3・1メートル、スピードは秒速8―6メートルだったと判明。水流の圧力は、1平方メートル当たり6・7―3・7トンと算出された。

 広島の原爆の爆風は、爆心地付近で同35トンの圧力だったとされる。その5分の一に近い威力の激流によって、カオラックでは、海岸線から約200メートル内陸までのホテルやコテージが、ほぼ一面になぎ倒された。

 一方、カオラックから約50キロ南のプーケット島では、津波の圧力は同1・6―0・9トン。わずかな距離の違いで、津波の威力に4倍もの差がみられた。

 1993年の北海道南西沖地震で奥尻島を襲った津波は、高さが平均10メートルを超えたが、速度が最大でも秒速7・3メートルと、カオラックより小さかったため、最大圧力は1平方メートル当たり約5・4トンだった。

という記事だが、津波と原爆の破壊力をどういうレベルで比較しているのか、今ひとつわからない。全体の規模ではなくて、ある点での圧力で比較しているようだが、そういう問題なのだろうか? 

それはともかく、1平方メートル当たり数トンという圧力の単位を、もっとポピュラーな単位に換算すると、1 ton/m2 = 0.1 kg/cm2 = 約 0.1気圧 =約 98 hPa となる。従って、今回の津波の最大圧力が約 0.7気圧、原爆の爆心地付近の爆風の圧力は約 3.5気圧ということだろうか。こうして圧力として示してみると、原爆の圧力にしても、津波の圧力にしても、意外にも大した力ではないように感じられるのではなかろうか? これらの破壊力は圧力で比べても仕方ないような気がするのだが。。

例えば、今回の津波の原因となった地震では、東大地震研 山中さんの推定では、150km×560kmの面積が最大13.9mずれたそうだから、平均のずれを7mとしても、その質量は約 6×10^11 tonにもなる。ポテンシャルエネルギーは、その質量の重心が3.5m上昇したとすると、約 2×10^16 ジュールとなる。

一方、広島の原爆については、A-Bomb WWW Museumによると、TNT火薬で15キロトンとある。(確かに爆心での風圧は約3.5気圧らしいが、風速は440m毎秒と音速を超えているようだ。。)TNT15キロトンは、約68兆ジュール(6.8×10^13 ジュール)であり、エネルギー総量で比べると、今回の津波の約300分の一となってしまうのだ。。(エネルギー換算

というか、原爆の場合には熱エネルギーや放射線としてのエネルギーの破壊力も大きいわけだし、やっぱりその圧力を津波の圧力と比較するのは適当ではないように思うけどねえ。ちなみに津波による被害は、東北大学災害制御研究センターによると、津波の高さで整理されている。

冒頭の記事の、「その5分の一に近い威力の激流によって、カオラックでは、海岸線から約200メートル内陸までのホテルやコテージが、ほぼ一面になぎ倒された。」という表現は、「威力」の定義次第とはいえ、やはり不適切だと思うのだが。。

ちなみに、今回の津波関連リンク集としては、京都大学の防災研究所の2004年スマトラ島沖地震津波災害が研究情報が充実しているようだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/07

ココログ12か月

ココログを始めて丁度1年が経過した。カウンターの伸びは、この1か月で15000程度とやや低調だったが、このブログは元々ウィークデイの訪問者が多いのと、年末年始は更新をお休みしたことが重なったためと思われる。

 1か月目:900
 2か月目:4500
 3か月目:11700
 4か月目:19000
 5か月目:32300
 6か月目:43500
 7か月目:54500
 8か月目:72000
 9か月目:87700
 10か月目:105400
 11か月目:125400
 12か月目:140600

それにしても始めた時には、まさか1年間で14万ものアクセスになるとは思わなかったな。。
皆さん、どうもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


この1か月の、Ninjaツールの集計によるアクセス解析結果は、(あまり当てにならないけど)

(1)リンク元
 1位 bookmark (お気に入りに入れてくれた方) 全体の19%(前回1位)
 2位 http://search.yahoo.co.jp (ご存知ヤフーサーチ) 全体の12%(前回2位)
 3位 http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi 全体の3%(前回3位)
 4位 http://search.msn.co.jp(MSNサーチ) 全体の1%(前回6位)
 5位 http://a.hatena.ne.jp 全体の1%(前回5位)

(2)検索キーワード
 1位 青色発光ダイオード(前回18位)
 2位 アメリカ(前回2位)
 3位 世界人口(前回100位以下)
 4位 肥満(前回3位)
 5位 合計特殊出生率(前回5位)
 6位 京都議定書(前回19位)
 7位 レーザーポインター(前回77位)
 8位 ポリ乳酸(前回8位)
 9位 岩盤浴(前回12位)
10位 ベンタ(前回16位)

何だか、この1か月で書いた記事に関連するキーワードは「京都議定書」くらいかな? ちょっと悲しいものがあるな。

一方、冬になって加湿器のシーズンとなったこともあり、久々にベンタエアウォッシャー関連のキーワードでの訪問者が増えているようだ。柔軟剤(ハミング)を入れての運転も2シーズン目となるけれど、我が家のベンタ君も順調に稼動しているようだ。

先月トップの「ナノスピード7000」は27位、先々月トップの「脳力トレーナー」は100位以下に沈んでいる。特定のキーワードを、GoogleやYahoo!で検索したときに、このサイトが何番目にリストアップされているか? を調べるには、検索キーワードチェックツールというのが便利だ。これによると、
 「ナノスピード7000」 Googleで19位、Yahoo! JAPANで6位
 「脳力トレーナー」  Googleで90位、Yahoo! JAPANで48位
という結果が出た。

1周年を記念して、全体の配色を変えてみたけど、どうだろう?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/06

量子伝導原子スイッチ

asahi.comの記事(1/6)。消費電力は半導体の100万分の1 ナノスイッチ開発

 物質・材料研究機構(茨城県つくば市)などが、銀原子の突起の伸び縮みでオンとオフを切り替えられる極微の原子スイッチを開発した。6日発行の英科学誌ネイチャーに発表する。性能が限界に近づいている現在の半導体素子に取って代わる可能性もあるという。

 物材機構の長谷川剛さんらは、硫化銀の電極と白金の電極を1ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどの間隔で向かい合わせて電圧をかけると、硫化銀の電極から10個程度の銀原子でできた微小な突起が伸びたり縮んだりして、電流を流したり切ったりできることを確かめた。

 消費電力は半導体素子の100万分の1程度と少なく、メモリー(記憶素子)を作れば、電源を切っても記憶が消えない性質もある。現在の半導体製造技術がそのまま利用でき、5年以内に試作品を作って、10年以内に製品化できそうだという。

 半導体は、電子が移動できるかどうかを電気的に制御してスイッチにしている。原子スイッチは電子より約20万倍重い銀原子を利用しているが、半導体素子の30分の1程度の面積でできるため、高速で消費電力がずっと少ない素子が作れる。

 スイッチの組み合わせを変更することで、パソコンやデジタルカメラ、テレビなどの機能を一つにまとめられる新型の携帯機器などへの応用が考えられるという。

というもの。この記事を読んでも、あまりピンと来ないのだが、物質・材料研究機構のプレスリリースには、銀原子クラスターの突起の伸び縮みの動画も掲載されているし、リンクされているpdfファイルでは比較的丁寧に解説されている。ネイチャーの論文はこちら

何で硫化銀なんだろう?と思ったけど、このリリースを読んで、硫化銀が銀イオンが伝導する固体電解質であることを思い出した。さらに探してみると、既に2002年の理化学研究所の理研ニュース April 2002の中に、硫化銀の結晶構造の模式図と原子スイッチの模式図を使って原理が説明されている。

この原子スイッチで動くのは、冒頭の記事のように銀原子というよりは、ここの説明のように銀イオンと考えるほうがいいような気がする。動くのはイオンだけど、いざ電気が流れる時には電子伝導となるところが面白い。それにしても、ほぼ完璧な銀イオンの可逆的な動作が要求されるように思えるのだが、大丈夫なのだろうか?

ちなみに、硫化銀構造中での硫黄イオンの半径(4配位)が 0.17nm、銀イオンの半径(2配位)が 0.08nm程度なので、この絵ほど極端ではないが、硫黄の格子の中を小さな銀イオンがかなり自由に動ける構造のようだ。確かに1nmのギャップをつなぐ銀原子の数は最小で10個程度となりそうだ。イオン半径を考えると、酸化銀やハロゲン化銀、特にヨウ化銀あたりでもいけそうな気がしないでもないのだが、電導度や化合物の安定性などから硫化銀が選ばれたのだろうか?

なお、Japan Nanonet Bulletinのインタビューによると、この原子スイッチのアイデアは、STMを使用した他の研究の途中での偶然の副産物なのだそうだ。

他にも、電気伝導度が量子化されることや、履歴の記憶機能がある点で、うまく活用すると面白い素子ができる可能性を秘めているようだ。素子としての話などは、スラッシュドット ジャパンでの議論も参考になりそうだ。

ところで、同じニュースを伝える YOMIURI ON-LINEの超小型化・省電力化が可能な「原子スイッチ」開発には、

 開発した原子スイッチは、硫化銀で覆った銀電極と、白金の電極を使って、簡単に作製できる。室温で電流を流すと、硫化銀の表面に銀原子が現れ、100万分の1ミリ(1ナノ・メートル)離れた白金電極に接触、電流が流れる。逆方向の電流を流すと銀原子は硫化銀の中に戻り、スイッチが切れる仕組みだ。
とあるが、「電流を流す」は「電圧をかける」の誤りだろうな。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/05

『「壊れぬ技術」のメダリスト』

「メタルカラーの時代」の文庫版シリーズの第9巻。このブログでは、第6巻「ロケットと深海艇の挑戦者」と第7巻「デジタル維新の一番走者」を紹介している。最近のこのシリーズは、各巻毎に統一したテーマがあり、今回は、阪神・淡路大震災後の復旧作業や明石海峡大橋の建設作業を中心とした、土木建築技術の話である。

小学館文庫
 文庫版 メタルカラーの時代 9
 「壊れぬ技術」のメダリスト
 山根 一眞 著 bk1amazon

昨年は大きな台風被害があったり、新潟とインド洋で大きな地震があったりと、改めて自然災害の破壊力や人間の築き上げた構造物の弱さを痛感させられた。そのため、どうしても悲観的な物の見方をしがちだけど、この本を読むと非常に希望が湧いてくる。

マスコミは起きた災害の悲惨な側面を強調して報道してくれるけれど、本書によると、比較的新しい建築物は、我々が考えている以上に地震に強いようだ。高層ビルや高架橋のような大型の構造物だけでなく、ガス管や水道管なども新しい技術を使っているものは、阪神・淡路大震災程度の揺れであれば、壊滅的な被害とはならないレベルにあるということらしい。もちろん、基準策定の際に想定した規模を上回る災害が起これば、それなりの被害は避けられないだろうが、それを言い出したらキリがない部分もあるのだし。

また、新たな災害の度に被害状況を解析し、新たな基準が設けられ、それに対応した新たな技術が開発されて、、、という具合に技術はどんどん進歩しているんだ、という確かな感触がある。年がら年中あちこちで日常的に行われている道路などの工事も、老朽化した設備を新たな基準に合わせた新しいものに替えたり、補強したりというものも結構あるようだし、いつも悪くばかり言われているけど、良い所はきちんと評価して認めていくべきだろう。

このブログでは、新潟中越地震の際の新幹線の脱線についてコメントしたが、本書では阪神・淡路大震災の際の阪神高速道路の高架の倒壊について、当時の設計基準を大幅に上回る揺れであったことを関係者が語っている。あの阪神高速道路の倒壊の映像は非常にショッキングだったし、如何にも大都市の人工建築物が脆弱であることを象徴しているような印象がある。

しかし、倒れた高架を調べてみた結果、橋の強度は全て基準をクリアしており、いわば壊れるべくして壊れたことが明らかとなっている。一方で、より厳しい最近の基準に従って作られた高架は実際にほとんど壊れていなかったし、現在は更に高いレベルの基準に則って補強したり作ったりしているとのこと。さすがに、最新の技術を使って作っているこの手の建築物は、一般人の想像以上にしっかりしているということのようだ。実は、危ないのは昔の基準で作られて、あまり手の入っていない中途半端に古い建物や、一般の古い住宅などであろう。

本書は、既刊の極限技術だとか、ミクロやナノテクノロジーというようなものとは違い、目に見える技術を取り上げている点で理解しやすいのだが、逆に、この本を読むまで知らなかったことも結構多く、これを読むと随分物知りになった気がする。例えば、明石海峡大橋のケーブルは、さび防止のために、ケーブルをゴムシートで包み、その中に常に乾燥空気を送り込んでいるというのには驚かされた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/01

新年おめでとうございます

2004年はその波乱の1年を締めくくるのにふさわしい大雪で幕を閉じたようですが、今年はもう少しは落ち着いた、明るいニュースの多い一年であって欲しいものです。

このブログもまもなく2年目に突入です。さすがに、このままのペースで更新を続けられるかどうか、あまり自信がないのですが、どうなりますことやら。。 まあ、ここでのネタとなるようなおもしろい研究成果や技術・製品がどの程度出てくるのかに掛かってますので、それを楽しみにしながら、マイペースで続けていくことにしましょう。

ということで、本年もよろしくお願いします <(_ _)>

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2004年12月 | トップページ | 2005年2月 »