『「壊れぬ技術」のメダリスト』
「メタルカラーの時代」の文庫版シリーズの第9巻。このブログでは、第6巻「ロケットと深海艇の挑戦者」と第7巻「デジタル維新の一番走者」を紹介している。最近のこのシリーズは、各巻毎に統一したテーマがあり、今回は、阪神・淡路大震災後の復旧作業や明石海峡大橋の建設作業を中心とした、土木建築技術の話である。
小学館文庫
文庫版 メタルカラーの時代 9
「壊れぬ技術」のメダリスト
山根 一眞 著 bk1、amazon
昨年は大きな台風被害があったり、新潟とインド洋で大きな地震があったりと、改めて自然災害の破壊力や人間の築き上げた構造物の弱さを痛感させられた。そのため、どうしても悲観的な物の見方をしがちだけど、この本を読むと非常に希望が湧いてくる。
マスコミは起きた災害の悲惨な側面を強調して報道してくれるけれど、本書によると、比較的新しい建築物は、我々が考えている以上に地震に強いようだ。高層ビルや高架橋のような大型の構造物だけでなく、ガス管や水道管なども新しい技術を使っているものは、阪神・淡路大震災程度の揺れであれば、壊滅的な被害とはならないレベルにあるということらしい。もちろん、基準策定の際に想定した規模を上回る災害が起これば、それなりの被害は避けられないだろうが、それを言い出したらキリがない部分もあるのだし。
また、新たな災害の度に被害状況を解析し、新たな基準が設けられ、それに対応した新たな技術が開発されて、、、という具合に技術はどんどん進歩しているんだ、という確かな感触がある。年がら年中あちこちで日常的に行われている道路などの工事も、老朽化した設備を新たな基準に合わせた新しいものに替えたり、補強したりというものも結構あるようだし、いつも悪くばかり言われているけど、良い所はきちんと評価して認めていくべきだろう。
このブログでは、新潟中越地震の際の新幹線の脱線についてコメントしたが、本書では阪神・淡路大震災の際の阪神高速道路の高架の倒壊について、当時の設計基準を大幅に上回る揺れであったことを関係者が語っている。あの阪神高速道路の倒壊の映像は非常にショッキングだったし、如何にも大都市の人工建築物が脆弱であることを象徴しているような印象がある。
しかし、倒れた高架を調べてみた結果、橋の強度は全て基準をクリアしており、いわば壊れるべくして壊れたことが明らかとなっている。一方で、より厳しい最近の基準に従って作られた高架は実際にほとんど壊れていなかったし、現在は更に高いレベルの基準に則って補強したり作ったりしているとのこと。さすがに、最新の技術を使って作っているこの手の建築物は、一般人の想像以上にしっかりしているということのようだ。実は、危ないのは昔の基準で作られて、あまり手の入っていない中途半端に古い建物や、一般の古い住宅などであろう。
本書は、既刊の極限技術だとか、ミクロやナノテクノロジーというようなものとは違い、目に見える技術を取り上げている点で理解しやすいのだが、逆に、この本を読むまで知らなかったことも結構多く、これを読むと随分物知りになった気がする。例えば、明石海峡大橋のケーブルは、さび防止のために、ケーブルをゴムシートで包み、その中に常に乾燥空気を送り込んでいるというのには驚かされた。
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