無花粉スギ「爽春」と「はるよこい」
NIKKEI NET(1/24)のニュース。花粉出さないスギ、林野庁などが開発。
林野庁と独立行政法人「林木育種センター」(茨城県日立市)は24日までに、花粉症対策として花粉がないスギの新品種「爽春(そうしゅん)」を開発した。今春から苗木をつくる穂木(挿し木にする枝)を都道府県に配布、普及を目指す。ということだが、花粉のないスギとはどんなものなのだろう? 同じニュースを扱った、YOMIURI ON-LINE(1/24)の記事では、同センターは、これまで花粉が少ないスギ112品種を開発しているが、無花粉スギは初めて。種苗法に基づき、農水省生産局に品種登録する。
林野庁によると、花粉がないスギは1992年に富山県で偶然見つかった例などがあるが、開発した品種はそれとは別で、林木育種センターが昨年秋、風害に強い品種開発の過程で、雄花に花粉がないスギを見つけた。
穂木は都道府県の要望に応じ提供。都道府県は苗木を育てた上で、地元森林組合などと相談、伐採などの機会に植え替えを進める。ただ、無花粉スギばかり植えると「種の多様性が損なわれる問題がある」(同庁研究普及課)ため、同庁は都市部近郊を中心に植えることなどを想定している。
無花粉スギは、花粉を包む細胞壁がないため、花粉が正常に育たない。1992年に富山県で初めて発見されたが、林木育種センターが昨年後半に、こうした品種の開発に成功し、挿し木となる穂木の供給が可能になった。とある。日経の記事では富山県でみつかったものとは別とあり、読売の記事では富山県で発見されたものをさらに改良したようにも読める。林野庁のスギ花粉に関する情報や材木育種センターの研究トピックスには、花粉の少ないスギの情報は載っているが、無花粉のスギについては何も書かれていないようだが、花粉症対策としては、花粉の量を減らす方法と花粉中のアレルゲンを減らす方法を研究しているようだが、花粉症の対策として結構いろいろなことがやられていて、それなりに研究レベルでは成果があがっているようだ。
富山県の花粉症を作らないスギについては、富山県林業試験場の無花粉スギ「はるよこい」に詳しいが、遺伝的な要因で花粉を作る能力が失われた「雄性不稔」と呼ばれる現象のようで、偶然見つかったこのスギを「はるよこい」と名付けたとある。花粉ができないので、挿し木などで増やしていくことになるようだ。結局、「爽春」と「はるよこい」はどういう関係にあるのだろう?
雄性不稔は、F1育種にとって重要な雄性不稔!などで解説されているように、植物の品種改良ではよく使われる手段のようだ。しかし、花粉が非常に少ない品種にしろ、雄性不稔の品種にしろ、自然界では繁殖に不利なはずだけど、ヒトの都合により大量に育てられるとしたら、そういう自然環境というのも相当に不自然な気もする。。 (それを言ったらヒトが栽培している植物はほとんどが不自然なんだろうけど。)
ところで、スギ花粉を検索していてみつけたのが、スーパードリンク! スギ花粉エキス すっきりフォレストという怪しげなドリンク。経口減感作療法というものらしい。減感作療法自体は、まともな療法のようだが、経口で花粉エキスを摂取したからといって、消化器官から吸収された時にも、アレルゲンとして認識されるものなのだろうか? この手の商品には珍しく、特許番号が書かれているので調べてみると、特開平11-322625は公開段階で、特許として登録はされていない。タイトルは「杉花粉症の減感作療法用内服薬」、内容は
水洗した杉の葉、杉の花粉又は杉の葉と花粉とを水と共に容器に入れて煎じた後、当該杉の葉、杉の花粉又は杉の葉と花粉とを除去すると共に残った液体を濾過してなることを特徴とする杉花粉症の減感作療法用内服薬。というものだ。特許出願上は「薬」と名付けているが、商品としては薬ではなく「清涼飲料水」として売っているわけだから、これだけで十分に怪しい。この明細書にはメカニズムや化学成分の分析結果等も何も書かれていないし、服用した結果についても具体的なデータは何も書かれていない。ちなみに食物アレルギーは、経口摂取したタンパク質が消化器官で十分に分解されずに一部吸収されて起こるのだそうだ。(参考:食物アレルギー) もっとも、こちらの説明では、減感作療法ではなく即効性がある、と書かれている。。。
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コメント
>経口で花粉エキスを摂取したからといって、消化器官から吸収された時にも、アレルゲンとして認識されるものなのだろうか?
ご紹介の「清涼飲料水」が効くとは思えませんが(こんなで効くならみんなやっている)、経口摂取された抗原が免疫寛容を誘導するという話ならあります。私も専門外でよく知っているというわけではありませんが、"経口寛容"とか"経口トレランス"とかで検索してみてください。よく考えれば、我々は日常的に異種タンパク質を経口摂取しているわけで、いちいちそういうのに反応していたら身が持ちません。腸管由来の抗原にはあまり反応しないという仕組みがあって、その仕組みの不調が食物アレルギーを引き起こしているのではないでしょうか。
経口トレランスをうまく誘導できれば、アレルギーや自己免疫疾患の治療に役立ちます。研究はされてはいるのですが、臨床的な効果があったという話をあまり聞かないのは、やはり臨床応用にはいろいろな条件が必要なのでしょう。そういう地道な研究をすっとばして、ざっくりと金儲けをたくらんだ人が、怪しげなドリンクを商品化したのではないでしょうか。
投稿: NATROM | 2005/01/25 10:46
NATROMさん、ありがとうございます。教えていただいたキーワードで調べてみました。なるほど、正にまっとうな研究が進められている領域のようですね。それにしても、抗原を経口で投与する場合には、その量のコントロールが難しそうです。抗原となるタンパク質の吸収のされかたが、個人個人で違いそうだし、同一人物でも体調で異なる可能性もありそうです。だからこそ、専門家が慎重に検討しているのだろうとは思いますが。
それにしても、この手の食品類も薬にならないだけならともかくも、(清涼飲料水としては破格に高価であることは置いておいても)、毒にならなければいいのですけど。。
投稿: tf2 | 2005/01/25 23:45
2/4のYOMIURI ON-LINEにhttp://www.yomiuri.co.jp/science/news/20050204i301.htm">農水省、花粉症緩和のコメ開発…2007年にも実用化という記事が掲載された。
ということで、わざわざコメの遺伝子を組み換えてスギ花粉のアレルゲンとなるタンパク質を作らせるようだ。そもそも経口摂取で本当に「減感作療法」の効果が出るのかも怪しいが、わざわざ遺伝子を組み換えてまでコメに作らせるのは何故なんだろう?
本当に効果があるなら、むしろ上の記事のようにスギ花粉から抽出して食品にでも添加すれば済むだろうに。こんなコメは食べたくないなあ。。
農業生物資源研究所にhttp://www.nias.affrc.go.jp/gmo/">解説記事が載っているが、コメは毎日食べるので少量ずつ摂取するのに適しているというのが理由のようだ。
マウスに毎日このコメを食べさせた結果、効果が見られたとのこと。なお、食べさせる量は、人間換算で毎日1合程度だし、ごはんを炊くことを考えて煮沸してみたが、対象となるペプチドは安定していたという。ふーむ、食べても効果が出るみたいだ。
投稿: tf2 | 2005/02/04 19:29