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2005/01/27

「これからの環境論」

シリーズ「地球と人間の環境を考える」の新刊が出た。No.10と11を飛ばして、先に出たのがNo.12。どうやらこれがまとめという位置付けのようで、表紙も今までのシリーズの表紙のコラージュとなっている。このブログで紹介したのは、
  No.5 エネルギー
  No.7 水と環境
  No.8 ごみ問題とライフスタイル
  No.9 シックハウス
であり、今後出版される予定なのは、「No.10 バイオマス」と「No.11 畜産と食の安全」である。

シリーズ 地球と人間の環境を考える 12
 これからの環境論 つくられた危機を超えて
 渡辺 正 bk1amazon

著者の渡辺さんは、話題となった「シリーズ No.2 ダイオキシン 神話の終焉」の著者の一人でもあり、非常にシニカルな視点から環境問題を斬るので有名。以前、ある所で聞いた渡辺さんの環境観は、「21世紀は食糧難で大量の餓死者が出る時代となるだろう。であれば、寒冷よりは温暖が良いし、CO2は食料生産にプラスだろうから、温暖化の方が総合的には受容可能である。」というようなもので、「そもそも地球が温暖化しているのか、炭酸ガスがその原因なのか、といった点が不確実であるけれど、それは別にしても、無理に温暖化を止めるのは却って有害かもしれないよ。」というご意見のようだ。

さて本書では、酸性雨、地球温暖化、ダイオキシン、環境ホルモンについての騒動を、天然物質や日常の有害物質の問題を比較しながら、大騒ぎする必要は全くないのだ、という立場で述べている。まあ、非常にわかりやすいというか、過激というか、相変わらず思い切った主張であり、こういう本を出すのはそれなりに勇気がいるだろうと思う。本書の中では、何度もロンボルグの「環境危機をあおってはいけない」が参考として取り上げられている。

本書は、全部が会話形式となっており、渡辺先生と文系出身の若い女性とがお酒を飲みながら軽いノリで環境問題を斬りまくるという構図だ。わかりやすいといえばわかりやすいのだが、乱暴といえば乱暴な議論でもあるかな。まあ、厳密な話はそれぞれの本を当たってねということだろう。

面白かったのは、「ダイオキシン」を出版した後の反響についての部分。市民団体との討論や議論などの後日談が読める。一部からは、随分強引な論理の反論があったようだが、全体としては好意的に受け入れられたらしく、予想していたよりは強い反発はなかったみたいだ。

個別の問題の解釈については、一部を除くと全体的には賛同できるのだが、地球温暖化についてはどうだろう? 確かに、地球全体の温度測定や、二酸化炭素との因果関係という点では不確実な要素があるし、しかも京都議定書は、たとえアメリカが参加して、その初期の目標が全て達成できたとしても、地球の持続可能性への直接的な効果は極めて限定的だろう。

しかし、このまま進めば地球の資源は確実に枯渇に向かうし、大気中のCO2は急激な増加を続けるだろう。であれば、少しでもその進行を遅らせるためにできる努力はしておきたいし、その中から資源効率やエネルギー効率の画期的に優れた製品や技術、あるいはライフスタイルを作りだしていかなくてはいけないと思うのだが。。

さらに、今のところは功を奏しているとは言えないけれど、「地球の危機」というキーワードで国際的な協調が進むのであれば、それはとても結構なことだろう。確かに、そのためならウソをついても良いのか? というと違うだろうと思うけど、地球温暖化はともかくとして、資源の枯渇やCO2の増加はウソじゃないわけだし、そちらの線で進めたらどうだろうかと思う。

本書のタイトルは「これからの環境論」となっているのだが、残念ながら環境問題の将来像の提示に成功しているとは思えない。 しかし、少なくとも現在の日本の環境問題を考える上で、本書に目を通しておくことはとても大事だろうと思う。「一体何が問題なの?」という立場から科学的に論じている本書の主張を真正面から受け止めて、その上で、(決して感情論ではなく)同じ科学的な土俵の上に立って、より建設的な将来像を描き、お互いに模索していくことが必要なのではないだろうか。

*環境問題を考える教科書としても使える、非常に広範囲にバランス良くまとまっているものとして、日本化学会が1999年に出版した『「環境」を化学の目で見る 「総合的な学習の時間」に向けて』という冊子がある。この中の、渡辺さんが地球温暖化問題を論じた記事(化学と教育 vol.46, No.2, p.76-79, 1998)が非常に印象に残っている。

地球の温室効果は水の寄与がそのほとんどを占め、CO2の寄与はわずか数%であり、今さら少々CO2の排出を削減しても、それがどれほどの効果があるのやら、どちらにしても化石燃料を使う限りはCO2は増え続けるし、しかも本当に温暖化するかどうかはわからない、という内容だった。

今回、それから7年が経過し、その間にこの分野では相当に情報が増えたはずなのだが、渡辺さんのスタンスは、多少歯切れが悪くなった印象もあるものの、余り変わりがないようにも見える。これは、結局この7年間に地球温暖化関連の情報は増えたけど、その詳細なメカニズムの理解や今後の予測については、思った程は進歩していないということかもしれないし、CO2の排出量を効果的に削減する持続可能で受入れ可能なシナリオがまだ見出されていないということなのかもしれない。

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コメント

温暖化の部分を読みました。
コメントはここに書くには長すぎるものになってしまったので、別のところに書いたものの参照だけ示します。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/reading/watanabe2005.html">http://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/reading/watanabe2005.html

「ダイオキシン 神話の終焉」の本に関する露本伊佐男さん(「図解雑学 ダイオキシン」の著者)の批評
(http://homepage3.nifty.com/tsuyu/column/w_ha.html">http://homepage3.nifty.com/tsuyu/column/w_ha.html)
にある、「怖がらな過ぎるほうの極論」という形容が今度の本にもあたっていると思います。

投稿: macroscope | 2005/02/07 19:16

macroscopeさん、コメントありがとうございます。ご紹介いただいたページの内容はとても専門的なものなので、それぞれ元の情報に当たらないと全部を正しく理解するのが難しそうですが、機会があれば、突っ込んで勉強したいと思います。

正に専門的な立場から、本書に対してきちんとデータで反論していただいているようなので、こういうデータを前にして、渡辺さんがどんな主張をされるのか興味があります。本書をベースに科学的な討論をする場があれば面白いと思うのですが。(化学会あたりが企画してくれないだろうか?)

温暖化はともかくとして、資源節約を真剣に考えるべきという主張もその通りだと思います。

このシリーズの第1巻、伊藤公紀さんのhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535048215/ref=ase_doyouthinkfor-22/249-2825376-8610733">「地球温暖化 埋まってきたジグソーパズル」や日本化学会編のhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4621049909/doyouthinkfor-22/249-2825376-8610733">「本音で話そう、地球温暖化」は手元にあるので、また見直してみようかと思います。

投稿: tf2 | 2005/02/07 22:50

こんにちは。はじめまして。
先日,大学のオムニバス講義で渡辺正さんの講義を受け,
なかなかおもしろかったので興味を持ち,この記事に行き当たりました。
この記事のおかげで,
『「環境」を化学の目で見る 「総合的な学習の時間」に向けて』の
渡辺さんの記事の存在を知り,コピーすることができました。
一言,お礼をお伝えしたく。 ありがとうございました(^^)

投稿: ガンジー | 2007/06/14 23:00

お役に立てて良かったです。

渡辺先生の地球温暖化に対するスタンスは今も同じなのでしょうか? その後、いくつもシミュレーション結果などが発表されており、いまさら温暖化はむしろメリットが多いというような論調はちょっと分が悪そうな印象ですが。また、水蒸気の温室効果への寄与などもかなり詳細に見直されているように聞いていますが。

投稿: tf2 | 2007/06/15 01:30

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