牛糞からベンゼンと水素
先週末に各紙に載ったニュース。YOMIURI ON-LINE(1/29)は、牛ふんから燃料やプラ素材、高性能触媒を北大が開発。
メタンガスからベンゼンと水素を効率よく作り出せる高性能の触媒を北海道大学が開発した。この手法を使えば、牛ふんからもプラスチック原料や燃料電池用水素を生み出すことが可能で、資源節約と廃棄物削減の一石二鳥につながる画期的技術として期待される。ということだが、何故にわざわざ牛糞からベンゼンを作らねばならないのだろう? この記事だけではわからない点が多すぎる。MSN-Mainichi INTERACTIVEのニュースでは、新触媒は、微小な細孔を持つセラミックに、白金など複数の金属を組み合わせた。メタンからベンゼンを作る技術は従来もあったが、二酸化炭素など有害物質の発生が避けられなかった。北大方式は、この欠点を克服。牧場で集めた乳牛のふん尿からベンゼンと水素を生み出す実験施設を作り、連続運転にも成功した。
メタンは、天然ガスに含まれているほか、牛ふんや生ゴミからも出る。ベンゼンはプラスチックや化学繊維の原料、水素は燃料電池の燃料になる。
北大の試算では、生ゴミ、家畜の排せつ物、稲わらなどの廃棄物は、日本で年間2億5000万トンも出る。これをすべて新技術で処理すると、ベンゼン1100万トンと水素1200億立方メートルを生産できる。ベンゼンは国内の使用量を十分まかない、水素も燃料電池を動かせば国内電力供給量の4分の1に上る計算になるという。
家畜のふん尿を発酵させたメタンを使って、化学繊維やプラスチックの原料になるベンゼンや燃料電池に使われる水素を効率よく製造する触媒技術を市川勝・北海道大触媒化学研究センター教授らが開発したと、27日発表した。北海道開発土木研究所がこの技術を導入した装置の長時間稼働にも成功しており、実用化にめどを付けている。石油から作られるベンゼンは原油高騰で価格が上昇しており、二酸化炭素を排出しない利点もあり、産業界の注目を集めそうだ。となっており、よく見ると、得られるベンゼンと水素の割合が読売の報道と毎日の報道で異なるようだが、ここでもコストが半分以下ということで、有望な技術として紹介されている。それにしても、この反応を「メタンの分解」と表現するのはどうだろう? 分解して元よりも大きな分子ができるのは変だろうに。 脱水素環化縮合だろうか? ちなみにasahi.comのニュースでは市川教授は、水素を作る過程を研究する中で、メタンを分解すれば水素のほかにベンゼンが得られる可能性に気づいた。無数の小さな穴を持つセラミックス材の一種「ゼオライト」を加工し、ベンゼンと同じ大きさの1億分の5センチの穴を作り、750度、5気圧の環境でメタンを通すと、ベンゼンと水素が得られることを発見した。メタンが分解しやすいよう穴の内側に金属のモリブデンや白金を付着させ、ベンゼンの生産性を高めた。
同研究所が根室管内別海町で、牛1000頭のふん尿を使い、100時間以上の実証実験を行った結果、1日当たり200立方メートルのメタンから120立方メートルの水素と50キログラムのベンゼンができた。1年間稼働すれば約15万着分のシャツを生産できる量のベンゼンを得られ、製造コストは石油を利用した場合の半分以下で済む。
市川教授は「どこにでもあるふん尿や生ごみなどのバイオマスを利用しており、循環型社会の構築に役立つ」と話す。
メタンを約750度、約5気圧にして市川教授が開発したセラミックス触媒と混ぜると、約15%が化学反応を起こしてベンゼンと水素に変わる。反応しなかったメタンは回収して再利用する。と書かれているので、ベンゼンと水素の比率は読売が間違っているようだが、さて、そのままでも燃料になるが、ベンゼンに変えて付加価値を高める? それは、石油だって精製して各種成分を取り出すことで付加価値を高めているわけで、何と何を比較すべきなのかよく考えるべきじゃないのだろうか?実証試験では、糞尿から発生する1日約200立方メートルのバイオガスから取り出したメタンをもとに、ベンゼン50キロと水素120立方メートルができることが分かった。
バイオガスはそのままでも燃料になるが、石油化学工業の基幹原料であるベンゼンに変えれば、付加価値が高まる。水素は燃料電池に使える。
さて、調べてみるとこの技術は、昨年11月のSankei ECONETに結構詳しく掲載されている。もっとも、ここではあくまでも水素を製造することを前面に打ち出しているのだが、今回のニュースではベンゼンの方が前面に出ている点が異なるようだ。見た所、技術的にはほとんど変わりがないようだが、何故今回はベンゼンを前面に出してアピールしたんだろう?
やはり欠点は、転化率が低いので、リサイクルが必須ということと、恐らくコーキング(炭素質の触媒への付着)によると思われる触媒ライフの問題らしい。 今回の記事を見ても、特に技術的にブレークスルーしたようにも見えないのだが。
この技術についての北大触媒科学研究センターの解説を読むと、バイオガスというよりは、天然ガスとしてのメタンの有効利用というテーマの位置付けのようだし、あくまでも水素が主役のようだ。活性種が炭化モリブデンというのがなかなか面白い。コーキングについては水素やCO2を共存させることでかなり抑えられるようだ。
それにしても、牛糞等から発生するガスの有効利用であれば、荏原、家畜ふん尿処理システム「バイトレック」が本格稼働、売電開始のように、発酵したメタンガスを直接発電に用いる方が効率的のような気がするし、これで得られたエネルギー分だけ石油の燃料としての消費を削減する方がいいのじゃないだろうか?
今回、比較すべきなのは、メタンガスの直接利用のケースと、ベンゼン+水素へ転換しての利用のケースだ。もちろん、現時点で経済的にどちらが有利かという評価だけでなく、トータルのエネルギー効率や資源効率も評価すべきだろう。毎日の記事にある「コストが石油の半分以下」というのも、何と何のコストを比較しているのか不明なのでよくわからないが、本当だろうか? もしもベンゼンを全てバイオ由来にしてしまうと、現行の石油ルートで出来てしまうベンゼンはどうするのだろう? その処理コストや現行石化プロセスへの波及効果も考える必要があるぞ。。
もちろん将来の石油資源の枯渇を視野に入れれば、天然ガスやメタンハイドレートの有効利用というのは必要な技術だと思うし、確かに産総研の報告書などでも、同様の反応をターゲットに研究されている様子が見られる。 ただ今回の報道のされ方は、なんだか問題があるような気がする。。
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