量子伝導原子スイッチ
asahi.comの記事(1/6)。消費電力は半導体の100万分の1 ナノスイッチ開発
物質・材料研究機構(茨城県つくば市)などが、銀原子の突起の伸び縮みでオンとオフを切り替えられる極微の原子スイッチを開発した。6日発行の英科学誌ネイチャーに発表する。性能が限界に近づいている現在の半導体素子に取って代わる可能性もあるという。というもの。この記事を読んでも、あまりピンと来ないのだが、物質・材料研究機構のプレスリリースには、銀原子クラスターの突起の伸び縮みの動画も掲載されているし、リンクされているpdfファイルでは比較的丁寧に解説されている。ネイチャーの論文はこちら。物材機構の長谷川剛さんらは、硫化銀の電極と白金の電極を1ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどの間隔で向かい合わせて電圧をかけると、硫化銀の電極から10個程度の銀原子でできた微小な突起が伸びたり縮んだりして、電流を流したり切ったりできることを確かめた。
消費電力は半導体素子の100万分の1程度と少なく、メモリー(記憶素子)を作れば、電源を切っても記憶が消えない性質もある。現在の半導体製造技術がそのまま利用でき、5年以内に試作品を作って、10年以内に製品化できそうだという。
半導体は、電子が移動できるかどうかを電気的に制御してスイッチにしている。原子スイッチは電子より約20万倍重い銀原子を利用しているが、半導体素子の30分の1程度の面積でできるため、高速で消費電力がずっと少ない素子が作れる。
スイッチの組み合わせを変更することで、パソコンやデジタルカメラ、テレビなどの機能を一つにまとめられる新型の携帯機器などへの応用が考えられるという。
何で硫化銀なんだろう?と思ったけど、このリリースを読んで、硫化銀が銀イオンが伝導する固体電解質であることを思い出した。さらに探してみると、既に2002年の理化学研究所の理研ニュース April 2002の中に、硫化銀の結晶構造の模式図と原子スイッチの模式図を使って原理が説明されている。
この原子スイッチで動くのは、冒頭の記事のように銀原子というよりは、ここの説明のように銀イオンと考えるほうがいいような気がする。動くのはイオンだけど、いざ電気が流れる時には電子伝導となるところが面白い。それにしても、ほぼ完璧な銀イオンの可逆的な動作が要求されるように思えるのだが、大丈夫なのだろうか?
ちなみに、硫化銀構造中での硫黄イオンの半径(4配位)が 0.17nm、銀イオンの半径(2配位)が 0.08nm程度なので、この絵ほど極端ではないが、硫黄の格子の中を小さな銀イオンがかなり自由に動ける構造のようだ。確かに1nmのギャップをつなぐ銀原子の数は最小で10個程度となりそうだ。イオン半径を考えると、酸化銀やハロゲン化銀、特にヨウ化銀あたりでもいけそうな気がしないでもないのだが、電導度や化合物の安定性などから硫化銀が選ばれたのだろうか?
なお、Japan Nanonet Bulletinのインタビューによると、この原子スイッチのアイデアは、STMを使用した他の研究の途中での偶然の副産物なのだそうだ。
他にも、電気伝導度が量子化されることや、履歴の記憶機能がある点で、うまく活用すると面白い素子ができる可能性を秘めているようだ。素子としての話などは、スラッシュドット ジャパンでの議論も参考になりそうだ。
ところで、同じニュースを伝える YOMIURI ON-LINEの超小型化・省電力化が可能な「原子スイッチ」開発には、
開発した原子スイッチは、硫化銀で覆った銀電極と、白金の電極を使って、簡単に作製できる。室温で電流を流すと、硫化銀の表面に銀原子が現れ、100万分の1ミリ(1ナノ・メートル)離れた白金電極に接触、電流が流れる。逆方向の電流を流すと銀原子は硫化銀の中に戻り、スイッチが切れる仕組みだ。とあるが、「電流を流す」は「電圧をかける」の誤りだろうな。。
| 固定リンク
コメント